迷路のような廃墟
あちこちで瓦礫が崩れ、足場の悪い床を注意深く歩いていくヴァン。
昼過ぎの陽の光が窓から降り注ぎ、舞い上がる埃がキラキラと反射している。ジャリジャリと音を立てながらゆっくりと壁伝いに歩いていくと、やがて赤いペンキで書かれた、矢印のマークが見えた。
「こっちか……」
ヴァンは小さく呟くと、矢印に従った。と、突然轟音が響き、天井が崩れ、彼の頭上に降ってきた。
「うわっ!」
ヴァンは身軽に瓦礫の雨を避けながら、前方へと飛び込んだ。やがて静かになり、確かめるために振り返ると、背後の廊下には人の大きさほどの塊が幾つも転がり、土埃が舞い上がっていた。
「こんなトラップじゃあ、張り合いがねえな」
ヴァンは前を向くと、先を急ぐことにした。そこから先は罠の応酬だった。数歩歩く毎に、天井や床、壁から幾つもの矢が放たれたり、床に穴が開いたり、天井が落ちたりと、徐々にヴァンのスタミナを奪っていった。
外から見るとただの二階建の建物に見えていたが、今のヴァンには、何百坪もある豪邸ほどの敷地のなかにいるのかと錯覚するほどに、広すぎる感覚に陥っていた。
「これも幻術なのか?一体ゴールはどこなんだよ?」
ヴァンは終わりの見えない建物内を迷路のようにさ迷っていた。すると突然、目の前が開けた。
「えっ!なんだよこれは……?」
思わず足を止めたヴァンの前には、学校裏の闘技場を思わせる広間が広がっていた。
「おかしいな……こんなに広い部屋があるようには見えなかったけどな……」
ヴァンは周りを伺いながら注意深く進み入った。軽く汗を拭きながら息を整えた。とりあえず、少しでも休息が欲しかった。
ヴァンは周りに気を配りながら近くの瓦礫に腰を下ろすと、大きく息を吐いた。すると突然、座っていた瓦礫が跳ね上がり、中から巨大な影が飛び出してきた。
「幻獣か!」
片手を地面につけ、弾みを付けて飛び退くと、懐からナイフを取り出した。毛むくじゃらの体をした幻獣は、その剛毛の間から赤い目を光らせてヴァンを襲った。
ヴァンは軽がると攻撃を避けながら幻獣を観察していた。むやみに動くより、まずは出来るだけの情報をつかむ。戦うときの基本だ。幻獣はヴァンに向かって鋭い爪を突き立てようと次々に攻撃を続けた。
「よし!だいたい分かった!」
ヴァンは足場の良いところで印を作ると呪文を唱えた。
「ピョク・イロナラっ!」
彼の目の前に蒼い壁が起き上がり、幻獣は勢いよくぶつかった。そのままの勢いで爪を掻き立てる幻獣と向かい合い、ヴァンは再び呪文を唱えた。
「チョンジャン・チャンットロ・ヂョラ!」
天井が槍のように細く鋭くなり、幻獣に降り注いだ。あっという間に串刺しになった幻獣は瓦礫に埋もれるようにうずくまり、動かなくなった。
「よっしゃ!」
そう言って拳を握ったヴァンの背後に、突然影が立ち上がった。
「速いっ!」
振り返るヴァンの目の前に、大きな拳が迫っていた。次の瞬間、吹っ飛ばされたヴァンは床に全身を叩きつけられ、あっけなく意識を失った。




