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Invasion:2


 翌日起きると異世界にいたなんてアブノーマルな事はおこらず、いつも通りの朝を迎えた。

 唯一昨日までと違うとことは俺の全身に歯型がついている事だろう。七海は容赦なく齧っていたが、次第に俺がそこまで美味しくないことが分かり自分で食料を調達した。

 昨日ほど冷蔵庫の食材に感謝した日はない、と学校に行く準備をしながら改めて感謝した。

 起床して十五分。それで準備を終えると俺は隣の家に生息する春姫を起こす為、隣の家に進入する。別に不法侵入じゃなく春姫のおばさんから俺と椿は特別に合鍵を貰っているのだ。

 別によからぬ事には使っていない。……本当だってば。

 春姫の部屋に到着しドアをノックする。これもいつも通りだ。

 悲しい事に毎朝春姫が起きた事は一度も無い。

 ため息をつきながら扉越しに生存確認なんかを行ってみる。


「おーい、朝だ。いい加減起きやがれ」


「んっ……。あと五分……」


 こういう時のお決まりの台詞が聞こえ、扉越しにごそごそ動く音がする。大方、毛布に包まって繭のような形態になっている事は想像に難くない。

 毎度毎度こいつは俺に起こされているが、たまには俺を起こせるくらい早起きしようとか思わないんだろうか。

 そう言えば椿に借りた漫画でこういう展開が幼馴染同士であったな。男女の性別が逆だった気がするが。

 まぁ春姫が起こしにくるなんて校長の髪がいきなりフッサフサになるより低い。

 そんな訪れなさそうな未来より今は春姫を起こすことに専念しよう。


「スサノオ、朝から頼んだ」


 勾玉に力を送りスサノオを具現化させる。昨日齧られたところが微妙に痛い。ガキの頃から剣道をやっていて一応体力はあるものの、スサノオみたいな高レベルな神様をガンガン具現化させていたらスタミナ切れで倒れる。


「いたたっ……。今我はお前の妹のせいで体中が痛い」


 体中痣だらけでジト目で不機嫌そうに睨んでくるスサノオ。とても全七段階ある神位のうち、最高位の神には見えない。


「それはよかったな。ところで朝から頼みたいことがある」


 スサノオのジト目がさらに深くなる。毎朝の日課なので自分が何を頼まれるか分かってるらしいな。しかし、俺にはこいつに言う事を聞かせる切り札がある。


「コンナトコロニアマテラスノ写真ガアルナ」


 懐からアマテラスの写真(盗撮)を取り出しただけで言う事を聞いてくれた。

 しかも顔が無駄に輝いている。だからいい加減姉離れしろって。


「春姫ー。朝の恒例行事いっくぞー」


「んっ……。あと十分」


 なんでさっきより増えてんだ、という心のツッコミはスルーしよう。


「カウントダウン三」

「二」

「一」

 ドーンとスサノオからかなりのエネルギーの塊が放たれる。これは人間界でも使える数少ない神の力だ。あと使える技は結界を張るのと神の支配領域に関係するものだけだな。

 その数少ない力の一つでさっきまで扉だったものは原型を留めていないくらい破壊されている。

 ……修理費は後で春姫に請求しよう。おばさんに謝っとかないと。

 扉は破壊されているも、室内にまったく影響を及ぼさないスサノオの力加減は流石というべきか。

 こんな爆発があったのにも関わらず、毛布に包まっている春姫も別の意味で凄いが。

 スサノオに礼を言って具現化を解き、部屋に上がりこむ。


「おい、いい加減にしろ。学校遅れんぞ」


 容赦なく布団を剥ぎ取る。

 遠慮なんて春姫にするだけ勿体無いわ。


「ぐっわ!? 宇宙人の襲来か? それとも謎の組織の襲撃か!?」


 寝とぼけている春姫がおよそ女の子らしくない奇声をあげつつも半分覚醒したのはよかった。

 問題はその格好なんだ。少しだけ自分の頬が赤くなる。

 ちょっと六月に着るのは早いんじゃないか、キャミソールなんて。なんで童顔ロリキャラでも目指してるんじゃないかって勘ぐるぐらいに子供っぽい発言をいつもしてるのに女子っぽい格好なんてしてるんだ。白くて細い肩が露出していて目に毒。おまけにその肩に緩いウェーブがかかった髪がかかっていて、なんだ、その、……エロい。

 しかもサイズ大きめで買ったのか、ちょっと覗いたら見えそうだ。何が見えそうかという質問に回答したら全国の女性を敵に回すのでノーコメントとさせて頂く。さらに下は短パンで健康そうな脚が目に入り視線のやり場に困る。


「凪! おめーは乙女に対する態度がなってねーだろ!!」


 俺の不純な思考には気づかず腕を振り回す春姫。いや、見えるって。

 わざとか?

 わざとなのか?

 俺の忍耐力と男の子の事情、その他諸々を試すテストなのか?

 色々と限界なのでさっさと春姫を捕獲して学校に行こう。


「いーから早く制服に着替えろ。あと十五分で始業だ」


 俺らの家は学校に割りと近い。それでも支度の時間を考えるとギリギリではないだろうか。


「え、マジでか」


 怒っていた事を一瞬で忘却して慌てて服を脱ぎだす目の前のデリカシー欠如人間。一応俺も男なんだが。


「……俺、外で待ってるわ」

「……お、おう?」


 分かってない春姫の声を背に受け、俺は部屋を出た。





 長くつまらない授業を終え、いつも通りに家路につこうとしていた俺に春姫から声がかかった。


「凪、今日はこれから世界征服について語り合おうじゃないか!」


 そんなことを教室ででかい声で言うな。我が一年三組のクラスメート達が哀れむような目で見てるだろうが。


「まだそんなこと言ってんのかよ。世の中諦めが肝心だぜ。俺と春姫で世界征服なんぞ出来るわけが無いだろ」


 小声で一応説得を試みる。こんなんで春姫が説得されるくらいなら俺の人生の十分の十くらいは楽が出来ただろうに。


「ま、確かにおれっちと凪じゃ世界征服は無理だ」


 い、今こいつなんて言った? 言葉の意味もそのまんまの意味か? 耳に届いた言葉が信じられなくて自分の頭と耳を疑う。


「春姫ごめん、俺耳が遠くなったみたいだ。もう一回言ってくれ」


「だからおれっちと凪じゃ世界征服は無理かもなって」


 いやに神妙な顔をする春姫。神様ありがとう。十六年間信じたことなんて殆どなかったし、スサノオと契約してからは皆無だったが今、心からの感謝を贈ろう。


「お前からそんなマトモな意見を聞けるとは思わなかったぞ。今日は俺が奢るからなんか食うか?」


 ああ、こんなにも空が眩しいなんてッ(室内だけど)! お母さん僕を産んでくれてありがとう!!


「おお食うぞー! じゃ早速三人で飯食いながら会議しようぜ!」


 ん? 

 今なんか幻聴が聞こえた気がするぞ。


「何冷や汗かいてんだ? 飯奢ってくれんだろ、早く行こうぜ! もう一人メンバー見つかったし!!」


 ……後でスサノオのアマテラス写真集を燃やしてやる。別にスサノオに感謝したわけではないが俺の感謝を取り返すって意味と八つ当たり的な意味で。


「ちくしょう……ッ。詐欺だ! そもそもメンバーが見つかったって何? 椿? こんな馬鹿な話を真面目に聞く奴ってどんな奴だぁあああああ!!」


 世界征服なんて真面目に聞く奴なんかいないとたかをくくっていた。だってそうだろ? 世界を征服しようと言われて了解する人間にマトモな奴がいる訳がない。

 そいつは奇人か変人か、最悪の場合は狂人だ。

 俺は悪寒を覚えながらも学校近くのファミレスになし崩し的に連行されていった……。




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