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幻待ち人  作者: 天猫紅楼
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最終試験

 クレディアとディードは小さくお辞儀をしてファンネル校長を見送ると、少年たちに向きなおした。 静かな武道場に、再び緊迫した空気が流れた。

 濃い赤色の髪の毛から深い紅色の瞳を覗かせ、射るように見つめながら、クレディアが静かに口を開いた。

「私はクレディア・ルイスだ。 隣にいるのがディード・アディソン。 ここの教官を務めている。 では早速、最終入学試験を行う。 お前たち、誰からでも良い。 一人ずつ来い。 武器は何を使っても良い。 自分で持参したモノでも良いし、この武道場にあるものを使っても良い」

 そう言いながらも、すっかり肩の力を抜いて立っているクレディアの様子に、少年たちは戸惑いを隠せなかった。

「あの……ここで、ですか?」

「そうだ」

 クレディアは質問を投げかけた少年を細い目で見た。

「来いって言われても……なぁ……」

「そんな急に言われても……」

 少年たちは、お互いに顔を見合わせて動揺している。

「ま、戸惑うでしょうね、急にそんなことを言われたら。 毎年同じリアクションを見るのも、面白いものだな」

 クレディアの隣で薄い笑顔と共に静観していたディードが、楽しそうに肩をすくめた。

「ディード、少し黙ってろ」

 クレディアは怒る風でもなく、静かに言って目を閉じた。

「はいはい」

 ディードは少し後退りすると、傷だらけのざらついた壁にもたれて腕を組んだ。 そしてざわつく少年たちに

「おいお前ら、早くしないとクレディアから行っちまうぞ! そうなったら、全員不合格だぜ! 怖いならここで帰ってもいいけどな。 もしそうなっても、俺たちは止めないから安心しろ」

と助言した。

 再び少年たちがざわつき、その中から意を決したように、長身の少年が進み出た。

「で、では、僕から行かせてもらいます!」

 すでに頬に汗を垂らしながら、少年は腰から二本の短剣を取ると、両手に持った。 そして一つ息を飲むと、気合いを入れて構えた。

「はっ!」

 気合と共に長い足がバネのように伸び、少年はクレディアへと襲い掛かった。 次に長い腕が伸び、短剣は風を切りながらクレディアの顔に切り掛かった。

「危ないっ!」

 誰かが思わず発した声が響き、誰もがクレディアの鮮血を想像した。 その時

「ぐわあっ!」

 悲鳴を上げたのは、クレディアではなく少年の方だった。 長い腕を後ろにねじ上げられ、背後から膝を蹴られて両膝をつく形で固められ、動けずにいた。

「み……見えなかった……」

「いつの間にか後ろに?」

 少年たちが驚き呆然とする前で、クレディアは平然とした顔で

「名前は?」

と、腕を取っている彼に尋ねた。 少年は苦しげに視線を後ろにやり、震えた声で答えた。

「デュー・アストロイです……」

 クレディアは少し口角を上げた。

「ふむ。 デュー、長い手足は時として効果的だが、懐に入られると弱い。 そこを気を付けるんだな」

「っ……はい!」

 そう言って目を伏せたデューの手を緩めると、そのまま彼を立たせてディードへと軽く背中を押した。 茫然と近づいてくるデューを迎えるように見つめ、

「合格おめでとう、デュー君!」

と、ディードがにこりと微笑んで体を横にずらした。 その後ろには、校内へと続く廊下へ抜ける扉が開かれていた。 デューの顔がパアッと明るくなった。



「次!」

 間髪いれずに、クレディアが少年たちに向き直った。 その群れをかきわけて、一際大きな体格をした男が現われた。 クレディアは彼を見上げて、再び少し口角を上げた。

「ほう、少しは手応えのある奴のようだな」

 だが、クレディアは改めて構える様子もなく、平然と立っている。 彼はソレを見て、あからさまに機嫌を損ねた。

「あんたが教官だと? ちょっと出来るからって、先輩づらしてるんじゃねーよ! たかがちっちゃい女一人を相手にするなんて簡単じゃねーか、ぶっ飛ばしゃあいいんだろ?」

「御託はいいから、早くこい。 こっちは暇じゃないんだ」

「くっ! じゃあ、遠慮なく行かせてもらうぜ!」

 啖呵を切ってぐいっと足を踏み込んだかと思うと、彼はクレディアに突進した。 風を切るというより押し分けるように一直線に襲い掛かる男に、クレディアはうっすらと笑みを浮かべながら迎え撃った。

「あっという間に、終わりだ!」

 男が言いながら振り上げた拳は、轟音を上げて空振りをした。

「なにっ?」

 クレディアの姿は、投げ出された腕の傍に立ち、その丸太のように太い腕をつかむと、一気に身を屈めた。

「うわああっ!」

 男の大きな体は弧を描き、少年たちの中に放り投げられた。 散った彼らの見守る中、男はしたたかに床に打ち付けられた背中をのけ反らせて、くぐもった声でうめいた。 その傍に立ったクレディアは、彼を冷たく見下ろした。

「人を外見で判断するな。 思い込みは、時として人を弱くする」

 言いながら、クレディアは彼の腕を掴み立たせると、ディードへと背中を押した。

「体力は有り余ってそうだね。 合格おめでとう!」

 微笑みながら迎えたディードは、彼の肩を叩いて扉へと誘った。

「くそ……こんなの、認めねーからな……」

 悔しげな顔で唇を噛みながら、彼はトボトボと扉の向こうへと消えていった。



「次!」

 振り返ったクレディアは汗一つかくこともなく、少年たちの前に立っていた。

「お願いします!」

 甲高い声と共に、スタイルの良い少女が進み出た。

「あら、可愛らしい!」

 ディードが思わず口にすると、クレディアは彼を静かに横目で舐めた。 しかしすぐに少女に向くと

「さあ、来い」

と、淡々と相手の様子を見つめた。 

 少女はひとつ息を呑んだ後、少し吊り目の瞳を細めて構えると、手にしている剣を握りなおし、気合いの入った声を上げながらクレディアへと襲い掛かった。 振り下ろされる剣を数回避けたクレディアは、少しずつ後退りをしていた。

「押されているぞ!」

 誰かが期待をこめた声を出した。 その時

「はあっ!」

とどちらとも違う声がして、空気を切り裂きながらボウガンの矢がクレディアに向かって飛んできた。

「くっ!」

 瞬間ソレに気付いたクレディアは、少女の剣を奪い取ると、矢を打ち落とした。 壁に背中を付けて気を緩めていたディードも、思わず背中を離した。

「誰だ!」

 クレディアが眼光鋭く少年たちを回し見ると、彼らは顔を見合わせながら道を割り、その奥には、ボウガンを構えて震えている少年が立ち尽くしていた。

「お前か? 邪魔をしたのは?」

 クレディアはゆっくりと少年へと歩み寄った。 蛇ににらまれたカエルのように涙をためて動けずにいる少年の前に、さっき戦っていた少女が立ちはだかった。

「サキアは関係ありません! あたしを助けようとしただけです!」

「ね……姉ちゃん……」

 少女の後ろで震えているサキア。

「ごめんよ……姉ちゃん……オイラつい……」

 遂に泣き出したサキアに振り向きその頭を撫でながら、少女はかぶりを振った。

「いいのよ、ありがとうサキア」

 そう言って微笑む少女の顔を見上げて、サキアは抱きついた。

「何も良いことはないっ!」

 クレディアの怒号と共に、少女とサキアは頭にげんこつを食らった。

「ええっ?」

 驚き凝視する少年たちを気にもせず、クレディアは姉弟に向かって

「戦いに情は要らん! そして、最低限のルールは守れ! 私は、ひとりずつ、と言ったはずだ!」

と言い放った。

「す……すみません……」

 切ない瞳で見上げる姉弟を冷たく見下ろしていたクレディアは、小さく息を吐くと、二人の腕をつかみ、立たせた。 そして

「守りたいものがあるなら、一番大切なものを見極めろ。 そうでないと、失わなくても良いものを失うことになりかねない」

と言いながら、クレディアはディードへと二人の背中を押した。

「えっ?」

 不合格だと思い込んでいた姉は驚いて振り返ったが、クレディアはすでに次の生徒を待っていた。 その背中を見つめる二人。

「すべてはこれから、ということだよ」

 姉弟の肩を引き寄せたディードは、そう言って優しく微笑んだ。 二人は顔を見合わせると、やっと状況を把握したように頷きあった。

「ありがとうございます!」

 二人は寄り添って講堂を後にした。

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