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〜異端者〜

「なぁジル。お前言ったよな?人前で変化はしないって。俺の聞き間違いか?耳鼻科行った方がいいか?」


「大丈夫よ。別にあなたの耳が腐ってる訳じゃないわ」


「ならもう一つ聞くが」


眼鏡をかけた茶髪の男が綺麗な黒髪の女性と背中合わせでぼやいた。

そんな彼らが対峙しているもの。ざっと見積もって百人はいるだろう、武器を握り締めた殺気丸出しの軍人が彼らを取り囲む。


「だったらなんで昼間っから光り物向けられなきゃいけないんだ!お陰で昼飯食い損ねたじゃないか!」


「文句ならこの人たちに言いなさいよ。私だってランチの邪魔されたんだから!」


全く危機感の感じられない呑気な二人にとうとう軍人はキレた。姿は見えないが指揮官らしき男が兵たちの最後尾から怒鳴った。


「総員用意ぃ!捕らえろぉおおお!」


掛け声と共に軍人どもが一斉に飛び掛かる。振りかぶった軍刀を女目掛けて振り下ろす。


キン、と乾いた金属音とともに火花が飛び散る。

襲い掛かった兵は我が眼を疑った。こんな薄手で露出の多い服のどこに刃物など隠していたのか。いや、彼女は武器を出したわけではなかった。よく見れば女性の手首が鈍く光ってるではないか。そう、彼女の腕そのものが刃物と化してるのだ。あまりにも奇怪なこの有様に兵はたじろいだ。後退りする男の口から出た言葉は恐れに満ちた


   「化け物」


だった。それに呼応するかのように兵たちは口々に同じ言葉を呟いた。無理もない。彼女の異形の腕は人のものと呼ぶにはあまりにも程遠い。

目の前に佇む恐怖にたじろぐ兵たちを指揮官が一喝する。


「怯むな!相手は化け物だ!奴らが在る限り我々に安息はない!殺せ!」


躊躇いながらも兵たちは何とか士気を上げ、再び彼らに飛び掛かる。


「言ってくれるわね。レディーの扱いがなってないんじゃないの?」


そう言うと今度は横薙ぎに振られた刀を回し蹴りで迎え撃つ。またしても刃と化した足首が襲い来る刀をへし折り、折れた切先を空高く舞上げた。息つく暇もなく突き付けられる刃を蹴りで、拳で叩き伏せる。これだけの人数を相手にできる並外れた反射神経と鉄刀すらへし折る瞬発力にそこらの雑兵ごときが敵うわけもなく、一人、また一人と膝を落としていく。もう手に負えないと悟ったのか。女性に向けられていた殺気は矛先を変え、男へと向けられた。

見れば男は体術で攻撃を遇うだけで、彼女のような変化は見られない。これはチャンスだと踏んだのか、今や兵たちの目には彼しか写っていなかった。


「あああぁ!チキショウ!何でお前らこっち来るんだぁ!そんなに俺を虐めて楽しいか!そんなに男がいいのか!このホモ野郎どもめ!飯の怨み、思い知りやがれぇ!」


一人で勝手にキレてるヒステリックな男は振り下ろされた刀を左手で掴み打ち上げた掌底で叩き折った。

別に先の女のように腕が変化した訳ではない。折れた刀を握るその手はたたの肉付きのいい男性の腕にしか見えなかった。


有り得ない。素手で折ったのか?突き返された刀を見た兵はさらに驚いた。なにやら刀が白く霞んでいる。一瞬それが何なのか解らなかったがすぐにその正体を理解した。

凍らされているのだ。それも打撃で折られるほどの超低温で。

体が刃物の女と冷気を操る男。果たしてこんな化け物じみた芸当の出来る存在を人と呼べるのか。彼らの出した答えはノーだ。勝てぬと分かっていても彼らの目に迷いはなかった。


化け物め。異端者め。自分たちに危害を与えかねない存在を、人は決して許しはしない。少しでも違いがあれば徹底的に潰しに掛かろうとする。

人はそれを弱さと呼び、それを恥じ、隠そうと徒党を組む。そうしなければ生き残れないからだ。


この異能者たちもそうだ。捨て置けばいつか自分たちを危険に晒すかもしれない。自分自身を、愛する者を、大切な何かを護るため彼らは武器を取る。例えそれが勝てぬと判り切った相手であろうと。護るために闘う彼らの目に迷いはない。


男たちも分かっている。自分たちの力の強大さを。いくら嘆いたところで救いの手など有りはしないということも。だからこそ譲れないのだ。


一人一人が想い、考えるこの争いに終わりなどあるのだろうか。強さ故の過ち、弱さ故の後悔。答えの出ぬまま犠牲は積もる。答えを求めた人の声が、また一つ消えた。

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