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星くずものがたり

また明日

作者: 坂下 駿


「ここにね~。さっきの3を足すとこれが10になってね~」

 指し棒が黒板のあちこちを指し、1秒として止まっていない。

 目で追うのが大変だ。

 ちなみに先生は教卓の陰に隠れて見えない。

「という訳でね。この問題の答えは14ってなるんだよ」

 ただ、丁寧に教えてくれているので余り問題はない。

「はい、それじゃあ34ページのもんだいを――」

 キンコーンカーンコン

「しゅくだいにするから、やってきてね。おひるー!」

 授業終了を告げる鐘と共に教室を出ていった。

 ……俺もお昼を食べるか。

 そう思い、バッグから弁当箱を出していると

「購買にね、新しいパンが入ったんだよ?」

 幼馴染の詩織が隣のクラスからやってきた。

「本当!? 種類は!」

「缶詰め乾パン、黒ゴマ入り!」

「またしても乾パン!」

 頭を抱えたくなる。

なんでまともなものを仕入れないんだ……。この前は賞味期限の切れた奴を仕入れていたし。

「大丈夫だよ。今回は賞味期限過ぎてないそうだから。それに桃缶もあるってさ」

「桃缶とは普通だな。流石に学習したか」

 この前は消費期限を過ぎたものを出したおかげで三人程保健室行きだったからな……。

「それで何時から購買は開くんだ?」

 朝から開いていることもあれば、ずーっと開かないこともある購買だ。もしかしたらもう、開いているかも。

「4時限目が終わってから校内放送で知らせるから、それがスタートだって」

 詩織が言い終わるとまるで狙っていたかのように、教室のスピーカーピポパポーンと鳴り出した。

 ちなみにこのピポパポーンは放送委員が自分でピポパポーンと言っている。

「あと3分で購買が開きます。10秒以内に教室の外にいる人は近くの教室に入って下さい」

バラバラと教室の外にいる連中が入ってくる。

「10、9、8、7、6、5、0! スタートです!!」

 ゼロの声と共に一斉に生徒が教室から飛び出そうとした。

 したではなく、しようとしたのは教室の出入り口でつっかえっているからだ。

「少しは学習すればいいのにね? 一辺に出口に向かったら通れなくなるって」

「そうだな」

 詩織の言葉に適当に相づちを打つと俺は窓から飛び降りた。

「あ、あいつら! 窓から!!」

 クラスメイトが声を上げる。

 俺は窓から飛び降りた。といってもそのまま飛び降りた訳ではない。

 制服の上着を窓にくくりつけてロープ変わりにしてだ。

 教室が3階にあるがこれを使うことで二階高さから降りることが出来、購買のある一階に階段を使わずに降りられる。

 くくりつけた上着は下からは回収出来ないので、他の奴に使われるがまぁ、それは仕方がない。誰よりも速く購買にたどり着くことが重要だ。

 地面に着地し走り出す前に教室を見ると、詩織が窓から飛び降りた。


 手にさっき括りつけた俺のブレザーを持って。


「うわ!」

「あ、ごめんね」

 落ちてくる詩織を抱きとめようとしたが詩織は俺をマットにして着地した。

「あ、謝るのはいいから……早く……どいて…くれ」

 みぞおちがヤバイ。なんかボキッて音がした。

「あ、そうだね」

「グフッ」

 コイツ、瞬間的に力がかかる方法、すなわち、ジャンプでどきやがった。ちなみに、俺の上でジャンプをするということは本来ならスカートの中が見えてしまう訳なのだが、生憎と詩織はス


カートの中にスッパツだか何だかを履いているようで、パンドラの箱の中身は分からなかった。

「もう少し、下のものへの気遣いはないのか……」

「地面に対して気遣いって普通する?」

俺は地面扱いか……。

 そうは言っても、手を差し伸べているのだから本気で言っている訳じゃないだろう。

 ブレザーも持ってきてくれた訳だし。いや、アレは他の奴に使わせない為か? どうでもいいけど、差し伸ばされた手を取らない理由はない。

 差し伸ばされた手を掴んで俺が立ち上がると詩織は言った。

「それじゃあ、行こうか?」

 ああ、行こう購買けっせんのち)へ。


……ルビが中二臭いのはご容赦願いたい。昔から購買を決戦の地と書きたかったんだよ。









 購買へ向かう他の奴らをお世辞にも綺麗とは言えない方法で蹴散らしてきたが、購買はモザイク画の様に混雑していてお世辞のも綺麗とは言えない方法でも突破は難しい。

「うわぁ、凄い込み具合だ」

 俺ら以外にも購買前には人がいるが皆、殆どの人は購買に乗り込もうとはしない。

 時々、人が乗り込んでいるが直ぐに荒波に揉まれて藻屑と化してしまっている。

「これは……」

 詩織が何か神妙な顔で荒波を見ていた。

「凄いよな。今回は久しぶりだからかいつにも増しての荒れっぷりだ」

「……女子の胸を触っている奴がいるね」

 何!? こんな荒波の中でそんなことをしている奴がいるのか!!

「ほらアレ、あの子を見てみな」

 詩織指さした先には女子生徒が一人いた。

 そして、その生徒の胸を別の生徒の手が鷲掴んでいた。

 嫌でもアレは……

「こんな時に便乗して女子の胸を触るとは卑怯千万! いま直ぐ取っちめてやる!」

「まぁ、待て」

 荒波に特攻しようとした詩織を制服の襟を掴んで引きとどめる。

「なにさ!? いたいけな少女が辱められているんだよ! 助けなきゃと思わないの!!」

「それはそう思うさ。ただ、相手が女子だったらな」

「は?」

「よ~くあの子を見てみろ」

「よ~く、見る必要なんてないよ。あの子は……アレ?」

 気がついたか。

 その女子生徒には二つ変な点があった。

 一つは女子生徒の頭にはつむじが二つあること。つまりカツラを被っているということだ。

 そしてもう一つは女子生徒の胸の膨らみがおかしいこと。胸の盛り上がりが横にではなくて、縦なのだ。胸に作り物を入れていたのだろう。

 そして最後の一つ。それはその生徒が顔がどうみても男だということ。

 大方、女子ならこの荒波に揉まれることもないだろうと思って変装したのだろう。

しかし現実は甘くなく、複数の意味で揉まれることになった訳だ。

「それに揉んでいる方は女子生徒。アレだったら問題になるまい」

「う、うん」

 拍子抜けした顔で詩織は相槌を打った。……問題にならないよな?

「しかし問題は解決していないわけで。……どうする?」

「力押しは無理だよね。」

 この荒波を力だけで突破出来る奴がいたら俺はそいつを崇める。

「あ、いいこと思いついた!」

「うん? なんだ?」

 何を思いついたんだ?

「うん。それはね」

 詩織は荒波に少し近づくと手をメガホンのようにして大声で叫んだ。

「この中に、ホモがいるぞ!」(裏声)

 一瞬、荒波が止まった。

 次の瞬間にはまた唸り始めたがそのスキに詩織は購買の中に走り出した。

 しかし、購買のカウンターの前には一人屈強な男がいた。まるで壁の様な男子生徒だ。

 これの壁を超えることはできまい。

 そう思った瞬間、詩織の目の前からその男が“消えた”。

 少し驚いた表情を見せた詩織だったが、直ぐに店員にお金を払いお目当ての缶詰乾パン(黒ごま入り)を二つ買うと戻ってきた。

「ふっふ! どうだ! 我が戦法は!」

「おーすごいすごい」

平坦な声で答える。あれを戦法とは俺は認めない。

「ま、ありがとな」

詩織から缶詰を一つ頂く。出来れば桃缶がよかったな。

「しかし良く、たどり着けたな」

 用もないのに購買の前にいるのは危険なので教室へ向かう。

「うん、カウンターの前に大柄な男子生徒がいて、『あ、これは無理かな』と思ったら丁度、その子“転校”しちゃってね」

「ああ、そういうことか……。それはちょっと悲しいな」

さっきの男子生徒は消えた様に見えたのではなく、“本当に消えてしまったのだ”。

今まで知らない奴だったけどそれでも“転校”すると悲しい。




悲しいことがあったけどそれでも楽しい昼休みだった。




 午後の授業を受けた後、詩織と下校し「また明日」と言って、俺達は別れた。といっても詩織と俺の家は隣で別れたのは玄関前だ。

 家の鍵を開け中に入る。

「ただいま~」

 返事に答える声はない。両親は共に消えてしまってこの家には俺しかいないのだから。

 二階の自分の部屋に上がり、ノートパソコンの電源を付ける。うぃいいいいいんと、けたたましい音と共にOSが起動する。

 時刻は夕方で、俺の部屋の窓は東向きなので若干暗いが電気が貴重なので部屋の電気は付けない。

 目が悪くなるって? それはまぁ、仕方がない。太陽光で発電出来る電気は少ないのだよ。


 デスクトップのフォルダからメモ帳を開く。

 さて、どこまで書いたっけ?

 あ、そうそう、どうして、世界がこんなことになったのか説明している途中だった。




 ある日大勢の人達が世界から消えた。

 大勢と聞くと、何人だよ? と言いたくなるかもしれないが、とにかく大勢だ。詳しく数えることが出来ない位の人数だった。

 消えた人たちには共通点がなく(いや、結構消えたからあった人もいたのかも知れないが)、様々な場所で消えた。

 例えばケータイで会話中に、例えば電車の中で、例えば車の運転中に。男も女も赤ん坊から寝たきりの老人までだ。

 マスコミとかは騒ぎ立てたよ。TVでも何度も特集された。集団催眠による失踪! とか言う人もいたよ。でもさ、テレビに映っているキャスターとかフッと消えるんだぜ。TVでキャスターが


消えたことでパニックになったね。

 それから先は酷いもんさ。各地で暴動やらなんやらが起こった。

変な噂もいっぱい流れた。人が消えるのは宇宙人の策略という説、消えた人は別の世界に飛ばされた、消える人は自分が消えるのを知っているなど、混沌無形な噂も数多く流れた。

 当然、政府は止めようとしたさ。でも対策を練っている間に消えたり、説明している最中に消えたりで機能しなかった。

 それからしばらくして、暴動は収まった。

 正確には暴動を起こす程の人数が維持出来なくなって収まった。


 ちなみにその日に消える人はランダムだ。千人消えることもあれば一人も消えないこともある。いや、もしかしたら別の場所では消えているのかもしれないな。


 で、暴動が収まった後、当時中学3年生だったら俺は受験する予定だった高校に行ってみた。そしたらそこには沢山の人がいた。

 俺のようにそこを受験するつもりだった奴や、息子、娘が受験するはずだった親。ただ人が集まっていたから来てみた人。いろんな人がいた。


 そして、俺達は偽物の学校を作り、偽物の先生、偽物の生徒は偽物の授業を受けている。

 なんで学校? と思うかもしれないが説明すると長くなるので省かせてもらう。

 生活に必要な食べ物とかは近所に畑を作り、水道は近くの川から水を引き、電気は太陽光やら簡易水力発電からとっている。こういうのは当番でやっていてその月に当番だったクラス


がやる

 でも人は消えていくから時々、クラス替えをして各クラスの人数を平均化している。

 それと学校では消えることを“転校”って言われる。みんな消えるっていう事実から目を背けようとしてるんだ。


 こんなのが今、俺たち住む世界さ。

 これを書いている最中にも俺は消えてしまうかもな。



 書いた分をプリントアウトする。ガチャガチャと嫌な音を立ててプリンターは紙を吐き出し始めた。

 ……インクの残りがもう無いな。どっかで見つけられればいいんだけど。

 吐き出された紙に穴を開け、今までに書いたやつと一緒に紐に通し結ぶ。

 簡単な本の出来上がりだ。


 こうすれば誰かが読むことが出来る。何が起こったのか知ることが出来る。

 もっともそんな日は来ないかもしれない。というか誰が読むんだ?

 ただの自己満足。自分がこの世界にいたという証しが欲しいだけ。


 さっき、詩織と俺が別れる時に言った「また明日」という言葉。この言葉ほど、この世界で不確かな物はない。約束なんてしても消えるし、話している最中に消えることもある。

 会えたからといって、それで安心出来るものでもない。下手すると最悪の言葉になるかもしれない。

 それでも明日、消えずに会って、また会えると信じて言いたいんだよ。


「また明日」って。


 ……何だか今日は気分がいいみたいだな。久しぶりにグッスリ眠れそうだ。












 本日の人間の数:62億8451万6901人



初投稿です。

上手く書けたかどうか不安です。

感想お待ちしています!

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