捏造の王国 その24 激甚災害指定の基準って何?この時期トーキョーに災害はないのだ
最強クラスの台風被害にやきもきするニシニシムラ副長官は、台風被害の対策に本腰をいれるようガース長官に進言。しかし、いつもと違ってやる気のないガース長官。ニシニシムラ副長官は同僚のシモシモダ副長官に一緒に進言するよう頼みこむが、シモシモダ副長官は無駄ではないかと言い、その理由を説明、彼の述べた驚愕の理由とは…。
残暑に台風に隣国たたきのあおりをくらった観光客激減にと様々な災害にみまわれるニホン国であったが、ここ官邸では今日もガース長官が健康茶を嗜んでいた。
「もう、秋も近いというが、まだ残暑は厳しい。やはり利尿を促すというハト麦茶にするか。それとも秋らしく柿といっしょに柿の葉茶にするか。安定のドグダミ茶か」
いくつもの健康茶の袋を眺めながら悩むガース長官にニシニシムラ副長官が恐る恐る話しかけた。
「長官、そのう、長官のご健康も大事ですが、国民の、その、今回の台風でかなりの被害があるのですが」
「ああ、ニシニシムラ副長官か。わかっている。だが、それは電力会社だの、鉄道会社だのがしっかりやっているだろう」
「いえ、そのチバン県はまだ、停電です。死者は少ないと言ってもけが人や倒壊した家屋も多いですし」
「そうだな、しかし死者が少ないのは幸いだ」
「今のところはです。県庁所在地や市街地でも停電が続き、老人ホームや病院では下手をすると症状が悪化して死者がでかねません」
「まあ、非常用発電もあるだろうし」
「病院はそうですが、介護施設では備えているところは少ないと思われます」
「まあ、今年の夏は暑いし、残暑も厳しいから仕方がない」
「ですが、できることがあればやるべきなのでは。それだけではなく、国際空港でも乗り入れ路線が不通のうえ、都心から遠いのでタクシーもつかまらず、乗客が足止めをくらっています」
「まあテロとかではないのだから、いずれ解消はされるだろう。交通機関でのトラブルが滅多におこらないニホン国でこんなトラブルにあったなんて、旅行の醍醐味ともいえるのではないか」
「そんな余裕はないと思います。すでにジエータイに災害派遣を要請しているのですが、総理はどこにいらっしゃるんですか!」
「そうだったな、総理はいまご自宅かな、お迎えにいって、会合を開かねばならないかな」
そうはいうが、相変わらず茶の袋をながめつづけるガース長官。
いつもの迅速な行動とは裏腹になぜかのんびりと構えるガース長官に、いつもはおっとりしているニシニシムラ副長官も業を煮やしてシモシモダ副長官を探しに行った。
「そりゃあ、まあ、そうかもな」
シモシモダ副長官は自分の執務室で、電話やファックス対応に追われながら、気のない返事をした。
「どこがそうなんだよ、シモシモダ君。長官や総理が率先して動いていただかなくては、復旧に時間がかかるじゃないか。いや、総理はともかく長官があの調子じゃどうしようもないでしょ。だいたい君がそんなに忙しくしてるっていうのに」
「確かに今回の台風は最強クラスというだけあって、被害はすごいよ。正直死者が2名程度とは驚いた。まあ検視官が忖度して台風とは関係ないですって言ってる可能性もあるけどな」
「でしょう。激甚災害とはいかなくても、対策本部を設置して迅速に動かないと不味いと思うんだけど。このままではチバン県で死者がでるかもしれない。僕の知人の祖父母がいる有料老人ホームでも停電で」
「それは大変だな。そうか、それで君は今回の件に熱心なのか」
「そんなつもりはないけど。だけど、やっぱり誰かの大事な人の命に係わるかもしれないって思うと、僕ができることはやらなきゃって思うし。それに国民のために働くのは僕たちの仕事でしょう」
「まあ、だから俺だって、こうして対処してるんだが」
「邪魔して悪いと思うけど、でもちゃんと対策のために会議を開いて本部を設置したほうがいいから、災害として今回の台風を指定できないか、君にもガース長官に進言をしてもらいたいんだ」
懇願するニシニシムラ副長官を前にシモシモダ副長官はため息をついた。
「残念ながら無駄だと思う。本当に俺と君と二人で長官に言うことで効果があるなら、俺もそうするけど」
「なんで?君はガース長官に対して割とハッキリと物を言う方じゃないか。間違ってると思うとか、皮肉とかさ」
「確かに俺は一言多いし、思ったことはきっちり言うほうだがな。言うだけ虚しいと思うことはいいたくないんだよ、理由がわかりきってるし」
「理由って」
「総理や長官が今回の台風を災害指定したがらない理由だよ」
「どうして、現に被害はでているじゃないか。何千、いや何万の世帯が停電していて断水もあるんだよ。ジエータイを迅速に派遣しなければ、もっと被害は多くなるし。災害として対処したほうがスムーズにいくけど」
「君は本当に呑気だな、来年の今頃何があるとおもってるんだ、トーキョー、チバン県、ここ首都圏で」
「何って、来年ある行事って、えっと…。国際大運動大会ぐらいかな、思いつくのは」
「そう、あの大会は7月の終わりから9月のはじめ、つまり今頃まであるんだよ。全部のスケジュールを考えると9月の半ばまで」
「だから、それがどう関係…、あ、まさか」
「そう、今の時期、こんな災害があると世界に知れたら」
「今までだって、この夏の暑さは殺人的っていわれてるし。実際、去年より熱中症で死者がでてるしね」
「水泳やカヌー競技の会場での大腸菌の基準値やらも問題となっているし」
「台風なんかきたら下水処理がそれこそ追いつかなくなって、もっと汚染がひどくなるって予想してる人もいるし」
「暑さ対策で人工雪を、なんてバカみたいな対策をたてても大会を強行するつもりなんだ、総理や大会組織委員会の奴等は」
「そんなときに、災害クラスの台風がきたって知られたら、さらに中止の運動が高まるってこと?」
「そうだよ、すでに隣国他、この状況において、トーキョーで大会をやるのは疑問があるって訴えているしな。そのうえ、さらに台風で甚大な被害があると知れたら」
「観客が空港で足止めされたり、停電で冷房のきかないホテルにとじこめられるかもって知られたら誰もこないね」
「観客だけじゃない、選手もだ。停電対策で選手村だけ発電設備をつけるなんて工事はできないだろ。他の競技会場だって間に合わせるのに手いっぱいなのに、そのうえ追加の工事なんて。予算オーバー、工期オーバーで開催が危ぶまれる」
「それで今回も台風で被害がでるかもしれないなんて、国際線の飛行機にも知らせなかったんだね。道理で国際空港の乗客が何も知らないと思った」
「台風直撃の時間に離着陸する機の機長ぐらいには知らせたんだろうけどな。だが規模をかなり小さめに告げたとかいう可能性はあるかもな」
「そんな、大会を絶対に開催するために警告をしないなんて。困っている国民よりも大会開催を優先するなんて。人の命がかかってるかもしれないのに」
泣きそうな顔で訴えるニシニシムラ副長官にシモシモダ副長官は哀し気にいった。
「ニシニシムラ君。もう来年の国際大運動大会は選手、観客、ボランティアの誰かに死者がでるんじゃないかと予測はされてるんだよ。どこぞで、どのグループが一番先に倒れるか賭けが行われているって話もあるしな」
「そんなにしてまで、何でやらなきゃいけないんだろ、国際大運動大会」
「いろいろ利権が絡むからな。それに総理のメンツがかかっている。誘致の会場であれだけ大見え切って、大丈夫といいはったのに、やっぱり無理なんていったら、総理のプライドはどうなるか。そうなったらアベノ総理がどうするか、想像するだけで嫌になりそうだ」
「総理はプライド(だけは)高いからね」
「それをわかっているから、ガース長官は災害指定を渋っているんだろう。長官のおひざ元でも停電に浸水に相当な被害はでているはずなんだが」
「じゃあ、本当は長官も災害対策をしたいの?」
「本音はわからないけど、地元の支援者が困ってるのに何もしなきゃ選挙も危うい。長官は世襲ではないし、派閥に属しているわけでもない。ただ災害指定に前向きに動けば総理やらモンリ元総理の不興を買うから、板挟みになっているんだろう」
「そうか、長官も大変なのか」
「だから、もう俺は長官たちにいうのは諦めて、自分のできることで復旧の支援をすることにしたんだよ」
と、束になったファックスをみせるシモシモダ副長官。
「そうか、じゃあ僕も手伝うよ。長官のところに戻っても仕方がないもの」
「じゃあ、まず、こっちのトーキョーで被害出てるところを頼むよ」
「うん、わかった。そうだ、タニタニダ君は」
「ああ、彼はアトウダ副総理にくっついてるよ」
「え、災害対策はしないの」
「それより今度の内閣改造でどうなるかが気になるらしいな。声を掛けてもよかったんだが。何分一刻を争うこともあるんで、この部屋から出たくなくてさ」
「呼んで…、いや、いいや、彼もやる気になったらきっとくるよ」
ニシニシムラ副長官は言葉を切り、シモシモダ副長官とともに押し寄せる被災地域からのSOSの対応に専念することにした。
「ああ、ここは、こっちに連絡をとればなんとかなるか」
「この地域にはこの隊を派遣してもらえばいいんだね」
二人の副長官は深夜まで対応に追われていた。ガース長官はそれに気が付きながらも、いまだ茶を選ぶフリをしながら自室にこもりつぶやいていた。
「私だって、わからないわけではないのだ、今回の台風も観光客激減も災害クラスだということを…、対処をしなければニホン国が危ういということを。最大の国難は何かって…わかっているのだ、だけど」
健康茶を前に不健全極まりない独り言を言い続けるガース長官であった。
どこぞの国でも台風被害があり9月11日0時5分現在、対策本部が設置などはされていないようですが、本編のようなドアホな理由でなければ一刻も早い対策をしていただきたいものです。