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あるバス停の独り言

作者: 玉篠

私は、とある場所に立っている

バス停

です


私が何時頃、ここに立ったのかなんてわかりません

気がつけば私はこの場所に立っていたからです



それからどれだけの月日が経ったのか・・・


いくつもの花の季節が過ぎ

それと同じだけの虫の季節も

枯葉の季節や雪の季節も

過ぎてゆきました



私は見てきました


朝早く、大きな荷物を背負った夫婦が、私の前からバスに乗り

夕方、バスから降りて来たときは、背中の荷物はなく

大事そうな風呂敷包みを一つづつ抱えていた事も


北風に枯れ葉の混じる季節の昼下がり

父親らしい男性が乗ったバスを、子供がどこまでも追いかけていった時も

梅の花咲く夕方、その男性は大きなカバンを抱えてバスから降りてきたことも


笛や太鼓の音と、大勢の人たちに見送られ、バスに乗り込んだ・・・

名前が大きく書かれた白襷姿の若者は

二度とここに戻って来ることは、バスから降りてくることはなかった


黒紋付姿の両親と共に、バスに乗り込んだ白無垢姿の花嫁は、数年後、小さな女の子の手を引いて

泣きながらバスから降りてきた


真っ直ぐ前を向き、荷物と共にバスに乗り込んだ若者たち

それから何年か後には、暑い虫の季節と雪の季節の二回、妻や子供を連れてバスから降りてくるようになった



しかし・・・


時代の波

というものだろうか

いつしか私の前に停まるバスは、一本・・・また一本と減っていき・・・

1時間に1本来ていたのが、3時間に1本になり、朝昼晩だけになり、朝と晩の2本だけとなった


私もそろそろお役御免か

なんて思ったものだ



だか、ある年の事

立派な背広に身を包んだ、恰幅のいい男の人が、私の前でバスを降りた

こんな寂れた所に、誰だろう

と、私が思っていると

季節が一巡りした頃、大勢の人が、私の前でバスを降りた

同時に私の前の道にも、大きな機械を積んだり、砂や土を積んだりしたトラックが

何台も、何台も行き来するようになった


雪の季節が来たかと思うと、大きな板 ( スキー板と言うのだと後で知った ) を抱えた若者たちが、私の前でバスから降りるようになった


それからいくつ、季節がめぐったのか


私のバス停は、今では季節を問わず、若者たちであふれている

一時はお役御免か

と、思ったものだが、バスの本数も増え、道も広く、綺麗になった

私がいるバス停の近くには、小奇麗な喫茶店なんかもお目見えしている


それは嬉しいのだが

以前より、私が汚れるようになったようで

少し複雑な気分だ



私は、とある場所に立っている

バス停

です


後、どれくらいの季節をここで過ごすのかはわかりませんが

お役御免にならない限り、ここで周りを見つめていようかと思っています

このショートストーリーを思いついたのは、今から20年以上前の話です

とある駅で電車を待っていたとき

この駅が話をしたら、どんなことを喋るのだろう

と、ふと思ったのです

が・・・

それ以来、ずっと忘れていたんですね。

でも、今年の3月末

息子が独り立ちしていく姿を見ているうちに、以前思っていた

駅が話をしたら

と、いうストーリーを思い出してしまいまして。

駅をバス停に変えて・・・時の移り変わりを書いてみました。

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