トラブル発生
「ふぅ……ゼファーの件で怒られなくて良かった」
「……確かに意外と言えば意外であるな」
「キュウ?」
ウルの腕から解放され、自分の足でついて来るゼファーに視線を向けながらウルと話す。
……でも、あの場を離れた今になって気付いたことだけれども、モンスターなのに祭壇周辺の浄化空間に苦しむ素振りは見せなかったし、神様たちに敵愾心を持っていない時点で、やはり普通のモンスターとは違うのかもしれない。
しかしそれはこうして間近で接しているわたしたちだからわかることであって、一般の人たちにはそんなこと知る由もない。ゼファーが危害を加えた時は当然として、加えなくても、ただ存在しているだけで非難してくる人だって居ることだろう。
人目に触れさせなければ、連れて行かなければいいのでは? は確かにそうなんだけども、基本的に拠点にはフィンが残ることが多いからね……『絶対に大丈夫』って確信出来るまでは置いておけない。フィンをグロッソ村に預けて拠点に一匹だけで置いておくのも同様に不安だらけだ。
……せめてグロッソ村の人たちにある程度の理解は得ておきたいところだけど……レグルスが音頭を取ってくれることを期待するか?
「……私は、神様方に対して抱いていたイメージが少しずつ崩れていっていますね……」
頬に手を当て呟くフリッカ。フィンも同意を見せるように頷いている。
やー……まぁ、うん、あんな威厳もへったくれもない、気が置けないと言うか気の抜けるやり取りを見せられたらそんな感想を持っても仕方ないよね。わたしも一番最初に出会った時と比べて印象がめちゃくちゃ違ってきているし。
「不敬かもしれませんが、リオン様のお母様かお姉様なのでは? と思うようになってきてしまいました。いえ、確かに圧倒されるような神気は感じられるのですが……」
「む? 以前リオンに『親様であるか?』と聞いたら肯定したので、単なる事実で不敬でも何でもないのではないか?」
……確かに言った記憶が微妙に残っているね? いや、この体を作ったと言う意味では間違いではないのだけれども、精神まで引きずられてるのは何でなのか……!
うん? そう言えば何時の間にか初対面時に感じていた圧のようなものを意識しなくなっているな? わたしのレベルが順調に(かどうかは知らないけど)上がってるからかな。
「わたしとしては偉そうに接して来られるよりも、親し気で優しくしてくれる方がやる気も出るからありがたいんだけどもね」
「……神様に対してそこまで軽く考えられるのはリオン様くらいだと思いますよ」
溜息と共に言われてしまった。
まぁ、生粋のアステリア人と違って元々無宗教だったからね……その辺りの感覚のズレに関してはちょっと何とも言えないなぁ。
……と言うか、創造神と地神のわたしに対する扱いがフランクなのも、わたしが軽く考える一助になってる気がする。
人のせいにするなって? すいません。
「神自身が注意しないのであればそれは許可しているのと同じことであろうよ。リオンに関して深く考えるのは無駄だと思うぞ?」
「……そうでしたね」
そんなウルの言葉で締めくくられるのであった。
……ちょっと!?
翌日にステータスチェックをすると【汚染:レベル三】に下がっていてホッとした。
完治には時間が掛かりそうではあっても、実は『治療の効果なんてありませんでした!』とか『悪化してるんです!』ではないと示されたのは良いことだ。
そしてまだ手は自由に動かない……動かないのだが。
「もうガマン出来ない……」
「な、何がなのだ? 我慢出来ないほどに痛むのか?」
わたしの酷く深刻な、呻くような囁きにウルが反応をする。
何が、だって? それは決まってるじゃないか。
「モノ作りがしたい……!」
「…………そうか」
心配していたウルが、瞬時にスンっとなって遠い目をし始めた。
いやでもさ、こちとら転移してからずーっと、寝込んでた時を除いて毎日一日たりとも欠かさずにモノ作りしてたんだよ?
「怪我をしているのだから動かすな!」とウルにもフリッカにも止められ続けて、何も作れなくて、最早ガマンの限界なのである!
「……麻薬のようであるの……」
「ち、違うんだよ、危険ドラッグじゃなくて、生きる糧なのよ! 空気みたいなもので、失われたら生きて行けないものなのよ!」
ウルがボソっと呆れ声で呟いた内容に慌てて否定するけど、わたしの言い分に「ますます常習者のような発言であるな」と苦笑されてしまった。ぐぬぬ。
「って、麻薬? 存在するんだ?」
「? リオンの住んでいたところには存在してなかったのか?」
「あ、いや、身近なものじゃなかったからね」
危ない危ない、またゲーム時代のことを引き合いにしてうっかりするところだった。
ウルは特に疑問に思うでもなく「そうなのか」と納得してくれて助かった。
これ以上余計なことを言う前に話を元に戻すことを試みる。
「えーっと……作っちゃダメ? 作成スキルならそんなに手を動かさないから大丈夫だと思わない?」
「……一体何がそこまで主を駆り立てるのか……いや、だからこそ神子に選ばれたのか」
「うんうん、神子なら当たり前の行動だと思うよ」
この世界での神子については知らないけれど、少なくともプレイヤーは『モノ作り大好き!』って人が多かったから決して間違いではない。言葉巧みにだまくらかして許可をせしめようとしているわけではないのだよ?
「あまり我慢させてストレスを溜めたら傷に悪いかのぅ……まぁ良かろう。ただし、おかしいと思ったら即止めるのだぞ?」
「わーい! ありがとうウル!」
そうして許可を得たわたしは早速作業棟へと向かう。
……ただしウルが監視としてついて来ている。どうやらモノ作りに関してのわたしの理性はあまり信用していないらしい。……前科が多すぎて何も言えない。
ともあれ久々のモノ作りタイムなのだ。とりあえず、ここ数日で在庫が減っている中級LPポーションを作るとしよう。減ってるだけで在庫自体はまだまだあるけど、一定ラインを下回ると落ち着かないんだよね。
「作成、【LPポーション・中級】」
――ボフッ
「……へ?」
「ぬ……?」
いつもなら光と共に素材が形を変えて作られるのだが……今日は小さな爆発音と黒煙が発生して素材が消滅し、後には何も残らなかった。
え? 失敗……した? 失敗ってこんなエフェクトだっけ?
……何で? ひょっとして怪我のせいで調子が悪い? ……難易度を下げて初級で試してみよう。
「作成、【LPポーション・初級】」
――ポフンッ
しかし結果は先ほどと変わらず。
慌てて他にも色々と簡単なアイテムを作成してみようとしたけれども……時には素材が残ることもあったけれどどれも黒くなっており、明らかな失敗に終わった。
ウルが隣で「……何か変な臭いがしておるな。この臭い……もしかして」と何事か言っているが、わたしの頭はすっかり混乱していたので耳に届いていなかった。
「……作成が、出来なくなっている……?」
わたしは自分の右手を虚ろな目で見詰め、呆然と呟いた。
その言葉は自分の口から発せられたはずなのに、どこか遠くから聞こえたような気がした。
……この時、ウルの話をちゃんと聞いていれば、実際にはそこまで絶望することでもなかったのだけれども。
予想外のことが起こると思考停止してしまう悪癖を何とかしたいところである。トホホ。
中途半端かもしれませんが三章はここまでで次からは章間三に入ります。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
よろしければ、ブクマ、ポイント、感想などいただけると超喜びます。
割と切実に……。
あと、(うっかり忘れてなければ)活動報告にレグルスとリーゼのキャラデザを載せておきます。興味のある方はどうぞご覧ください。