隠されていたもの
皆でモグモグとおやつを齧りながら、わたしは「休んでろ」と言われたのでゼファーをクッション代わりにぼーっとウルとレグルスの捜索作業を眺める。なお、ゼファーにもエサとしてボア肉を与えておいた。これで人肉しか食べないとかだったら抹殺まっしぐらだったけど、嬉しそうに食べてるので問題はないのだろう。
教会に隠すと言えば祭壇の足元が定番かと思ったのだけど残念ながら存在しなかったので、中央の通路やら左右に並ぶ壊れた椅子やらをしらみ潰しに探すことに。ウルなどは「壊した方が早いのでは?」と言い出したけど、万が一下にあるものが潰されてしまっては大変困ることになりそうだったので我慢してもらっている。
とは言え大して広くもない教会、そう時間も掛からずに地下への階段を発掘することが出来た。場所は右側の椅子の後ろから三番目とか……何でそんな位置だったんだろう?
「……一体何があるんだろうなぁ……」
ランタンを取り出しレグルスに持ってもらい、換気がされてない埃っぽい湿っぽい空気の中、ウルを先頭に階段を一歩一歩ゆっくりと下っていく。ゼファーも大人しく一番後ろをついて来た。
階段は三十段程で終わり、少し開けた地下空間が目の前に広がっている。面積としてはテニスコート半面分くらいだろうか。下手すれば地下探索が加わるのかと思ったけれど、その必要はなさそうで拍子抜けすると同時にホッとした。手が痛いんだよ……継続的にLP減ってるし……。
壁は普通の石レンガが積まれているだけで特に怪しい物は見当たらない。けれども。
「ウル、レグルス、床のあの部分、多分トラップのスイッチになってるから踏まないでね」
「ふむ?」
「お、おう……」
壁や床がスイッチになってて押すとトラップが発動するとかよくあることだったからね。わたしが警告するとウルは不思議そうに、レグルスは恐々と頷いた。
残る怪しい物は、この地下室の突き当たりにある石……御影石かな、地上部分と同じような見た目の祭壇くらいだ。しかし地上の物とは異なり中央に丸いくぼみがあり、そこを中心として放射状に細い筋がいくつも走っている。すっかり乾いているけれど色が赤黒いのは……まぁアレなんだろうね……。
そして、そのくぼみに設置されていた物を目にして……わたしの喉が、ヒュッと鳴った。
「…………封神石」
封神石。
それは名前の通り、神が封じられてる石である。
……あ、危なかったぁ……!
瘴気の侵食が完了していたら、神が解放出来なかったかもしれない……!
今更ながらに冷や汗がドッと流れだしてきた。
位置的にゼピュロスが蹲っていた場所の真下辺りだし、きっとゼピュロスは神を解放されないように番人としての役目も課せられていたのだろう。
「ふむ。であれば……アレを何とか出来れば風神が解放されると言うことか?」
「うん、そうだね」
……まぁ中身が風神とは限らないのだけれども、ここら一帯が風神の領域なのだからほぼ風神だと思う。
しかしこんな場所に封神石だなんて……偶然なのか神の導きなのか。と、考えるよりも先に解放しなきゃ。
「待て、リオン」
「ウル?」
祭壇に向かおうと足を踏み出したわたしをウルが引き留めた。けれどそれは納得出来る理由で。
「他に罠があるかもしれぬ。我が取りに行く」
「……うん、お願いするよ」
確かに、神の封印場所であれば他にも罠が、下手すると致死性の物である可能性もある。
わたしは高揚のあまり軽率になるところだった。気を付けなきゃ。
いや、死ぬかも?って場所にウルを進ませるのもどうかと思うけど……取りに行かないと言う選択肢はないし、そうであるのならば一番頑丈なウルが最適なのである。
わたしとレグルス、ゼファーは念の為地下室の一番手前、階段の前まで距離を取り、ウルが一人で奥へと進んで行く。
まっすぐ行ったかと思えば斜めに進路を変えたりピョンと跳んだりしているのでやはり他にも罠があったのだろう。ハラハラしながら皆でウルの動向を見守っていた。
そして祭壇まで辿り着き、正面からでなく側面に回り込んでソロリと封神石に手を伸ばす。
「……っ」
封神石を握った瞬間にウルが僅かに声を上げた。
「ウル!?」
「……問題ない、少々痛みが走った程度だ」
きっと最後のトラップだったのだろう。それの正体が何なのかはわからなかったけれども、ウルの防御を抜く程の強さではなかったようだ。……ウルの防御力が半端ないだけかもだけど。
わたしとレグルスが大きく息を吐いている間に、ウルはそのまま同じ道のりを同じ動作で戻って来た。
「ほれ」
「……ありがとう」
ウルから手渡されたそれは決して重くないはずなのに、ズシリとした重みを感じた。
早速詳しく調べたいところだったけれども暗い地下室ではままならない。わたしは緊張で次第に早くなる鼓動を抑えるように深呼吸しながら地上へと出る。
「ただの黒くて丸い石にしか見えないけどなぁ……リオンはよくあんな遠目からでわかったな」
封神石を手の上でくるくる回していたら覗き込んでいたレグルスがそう感心していたが、わたしは曖昧に笑って濁すだけに留めておいた。
……ゲームで見たからです、何てさすがに言えない。
単なる見間違いの勘違いの線もあるにはあったのだけれども、手にしたらちゃんと【封神石】と表示されたのでその線は消えている。間違ってたら恥ずかしすぎたから良かった。
「疑問なのだが」
「うん?」
「何故神を始末するでなく封印で済ませていたのだ?」
「……さぁ?」
ウルがそんなことを聞いてくるけど、わたしにわかるわけがない。
考えられるとしたら、神たちを封印は出来ても殺すことまでは出来なかった。だからジワジワと瘴気で力を削ぎ殺そうとした、と言うところかな……?
「そうか……。ところで、解放の仕方はわかっているのか?」
「それは今調べてる」
どこか納得してなさそうだけれども、答えられないものは仕方ない。そこは理解してくれたのかまた別の質問をしてきた。
封神石はただの黒くて丸い石ではない。これも魔石の一種……封印の力が籠められた石なのである。
であれば、神を封じているエネルギーを別の力に変換してやればいい。神子の作成スキルでこの魔石を素材としたアイテムを作ってやればいいのだ。
ゲーム時代はどのアイテムの素材となるかランダムであった。この封神石から何を作ればいいのか調べていた、のだけれども。
……よく考えたら、今はレシピに縛られる必要は全くないんだった。
けどこの石の性質上回復アイテムは作れなさそうだなぁ、適当にデバフアイテムでも作ってみるか。えーっと……この空魔石に移せるかな。
「作成、【封魔の魔石】」
スペルロックとは魔法を封じる魔法だ。ゼピュロスの魔法が厄介だったので、これがあれば少しは楽だったかな?と言う考えが浮かんできてね。
封神石と魔石を左手に握り、自分のMPを使用するのではなく封神石から力を抜くイメージでスキルを発動すると。
――カッ
「わわっ!?」
「「!?」」
封神石が光を放ち浮かび上がった。
カシャカシャカシャとパズルのピースのように球面が内側から盛り上がり、抜けて行く。
そして半分ほど抜け落ちた辺りで一際大きな光が放たれ。
光が収まった時には。
「……はぁ……やっと出られたか……」
その場には、新たな人影が現れていた。
しかしその人は、わたしたちが想像していた、十代前半くらいの少年の姿でなく。
「……ち、地神様?」
二十代半ばくらいの女性の姿であった。




