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終末世界の開拓記  作者: なづきち
第一章:平原の狂える王
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記憶喪失少女

「うまうま……おかわり!」

「ど、どうぞ」


 ぐったりする少女をベッドに戻し、作り置きしておいたスープを渡す。

 少女は渡されたスープを少し警戒するように鼻を近付けてスンと鳴らしたかと思えば、あっという間に飲み干してのこのセリフ。

 勢いに押されてついおかわりをあげてしまったけど、病み上がりにそんな急に食べて大丈夫なのかしらん?

 ゲーム時代はSPゼロ%から百%までいっぺんに回復させたとしてもペナルティとか発生しなかったけど……現実だしなぁ。胃薬とか作れるのかな。


「ぷはぁ、うまい! うまいけど……肉はないのか?」

「……塩味オンリーの焼き鳥でいいなら作れるけど」


 素材の味を活かしたといえば聞こえはいいが、単なる調味料不足である。だから大したものは出せないのだけれども……それでも少女には充分だったようで、ものすごく期待の満ちた目で見つめられてしまえば作らざるをえない。

 ということで焼いているのだけれど……あぁ、醤油が欲しい……タレをたっぷり絡めた焼き鳥が食べたい……焼き魚に垂らすのも美味しいだろうなぁ……って、なんかわたし、料理するたびにこんなことばかり考えてる気がする。


「できたよー」

「感謝なのだ!」


 できたての焼き鳥にアチチと声をあげながらも少女は嬉しそうにどんどんと食べていく。

 焼いて塩を振っただけのものをそう美味しそうに食べられると、ちゃんと良い素材と調味料を集めて、料理スキルレベルをあげまくって、すごく美味しい料理を食べさせてみたくなってしまう。

 そんなことを考えながらわたし自身も朝食として食べつつ、少女を眺めていた。


 リザードは赤とか青とか緑とか外見の色は様々だったけど、黒というのは今まで見たことがない……はずなんだけども。

 黒髪に黒鱗、金目、赤角……このカラーリング、どこかで見たことあるような……ないような……。


「ごちそうさまだ!」


 おかわりを曇りのない子犬のような眼で要求されること三回、やっと少女は満足してくれたようだ。

 ……空腹ということを差し置いてもわたしのSP容量の倍以上あるんじゃないかな……小さい体なのにどんだけなのさ。




 片付けをして、お茶……はないので白湯を出して落ち着いたところで、わたしは改めて少女と向き合った。

 そして、少女がこの家に来た経緯を軽く説明すると、少女は深々と頭を下げてくる。


「そうか、我の命を救ってくれたのか……その上ごちそうにまでなってしまって、ぬしには感謝してもしきれぬな」

「わたしはわたしにできることをしただけだからね。回復してくれて良かったよ」


 適当な心肺蘇生と体を温めるだけで済んで本当に良かった。外傷ならあまり深くなければ傷薬でなんとかなるけれど、溺れた相手には意味がないからねぇ……。

 しかしなんだか変わった言葉遣いをするなぁ、見た目が幼いからものすごいギャップだ……などと余計なことを内心で思いつつ。


「えっと、質問していいかな?」

「うむ、よいぞ!」


 屈託のない笑み、端から覗く小さな牙……やだなにこの子カワイイ……じゃなくて。

 リザードのわりには随分初期好感度高そうだね? 他は大変でもこの地域が平和で、他種族から敵対行動をされてないのかな? ただの救命効果?


「いまさらだけど初めまして。わたしの名前はリオンです。あなたのお名前は?」

「なま……え……?」


 事情を聞く前に、まずは初歩の初歩である名前を聞いたのだけれども……待って、なんでそこで首を傾げるの?

 少女が腕を組んで上へ視線を向けたり、眉根を寄せて唸ってみたりすること十数秒。


「わ、わからぬ……」

「えぇ……」


 まさかの記憶喪失……だと……? いやある意味テンプレ……?

 あわよくばこの世界のことを聞き出せないかと思っていたのだけれども……。


「えっと、ステータスって見れる?」

「? なんだそれは?」

「あー……やっぱりないか。じゃあ、アイテムボックスになにか入ってないかな?」


 ステータスが見られればそこに名前が記載されているので一発なのだけれども、住人(NPC)のステータスウインドウはないらしい。この世界でなら見られるようになってないかな……と思ったのだけれども、やっぱり神子プレイヤーだけが使える機能のようだ。

 でもアイテムボックスは確実に持っていた。一枠三十個ずつ、枠の数も十しかないという劣化版だったけれども。

 後ほど少女が元々着ていた服(貫頭衣とかぼちゃパンツのようなものとすごくシンプルだった)を調べたけれど、ありふれた麻製でどこぞの地域の特徴とかもなく、特に手掛かりはなかったりする。


「入ってたのはこれだけだ!」

「……ブレスレット?」


 しばしごそごそしていた少女に差し出されたそれは直径五・六センチほどの黒い金属?の輪で、耐久がゼロになる寸前なのか明らかにボロボロで、ヒビが入って一部が欠けていた。ちょっと力を入れるとポッキリといってしまいそうだ。

 これ以上壊れないよう細心の注意を払いながら調べてみるも、なんの素材が使われているのかわからない。色的に一番近いのは黒曜石だけど……いや、ひょっとして。


「?」


 ちらっと少女を、正確には少女の頬に生えている鱗を見る。同じ色をしているように見える。

 なるほど、ゲーム時代は武器と防具くらいしかアイテムレシピがなかったけど、アクセサリにするとこんな感じになるのだろうか。

 素材さえわかれば修理リペアスキルで直せる……とはいかず、リザードの鱗を加工するには全然スキルレベルが足りない。あと、「素材うろこちょうだい」っていうのも現時点では憚られるし。


「おっと、内側に文字が彫ってあるな……欠けたり削れたりでほとんど読めないけど……」


 ゲーム時代からだけど、独自の文字が使用されていた。最初はなにが書いてあるかわからなかったけど、しばらくしてプレイヤーたちが法則性を解き明かした。

 まぁそこまで難しいものでもなく、対応するアルファベットに入れ替えてローマ字読みするだけだったのだけども。

 村の看板はともかく、古い書物に書かれていたり遺跡の壁に彫られている文字はさりげないヒントだったりすることもあったので、わたしも対応表を元に読み進めるうちに自然と覚えていった。ちょっと脳内翻訳に時間かかっちゃうけどね。

 けれどこの文字の解読はすぐに終わった。だって二文字しか残っていなかったのだから。


「UR……ウラ? ウリ? ウル?」

「あ!」


 わたしが呟いていると少女が唐突に声をあげた。ビクっとして手が震えてブレスレットを壊すかと思った……危ない危ない。


「思い出した、我の名はウルだ!」

「お?」


 キーアイテムのようなものだったのか、少女はわりかしあっさりと自分の名前を思い出してくれた。

 ただ引き出しはそれだけだったようで、他にもなにか思い出せることはないかと期待してみたけど、それ以上出てくることはなかった。


「すまぬ……」

「いや、いいよ。そんなに気にしないで」


 がっくりと誰が見てもわかるほど大げさに少女――ウルが肩を落とすさまに、わたしは思わず苦笑がこぼれた。随分と素直に感情表現するんだな、って。

 リザードは初期段階では猜疑心が強く、これまでのことは、記憶がないことも全て演技なのではなかろうか、などとわたしも少しばかり警戒していたのだけれども、さすがにこれらは素なのかもしれない、と思うようになってきた。

 とはいえ、リザード族を敵に回したいわけではないし友好度を上げておきたいとは思うものの、わたしはわたしの身の安全のためにもまだ気を抜くことはできない。どうしたものか……と内心で考えていたら一つ思いついた。


 彼女には悪いけどちょっと試させてもらうことにしよう。

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