表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻待ち人  作者: 天猫紅楼
4/33

ヴァンの求愛

「どうじゃった? 今年の新人は?」

 外の喧騒も全く入ってこない静かな校長室の中、ファンネル校長はクレディアに尋ねた。 彼女ははじめ黒革のソファに促されたが、今しがた動いたばかりで埃が付くからと断り、部屋の壁よりに立っていた。 壁には、歴代の校長の肖像画が数枚飾ってあり、シンプルな装飾品が棚を飾っていた。 クレディアは、見慣れたそれらをぼんやり見ながら

「今年も、有望ですよ」

と答えた。 ファンネル校長は

「そうか」

と満足気に頷き、白い顎髭をさすった。

「厳しい試験に合格した彼らじゃ。 生半可な気持ちでは来ていないじゃろうが、最後の試験はクレディアに任せるべきじゃと思っておる。 これからも頼むぞ」

「……はい」

 クレディアは、ほぼ無表情で小さく頭を下げると校長室を出ていった。 ファンネル校長は閉じられた扉を目を細めて見つめながら

「お前が一番、人の命を大切に思うことができるからな……」

と嬉しそうに呟いた。



 武道場に入ったクレディアの前には、まだ組み合っているディードとヴァンがいた。

「まだやっていたのか……」

 クレディアの呆れ声に、いち早くヴァンが反応した。

「ああっ! クレディア教官っ! おかえりなさぁいっ!」

 恍惚の表情で両手を広げ、駆け寄るヴァンの顔は、ディードとの取っ組み合いのせいでずいぶんと腫れあがっていた。

「はっ!」

 クレディアは駆け寄ってくる彼の腕を取ると、思い切り壁へと投げ付けた。 叩きつけられたヴァンの体は、ズルズルと頭から床に落ちた。

「ヴァン! いい加減にしろ!」

 クレディアは床に横たわるヴァンを冷たく見下ろし、踵を返した。

「クレディア教官~~」

 ヴァンが弱弱しい声で呼び止めると、クレディアは立ち止まって視線だけを送った。

「何故、僕じゃダメなんですか?」

 天井を見たまま話すヴァンに、ディードが口を開こうとした。 それを無言で制したクレディアは、少しだけ振り返った。

「もう私に関わるな。 ただ、教官としては真面目に向かい合ってやるから。 それ以上深く詮索をするな。 いいな?」

 淡々と言ったクレディアは、ヴァンの答えを待たずに武道場を出ていった。 その横には、当たり前のようにディードが付き添っていた。



 ヴァンの求愛が、治まることはなかった。

 勿論、授業としては真面目に接するが、一旦終業のベルが鳴ると、ヴァンはクレディアへと緩い表情で駆け寄っていく。 決まってそれをディードが制止するのだが、クレディアは至って冷静な顔でその様子を見ているのだった。

「クレディア教官っ! また後でうかがいますからあっ!」

 遠ざかるクレディアの後ろ姿に、ヴァンは満面の笑みで手を振っている。その肩を仲間たちは叩き、いい加減にあきらめろと説得するのだが、ヴァンはまるで聞く耳を持たなかった。

「いいのか、クレディア? あいつ、放っておいたら益々しつこくなるぞ?もう少しきつくお灸を据えた方が良いんじゃないか?」

 ディードが、スタスタと歩いていくクレディアの背中に声をかけた。

「俺もいい加減疲れてきたぞ……」

 頬をかきながら苦笑するディードに振り向きもせず、クレディアは淡々と答えた。

「疲れたなら放っておけ。 あいつも、そのうち飽きるだろ」

 ディードはしばらくその背中を見つめていたが、やがてポンと手を叩くと

「そうか! さてはクレディア、楽しんでるな? 今の状況が楽しくて仕方ないんだろう?」

と微笑んだ。 するとクレディアは立ち止まって素早く振り向くと

「そんなわけないだろ! 私も相手をするのが面倒になっただけだ!」

と憮然と言い、再び踵を返すと、スタスタと歩いていく。

「そーーですか、それは失礼しましたっ」

 ディードはおどけて言うと、クレディアの背中を追いかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ