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真北に位置する宮(四)

 早朝、邪馬台国王の館に、軍の主な面々が集められた。少人数で、ヨウダキ討伐の策が練られていく。

 車座となった男達の中には、ぐったりとツクスナにもたれて座る姫巫女の姿もあった。

 輪の中央には、麻布に細い木炭で線を引き、黒い印がつけられただけの地図が広げられており、その上の何カ所かに小石が置かれている。イヨ姫の記憶を失くしたルイカには、その大雑把な地図は非常に分かりづらかったが、王に一番近い大きい場所が邪馬台国、その北が斯馬国、さらに北の西側が伊邪国で、東は己百支国いはきこくなのだという。

 砂徒長が、地図上の小石を移動させながら説明している。

「明日の早朝、斯馬国に派兵するとして、伊邪国との国境の陣までは三日。その晩に陣を出て己百支国に入れば、五日目の夜明けまでには、伊邪国の宮近くにたどり着けるでしょう。これが、最短になるかと」

「しかし、姫のこの様子では、かような強行は難しかろう」

 王が顎に蓄えた髭をさすりながら、姫巫女を気遣わしげに見た。

「大丈夫じゃ。わらわ以上に、あやつは消耗しておるはずじゃが、回復次第、わらわにとどめを刺そうとするに違いない。その前に、あやつの元まで行かねばならぬ」

 姫巫女が明らかに大丈夫ではない様子ながら、声だけは勇ましく反応した。

「斯馬国の陣までは通常徒行ですから、私が姫様を背負って参りましょう。その後は山道を走ることになりますから、結局、背負うことになりましょうが」

 すぐ隣から、落ち着いた低い声が聞こえてきた。

「そうだな。それしかあるまい。輿では時間がかかるし、目立つしな」

 砂徒長が直ちに同意する。周りの男達も、当然だというような顔で頷いている。

 馬すらいないこの時代では、歩けなければ人力で運ぶしかないのだ。

「はぁ?」

 ルイカが不服そうに隣を見上げた。

 ツクスナは口元に笑みを浮かべながらも、有無を言わせない強い眼差しで見つめ返す。

「ぜひ、そうさせてください。姫様にこれ以上の負担をかける訳にはまいりません。あなた様がここで無理をされては、ヨウダキを倒すどころか、伊邪国にたどり着くことすらできませんよ」

 確かに、今の動くこともままならない身体を思うと、数日歩き続けるなんて、気が遠くなりそうだった。

 だけど、おぶって行くだなんて……。

「じゃが、わらわを背負ってでは、ツクスナが大変であろう」

 悔しいような恥ずかしいような気持ちを隠して、もっともらしい理由をつける。

「姫様でしたら、五人ぐらい背負って走ることもできましょう」

「姫巫女様。私が鍛え上げた弐徒は、そうヤワではございません。どうぞ、頼ってやってください。そうでなければ、あなた様から授けられた紺青の帯が泣きましょう」

 ツクスナにあっさり片付けられた上に、砂徒長に諭されるように言われ、ルイカは黙り込むしかなかった。

 男たちの熱のこもった議論は続いている。

 昨晩ほとんど眠れなかった上に、極度に体力を消耗したこともあって、黙っているうちにルイカの瞼は徐々に重くなっていった。

 背中をとんとんと優しく叩く温かく大きな手が、より眠気を誘う。

 いつしかルイカは、ツクスナの胡座の片膝に上半身を伏せるようにして、眠り込んでいた。

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