君に告白されて僕は・・
「あたしと付き合ってください」
放課後、体育館裏。
呼び出された僕はそう告白された。
「罰ゲームか何かじゃないよね」
僕はその告白があまりにも信じられなかったためまずその可能性を疑ってしまった。
「違うよ、罰ゲームなんかじゃない。あたしは君のことがずっと前から好きだったんだよ」
彼女はゆっくりと首を振りながら僕を見つめそう言った。
そう彼女は言うが、僕は彼女を信じられなかった。
理由は彼女は校内でも屈指の美少女である。
それに対して僕はイケメンでもなければ、勉強ができるわけでもない。
何の取り柄もない人間だ。
どう頑張っても彼女と釣り合うわけがない。
「なんで・・。わからない。どうして僕なんかを」
僕がそう呟くように尋ねるとそれを彼女は理解できていないようだった。
「わからないの?」
「別に僕なんかじゃなくてもいいはずなんだ。他に君を好きな人はいくらでもいる。それなのにどうして、どうして僕なんだ?」
「覚えていないの?」
その言葉によって思い起こされる記憶がよぎった。しかし僕は唇を噛み締めて、彼女を突き放すようにして、
「ああ、僕は覚えてなんかいない。だから僕は君とは付き合えない」
「・・ばか・・・」
彼女は泣きそうな声で僕にそう言って彼女は走ってどこかに行ってしまった。
彼女が去って行った後、ポツリポツリと雨が降り出す。
僕はどうしても動く気にならず、ずぶ濡れになりながら、その場に立ち尽くしていた。
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その後、僕は重たい体をなんとか動かして、学校に置いてあった傘を取りに学校の中へとむかう。
すると、突然横から近づいてくる人影がある。
「どうして断ったりなんかしたんだ」
彼は僕のクラスメイトの一人で、小学生からの腐れ縁の友達である。
「聞いてたんだよね。彼女と僕は別に関わりなんかないんだ。だから断ったんだよ。ただそれだけなんだ」
「お前と彼女、小学生の頃仲良かったじゃないか。おまえが彼女のことを知らないわけがないだろう」
「小学生の時のことなんて覚えてない」
「嘘つくなよ」
彼は僕を睨みつけてそう言う。
「・・嘘なんかじゃない」
僕は少し躊躇したがそう言って反論する。
「そうやって誤魔化しても何も生まれない。それに、それは彼女を傷つけるだけだぞ。わかっているのか」
「・・・・・・」
僕は彼が言った意味をうつむきながら考えた。
「答えは出せよ」
彼は僕が迷っていることを見かねたのか、そう言って帰っていく。
「・・・・」
そう言って去っていく彼に僕は何も言い返せなかった。
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雨の中、僕は傘をさし家への道を歩く。
『嘘つくなよ』
歩きながらふと彼の言葉を思い出した。
ああ、たしかに彼の言う通りだ。
僕はたしかに彼女を知っている。
僕が彼女と出会ったのは、小学生のことだった。
その時、僕たちは妙に気があって、いつも一緒に遊んでいた時もあった。
しかし、徐々に彼女と僕との関わりは消えていった。
たしかきっかけはクラスメイトに彼女との関係をからかわれた、とかだったような気がする。
でも、それからは特に接点なく過ごしてきた。
だから、彼女が僕に告白してくるような理由はない。そのはずだった。
それなのに彼女は今までずっと変わらず、僕のことが好きだったと言う。
それこそありえない。
きっと何かの間違いだ。
そう思うことにした。
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ふと、帰り道に僕が顔を上げるとそこには細い別れ道があった。
たしかこの道を通っても家への距離は変わらないはずである。
僕はなんとなくその細い道は通ることにして歩いていくと、ふととある空き地にが目に入る。
「懐かしいな」
僕はそんなことを呟き、あたりを見渡す。
たしかここで僕は小学生の頃よく遊んだことがあった。
もちろんここで彼女とも遊んだことがあった。
「ここでよく鬼ごっこしたりしたかな」
などと昔のことを懐かしく思いながら、僕はゆっくりとその空き地に入っていった。
「〜〜〜〜」
雨の音に混じって何か音が聞こえた気がして、周りを見渡してみると、人影が目に入る。
「あれは・・・・」
そこには雨の中、ずぶ濡れになりながら泣き崩れている彼女の姿があった。
それを見た僕はいてもたってもいられず、彼女の元へと走る。
「・・こんなところでなにをしているんだよ」
僕は彼女をぬらさないように傘をさしながら声をかける。
「なんでここにいるの?」
彼女は涙を拭いながら僕を見る。
「いいからいかないと、このままじゃ風邪を引いちまう」
僕がそう言って彼女の手を引っ張ろうとする。
「やめてよ」
そう言って彼女は僕の手を引き離す。
「君はいつも自分から離れていくのに、なんでこういう時だけ優しくするの? いっそのこといつも突き離してくれればいいのに・・」
彼女は僕に向かって手を引き離しながらそう言う。
「突き離す?」
僕はその単語に意味がわからず聞き返す。
「君は子供の時、あたしをさけたの覚えてないの?」
おそらく彼女がいっているのは小学生の時、まわりから僕と彼女の関係をからかわれた時があった。
それなのにも関わらず彼女は僕についてくるのをやめなかった。
だから僕は徹底的に彼女との関わりを絶った。
彼女から避けたように見えたのかもしれない。
きっとそのことを言っているのだろう。
「さけてなんかいない。僕はただ君を傷つけたくなかっただけなんだ」
これ以上一緒にいれば全てが僕たちを傷つけるそう思って僕は・・。
「傷ついたりしないもん。あたしは君さえいればよかったのに・・」
彼女は首を振りながら言う。
「なんでそんなに僕なんかにこだわるんだ・・」
僕はうつむきながら尋ねる。
僕にはわからない。
僕にそんな価値なんかないのに・・。
「君はさ。昔この場所であたしに言ってくれたこと覚えてる?」
彼女は僕達が今いるこの空き地を指差し言う。
「なにがだ?」
「嘘。君は覚えてるはずだよ。だって、君は昔と変わらず優しいから、覚えてないはずないもん」
「・・・・」
僕は唇を噛み締めうつむき、思いだした。
ああ、覚えているよ。
『大人になったら結婚しよう』
昔、夏空の下、僕たちはそんな約束を交わした。
もちろんその時は本気だった。
でも、それは昔の話であって今の話とは別物なはずだ。
僕はあの時、何もわかっていなかったんだ。
だからそんな約束をしてしまった。
でも今なら昔の過ちということにすることができる。
そうした方が彼女にとって一番いいことなはずだ。
「覚えてるんだよね。だったら・・」
彼女はそう言った。
彼女は僕が覚えていることを察したに違いない。
「ダメだ。ダメなんだ・・」
僕は首を振って必死に否定する。
「いくらダメっていわれてもあたしには君しかいないんだ。だから何度だって言うよ」
そう言って彼女は緊張した面持ちで「ふう」と一度息を吐きだした。
「あたしと付き合ってください」
彼女は僕をまっすぐに見て言った。
「僕は・・」
僕はそこまで言いかけたが、黙りこんだ。
「君はあたしのこと嫌いなの?」
彼女は泣きそうなになりながら、僕を見つめてそう言う。
「違う。嫌いなんかじゃない。僕は、僕は君のことがずっと好きだった、もちろん今も」
そう僕はずっと彼女のことが好きだった。
きっと彼女が僕を好きになるより長く彼女のことを好きだった自信がある。
「それなのにどうして?」
「ある時、僕は気づいてしまったんだ。君と僕とでは絶対に吊り合わないって・・」
僕には何もかも足りていない。
顔がいいわけでもないし、勉強ができるわけでもない。ましてや、運動などまるでダメ。そんな僕が彼女と釣り合うわけがない。
「大丈夫だよ。あたしは君のいいところはいくらでも知ってる」
「君は僕の昔のことしか知らないじゃないか。そのいいところっていうのはきっと昔の僕を見て言ってるんだ」
きっと彼女は昔の僕を今の僕に押し付けている。
ただそれだけなはずだ。
「あたしはずっと君を見てきたもん。だから今の君のことだって知ってるよ」
「でも、僕以上に君にふさわしい人はいくらでもいる。なのにどうして僕なんかを。僕じゃなくてもいいはずなんだ」
僕は自信が持てないんだ。君を幸せにできる自信がどうしても持てない。
「あたしは君じゃなきゃダメなんだよ」
僕はうつむくのをやめ彼女を見ると彼女はこちらを真っ直ぐに見つめていて、思わず目をそらしてしまう。
「僕なんかで・・いいのか」
「もちろんだよ」
もう一度彼女を見ると、彼女はまだまっすぐに僕を見つめている。
「僕はなんの取り柄もない人間ってことは自分でもわかってる。だから今日も君を傷つけてしまった。それは謝っても謝りきれないことだと思う。今日は本当にごめんな」
「ううん。大丈夫」
彼女は優しい声音でそう言い、ゆっくりと首を振る。
彼女は優しい。
そんな彼女に僕は甘えてしまいそうになる。
でもそれじゃあダメだ。
こんな僕じゃどうやったって彼女を傷つけるだけ、だったら僕は・・。
「でもこんな僕だからきっと君をもっと傷つけるかもしれない。だから僕は一生かけて努力して君を幸せにしてみせると誓うから・・」
僕じゃダメなんてもう言わない。
彼女にふさわしい僕になる。そうなればいいんだ。
「僕と・・結婚してくれないか」
僕はつまりながらも精いっぱいの言葉を彼女に伝えた。
「うん」
彼女は涙をこぼしながらそううなずき,
「君は約束を守ってくれるんだね」
彼女はそう言って今まで見たことのない最高の笑顔で笑っていた。
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それから十年後・・。
僕たちはまた同じ空き地に訪れていた。
もちろん彼女の左手の薬指にはきれいな指輪がはめられていて,僕たちはまだ小さい子供たちを二人を連れてきていた。
「ここで遊んでていい?」
息子はこちらを見て聞いてくる。
「ああ,いいよ。行ってこい」
僕は息子の頭を優しくなでながら,許可を出す。
「やったあ!」
息子はそう言いながら駆けていく。
「あっ! お兄ちゃん待ってよ」
そう言って娘は必死に息子の後を追いかけていく。
僕は息子たちを笑いながら見送り、僕と彼女は芝生に腰掛けることにする。
「元気だな,あいつら」
「だね。なんかあの子らを見てると昔のこと思い出すな」
彼女に言われてみると、昔、小学生のころ一緒にこの場所で遊んでいたことを思い起こされる。
「ああそうだな。この場所ではいろいろあったからなあ」
僕はそう言って、相槌をつく。
「そう言えばあなたがプロポーズしてくれたのもここだったわね」
「ちょっ、それは忘れてくれないか。あれ、思い出すのも恥ずかしいんだけど」
僕はそう言うと、彼女はゆっくりと首を振る。
「嫌よ。あたしは嬉しかったんだから。たぶん忘れようとしても忘れられないし、忘れたくない」
彼女はあの時のことを思い出しているのだろう。
静かに目を瞑ってそう言った。
「それにあの子達にも伝えないといけないからね。パパはママのこと好きだったのに、ママは何度もパパに振られたんだよーって」
「からかうのはやめてくれよ。恥ずかしい」
「ははは」
彼女はそんなふうに笑った。
僕たちはしばらく子供たちが遊んでいる様子を見つめていた。
僕はふとこの公園での出来事を思い出したせいで僕は伝えなきゃいけないことを思い付き、
「ありがとな」
僕はそうぽつりとつぶやく。
「何が?」
彼女は突然話しかけたせいなのかキョトンとした様子でこちらを見る。
「あの時,君に僕がプロポーズしたあの時,君は僕じゃないといけないってそう言ってくれただろ」
「言ったけど・・それがどうかしたの?」
「それまで僕なんかじゃだめだって思っていたんだ。でも君は僕じゃないといけないそう言ってくれただろう。だからそのおかげで僕は踏み込むことができたんだと思う。ありがとな」
「ううん。あなたのおかげであの時から今までいろいろあったけどずっと幸せでした。こちらこそ約束を守ってくれてありがとね」
「ああ,こちらこそ幸せだよ。ありがとう」
そうお互い感謝の言葉を言い合う。
僕は今の幸福を噛みしめながらそっと目をつぶった。
私はこれから一ヶ月に一度ほどこれぐらいの短編を投稿しようと思っています。ですので,また読みに来ていただけると嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございます。感想など頂けると嬉しいです。