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終末世界の開拓記  作者: なづきち
休暇中
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お酒作り

 今日は料理デーだ。

 ずっとフリッカに任せきりだったから、と言うのもあるのだけれども……どうやらゼファーはわたしが作った料理の方が満腹になるのが早いらしくて。高ランクの食料アイテムだとSPストマックポイントの回復量が大きくなるのが関係しているのかな。

 しかし……生肉じゃなく調理肉のが良いって……ドラゴンとしてそれはどうなのか……? 犬猫にペット用の餌を用意するようなものなのだろうか。野性はどこに行った。いっそ今度チ〇ール的なモノでも作れないか試して……いや小さかろうがドラゴンに全力でじゃれつかれるのはシャレにならないからやめておこう。

 ともあれ、現時点において特に食糧難と言うわけでもないのだけれども、わたしのスキルレベル上げも兼ねての作成である。

 え? 「ゼファーの件がなかろうと作っていただろう?」って? ハハハ、当たり前じゃないですかウルさん。


 バートル村で様々な料理素材とレシピと、約束通り家畜が一揃いでもらえたので、レパートリーが増えたのが嬉しいんだよね。

 家畜の数が少ないから肉にはしばらく出来ないけど、もりもりと増やしていきたい。……増やし過ぎると家畜担当のフィンが大変になるかな?

 そう言えばアステリアに来てから犬を見てないな。牧羊犬みたいなことがさせられればいいんだけども。

 ……いや、初期からいる牛さん鶏さんなんて太々しいくらいになってるし、今更犬に追い立てられたところで走ってくれるのだろうか……? まぁ先の話だしこの件はぼちぼち考えるか。



「あー……リオン。アンタ、酒は作らないのかい……?」


 わたしの作る料理自体には不満はなさそうなのだけれども、ある日の食後に地神がそんなことをボヤいた。……アル中じゃないですよね?


「作らないと言うか、作れません。作り方を知らないので」

「……知らない、だって……?」


 この世の終わりかのように愕然とする地神。……え、本当にアル中だったりする?

 ゲーム時代にレシピが存在してなかったし、日本で暮らしてた頃は成人したてでお酒飲んだことなかったし、ついでに言えば興味もなかったので作り方を調べたりもしていない。ざっくりと、麦や米、芋、ブドウなどから作れる、くらいしか知らないのだ。アステリアに来てからも一度も飲んだことないし。


「はぁ……仕方ない」


 それで諦めてくれるのかと思ったのだけれども。

 地神は自分の手を見つめ、二度三度とグーパーと動かしてから……わたしの頭へとその手を置いたその時。


 フワリと。

 明らかに手が原因ではない、熱のようなものが染み渡った。

 異物ではないけれども慣れないその感触にわたしが反応出来ないでいると、それが何だったのか地神から解説される。


「本当なら本調子になってから与えるつもりだったんだが背に腹は代えられない。地神アタシの加護……の一部だよ」

「……えっ」

「植物に関する情報を渡した。それがあれば作れるだろう」


 ……あろうことかこのひと、自分の欲求のために、一部とは言え加護を贈った……だと……!?

 ありがたいけど、ありがたいけど……そこまでお酒が飲みたかったのか……!

 盛大に頭を抱えたくなったけどありがたいことには変わりないので、ぐっと飲み込んで内心で大きく溜息を吐くだけに留めておく。


 地神の加護と言えば、植物系、鉱石系アイテムのレシピと関連アイテム作成ボーナスに加えて、防御力(物理耐性)が増えるとかそんなだった記憶がある。アステリアでも同じなのかな?

 尋ねてみれば大体そのような答えが返ってきたのだけれども……前者に関しては少し性質が違うようだ。レシピ、と言うよりは、素材そのものの知識がもらえるらしい。

 それが何を意味するかと言うと、アイテムの作り方だけじゃなく、細かな性質に生息域、育て方など多岐に渡るのだ。

 例えば、LPライフポイントポーションにはバルム草を使っていたのだが、同じ性質を持つ植物は他にも存在しており、そちらを使用してもLPポーションを作ることが出来る。株ごと採取することで拠点で育成出来るし、どう育てれば高品質素材へと変化するか、どう加工すれば高品質アイテムになるのかもわかる。育て方なんてただレシピを知っただけでは得られない情報だ。

 これは……モノ作りが大変捗りますよ……? ウフフフフフ……。


 そんなの遣り取りの一部始終を目撃していたウルから一言。


「『入手させる』ではなく『作らせる』となるあたり、地神もリオンに染まってる気がするのぅ……」



 知識が得られたからと言って、当然味まではわからない。地神は「お酒ならどれでもいい」とか、末期では……?みたいなことを言い出したので逆に何を作ればいいのか迷う。

 少し考えた末に、ベーシックにブドウからワインを作ってみることにした。必要素材はブドウと容器用の木材だけみたいだしね。


 フリッカを助手に、まずは果樹園からブドウを選んでもぎとる。ブドウ以外にも色々あるよ。生息に適した気候だの何だのは気にしてはいけない。創造神パワーなのだ。

 ちなみに果樹園は祭壇の裏手に作られており、現時点で少々聖属性を帯びている。花が聖属性になるんだし、果樹にも可能性はあるのでは……?と思い付きでやってみたら属性付与されたんだよねー。花と違って果実を採取しても木自体は残るから、時間が経てばもっと属性値が高くなることを期待している。

 ……そう言えばアルコールって消毒に使われているくらいだし、浄化用にお酒を作るのも普通にありなのか……?


作成メイキング、【赤ワイン】」


 知識は得たとは言えさすがに手作業でお酒を作るのは辛いので、作成メイキングスキルで作成する。

 光が収まると、そこには樽に入ったワインが作成されていた。……ふぅ、失敗する感覚はなかったけど、きちんと出来たようで良かった。

 試飲はもちろん地神が行う。わたしはそこまで飲みたいわけではないので、地神が好む味を作れるようになるのが重要だからね。


「……ふぅん、まぁ初めてにしちゃ上出来じゃないか? 次はもっと頑張っておくれ」


 ぐぬぬ……どうやらお気に召すと言うほどでもなかったらしい。


「我も飲んでみたいぞ?」

「私も少しいただけますか?」

「わ、ワタシも!」


 見学していたウル、フリッカ、フィンからも声が上がった。せっかくなので全員で試飲するか。

 なお、アステリアに飲酒制限はないのでフィンが飲んでも大丈夫だけれども、成長を阻害しそうな気がするので小さいうちからお酒にハマらないことを祈ろう。

 ……地神様、まだ作るのでそんな『取り分が減る……』みたいな顔しないでくれませんかね?


「……リオンさまの作った物にしては普通ですね?」

「うーん……よくわからない」


 フリッカとフィンの反応が微妙だ。エルフの口に合わないと言うよりは単に品質が低いのだろう。


「んー……なんだろなぁ?」


 わたしも一口飲む。ブドウの甘味とアルコールが口の中に広がったけど、美味しいかと聞かれると普通と答えるしかない何とも言えないライン。ブドウはそこそこ品質が良いはずなんだけど……お酒に変化させる時点で何か劣化してるのかな?

 などと頭の中で考えていたら、いきなりゴッ!と音がしてビックリする。慌てて発生源の方に目を向けてみれば……ウルがテーブルに額をぶつけて突っ伏していた。


「ちょ!? そこまで不味かった!?」


 問いかけてみるも返事がない。 え? どゆこと……? なにごと……!?


「……寝て、ますね」

「はい?」


 フリッカがウルの顔を覗き込んでそんなことを言った。……寝てる? ……まさか酔った……? あれだけで??

 わたしも覗き込んでみると、どことなく顔が赤いものの普通に呼吸はしており、確かに寝ているだけのように見える。

 首をひねるわたしに地神がちびちびワインを飲みながら(何杯目だろう)解答をする。


「あー……スケイル系種族は酒精に弱いからね。そのせいだと思うよ」

「……だとしても弱すぎません……?」


 そう言えば日本神話でヤマタノオロチが酒に酔って寝たところをスサノオに退治されてたような話を聞いたことがある。ヘビとリザードで違いはもちろんあるだろうけど、どっちも鱗持ちだし関連とかあったりするのかな。


「フリッカとフィンは平気?」

「ワタシはちょっとほっぺがポカポカするくらい」

「私も問題はありませんね。……いっそ酔ってしまえばどさくさに紛れてリオン様にあれこれ出来たかもしれませんが」

「何を言ってるのかなきみは!?」


 絡み酒じゃなくて良かった……!

 いや、単に摂取量が少ないだけかもしれない。注意しておこう。

 ……ともあれ、ウルも寝てるだけならまぁ問題はない。お酒作りを再開しよう。


 続けてどんどん作ってみるも品質はそこまで変わらなかった。

 翌日に遊びに来たレグルスとリーゼにも飲んでみてもらったけど、二人とも「ジュースの方が良い」と言う感想だった。それに対し地神が「お子様にはこの味はわからんのさ……」とか肩を竦めていたけど、ただののんべぇは黙っててほしい。

 この時大量に作った試作品は持ってても仕方なかったので各村に配りに行ったりした。中でも獣人ビースト大人組であるライザさんとティガーさんは喜んでくれた。肉には赤ワインが合うらしいし……と思い出したところで料理酒として使うのもいいかもとステーキソースにしたらウルとフィンが大喜びでした。



「んー……MPを増やせば品質あじは良くなるのはポーションと同じか。やはり作業工程を増やさなきゃダメか……?」


 これまでの結果で、意識してMPを大量に注げば美味しくなることがわかった。ただしそれは『少し』でしかなく、地神が満足するほどではない。

 今はスキルで済ませているけれども、ワイン作りには破砕、発酵、澱引き、熟成などの工程があるらしい。……すぐに飲むんじゃなくてしばらく貯蔵すれば味がよくなるかな? 何樽かを貯蔵庫(わざわざ新たに作成した)に置いておこう。

 しかし……他の過程をどうするか。専用の装置を作る……前に、ちょっと試してみるか。


作成メイキング、【破砕されたブドウ(・・・・・・・・)】」


 すると……思った通り、ワインそのものではなく、破砕された状態のブドウが出来上がっていた。

 よし!と心の中でガッツポーズを取る。

 そう、そうなんだ。


 直接完成品を作ると注がれるMPが足りないのならば、途中経過を作って(・・・・・・・・)MPを注ぐ段階を増やせばいいのだ。


 ……まぁ全て手作業の方が断然MPを注げるのだろうけれども、そこまでするのはちょっと無理かな……。わたしはモノ作りは好きであっても、お酒作りを極めたいとまでは思えないんだ……いつかドワーフに会ったら託すことにしよう。

 ともかく代替案として、ワインの制作工程を思い出し細かく刻みながら作成メイキングを進めていく。

 そうして最終的に完成した赤ワインを緊張の面持ちで地神へと渡し、こくりと飲む様を見つめる。


「……美味い。よくやったじゃないか、リオン」


 しみじみと大変満足そうに呟く地神に、わたしは大仕事をやり遂げた気分で大きく息を吐いた。

 ああああ良かったぁ……これが今のわたしに出来る最大限だったからね……。

 これ以上は料理と、恐らく錬金スキルレベルを上げて、素材のランクを上げるしかないだろう。そこは地道に時間をかけるしかなく、地神も「そうさね、またの楽しみにしているよ」と納得してくれた。

 ……の、だけれども。


「じゃあリオン、次は別の種類の酒をお願いするよ」

「――ハイ?」


 笑顔でそんなことをのたまう地神に、「ちょっとは我慢してください!!」と怒鳴ったのは仕方のないことだと思う。

 お酒ジャンキーめぇ……!

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― 新着の感想 ―
[一言] うむ、姐さん系統に似合う酒ったら、アレですよアレ。 ビールと日本酒と、ストロ○グゼロ! 出来る女とか気取らないで、昼間っから酒を浴びるようにかっ食らって、デロデロのベロンベロンになる感じ…
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