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英雄達の運命  作者: なろう次郎
第一章 コムの旅立ち
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第4話 二人の試練

 私はスカーレット。今日はコムと一緒に遺跡を探索していたはずなのだが、ここにはコムの姿がない。その代わりに目の前に女の子が佇んでいた。


「コムの事なら心配せんでえぇ。守護者の所へ行ったのじゃ。」

「一人でだなんて!?私も行かないと。そこどいて!」


勢いよく立ち上がったのは良いものの、私は一体どこへ向かえば良いのだろうか?


「お前さんは無理じゃ。守護者に挑戦者として選ばれたのはコムなのじゃよ。」

「そんな!?でも私は守護者のいる場所に行かないと。」


それにしてもこんなにも扉や門の数が多いとどこがどこに繋がっているのか全く分からない。片っ端から探していくしかなさそうだ。しかし何十回と扉を開けているのに全部ここにあるどれかに繋がっているのだった。


「だから無理じゃと言ったろう。わかったなら妾の話を聞くのじゃ。」

「そのようね。」


私は片っ端から正解の扉を探して行くのを諦めて、素直にこの女の子の話を聞くことにした。


 それを聞いて分かった事はこの女の子が竜神の眷属だと言うこと、ここがその竜神が造り出した亜空間だと言うこと、そして私は守護者と戦えないと言うこと。


「私がそのヘイロンという黒竜に選ばれなかったのは納得したけど、それが私がその竜のところに行ったらダメな理由にならないよね。」

「そうじゃ、連れて行けぬことはない。しかし、それは彼らの戦いを邪魔することになるのじゃ。男と男の真剣勝負に水を差してはならんのじゃ。」


それもそうなのかもしれない。それに会えなかったとしてもその存在はコムが証明してくれるのだからここまで来た甲斐は有ったと言うべきだろう。しかし、コムが戻るまで暇でしかたがない。


「娘よ、何故暗い顔をしておる。お前さんはあの魔方陣に認められてこの亜空間に来ることが出来たのじゃ。それは即ちお前さんも何かしら試練を受ける資格があると言うことの証明じゃよ。」

「はい?魔方陣に認められる?私が?どゆこと?」

「単純な話じゃ。お前さんたちが起動させた転移魔方陣は設置された遺跡の入り口への帰還用なのじゃよ。」


そうなんだ。あれ帰還用の魔方陣だったんだ。でもよくよく考えるとまた同じ敵と戦わないと帰れないのは確かに嫌だ。


「それで、私には何をする資格があるの?」

「それは調べてみんとな。とにかく妾の手を握るのじゃ。」


私は言われるままに女の子の手を握る。


「分かったのじゃ。少し場所を変えるのじゃよ。」


この子がそう言った瞬間に視界が揺らぎだした。雪、草、海、火山、様々な情景が目に写っては消えていく。そして再び視界が安定したとき、そこは床一面が苔むしていて壁は植物の根で全て覆われている場所だった。


「起きるのじゃ。客を連れてきたぞ。」


転移が終わると直ぐに竜神の眷属の女の子(竜姫、私が勝手にそう呼ぶことにした)は二人しかいない部屋の中で一人叫びだした。


「もう少し寝かせてよ。僕はまだ眠いんだよ。」


さっきまで風景の一部と化して認識できていなかったのだろう。ハンモックとそこに寝る男の子が声と共に現れた。


「何を寝惚けておるのじゃ、お前の客はお前が相手をするのじゃ。」

「分かったってば。だからハンモックを激しく揺らさないで。」


そう言って男の子はハンモックから降りて地面に立った。


「僕はキキ、世界樹の管理者さ。そしてここは世界樹の根の中心に当たる場所だよ。好きに見て回っても良いよ。それじゃあお休み。」

「何故勝手に終わらせるのじゃ。この娘はお前の試練を受ける資格があるのじゃぞ。」


それだけ言ってキキは再びハンモックに戻り寝ようとした。しかし、竜姫がそれを許しはしなかった。


「そんなわけ無いでしょこんな女の子が。まぁ、確かめるだけはタダだからまぁ良いか。そしたらさ、僕の頭に君の手をのせてよ。」


眠ろうとしたのを邪魔されて不機嫌になっているけど調べてくれると言うので私は言われた通りに手をのせた。しかしさっきの竜姫の時もそうだったけど手に触れるだけで何が分かると言うのだろうか。にしても髪の毛フワフワだ。


「えぇ~、嘘でしょ。なんでこんな数値になるのさ。」

「この妾でさえ感じ取れたのじゃ。お前ならもっと正確に分かるじゃろ。」

「もう、面倒くさいな。僕これ以上働きたくないのに。でもこんな才能の持ち主に会えたのも何かの縁だと思うから、仕方ないけどやるしかないか。」


口ではああだこうだと文句ばっかり言っているけど、行動は素早くてとても面倒臭がっている人の動きではなかった。


「そしたら今用意した的を魔法で攻撃してよ。」


私は中長距離の射撃で一般的に使われている火球ファイアーボールでその的を攻撃した。それは真っ直ぐ飛んでいきしっかり的に命中した。


「オッケー、そしたらこの鉢の中にはこんな風にマナを流すと成長する植物の種が入ってる。さぁ次はこれをやってみて。」


その鉢を受け取って、私もキキがやってたみたいにマナを流した。


「キャッ!」


私がマナを流した途端、その鉢が急に破裂したのだ。


「やっぱりね。」


こっちはもう少しの所で失明しそうになったのに、鉢を渡した張本人は一人その現象に納得していた。


「どうやら君はマナのコントロールが苦手なようだね。魔法は得意なはずなのに何でこんな事になったか解らないでしょ。」

「えぇ、魔法には自信があったわ。」


だから、キキがやって見せた様に私も同じ様に出来ていたはずなのだ。


「それじゃ、このグラスに水を注ぐ時はどうする?」


そう言うとどこからか机が現れて、その上には水の入ったボトルと空のグラスがあった。


「それはこうやってボトルを傾けて……」

「そう、それが普通だよね。ならこんな風に勢いよく落ちる滝の下にグラスを持ってくと・・・もちろん見ての通りグラスは粉砕する。」


キキは魔法で造った疑似的な滝で誰もがわかることを実験した。


「ようするに、あの鉢がこのグラスだとしたら、君のマナの流し方はボトルではなく、この滝と同じと言うわけさ。でもそれは仕方のない事なんだよ。それは君の体内に保有されているマナの量とその回復量が異常なほど多いからなんだ。だから今まではそのマナに頼って効率なんて考えなくても魔法を使えていたみたいだけど、それだと照準が曖昧になって前衛にいる味方まで攻撃しかねない。」


言われてみれば心当たりがある。今までは前衛にコムしかいなかったから大事にはなっていなかったけど、これがもっと大人数になるとどうなっていたか分からない。


「だから同じ火属性の魔法でも効率を良くして使えばこんな事ができるんだ。」


そう言いながらキキは私が《火球ファイアーボール》で攻撃したのと同じ的の中心をいとも簡単に貫通させた。その魔法にあえて名付けるとしたら《火槍(ファイアーランス)》と表現するのが適切だろう。


「まぁ僕の場合は効率化が趣味の域まで達してしまっているから杖が無くても出来てしまうけど、僕の試練を乗り越えたら杖を使えば君もこれくらいは出来るようになるよ。」


簡単そうにキキは言っているけどそんな簡単に出来るはずがない。それでもそうすれば自分の魔法が上達すると分かっていてやらないのは魔法使いの名折れだ。


「私、キキの試練を受けるわ。」

「いいよ、それじゃあさっきの続きね。鉢が割れないようにマナを流し続けて。」


でも今度の鉢にはただ土が入っているだけで、マナで成長する植物の種は入っていない。なぜなら破裂したときに種を探すのが大変だかららしい。ある程度安定してマナを流せてから種を入れるそうだ。


「そうじゃ、忘れておったわ。向こうの様子も見ておかんと。」


そういいながら竜姫は何処からか水晶を取り出した。するとそこには巨大な黒き竜と対峙するコムの姿が映っていた。


 スカーレットを竜神の眷属の少女に託して、一人で門を抜けた俺は狭い道を走り抜け、とうとう開けた場所にやって来た。その眼下の雲海に見とれているとどこからか声が聞こえた。


『少年よ、よくぞここまでたどり着いた。』


その声は音として聞こえたのではなく、心に直接語りかけられたような感じがした。


『少年よ、我はここだ。』


勘を便りに振り替えるとそこは台のようになっており、その上には想像を絶するほど巨大な黒き竜が佇んでいた。


「竜よ、そなたがヘイロンか?」

『いかにも。ヘイロンとは我の事だ。少年よ、我との闘いの果てに何を望む?富か?名声か?』

「俺は富も名声も必要ない。目の前にいる誰かを守れるだけの力が欲しい。それだけだ。」

『よかろう。その望み我との闘いの中で見つけるがよい。』


ヘイロンは台から降り立ち、その姿を二本の足で立つ人のような形に変えた。


『この姿の方がよかろう。この姿で空は飛ばぬ。己の武術のみで闘おうではないか。』


しかし、そのサイズが小さくなったとしても、その場の空気を震わす圧倒的な存在感は変化しなかった。むしろ増大したと言って良いだろう。こうして俺とヘイロンの闘いは始まったのである。

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