いきなりの戦闘
困惑するヴァンたちを庇うように立ちふさがったクレディアは、身構えてリゾーラを睨んだ。
「逃げる場所なんてないわよ!」
リゾーラは意に介さず、口ずさむように呪文を唱えた。
「チャン・カラ!」
リゾーラを囲むように槍が数本空中に現れて静止すると、クレディアたちに照準を定めた。切っ先がキラリと陽の光を反射したかと思うと、弾けるようにクレディアたちへと飛び掛かった。
「うわあっ!」
イースを庇いながら悲鳴を上げるヴァンの前で、クレディアは呟くように呪文を唱えた。
「ピョク・ソラ!」
途端にクレディアの目の前に銀色の壁が生まれるように地面から伸び上がり、リゾーラの槍をことごとく拒絶した。力なくした槍は、落ちながら消えていく。
「ふん。やるわね」
リゾーラは少し驚いたようだったが、すぐに再び身構えた。
「ファサル・オルラ・ガラ!」
呪文を唱えると、今度は数十本という矢の束がクレディアたちを襲った。
「懲りんな!」
クレディアは再び目の前に壁を作り迎撃しようとしたが、あろうことかリゾーラの矢は空高く舞い上がった。
「何っ?」
壁を乗り越え、真上から降ってくる矢に、ヴァンは背中を向けてイースを庇った。次に来る痛みを覚悟していたヴァンだったが、その体には何の衝撃もなかった。代わりに、ヴァンたちの周りに矢が突き刺さる。
「え?」
気付くと、ヴァンの下でイースが呪文を唱えていた。
「チヴン・チキョラ!」
「イース!」
驚くヴァンに、イースは微笑んだ。
「私もここで訓練しているのを忘れたんですか?これくらいの攻撃、かわせますよ!」
苦笑したヴァンに
「ヴァン!女に助けられてどうする!」
と、クレディアの声が飛んだ。その声に背中を押され、ヴァンは体を起こすと、リゾーラへと振り返った。
「リゾーラさん!僕はどうしても、あなたを好きになれません!だから、あきらめて帰ってもらえませんか?」
説得するヴァンに、リゾーラは目を細めて首を傾げた。
「仕方ないわね、じゃあ……」
「帰ってくれるんですね?」
嬉しそうに言うヴァンに、リゾーラは
「そんなわけないじゃない!」
と逆に眉を吊り上げて叫んだ。
「リゾーラ!」
と怒るクレディアに
「私はふられたのよ!それも、二回も!すんなりあきらめて帰るわけないじゃない!」
と言い返し、再び呪文を唱えた。
「ピッナラーー!」
突然リゾーラの手のひらが眩しく輝き、クレディアたちは目が眩んだ。そして一陣の強い風が吹いたかと思うと
「きゃあっ!」
イースの悲鳴が聞こえた。
「イース!」
ヴァンとクレディアはくらむ視界を必死で開き、イースの姿を探した。
「ヴァンさぁぁんっっ!」
声がしたほうを見ると、いつの間にか屋上にいるリゾーラの腕には、イースの姿があった。
「イース!」
「彼女をどうするつもりだ!」
「さっき言ったでしょう?消すって」
リゾーラは微笑んだ。ヴァンはキッと睨み上げると
「無駄なことです!例えイースやクレディア教官が居なくなったとしても、僕はあなたのもとには行きません!」
と叫んだ。リゾーラは冷たい視線で見下ろし、口を尖らせた。
「ふぅん……分かったわ。じゃあ、この子を殺したら、あなたも殺す」
「そんなことさせるか!」
突然リゾーラの背後から声がしたかと思うと、クレディアが現れてその肩口を蹴った。
「きゃあっ!」
拍子にイースがリゾーラの腕から離れ、器用に引き寄せたクレディアに支えられた。
「大丈夫か、イース?」
「は、はい」
頷くイースに頷き返し、クレディアはリゾーラと向かい合った。
「お前は狂ってるよ。一体、何をしにここへ帰ってきたんだ?お前は一体、何を企んでいる?」
そう問い掛けるクレディアに、リゾーラは子供のようにふいっとそっぽをむいた。
「理由は何であれ、人の命を消そうなんてことは許しがたい!今すぐ立ち去れ!でなければ、私がお前を殺す!」
するとリゾーラは、にやりと微笑んだ。そして地面を蹴り、身軽にフェンスの上に立つと、やっと屋上に上がってきたヴァンも合わせ、三人を見下ろした。
「意外に楽しませてもらったから、今日はこれで帰るわ。またね」
軽く手を振ると、リゾーラはふわりと飛び降りた。
「こら待て、リゾーラっ!」
追い掛けようとするクレディアの眼下で、身軽に屋根を伝い走るリゾーラの後ろ姿はあっという間に小さくなっていった。
「くそっ!」
悔しさをあらわにして、フェンスに腕を叩きつけるクレディア。その後ろで、ヴァンはイースを気遣っていた。
「イース、怪我はない?」
「え、ええ、大丈夫……」
イースは気丈に振る舞っていたが、やはり恐怖心はすぐには拭い去れずに、やがて涙をこぼした。ヴァンはその肩を抱き締めると
「ごめん。巻き込んでしまって……」
と声を落とした。するとクレディアが、リゾーラが消えていったほうを見ながら
「すまない……私のせいだ……」
と呟いた。そしてヴァンたちに振り返ると
「お前たちにこれ以上迷惑はかけない。しばらくは私から離れていろ。いいな」
「クレディア教官……?」
ヴァンは、いつものようにクレディアを追うことはなかった。去っていくその背中を見送りながら、ヴァンの腕は、しっかりとイースを抱き締めていた。そしてイースは、クレディアの背中をじっと見つめていた。
「クレディア教官……」




