光の正体
「そんな身体で技を使うなんて、ホントにあんたって、無茶するわねぇ」
呆れた声で言ったのは、リゾーラだった。彼女は、崩れ落ちるクレディアを抱き留めていた。
「……うるさいよ……ヴァンは?」
顔面蒼白で、荒い息で言うクレディアに、リゾーラは
「あの子なら大丈夫よ。しっかりと、幻獣にとどめを刺したわ」
と眉を寄せながら微笑んだ。クレディアはふらつく足に二、三発拳を打ち付けて立ち上がった。
「クレディア、無理しちゃダメよ!」
慌てて肩を掴むリゾーラを振り払ったクレディアは、左腕に強い痛みを感じて顔を歪めた。左肘が赤く腫れ上がっている。
「大変!手当てをしなきゃ!」
心配するリゾーラを冷たく睨み、離れると
「まだ、やることがある!」
と踵を返し、駆けだした。ふらつきながらも走るクレディアの背中に
「もう!待ちなさいっ!」
と声を掛け、追いかけるリゾーラ。追いかけっこのように走る二人の姿は、薄暗い建物の中に消えていった。
「メッサー、貴様ぁっ!」
クレディアの怒号と共にメッサー教官の胸倉が捕まれ、その背中は壁に押しつけられた。
特別試験会場の裏にひっそりと建つ小屋で、メッサー教官が遠隔操作で試験の罠や幻獣を操っていたのだ。同じ教官であるクレディアは、そのシステムを知っていて、この小屋に飛び込んだ。メッサー教官は、クレディアの前でひたすら怯えた顔をしていた。
「これはどういうことだ?卒業試験以外で、幻獣を対峙させられるのは一体だけだろう!何故二体出した!」
クレディアはメッサー教官の鼻先に顔を近付けて、噛みつくように睨んだ。メッサー教官はクレディアから目を背け、震えながら無言を貫いていた。
「ちょっと、クレディア!やめなさいよ!」
「お前は黙ってろ」
慌てて止めに入ろうとその肩に手をやったリゾーラを、クレディアは肩で押し退けた。するとメッサー教官は、リゾーラの顔を見て目を見開いた。
「お、お前は、卒業生のリゾーラ・ディング!そ……そうか!クレディア!すべてはこの女の仕業だ!リゾーラ!お前の幻術でもう一体追加したのだろう?」
メッサー教官のかすれた抗議に、クレディアは冷たく見返してなおも締め上げた。
「ぐ……」
「ふざけるな!私は知っている!リゾーラは何もしていない!」
メッサー教官は言葉を失い、冷汗を垂らしながらクレディアを見つめた。彼女は静かな口調で、少し前のことを話し始めた。
「私がリゾーラを疑ってここに駆けつけ、見つけたときには、すでに幻獣は二体いた」
実はクレディアは、特別試験には参加しないと言ってはいたが、どうにも気になってこっそり陰から見ていたのだ。
次々に生徒たちがクリアしていくなか、クレディアは、自分の出る幕がなければそのまま帰るつもりだった。やがてヴァンの試験が始まり、数々の罠をくぐりぬけて広間での幻獣を倒したところで、特別試験は滞りなく終わると思われた。ほっとしてふと周りをうかがうと、リゾーラの姿を見つけたのだ。
――
「リゾーラっ!」
クレディアは弾けたように彼女へと駆け寄り、懐に隠し持っていたナイフを突き付けた。
「きゃあっ!クレディアっ来ていたの?」
驚くリゾーラを睨み付け
「やっぱり何か悪さをしようと来たんだな?」
と凄んだ。リゾーラは首を動かすことも出来ないままで
「クレディア、引率教官の中に居なかったから、今日は一緒じゃないと思っていたのに。やっぱり愛ねぇ」
と苦笑いをした。クレディアは激昂して
「ふざけるな!ヴァンからは手を引けと言っただろう!まだ懲りないのかっ?」
となおもナイフを突き付けた。その時広間から、瓦礫が崩れる音がした。
「何だ?」
驚いて広間の中を見ると、倒した幻獣とは別のモノがもう一体現れていた。
「リゾーラ貴様っ!」
怒るクレディアに、リゾーラは慌てて両手を上げた。
「ち、違うわよ!私は何もしてないでしょう?クレディアに押さえ込まれていて、身動きもできなかったじゃない!私じゃないわ。誰か別の人!」
「まさか……」
クレディアの脳裏に、心当たりの人物がよぎった。
「でも何故……?」
そう呟いている間にも、ヴァンにはイースが加勢していた。
「イース!」
「まあ!あの子もこっそりついてきていたのね?」
悠長に言うリゾーラを無視して、クレディアはヴァンとイースの戦いの様子を見つめた。
「この試験は、幻獣一体を最後に倒して終わりのはずだ!これはおかしい!……くっ!」
言いながら軽い頭痛を感じて、クレディアはこめかみを押さえた。
「あなた、だいぶ疲れてるみたいね」
軽い口調で言うリゾーラに冷たい視線を送ったクレディアは、
「お前のせいだ。いつ現れるか分からない相手に気を配っていたら、疲れだって溜まる!」
と吐き捨てると、再び広間へと視線を戻した。
「信じてあげればいいのに」
ぼそっと呟いたリゾーラに振り返ろうとしたクレディアの視界に、赤い光が映った。幻獣が自らの爪と瓦礫との摩擦に火花を散らし、それが自分の身体に引火したのだ。
「そんな!」
クレディアは拳を握って、悔しげに唇を噛んだ。飛んできた瓦礫からヴァンを守ろうとしてイースが倒れ、彼は気を失ってしまったイースから遠ざけようと、幻獣を挑発していた。
「あらあら。このままじゃ、二人とも丸焦げよ?」
リゾーラは他人事のように大げさに口を開いた。クレディアはじっと様子を見ていたが、やがて幻獣がイースへと近寄り始めた時、とうとう弾けるように駆け出した。走りながら印を結び、呪文を唱えた。
「チャギモンチェ・ピッナラーー!」
クレディアの身体がまばゆく光に包まれた。そして
「パラン・コチルゲプロデ・チキョラーー!」
と唱えると、クレディアの周りを風が吹き荒れた。リゾーラは目を見張った。
「なんてこと!二つの呪文をあんな短いスパンで!あんな高等幻術をいつの間に……!ていうか、あんな身体じゃそんなに持たないわよ!」
そう驚いている間にも、クレディアは光の姿になり、飛び回りながらヴァンの助太刀をしていた。強い風と眩しさに、ヴァンはクレディアに気付いていないようだ。ただ突然のことに驚いている。
だが、リゾーラにはクレディアの動きがはっきりと見えていた。リゾーラも引退したとはいえ、それなりに実力者だ。クレディアは光に包まれた身体で、幻獣がイースに近付かないように翻弄しながら、攻撃を仕掛けていた。
だが、一瞬体勢が崩れ、その頭上を幻獣の太い爪が襲った。
「ぐっ!」
クレディアはとっさに左腕を出して受け止めたが、明らかに不意打ちを食らっていた。
「クレディア!」
思わずリゾーラも飛び出そうとしたが、クレディアは無理矢理に左腕に食い込む爪を振り払い、懐に飛び込むと体当たりをした。その衝撃で幻獣は倒れ、クレディアはヴァンをかすめて広間から飛び出した。
「クレディア!」
包まれていた光が消え、クレディアは崩れ落ち、駆け寄ったリゾーラに支えられた。
――




