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幻待ち人  作者: 天猫紅楼
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不思議な老人

周りは木々に囲まれ、澄み切った広い青空の下、建物の前に広がるグラウンドには息を切らして汗をかく少年少女たちが十数人見える。

【クリーチャー幻術学校】

この建物の名前だ。

自分の強い思いを念として身体の外に出し、具現化する。 それが【幻術】である。 誰にでも出来るわけではないし、人によって表し方も様々だ。

ある者は草木の色を変えたり、ある者は建物の形を変えたり、土や壁の形を変えたりといった風にだ。

高等技術になると、何もないところから生物を生み出す。

それが【幻獣】だ。

これを使えるようになると、かなりの実力者だとみていいだろう。

彼らはこの【幻術】を身につけ、それぞれの希望と共に荒波……つまり社会へと旅立っていくのだ。


さて、ここに学びにくる者たちは皆、心に何かを背負い、また希望を持って入学してくる。 今日も、入学希望者たちが学校の門をまたいだ。 それに気付いた生徒たちが口々に囁き始めた。

「おっ! 来た来た! 新入生たちの卵だよ!」

「あはは。 緊張してるみたい!」

「あちこち目が泳いでるよ。 ちょっと脅かしてやろうか?」

 ペロリと舌を出して彼らに近づこうとするそばかすの少年の肩が、後ろからぐいっとつかまれた。振り返るそばかすの少年を、黒髪の少年が、唇を尖らせて睨んでいた。

「おい、やめろよ!」

「うわっ! なんだよ、止めるなよ!今から面白いことするんだからさ!」

 そばかす少年はそう言って両手を特有の形に組み、印を結んだ。 そして幻術のもととなる【呪文】を唱えようと口を開くと、すかさず黒髪の少年が彼の頭にゲンコツを落とした。 そばかす少年の呪文が尻切れになり、幻術はその名の通り幻となった。

「なぁにするんだようっ!」

 痛む頭をさすって涙目で怒るそばかす少年の頭を、黒髪の少年はぐいっと押さえつけて小さくすると

「お前はこの学校の評価を下げる気か? せっかく希望を持って入学してくれようとしてる無垢な少年少女たちに、余計なことをするんじゃねーよ!」

と迷惑そうに言った。 そして、連れ立って講堂へと入っていく少年たちを見ながら

「そんなことしなくても、あの人が植え付けてくれるよ。 この学校の形を」

と、少し口角を上げながら目を細めた。



 教官の一人であるマジスタが彼らを引率し、敷地内の講堂へと案内した。 マジスタは人一倍大きな体をしている。 太く引き締まった筋肉を見せ付けるように、教官用の制服の袖を切っている。 それを見ずとも、まだ純粋な少年少女たちの目は自然とその強靭な腕に釘付けになり、同時にその得体の知れない強い覇気に圧倒されるのであった。

「さあ、この中に入りなさい」

 マジスタが静かな口調で言い、講堂の扉をゆっくりと開けると、中にはすでに誰かが待っていた。

 顔のパーツは白髪と白髭に囲まれ、細い目がちらりとのぞいている。 さほど高くない身長で、全身をローブで包み、緩やかなカーブを描いた背丈ほどある檜の杖をついて、だだっ広い講堂に一人立っていた。

「じいさん一人だけかよ?」

 講堂に入った少年の一人が拍子抜けしたように呟いた。 マジスタは一瞬苦い顔を浮かべて少年少女たちの背中を眺めた。

「中に、入りなさい」

 マジスタの言葉に、周りの入学希望者たちも、顔を見合わせながらその老人の前に歩み寄った。 皆、今日が入学式で、学校総出で迎えてくれると思っていた。 広い講堂の半分にも満たないスペースに並んだ十数人の彼らを見回しながら、老人は満足そうに頷いた。

「うんうん、良い顔をしている。 皆よく来たな。 だが、君たちはまだ、この学校の新入生になったわけではないぞ」

「えっ?」

「どういうことだ?」

「だって……今日は入学式じゃ……」

 一同は揃って動揺し、顔を見合わせた。 その心を見透かすように、老人は白髭の奥の唇をぐいんと吊り上げた。

「君たちには、これから最終入学試験を受けてもらう。 ついてきなさい」

 老人はゆっくりときびすを返し、講堂を歩み出た。 杖をつき、一見よぼついた老人だが、どこか隙を見せない覇気を発しているのが、素人の彼らにも感じられた。 その小さな後ろ姿を見送りながら

「何でだよ? 入学試験は終わったじゃないか」

「あんなに辛い試験をクリアしてきたっていうのに、何でまた試験だなんて……」

とざわつき抗議をしたが、老人は歩みを止めることもなく、のらりくらりと歩いていく。 少年少女たちは、やがて納得行かない顔で老人の後を付いていった。


 少年たちが連れてこられたのは、講堂から程近い武道場だった。

 見上げると首がつりそうなほど高い天井に、壁はあちこちに何か鋭いものや鈍器で出来た傷が覆い、板敷きの床にも擦り傷が至るところに走っているし、所々に何かに突き抜かれたような大小の穴が口を開けている。

「そろそろ、修理を入れなきゃならんのう」

とのんびりと呟きながら、老人が少年たちを引きつれて入ると、中にはすでに先客が居た。

「お待たせしましたかな、クレディア教官とディード教官?」

「いえ」

 クレディア教官と呼ばれた若い女性は、腕を組んだままぶっきらぼうに立ち、表情を特に変えずに小さく頭を垂れた。 それとは対照的に、隣に立つディードが

「ちょうど、汗を流すには良い時間でしたよ」

と笑った。 そして一転真面目な顔をすると、教官らしく胸を張って、真っすぐに少年たちを見た。 二人とも、白い道着を着て、落ち着いた雰囲気で立っている。 いまだ状況の掴め切れていない少年たちは、ただ黙って二人と老人を見ているだけだった。 老人は少年たちに手を挙げ、

「彼らに最終入学試験の相手をしてもらう。 合格の言葉をもらえた者が、めでたくこの学校に入学出来るというわけじゃ。 それでは、後は頼みましたぞ」

と、緊張感のまるで無いのんびりとした口調で言うと、クレディア教官とディード教官に微笑んだ。

「はい、後はお任せください、ファンネル校長」

「こっっ?」

「校長っっ?」

 クレディアの言葉に、少年たちは一気にざわついた。 訳も分からずについてきたとはいえ、まさかこのよぼついた老人がクリーチャー幻術学校の校長だとは思いもよらなかった。 言葉を失くし唖然とする少年たちに振り返り、にっこりと微笑んだファンネル校長は、再びゆったりとした雰囲気で武道場を後にした。

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