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プロローグ

高速道路で渋滞に捕まった。今は家族旅行の帰り。右前の運転席には父が、助手席には母が、後部座席には俺と妹が座っている。

「それにしても、全然進まないねぇ」

母がイライラした口調で言った。そのイライラを感じとったのか、急に車の列は動き出した。

「あ、動いた動いた」

母は少し嬉しそうだ。トンネルに入った。あたりが急に暗くなる。暗いところは少し苦手だ。これといった理由はないが、小さい頃から苦手だった。スムーズに車が動き出し、トンネルの蛍光灯が前から後ろへと走っていく。

ちょっと蛍光灯を数えてみよう。

1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、、、、、、、、。

寝てしまった。あたりがやたらと静かだ。静か?もう家に着いたのだろうか?タイヤが回り、地面と擦れる音も、あの一昔前のBGMも流れていない。ぼやけて見えていた世界にピントが合ってきた。やはり、まだ車の中のようだ。

「母さん?もう着いたの?」

前に座っている母に尋ねるが返事はない。妹に尋ねようと横を見るが、そこには座席しかない。父と母も同様だった。車の中には自分以外誰もいなかった。

どういうことだ?

窓の外を見ると、そこには驚きの光景が広がっていた。

まだ、トンネルの中だったのだ。四角い蛍光灯がピカピカと光っている。

背筋が凍るのを感じた。

まだ家に着いていないのに、車の中には誰もいない。それより怖いのは、まだトンネルの中だってこと。俺が寝てから、そんなに時間が経っていないのか?

寝起きの頭をフル回転させるが、なにもわからない。

取り敢えず、外に出てみるか。

車から出ると、ひんやりした空気が体を包んだ。周りにも車が停まっているが、中に人気はない。

「暗いのは苦手なんだよな」

蛍光灯だけが唯一の味方だ。

とにかく、出口に向かおう。

そう思い、進行方向に歩き始めた。

「おーい。誰かいるー?」

何回こう叫んだだろうか。たぶん4回だ。等間隔に停まっている車を抜かし歩いて行くのだが、いつまで経っても光は見えない。正確に言うと光は見えている。正義の味方、蛍光灯だ。まぁ取り敢えず、出口は見えない。

「20分は歩いたはずなんだけど」

とはいえ、時計がないから何分歩いたかはわからない。スマホもポケットの中でお亡くなりになっていた。

充電80%はあったはずなのになぁ。

「キャーーーーー!!!!」

突如、悲鳴が聞こえた。トンネルの中で、悲鳴が反響する。それからは怒号と悲鳴と地響きのオンパレードだった。

向こうから何かやってくる。

そうは感じたものの、身動きを取れない。50mほど先に人影が見えた。それも1人や2人ではない。二車線道路の幅を全て埋め尽くしている。この地響きから推測するに、あの後ろでも人が溢れかえっているのだろう。

あれに飲み込まれると危ないな。それに、あんな混乱が起きるってことはそれなりに怖いことが起こったんだろうし。

身をひるがえし、もと来た道を走って戻った。

脚には自信がある。だって、将棋好きだから!!飛車のように動けるぜ!!

いつもそう言って、徒競走を走りビリになるくらい、脚には自信がある。

あれは、うちの車だ。もうそんなところまで戻ってきたのか。

後ろの人の塊とはもう20mほどしか差がなかった。さすが俺。

あの中に父さん達はいるのだろうか。無事だろうか。

そう思った時、後ろでグシャッという音がした。その音以降、悲鳴などは聞こえなくなった。

嫌な想像しかできねー。

恐る恐る振り返ると、そこには白と赤、2色の世界があった。つまりは、歯と血だ。歯?血?ここって口内だっけ?いやいやいや、トンネルだよ。あ、トンネルが人を食べたのか。トンネルって肉食なの?シラナカッタ。

「うわぁぁぁあぁぁああぁ!!!」

なんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんなんだこれ!!!

トンネルが人を食べる?夢か?夢なのか。

頭をアスファルトに打ち付けてみるが、痛みと血しか出てこない。俺は夢から出られない。

いや、もう一度、落ち着いて振り返ってみよう。

振り返ると、そこにはなにもなかった。

「はははっ。見間違いだったんだ。そうだそうに違いない。ははっ」

少し落ち着くと、血が出た頭が痛む。立ち上がり、歯があったはずの方向に一歩進むと、何か丸いものを蹴飛ばしてしまった。蹴飛ばされた物体は数m進み、ゆっくりと止まった。その物体は、母の顔だった。

俺は思考を強制シャットダウンした。

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