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Invasion:6


「で、そこんとこもっと詳しく語って下さいっ!」 


 なにこの人怖い。

 あっという間に授業が終わって空き教室に拉致、もとい集まった瞬間にかける言葉がそれですか。


「真冬、落ち着け」


「これが落ち着いてられますか! だって喧嘩ですよ痴話喧嘩きましたよ! しかも過去話とかマジ美味しい、いえ美味しいじゃないですか!」


 テンションについていけない。しかも言い直した意味はあったのか。

 でも多少ぎくしゃくしていた空気が消えたのには感謝しよう。俺達三人だけじゃ到底こんな直ぐに完全に日常に戻るなんて無理だったから。


「うるせー! そんな事より世界征服の手始めとして何をすべきか考えようぜ」


 春姫の声で漸く落ち着いた真冬が席につく。まだ聞きたたそうな感じだが、一応リーダーである春姫のいう事に従うようだ。

 四人全員が席に着いたので椿が口を開いた。そういえば生徒会の仕事はいいのだろうか。六月は大した学校行事は無いから大丈夫なのか?


「まず学校を制圧するべきじゃないか?」


「本でか?」


 無理だろ。再び笑いかけた。が、椿さんが凄く恐ろしい形相でこちらを見ている! ので止めました。


「妥当な案だと思いますよ。学校って制圧できたら色々機材とか場所確保できますし」


 確かに学校は条件いいよな。周囲に多大なる迷惑がかかるけど。


「いいな、その案採用だ! 世界征服基地鷺沼高校支部って響きもかっこいいし!」


「響きの問題かよ。制圧の仕方によっては俺も賛成だ」


 少なくとも怪我はさせたくない。関係の無い奴を怪我させるのは嫌だ。


「周囲の被害が一番少ないって言ったら話し合いですけど」


「そんな時間かかるのは嫌だぜ」


「言うと思った。一回俺らの力を見せ付ければいいじゃねぇか?」


「威嚇、ってことか?」


 なるほど。椿の言うとおり一度武器を見せ付ければ素直に投降してくれるだろう。些か物騒なやり方ではあるけど。


「威嚇程度でも十分だと思いますよ。武器ってインパクト強いですし」


 そりゃそうだろ。現代の日本の日常で武器なんて滅多に出てこないからな。


「デモンストレーションみたいのをやればいいんじゃないか?」


「そうだな。凪の意見に賛成」


「でも、でも……?」


「デモンストレーションな。要するにちょっと力を見せるってこと」


 春姫はホント横文字に弱いな。解説ついでに内心で笑う。


「なんだかかっこいいぜ! じゃあデモンストレーションをやるぜ!」


「本格的に活動ってことですね。不謹慎かもしれないですけど、わくわくします!」


 まるで漫画の中みたいな状況に興奮を隠せない真冬。いや、この場にいる全員がやる気満々だった。


「よし! 善は急げだ、今から学校をジャックしようぜ!」


 ええええええ!!!!! 

 今俺の顔を鏡で見たら間抜けなほど大きく口を開けているんだろう。あまりの唐突さに声も出ない。


「が、学校をジャックって……」


「全員直ちに契約神を武器化しろー! 最初の目標は一年の教室だぜ!」


 一年って、俺らの教室じゃないか。クラスメートになんという事を。


「了解です!」


 真冬も正気か? 俺だって世界征服に取り組むとは言ったが急展開過ぎてついていけない。驚きの眼差しで真冬と春姫を見てもどちらも至って真面目だ。椿だけは俺と同じく呆然と二人を眺めている。


「全員契約神を武器化しろ! 出撃準備だ! 異論も反論も異議も認めないぜ!」


 どこの暴君だ。俺の制止を無視して春姫がアマテラスを武器化する。二つの拳銃を装備して春姫は既に止まる気が無いようだ。そして春姫に続いて武器化する真冬。そんな鋭利な鎌を取り出すな。黒光りする刃に少しびびった。

 それに出撃とか、この間読んでた漫画にまんま影響されてるし。


「……了解」

「言っても無駄だよなぁ……」


 椿とアイコンタクトでため息をついて勾玉を合わせる。確かな重さと手応えが伝わって刀を握る。


(うほっ! 凪、貴様何をする! 折角姉上の動画を見ていたというのに!!)


「煩い。しかも神界に動画なんてあるのかよ」


(常識だ。勿論我は姉上の二十四時間を見守る事に利用しているがな)


 愛が重たすぎる。いい加減手元から声が聞こえる事にも慣れてきたが、どうにもスサノオの言葉が煩い。しかも俺にしか聞こえないなんて罰ゲーム以外の何でもないぞ。


「お前はまだ武器なんだから我慢しろよ。俺なんか……」


 あ、リアルにへこんでる。椿でもへこたれる事があったんだな。普段自信過剰気味のこいつにしてみりゃ珍しい。

 そんなやり取りを交わす俺達にはお構いなしに春姫は着々と準備を進める。


「全員出撃準備が整ったようだな! これより教室に奇襲をかけるぜ!」


「はいはい。了解しました」


 気の抜けた返事をしたら春姫の鉄拳が飛んできた。顎を見事に捕らえたそれで俺は教室の端まで飛ばされる。


「馬鹿者っ! ここは戦場なんだ、油断した奴から死ぬぜ!!」


「Yes,Ma'am! 現在時刻三時十五分、突撃の準備は万全であります!」


 ど、どんなノリだ……。意外にノリの良い真冬に若干引く。


「さぁ突撃!!!」


「どこまでもついて行きます軍曹!!」


 走り去る二人。猛烈な勢いで飛び出していった二人に置いてかれ、一瞬後に追いかける。


「二人とも待ってくれ、って早っ! もう視界から消えてる……」


 ここは二階であり、俺達一年の教室は三階。二人が何処に消えたのかなど考える意味もない。

 走りながらつぅと嫌な汗が伝う。



「ぎゃああああ!」


「な、何!? ちょっと東雲さん!?」


「落ち着いてくれ雪村君、話せばわかるっ!!」



 

 ……聞きたくない、聞きたくないぜ。クラスメートの悲鳴が響き渡っているのに耳が認識を拒む。


(現実逃避とはけしからんな)


 うるさい。一瞬の現実逃避すらスサノオに阻止された。あはは、へし折ってもいいかこの刀。


「凪、逃げちゃ駄目か?」


 絶対逃がさん。既に半歩ほど俺から離れかけている椿のブレザーの袖をがっちりと掴む。傍目から見ても分かる程動揺している椿に最高の笑顔をプレゼントだ。


「死ぬときは一緒だぜ。親友!」


「くそ、離せ、離せぇ!!」


 親友とかいて一蓮托生と読む椿をずりずりと引きずり、春姫達の待つ三階へと向かった。





 流石、というべきかなんというか……。

 俺と椿が三階へ上がった時、既に制圧は完了していた。ガタガタと怯え、許しを請う同級生と先生、妙にすっきりした顔の春姫と真冬。この二つを見ただけで大体何があったのかは想像に難くない。


「あ、遅いぜ二人とも」


「遅いですよー。もう終わっちゃいましたよ?」


「……俺の人生がな」


 これでもうマトモな人生とはおさらばだ。

 別に泣いてなんかない。これは汗だ。心の汗なんだ。


「き、霧雨君! 雨宮君! どういう事だ!? 場合によっては処罰も」


 喋りかけた先生(三十七歳独身)の前に穴が開く。煙を立てたそれが銃痕だと気づいた教師が短い悲鳴をあげる。


「処罰? いいぜ。おれっちの仲間にそんな事してみろ、生まれてきた事を後悔させてやんぜ」


「馬鹿野郎。いきなり銃ぶっ放す奴が何処にいるんだ」


「痛て。本で叩くなんて酷いぜ椿」


 いや、もっとやれ椿。周りを見ると生徒の震え方が悪化している。可哀想に。 

 安心させる為にクラスメートに微笑んでみたら何故か震えが悪化された。納得いかない。


(プッ。笑っただけで威圧できるとはお前も凄いな)


 思いっきり嘲笑してるスサノオを折りたくなる衝動をどうにか堪える。駄目だ、堪えるんだ俺。スサノオを持っている右手がプルプルと震える。


「一年は制圧完了ですね。さくさく行きましょうよ!」


 そんな事をほざく真冬の手には相変わらずの存在感で鎌が握られている。シュールにも程がある。


(それを言ったらお前だって刀を持っているだろうが)


 確かにそうだけどさ。長い日本刀を持ち歩くいかつい面した男なんて不審者以外何者でもないけれど。


「ほら早くいこうぜ! 凪、椿!!」


 にしたって元気良すぎだろ、春姫は。


「分かったよ。今行く」


「……はは、もういーさ。生徒会なんざ止めてやる」


 あ、椿がついに壊れた。笑いながら本を読み出したぞ。あまりの惨状に俺よりは生真面目な椿の目のイカレ具合がやばい。覚悟はしていたはずなのにどうやら俺たちの心臓は一般人レベルのようだ。


「何やってんだよ?」


「うはは。この本を読み上げてやるわ」


 駄目だ。話が通じてない。しかも目が逝ってる。


「ラウ」


 途端走る衝撃。

 直撃はしなかったものの、何かが凄い勢いで通り抜けたのが感覚で理解できた。黒い塊のような物が通り抜けた気がする。


(なんだ今のは……? 兄上?)


 頬が引きつった。何かが通りぬけた場所を見ると黒い跡が出来ている。警報装置が作動し、学校に喧騒が広がる。


「な、どうしたんだ!? 今椿何したんだ!!?」


「どういう事ですか!? 椿さん!」


 けたたましい警報を聞きつけ、戻ってきた春姫と真冬。完璧に周りの人々が怯えきって俺達を見ている。


「い、いや俺だってわかんねーけど……。これ呟いたら……」


 正気に戻った椿が示したのは白紙のページ。指差している場所にも何も書いてない。


(我には何も見えないのだが)


 珍しく意見が合ったな。俺も何も見えん。


「大丈夫か(頭的な意味で)?」


「はぁ? ここに書いてあるだろラ、って危ねー」


 慌てて口を塞いだ椿。さっき椿が言った途端に黒いのが出てきた。ということは椿がその言葉を言った瞬間に黒いのが出てくるって可能性が一番高いからだろう。魔法のような現象。普段なら有り得ないと笑いとばすところだが、立て続けに起こっている今の不可思議な状態を考えると有り得ないと言い切れない。

 むしろ、ありえてもおかしくない。真冬に意見を求めようとした瞬間だった。





「君達、何をやってるんだい?」

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