表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻待ち人  作者: 天猫紅楼
24/33

光の正体

「そんな身体で技を使うなんて、ホントにあんたって、無茶するわねぇ」

 呆れた声で言ったのは、リゾーラだった。彼女は、崩れ落ちるクレディアを抱き留めていた。

「……うるさいよ……ヴァンは?」

 顔面蒼白で、荒い息で言うクレディアに、リゾーラは

「あの子なら大丈夫よ。しっかりと、幻獣にとどめを刺したわ」

と眉を寄せながら微笑んだ。クレディアはふらつく足に二、三発拳を打ち付けて立ち上がった。

「クレディア、無理しちゃダメよ!」

 慌てて肩を掴むリゾーラを振り払ったクレディアは、左腕に強い痛みを感じて顔を歪めた。左肘が赤く腫れ上がっている。

「大変!手当てをしなきゃ!」

 心配するリゾーラを冷たく睨み、離れると

「まだ、やることがある!」

と踵を返し、駆けだした。ふらつきながらも走るクレディアの背中に

「もう!待ちなさいっ!」

と声を掛け、追いかけるリゾーラ。追いかけっこのように走る二人の姿は、薄暗い建物の中に消えていった。



「メッサー、貴様ぁっ!」

 クレディアの怒号と共にメッサー教官の胸倉が捕まれ、その背中は壁に押しつけられた。

 特別試験会場の裏にひっそりと建つ小屋で、メッサー教官が遠隔操作で試験の罠や幻獣を操っていたのだ。同じ教官であるクレディアは、そのシステムを知っていて、この小屋に飛び込んだ。メッサー教官は、クレディアの前でひたすら怯えた顔をしていた。

「これはどういうことだ?卒業試験以外で、幻獣を対峙させられるのは一体だけだろう!何故二体出した!」

 クレディアはメッサー教官の鼻先に顔を近付けて、噛みつくように睨んだ。メッサー教官はクレディアから目を背け、震えながら無言を貫いていた。

「ちょっと、クレディア!やめなさいよ!」

「お前は黙ってろ」

 慌てて止めに入ろうとその肩に手をやったリゾーラを、クレディアは肩で押し退けた。するとメッサー教官は、リゾーラの顔を見て目を見開いた。

「お、お前は、卒業生のリゾーラ・ディング!そ……そうか!クレディア!すべてはこの女の仕業だ!リゾーラ!お前の幻術でもう一体追加したのだろう?」

 メッサー教官のかすれた抗議に、クレディアは冷たく見返してなおも締め上げた。

「ぐ……」

「ふざけるな!私は知っている!リゾーラは何もしていない!」

 メッサー教官は言葉を失い、冷汗を垂らしながらクレディアを見つめた。彼女は静かな口調で、少し前のことを話し始めた。

「私がリゾーラを疑ってここに駆けつけ、見つけたときには、すでに幻獣は二体いた」

 実はクレディアは、特別試験には参加しないと言ってはいたが、どうにも気になってこっそり陰から見ていたのだ。

 次々に生徒たちがクリアしていくなか、クレディアは、自分の出る幕がなければそのまま帰るつもりだった。やがてヴァンの試験が始まり、数々の罠をくぐりぬけて広間での幻獣を倒したところで、特別試験は滞りなく終わると思われた。ほっとしてふと周りをうかがうと、リゾーラの姿を見つけたのだ。

 ――

「リゾーラっ!」

 クレディアは弾けたように彼女へと駆け寄り、懐に隠し持っていたナイフを突き付けた。

「きゃあっ!クレディアっ来ていたの?」

 驚くリゾーラを睨み付け

「やっぱり何か悪さをしようと来たんだな?」

と凄んだ。リゾーラは首を動かすことも出来ないままで

「クレディア、引率教官の中に居なかったから、今日は一緒じゃないと思っていたのに。やっぱり愛ねぇ」

と苦笑いをした。クレディアは激昂して

「ふざけるな!ヴァンからは手を引けと言っただろう!まだ懲りないのかっ?」

となおもナイフを突き付けた。その時広間から、瓦礫が崩れる音がした。

「何だ?」

 驚いて広間の中を見ると、倒した幻獣とは別のモノがもう一体現れていた。

「リゾーラ貴様っ!」

 怒るクレディアに、リゾーラは慌てて両手を上げた。

「ち、違うわよ!私は何もしてないでしょう?クレディアに押さえ込まれていて、身動きもできなかったじゃない!私じゃないわ。誰か別の人!」

「まさか……」

 クレディアの脳裏に、心当たりの人物がよぎった。

「でも何故……?」

 そう呟いている間にも、ヴァンにはイースが加勢していた。

「イース!」

「まあ!あの子もこっそりついてきていたのね?」

 悠長に言うリゾーラを無視して、クレディアはヴァンとイースの戦いの様子を見つめた。

「この試験は、幻獣一体を最後に倒して終わりのはずだ!これはおかしい!……くっ!」

 言いながら軽い頭痛を感じて、クレディアはこめかみを押さえた。

「あなた、だいぶ疲れてるみたいね」

 軽い口調で言うリゾーラに冷たい視線を送ったクレディアは、

「お前のせいだ。いつ現れるか分からない相手に気を配っていたら、疲れだって溜まる!」

と吐き捨てると、再び広間へと視線を戻した。

「信じてあげればいいのに」

 ぼそっと呟いたリゾーラに振り返ろうとしたクレディアの視界に、赤い光が映った。幻獣が自らの爪と瓦礫との摩擦に火花を散らし、それが自分の身体に引火したのだ。

「そんな!」

 クレディアは拳を握って、悔しげに唇を噛んだ。飛んできた瓦礫からヴァンを守ろうとしてイースが倒れ、彼は気を失ってしまったイースから遠ざけようと、幻獣を挑発していた。

「あらあら。このままじゃ、二人とも丸焦げよ?」

 リゾーラは他人事のように大げさに口を開いた。クレディアはじっと様子を見ていたが、やがて幻獣がイースへと近寄り始めた時、とうとう弾けるように駆け出した。走りながら印を結び、呪文を唱えた。

「チャギモンチェ・ピッナラーー!」

 クレディアの身体がまばゆく光に包まれた。そして

「パラン・コチルゲプロデ・チキョラーー!」

と唱えると、クレディアの周りを風が吹き荒れた。リゾーラは目を見張った。

「なんてこと!二つの呪文をあんな短いスパンで!あんな高等幻術をいつの間に……!ていうか、あんな身体じゃそんなに持たないわよ!」

 そう驚いている間にも、クレディアは光の姿になり、飛び回りながらヴァンの助太刀をしていた。強い風と眩しさに、ヴァンはクレディアに気付いていないようだ。ただ突然のことに驚いている。

 だが、リゾーラにはクレディアの動きがはっきりと見えていた。リゾーラも引退したとはいえ、それなりに実力者だ。クレディアは光に包まれた身体で、幻獣がイースに近付かないように翻弄しながら、攻撃を仕掛けていた。

 だが、一瞬体勢が崩れ、その頭上を幻獣の太い爪が襲った。

「ぐっ!」

 クレディアはとっさに左腕を出して受け止めたが、明らかに不意打ちを食らっていた。

「クレディア!」

 思わずリゾーラも飛び出そうとしたが、クレディアは無理矢理に左腕に食い込む爪を振り払い、懐に飛び込むと体当たりをした。その衝撃で幻獣は倒れ、クレディアはヴァンをかすめて広間から飛び出した。

「クレディア!」

 包まれていた光が消え、クレディアは崩れ落ち、駆け寄ったリゾーラに支えられた。

 ――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ