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Invasion:3



「こんにちは! 君が凪さんですよね? 初めまして、僕は雪村真冬です!!」

 寒そうな名前に反してテンションが高いんだけど。春姫から名前を聞いたのか俺の名前を知っているらしい。個人情報の流失じゃないのか。

 ファミレスの中だというのに大声で挨拶する雪村真冬クン。淡い青めの髪を一つに束ね、切れ長の目と薄い唇からはいかにもイケメンオーラが漂ってくる。悪人面とクラスの女子からも怖がられる俺から見ればイケメンは天敵なので妬ましい。

 俺の初対面の印象はさておき確か椿のクラスに行ったとき居た気がするから隣のクラスの奴なんだろうな、とおぼろげに存在を確認してみる。

「あー、霧雨凪です。十六才。多分君の隣のクラスだ」

 出来る限り単語で。雪村クンに恨みはないがこれ以上関わりたくない。

「凪! おめーはマトモに挨拶も出来ないのかよ? おれっちが仕込んでやろうか?」

「その前に俺がお前に常識を教えるわ。世界征服とか何? 本気? とてつもなく馬鹿な奴だぞ。それになんで雪村クンはこんな計画に参加してんだ?」

 隣に座っている春姫がこれまた煩い声で騒ぐのに呆れながら天然もののイケメンに質問をぶつける。男の俺が見ても悔しいがかっこいいんだからさぞかし女子にモテんだろうな。うらやましいぞ。ガリガリと自分の中途半端な長さの髪をかく。

「あ、別に真冬で結構です。理由なんて春姫さんと凪さんの絡みが見たいからに決まってるじゃないですか! さらに聞いたら幼馴染さんがもう一人いるんでしょう? 三角関係なんですよね!!? そんな夢の展開誰が見逃すって言うんですか」

 熱弁を奮う雪村クン、もとい真冬。何が言いたいのかは理解できなかったが真冬がどんな人間かはわかった。残念なイケメンだ。

 隣は最強レベルの馬鹿、前は残念な人。囲まれている俺は人生として詰んでいるんじゃないだろうか。おまけに世界征服を真面目に計画する馬鹿な考えに巻き込まれかけているし。

 誰か助けてくれ。

 あいにーどへるぷ。

「それにしても凪さんと春姫さんって仲いいですね! やっぱり世界征服を企てるのお互いの為とかですか?」

 日本人離れした青い瞳を妙にキラキラさせながら身を乗り出された。どこをどう見たら仲良く見えるんだか。確かに第三者から見れば仲良く見えるのかもしれないが春姫と椿との関係なんてそんなもんじゃない。  

「ちちちち、ちげーよ! 凪とはただの幼馴染だし! 世界征服だってやりたいからしてるだけだし!」

「俺らが仲良く見えるとか君の目は節穴か? そもそも俺は世界征服に参加するなんて一言も言ってないんだが」

 珍しく春姫と意見が一致したな。俺と春姫達は仲良くなんてない。所謂腐れ縁ってやつだ。

「幼馴染設定かぁ……。王道だよなぁ」

 聞いてない。絶対こいつ人の話聞いてないぞ。

「春姫、なんでこんな奴誘ったんだよ。世界征服自体諦めろよ」

 やるなら俺を巻き込まないでやって欲しい。

「そんな無気力ニートな凪に大切なお知らせがあるぜ! 七海からの伝言でこの計画に参加しなかった場合お兄ちゃんを××します! だってさ。よかったな、出来た妹を持って」

 なんだと……? ××って何? 嫌な予感しかしないんだけど。主に全身がバラバラになるとかそういう未来が予想出来るんだけど。

 人の話の半分をスルーして脅迫を行いやがって。

「ニート言うな。お前なんで釣ったんだ。七海を使ってまで俺を参加させたい理由はなんだよ?」

 多分物で釣ったんだと断言出来る。我が妹ながら七海はうんまい棒一本で釣られると推測が成り立つからだ。

「そんなの春姫さんが凪さんを好」

「まぁーふぅーゆぅー君? 何を言ってるんだぁ? おれっちが凪をす、好きとかあり得るはずがねーだろ!」

 何かを喋りかけた真冬を春姫が遮る。人の話は最後まで聞いた方がいいと思う。

「と、とりあえず七海は善意でおれっちに協力してくれたんだ。うんまい棒一本買ってきてって言われたけど! で、凪は参加するのか、物体Xになるのか? 二択だぜ」

「僕的には参加するのをお勧めしますよ。……僕だって二人の絡みが見たいですし」

 ぼそっと椿は何を言っているんだ。嫌な顔で脅迫する奴もいるけどさ。

 はぁ……と心の中で盛大にため息をつきつつもどちらの選択肢が俺に被害が少ないか考える。

 妹に齧られて間抜けな姿を晒すくらいなら、な。

「わかったよ。参加すれよ。世界征服でもなんでもしてやらぁ!」

 もう開き直ってやる。こうなったら世界征服でも宇宙征服でもなんでもしてやろうじゃねぇか。

「これで二人の幼馴染展開が見られるんですね。ツンデレちゃんと鈍感君萌えます!」

 もう駄目だこいつ……。

 制服につけているらしいチェーンが派手な音を立てているのに気づいているのかいないのか、また熱の篭った話をしだす真冬。呆れを通り越して若干の恐怖すら覚えてきた。真冬が言ってる事の半分も理解できない。

「なんでこんな奴誘ったんだよ……。それに椿はどーした。誘うとか言ってなかったか?」

 椿がいたらまだマシだったのに。流石にこうも大量に変人がいると一人では捌ききれない。

 初対面ではあるが真冬に遠慮する気はとうに失せていたので堂々と先ほどスルーされた事を聞く。最早遠慮なんか必要ないという事が十二分に分かっているからな。

「それが聞いてくれよー。おれっちが昼休みにクラスメートに声をかけたのに反応したこいつだけなんだぜ。椿は椿で用事あるとか言うしよー」

 当たり前だ。遠巻きに可哀想なものを見る目で春姫を見る彼女のクラスメートが目に浮かぶ。

 俺が昼休みに先生と愛のおいかけっこ(補習)をやっている間にお前は何をやっているんだ。

 椿も用事なんか断ればいいのに。主に俺の為に。最近は付き合いが悪いぞ。

「そうですよー。皆ツンデレの良さを分かってないですよね。それに僕としても新装置の実験をしたいですし」

 心底残念そうな顔で愚痴を零す真冬。

 ところでツンデレってなんだ。ツンドラ気候とかの仲間だろうか。

「新装置? 実験? おれっちそんなの聞いてないぞ。リーダーのおれっちに相談しないとは何事だ特攻隊長!」

 春姫も聞いてないのかよ。そして何気に真冬の方が俺よりランク上っぽいんだけど。

「あ、そう言えば話していませんでしたね。僕が開発した新装置があって、神主と契約神の精神をβ世界上でリンク、且つ脳内で構成されている攻撃的イメージを三次元立体化して仮想元素として構築させます。そうして具現化させた物体には契約神の支配領域の力が今まで以上に付加されていて」

「熱弁してるとこスマンが何言ってるのか欠片もわからん」

「仮想元素? かそうげんそ? kasougenso?」

 拳を奮いながら熱くマシンガントークで語る真冬を遮る。自慢じゃないが学校のテストで補習ギリギリを行ったりきたりしている俺に理解できる話じゃない。ちなみに現在頭がショートしてる春姫は補習常連さんだ。

「んー。要するに神を武器化できるようになったって事ですよ。今までの技術だと神の力を殆ど生かせてなかったですからね」

 さらっと凄い事を言ってないか? 神を武器化なんていう技術、聞いたことがないぞ。凄い金がかかりそうだし。

「えっと、僕自分で言うのもなんですけどボンボンなんですよ。自分用の研究施設持ってまして。今度きます?」

 そんなうち来る? 的な軽いノリで聞かれても返答に困る。何故だかワニの剥製やら蛙のホルマリン漬けやらがある怪しげな部屋を想像してしまった。おかげで目の前の寿司のバター炒めを食べる気をなくす。

「おお! 武器が作れるのか。これでおれっち達の世界征服がやりやすくなったぜ!!」

 お前の頭はそれしかないのか。脳みそが退化していた筈の春姫は急に元気を取り戻し、椅子から立ち上がる。さっきまで茸を栽培していた体からよくもそこまでキラキラしたオーラ出せるな。感心に限りなく近い呆れを感じる。


 ……関係ないけどよ、スカート短くないか? なんとなく恥ずかしくなって目を逸らす。

「座れって。それに武器を利用した世界征服って物騒だろ。どうしてそんな急に世界征服がしたいなんて言い出したんだよ」

 一昨日までは普通に学校行って俺に多大なる迷惑をかけてはいたが、それなりに平凡な生活をしてたのに。

「それ、は……あれだよ! あれあれ!! あれに決まってるだろ!」

 真っ赤になった春姫の全然要領を得ない返事。全くもって欠片も意味わからん。どこかの詐欺師かお前は。

 ……以前から思ってたんだけどよ、春姫って俺の前でよく赤くなるよな。もしかして……って無いか。無いな。心の中で勝手に自己完結。流石に考えすぎっていうか自意識過剰だよな。

「特に無いって事かい。お前の思いつきが突然なのはいつもの事だけどよー」

 春姫相手とは邪推をしてしまった事が恥ずかしい。癖でわしゃわしゃと頭をかく。

 俺の台詞に相槌を打ってくれた

「はぁはぁ……鈍感設定もここまでくればデフォですね」

 気持ち悪い領域だぞここまでいくと。なんで顔がいい奴に限って性格が残念なんだろうか。

「誰かまともな人間いねーのかよ。椿とかさ」

「呼んだか?」

 うえっ!?!

「「「ぎゃあああああああああああ!!!」」」

 何で椿がここに。というか何処から湧いて出た。突然当然のように現れた奴は悠々と真冬の隣に腰掛け、店員さんにコーヒーなんかを頼んでいる。いやいやいや。

「三人とも悲鳴をあげるとか酷すぎるだろ。俺は化け物でも幽霊でもないんだがな」

 びびった。超びびった。 

 髪を短く切りそろえ、いかにも運動部の爽やか系ですみたいな雰囲気を醸し出している幼馴染の登場なんて聞いてない。確かにぼやいたけど本当に来るなんて聞いてないぞ。しかも用事があったとか言ってなかったか?

 質問をぶつける前に真冬が目を無駄に輝かせてマシンガントークを繰り出した。

「あなたは生徒会執行部の四条椿さんですか!? 二人とはどんな関係で? ちなみに僕は雪村真冬、趣味は人間観察ですっ!」

 こいつ天職は新聞記者とかじゃないか。さっきまで驚いていたのに切り替えが早い真冬に呆れを通り越して感動を覚える。図々しい、もとい立ち直りが早いんだろう。見慣れないリストバンドが手にくっついている椿も苦笑いした。

「俺か? 俺は春姫と凪の幼馴染。二人と違って余計な面倒事に首つっこんだりはしないけどな」

 訂正させろ。俺は巻き込まれてるんだ。俺から巻き込まれてるんじゃないからな、断じて。

「何言ってんだー! おれっちが余計な事なんてする訳ないだろ!! おれっちがやってるのは人類の為になる事ばっかだぜ」

 どの口が言ってるんだよ。それなら何より俺の為に止めてくれ。

「椿はいつもええかっこしぃだよな」

 なんだかんだ言っていないと物足りないけどな。最近は三人が全員揃うなんて中々なかったから余計にそう思う。真冬っていうイレギュラーもいるが。 

「ひどい。春姫にメールで呼ばれたから大急ぎで来たんだが……」

 しくしくと泣きまねをするな気持ち悪い。こういうのは男がやると鳥肌がたつな。

 椿が来た事で俄然やる気を出した春姫がファミレスだというのに大声で宣言する。

「椿も来た事だし、本格的に会議始めるぞー!!」

 一緒にいるだけで恥ずかしいわっ! 顔に血が上る。きっと周りの人から痛い集団として見られてるに違いない。

「はいっ! 早速僕から提案がありますっ。折角武器化できたので神主対神主の戦争、神争による武力制圧を目指しませんか?」

 え……? 何を言ってるんだこいつ。武力だとか武器だとか神争だとか些か物騒な気がする。そんな事賛成するのは少なくとも一人くらいしかいない。

「成る程、それはいい考えだぜ! まぁおれっちも考え付いていたけどな!」

 だらだらと汗をかくくらいなら素直に思いついてなかって言えばいいのに。予想通り賛成した春姫に重たいため息が漏れた。

 こいつら、絶対暴走しそうだ。

「俺もいいと思う。武力でやるのが一番簡単だ」

 椿も賛成なのかよ!? まさかの裏切りにカエサルの言葉でも真似したくなる。

 そもそも簡単とかそういう問題? 少しは人類の平和への配慮はないのかよ。

「いやお前落ち着け。話合おう」

 深呼吸でもしろ。息をすってそのまま十五分は止めとけ。

「大丈夫だ。凪はやれば出来る子だろ。真冬、研究所に移動は出来ないか?」

 お前は俺の母さんかっ! 無駄にいい顔で笑っていて俺のメッセージは椿に届いてない模様。相も変わらずファミレスで騒ぐ面子に頭が痛い。

「出来ますよ。僕ん家までちょっと遠いので車呼びますね」

「おおっ。秘密基地か! いいぜ、いいぜーっ!!」

 こいつら聞く気ないどころか勝手に話進めてるよ……。何を言っても無駄、なら精々俺がストッパーにならねばなるまい。

「お前ら、武力制圧でいくかどうかは研究室見てから決めような。あんまりに危なかったらなしだからな!」

「「「ええーーっ」」」

 ハモるなよ、可愛くない。頬を膨らませてもお前らじゃ河豚にしか見えない。

「へ・ん・じ・は?」

 笑顔に圧力を増加キャンペーン中。こういう脅しの仕方をするなんて、俺も七海に似てきた気がする。

「「「はーい……」」」

 不服そうに呟く三人。

 ……こんなんで本当に世界征服できるのかなぁ。


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