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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第一章:平原の狂える王
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ちょろリザードとちょろ神子

「どこに行くのだ?」

「すぐそこだよ」


 体が大丈夫そうならちょっと散歩に行かない?とウルを外に連れ出す。手を繋いだ状態で。

 いや、わたしとしてはベッドから出るのに手を貸すだけくらいのつもりで手を差し出したのだけど……何故かそれから離してくれなくて。

 ご機嫌なのか鼻歌まで歌っている。満腹になったからだろうか、別の理由があるのか。


 リザードのせいか少しばかりひんやりとしているけれども、繋いだ手に緊張や力みなどなく、仄暗さなどなに一つ感じさせないほどに自然で。

 ますますわたしはこの子を疑うのは無意味なんじゃないかと思いを募らせる。


「……ねぇ、ウル」

「なんだ? リオン」


 呼ばれて、ウルは無邪気にわたしを見上げてくる。真っ直ぐにわたしを見つめてくる瞳に、わたしはチクりと罪悪感を抱いた。

 だから……いっそストレートに聞いてみることにした。繋がれている手をそっと持ち上げながらわたしはいう。


「きみと出会って初日だというのに、きみはわたしに……なんというか、気を許してくれてるようなのは、なんでかな、って」


 いくら命を助けたからといって、初対面の相手ならわたしが助けられた立場でもある程度は警戒心を抱いてしまうだろう。

 全ての事象に理由があるとは思っていない。けれども、理由がはっきりしないと落ち着かない。

 どこか挙動不審さすら感じられるわたしの問いに、ウルはなにかを企んでる素振りもなく少しだけ考えるように視線を彷徨わせてから、こう答えた。


「んー……なんだか、ぬしから懐かしいニオイがする、から?」

「懐かしい……?」


 ウルいわく、目が覚めたら見知らぬ家で寝ていて慌てて飛び出そうとしたのだけれども、空腹だし体は重いしでろくに動けず、すぐそばにあった知っているような気配におい(変な臭いを発しているとは思いたくない)の持ち主――わたしに助けを求めようとしたらしい。

 いやうん、もうわかってたけど、襲おうとしてたわけじゃないようで良かった。


 しかし、わたしから懐かしいニオイとなると……ひょっとして、ウル(とその家族or一族)は創造神寄りの環境で育ったのだろうか。これでも創造神の神子だし、人によってはそういうのも感じ取れたりするのかもしれない。

 そうなのだとしたら初期好感度が低くないのも、神子わたしに警戒心が緩むのも理解できる、ような気はする。

 やはりゲームとは違うところが結構あるな、先入観に囚われないようにしないと、などと気を引き締めようとしたら。


「それになにより、主はうまいご飯を食べさせてくれたからな!」


 まさかの餌付けパターンでしたかー!

 ……いくらなんでもちょろくない? 胸を張っていうことじゃないよ……この子の将来が不安になるよ……。




 散歩の目的地は創造神の像が設置されている祭壇だ。あそこは花も多く植えてあって拠点で一番景観が良いところだからね。

 療養?にはピッタリのところでもあるのだけれども……それは建前でわたしは第一にそれを求めたのではなく――本当の目的は確認である。


 破壊神の手勢モンスターは、創造神を嫌うのだから。


「これは……」


 一メートルほどの創造神の石像――スキルレベルがあがってるので一回り大きくした。より大きい方が効果が高くなるのだ――を見て、ウルが目を丸くしていた。

 その様子に恐れや敵愾心は見られない。やはりこの子は『白』でいいということだろうか。


「創造神様だよ。神様のことも覚えてない?」

「……覚えてない、覚えてない……が」


 ウルは石像の周囲をぐるっと歩き、前から後ろから頭から足元まで眺め、ぺたぺた触り、何故か匂いまで嗅いで。

 最後に、わたしと何度か見比べて。


「リオンと似たようなニオイを纏っているな。主の親様か?」

「えっ?」


 想像の埒外の問いに、今度はわたしの方が目を丸くした。

 創造神がわたしの親? いやいやそんなまさか。

 確かにプレイヤーは創造神から力を与えられた神子という設定であるからニオイとやらは似ているのかもしれないけれど、だからって別に実子というわけではなく……あれ?


 そういえばわたし……異世界転移した時に、創造神に体を作り直されたんだっけ?

 普通の人間の親から生まれた子……とは、いえない、ような。

 …………つまり?


「ひょっとして、そうなる……の、かな……?」

「そうか!」


 呆けたままポツリと零したわたしの答えにウルはなにやら破顔する。

 そして、創造神像に向かって。


「リオンの親様よ、我はウルだ! よろしく頼むぞ!」


 神様に対する敬いなど一欠けらもなく、まるで友達の親に挨拶をするような気楽さで声をあげたその時。


 ホワ――


 と、創造神の石像が微かに光を放ち、ウルの方へとゆるゆると流れていった。


「うぬ?」

「な、なに!?」


 え、まさか創造神の加護? 神子を除けば敬虔に祈りを捧げる人にのみ与えられるらしいという、あれが?

 ウルが忘れてるだけで信仰値がめちゃくちゃ貯まってたとか? いやでもだからってあそこまでぞんざいな声かけで?

 わけのわからない事態に混乱するわたしに、さらに追い打ちをかけるようにウルからこんなことをいわれる。


「『どうぞリオンと仲良くしてください』……って頭で声が響いたぞ」


「……はいいいぃ!?」


 神託オラクル?でそんなこと伝えるとか、あなたは本当にわたしのオカンなんですか創造神様ァ!!




 それから創造神の石像に向かって祈りを捧げてみるも、わたしに対しての神託はウンともスンともなかった。さ、寂しい。

 この一月の間におけるわたしの創造活動がショボすぎて全然力を取り戻せてないのだろうけれども、だからって貴重な神託ちからをそんな『初めてできた娘の友達』を相手にするように使うとか、ちょっとどうかと思いますよ……!

 貴重な素材を無駄使いされたようでモヤっとするような、そこまで気にかけてくれているようで嬉しいような……複雑ゥー!


「ハハ、仲良くなど、いわれずともするのである! ……そういえば主にはきちんといってなかったな。よろしくだ、リオン!」

「――っ」


 頭を抱えてもだもだしているところに不意打ちで、黒い髪に金の瞳、夜空の月のような見た目なのに、まるで太陽のように眩しい笑顔を向けられて。

 わたしは不覚にもキュンときてしまった。


 ――って、アカン、これじゃわたしもちょろいと言われてしまう……!


「? どうしたのだ?」

「い、いや、なにもないよ。こちらこそよろしくね、ウル」


 平静を取り繕うように、ごほんとわざとらしく咳払い。

 とにもかくにも。

 加護というほどではない神託あいさつのようだったけど、創造神からわざわざ言葉をかけられるくらいなのだ、ウルのことはこれ以上用心しなくていいだろう。


 胸のつかえが取れたところで、さて次は――


「ウルはこれからどうする?」

「どうする、とは?」

「記憶を失っているので取り戻したいとか、故郷に帰りたいとか」

「どっちも別にどうとも思わないなぁ」


 まさかの即答!

 わたしは記憶喪失になったことないから心情はわからないんだけども、案外気にならないものなの?


「そもそも故郷に帰ろうにもその故郷の記憶がないのだし。じゃあ記憶を取り戻そうとなったとしても、方法はあるのか?」

「……ない、です」


 あー……それもそうだよね、手がかりがなにもないんだもんね……って、な、なに、なんで急にそんな顔になるの?


「それとも……我は、ここに居てはいけないのか?」

「そ、そそそんなことはないよ勘違いさせてごめんね! いくらでも居ていいよ!」


 わたしとしては単になにか考えがあるか知りたかっただけなのだけども、ウルはどうやら別のことを想像したらしく。

 肩を震わせ、今にも泣きそうな様で訴えられてしまっては、わたしに「ダメ」ということはできなかった。

 まぁ元々、出て行きたい意思があるなら止めはしないものの、そうでないなら放り出す気はなかったのだけども。


 わたしが許容したことにウルは安心したのか「そうか!」とあっという間に涙を引っ込めた。

 ほんとコロコロ感情が変わるなぁ、と苦笑ともつかない笑みを浮かべるわたしであった。


 さてはて、今後の生活がどうなることやら……。

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