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幻待ち人  作者: 天猫紅楼
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実技試験

 クリーチャー幻術学校は、朝晩の集会だけは点呼を取られ、集合を強制されるが、その他は基本的に自由な学校である。

 自分に合った科目を選び、好きな時間の授業に出る。 教官はそれぞれにスケジュールを組み、受けに来た生徒の相手をする。 教官にとってはあまり自由は無いが、生徒たちにとっては自分のペースで授業を受けられるので、楽だと思われがちだ。 だが、生徒たちには一つだけ、毎月越えなくてはならない壁があった。

【実技試験】

 これに落ちると、どんな理由があれども規定に外れていれば即刻退学となる。 その為、生徒たちもうかうかしていられないのだ。

 そして今日はその生徒たちの最大の壁、実技試験が行われる。

 試験を受ける生徒たちは、朝から神経を尖らせている。 その空気は、集会が行われている講堂の中に張り巡らされていた。

「いいねえ、この緊張感! ゾクゾクするぜ!」

 ディードは楽しそうに笑った。 その隣ではクレディアが、変わらぬ冷淡な表情で前を向いていた。 講堂の壇上では、ファンネル校長が試験のルールや注意事項を話していた。

「幻武道のメッサー教官が、相手役となる幻獣を創りだす。 キミたちは、それらに戦いを挑むのです。 幻獣にはいくつかのパターンはあるが、何が出てくるかは、実際闘技場に立ってのお楽しみじゃ。 相手を戦意喪失させたら終了。 相手の命を取ったり、不正な行いをした場合は不合格となる。 自分が戦意喪失した場合も不合格じゃ。 周知の通り、この試験に不合格となった者は、退学という道が待っておる。 それでは、キミたちの健闘を祈るぞ!」

 しゃがれ声だが、気迫のこもった燐とした声は講堂に響き渡り、生徒たちも気持ちに気合いが入ったようだ。あちこちから、ため息のような深い息遣いが聞こえてきていた。

 集会が終わり、次々に講堂を出ていく生徒たちを見送りながら、

「熱いねえ! 俺は今日みたいな日が一番好きだな」

 と、ディードは嬉しそうに呟いた。 クレディアはそれを横目に、何も言わなかった。

「クレディア教官っ! おはようございます!」

 いきなり明るい声と共に、ヴァンが現れた。 ディードはあからさまに嫌悪感を顕にして

「朝っぱらから元気すぎるんだよ、お前は……」

と耳を塞ぐ仕草をした。 それを無視して、ヴァンはクレディアを見つめると

「クレディア教官、見ててくださいね! 僕の雄姿をっ! 必ず試験に合格しますから!」

と大げさなほどの手振りでアピールした。 クレディアは冷たい目で彼を見つめ、何も言わずに踵を返した。

「クレディア教官、僕は今日も元気ですよ~~っ!」

 手を振りながら言うヴァンの言葉を背に受けながら、ディードは

「分かってるよ、そんなことはっ!」

と呆れた顔をしながらクレディアの後を追った。



 定刻通りに闘技場での実技試験は始まった。

 新入生たちは、固まって端の方に座っている。 今回はまだ見学だ。 これから一体どんな試験が行われるのか、朝の集会でその空気を体で感じているだけに、想像だけが膨らんでいるようだ。 それを見守るように、後ろの席には動武道のサライナ教官、静武道のカナリア教官などの教官陣が座っている。 その中には、クレディアやディードもいる。 一番後にファンネル校長が現れ、ゆっくりと座った。

 それを合図したかのように、闘技場の真ん中にスポットライトが当たり、一人の少女が現れた。 一番目を引くのが、大きな胸! 広く開いた襟刳りから深い谷間が覗く。 ミニのワンピースに細い脚には膝上までのブーツを履き、手にはマイクを持っている。 彼女は声を張り上げた。

「さあ、今月もやってまいりました! クリーチャー幻術学校の実技試験! 今回はどんな激闘が見られるのでしょうか? スカウターの皆様、目を見開いて見逃すことのないように! あ、自己紹介が遅れました、私は実況アナウンサーのハルナです! よろしくお願いします!」

 前口上を終えたハルナが笑顔で両手を広げると、周りを囲む生徒やスカウターたちから拍手が生まれた。 スカウターとは、唯一学校の生徒以外にこの実技試験を見ることができる人たちだ。 裏表に関わらず、色々な職業から、使えそうな人材発掘をしに来ている。 彼らの眼鏡に叶えば、声をかけられて即卒業、就職という道を選択出来る。 そのチャンスを物にするため、力を入れる生徒も少なくない。


 試験には一人ずつ名前を呼ばれる。 広い楕円形の広場の中で、どんな武器を使おうが自由。 メッサー教官の創りだした幻獣を分析し、効率的に倒す。

 次々と生徒が呼ばれ、幻獣を倒しては合格点を手に入れていく。 中には負傷し医務室に運ばれる者もいる。 戦いが激しくなると、鮮血や肉片が飛び散り、凄惨な場面になるときもある。 幻獣とはいえ、それくらい精巧に創られているのだ。 

 実況アナウンサーのハルナは、大きな胸を揺らしながら、戦う生徒の周りを軽やかに動き回りながら的確に実況していく。 可愛らしい声は、どんなに酷い場面になろうとも、どこか意識を離れさせる効果がある。 

 そんななか、新入生たちの顔が次第に硬直してきた。 みるみるうちに闘技場は生臭く汚れ、耐えきれない者は、口を押さえて席を外した。

「また一人脱落か……」

 ディードが呟いた。 純粋に力や技を手に入れたい者にとっては、この残酷な風景は受け入れがたいものだろう。

「合わなきゃ出ていくまでだ」

 クレディアは冷たく呟いた。

「相変わらず手厳しいお方」

とおどけて言ったが、ディードもまた同感だった。 ここでは武器を扱う。 だからこそ血を見るし、怪我もする。 痛みを知りながら強くなる意味を問い掛けるのは、この学校の暗黙のやり方だ。 自分の目指すものと相違あるなら、出ていくしかない。 技を鍛練出来る場所は他にもあるからだ。 

 実技試験は滞りなく進み、やがてヴァンの名前が呼ばれた。

「お、次は綿帽子か!」

 ディードが楽しそうに笑った。彼もまたクレディアのように、ヴァンの黒いちりちり頭を【綿帽子】とあだ名を付けていた。

「どれだけ成長したか、見ものだな。 俺とクレディアが手塩にかけて育ててやってるんだ!」

「誰が手塩にかけてるって?」

 クレディアは小さく睨んだ。 だがディードがにこりとウインクすると、視線を避けるように広場を見た。 

 ちょうど、ヴァンが闘技場の真ん中に進み出た所だった。

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