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幻待ち人  作者: 天猫紅楼
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傷だらけの再会

 バカラは楽しそうに答えると、再びクレディアを襲い始めた。されるがままに身体を揺らし、彼女の顔や身体には幾つもの傷が出来、あちこちから鮮血を滴らせていた。

「やめろぉっ!」

 ヴァンはバカラの腕を取ると、背後にねじ上げた。

「うああっ!」

「何だよお前!関係ないだろうっ?」

 仲間たちも驚いて手を止めた。ヴァンはバカラの後ろから、若者たちを睨み付けた。その瞳には、厳しい光が輝いていた。

「相手は女だぞ!弱いものには手を上げるなと、学校で教わらなかったか?」

 するとバカラは顔を歪ませながら

「相手が女子供だろうと、敵だと思えば命を取る」

と呟いた。

「あ!なんだと?」

 驚いた拍子に緩んだヴァンの手から逃れたバカラは、素早く体を離してヴァンに向き合った。

「俺はこいつに貸しがあるんだよ!それを今、返してもらってるところだ。だからお兄さんは黙って失せな。痛い目にあいたくなかったらね!」

 痛む腕をさすりながらも、バカラの目はまた楽しそうに光っていた。ヴァンはバカラを睨んだ。

「その『貸し』って、何だ?」

「こいつらは、俺を騙して退学に追い込んだんだ。あの学校に居れば、その名前がブランドだ。順風満帆だったのによ、邪魔をしてくれた!」

 その言葉にヴァンはピンと来た。バカラが言っているのは、クリーチャー幻術学校のことだ。ここを卒業すると、それだけでも人々の注目を浴びる。

 だが、クレディアたち教官陣が生徒を騙すなんてことはあり得ない。きっと何か理由があったか、目の前の男が嘘を言っているか……どちらにしろ、バカラの後ろで力なくうずくまっているクレディアを助けることが先決だとヴァンは思った。そして、ゆっくりとよく聞こえるように、低く声を発した。

「俺も、その教官の一人だと言ったら、どうする?」

「なっ!」

 バカラの目が見開かれた。

「なんだと!」

 仲間たちも顔を見合わせて怪訝な顔をした。バカラは笑い

「そうか、じゃああんたにも相手をしてもらおうかな?」

と言った途端、ヴァンへと飛び掛かった。仲間たちもバカラに次いでヴァンへと襲い掛かった。

「はっ!」

 ヴァンは焦る素振りもなく、胸の前で印を結び呪文を唱えた。

「チャン・ナラーー!」

 バカラたちの足元が細く盛り上がり、地面から槍のように何本も生えると、行く手を遮った。

「うわっ!」

「何だこりゃあっ!」

 足止めを食らった仲間たちは慌てふためき、拍子に固まりとなって倒れこんだ。

「お前たちも知っているだろうが、幻術だ!現実に痛みは感じるがな!」

 バカラの声は、頭上から聞こえてきた。

「知ってるさ!」

 見上げるヴァンに向かい、バカラもまた印を結んでいた。

「ピ・フンドゥロラ!」

 周りの壁から小さな瓦礫が降りだし、集中豪雨のようにヴァンへと襲い掛かった。だがヴァンには相変わらず焦りは無く、むしろ口角をわずかに上げていた。

「ピ・オルラガラ!」

 ヴァンが唱えた途端、彼に襲い掛かっていた瓦礫の雨が、バカラへと進路を変えた。

「な、なんだと!他人の幻術を操るのかっ!う、うわあぁっ!」

 驚愕の表情と共に、バカラは宙に舞った。

「――くっ!覚えてろよぉっ!」

 仲間たちに支えられて、バカラは逃げるように姿を消した。



「クレディア!」

 息をつく間もなく、ヴァンはクレディアへと駆け寄った。

「クレディア!大丈夫か?」

「う……」

 うずくまっていたクレディアは、ヴァンの声に目を開き、傍らに跪く彼をゆっくりと見上げた。その顔は傷だらけで、口の中を切ったのか唇からは一筋の血が流れ落ち、こめかみの辺りには大きくあざが出来ていた。

「ひどい傷だ……病院に行こう!」

 そう言いながら自分の袖で唇の血を拭き取るヴァンの手を、クレディアの指先が触れた。

「これは……夢……?」

「え……?」

「ヴァン……なのか?」

 クレディアは、信じられないといった表情で瞳を揺らした。

「はい。ヴァンです。久しぶり、ですね」

 ヴァンは、今更ながら唐突な再会をしたと気付き、戸惑った表情を浮かべた。

「いいんですか?病院に行かなくても?」

 怪訝な顔をするヴァンに、気丈ににこりと微笑みを返し、クレディアはヴァンの腕をつかんだ。そして苦しそうに立ち上がると、引っ張るように歩き始めた。

「どこへ、行くんですか?」

 困惑するヴァンに振り返ったクレディアは、彼を自分の部屋へと招き入れた。

「残念ながら、身体は丈夫に出来てる。それに、こんな怪我をした女を病院になんて連れていったら、お前が疑われるんだぞ」

 ヴァンに手当てをしてもらいながら、クレディアは痛みに眉をしかめた。彼はクレディアを見つめ、息をついた。

「相変わらずですね」

「え?」

「自分のことより、他人の心配ばかりしてる。何も変わっていませんね。少し安心しました」

 そう言いながら笑い、ヴァンは手元に視線を落とした。彼女の腕の包帯を巻き終えると、今度はクレディアが自分で冷やしている顔の手当てを始めようとした。するとクレディアが

「ありがとう。後は自分で出来る」

とヴァンの手から、綿を挟むピンセットを取ろうとした。ヴァンはそれを制止すると

「ダメです!」

と一喝した。

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