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魂送のサラリーマン  作者: 桜咲ジュン
境世学園で。
8/9

午前は出会いに溢れてる。

「・・・そう怯えるな。俺は水瀬ミズセ 知春チハル。在世から来た奴は、初めは皆この世界でやっていけるか不安を感じてるが、意外と普通に過ごせてしまうもんだ。俺はそんな奴を大勢見てきたし、ここにいる夢斗だって今は平然と暮らしてんだ。楽に行こうぜ!」


・・・え?

睦月より背が高く、ガラが悪そうに見えるので威圧を感じていたが、ニッコリと笑顔を見せる青髪の男。教室の入り口で知春を前に睦月が驚いていると、見かねた夢斗が知春の隣まで戻ってきて睦月に言った。

「この人、水瀬ミズセ 知春チハルさんは俺の3つ上の先輩。在世から来たばかりで入社したてだった時の俺の先輩なんだぜ。」


夢斗も当たり前の様に喋るので、一瞬衝撃の事実を聞きしてしまいそうになる睦月。だが、慌てて夢斗に聞き直す。

「へぇー、知春さんは夢斗さんの入社時の先輩なんですか・・・って、夢斗さんも在世出身なんですか?」

「あれ、言わなかったか?俺も2年前にこの世界に来たんだぜ。」


・・・初耳だ。昨日言ってくれれば色々質問をしていたのに。

昨日から相談もできず、これからの心配ばかりしていた時間を返して欲しいな。と少しふてくされながら睦月が考えていると、知春が腕組みをしながら残念そうな顔で言った。

「こいつも元は俺の直属の部下だったのに今は出世して特連部の一員になっちまって。」

「・・・出世?」

睦月は首をかしげる。それを見た夢斗は、人差指を立てて説明をはじめた。

「えーっと、知春さんは営業部、俺達は特連部。死んでしまった際に肉体から離れる霊を地獄に送るって仕事は同じなんだが、特連部は名前の通り連行する為の部。つまりは抵抗する霊を無理やり連れて行くための部なのさ。だから戦闘能力が高い奴しか選ばれないし、上に実力を認められた者だけが行ける部って事なんだよ。まぁ、連行する事だけが仕事でもないけどな。」

「・・・へぇー。」

睦月が感心して声を漏らす。それを見て知春は補足を入れた。


「でさっき言ってた噂ってのは、そんな所に直接入った奴は一体どんな奴なのかって話だ。まぁ、君みたいな普通の子だとは思っていなかったがな。」

「ははは・・。」

知春が呆れた様に睦月を見たので、睦月は苦笑いをした。

なるほど、僕は出世すべき部所に直接入ったのか。けど・・・なんでだろう?何か実力を認められるような事したっけ?


ガララッ・・・

睦月が考えていると教室前面のドアが開く。

「はぁーい、では講義を始めますよー。」

ドアを開け入っていたのは眼鏡をかけた白スーツの女性だった。

「お、講義が始まる。とりあえずそこに座ろうぜ。」

夢斗は目の前にある椅子を指差した。指差した椅子は両隣も空いていたので知春、夢斗、睦月の順に並んで座る。周りを見渡すと殆どの人が席についていた。黒のスーツの人も白いスーツの人もバラバラに、たまに空席を空けているが、まるでオセロのように白黒揃って並んでいる。

「今日の講師を勤めさして頂きます、矢水ヤミズ 彩音アヤネです。ではプリントを配りますねー。」

真ん中の教壇に立った女性がお辞儀し、自己紹介をしてから講義が始まった。


午前中の講義内容は在世の歴史、霊界について、魂送を行うにあたってのルール等を勉強した。ちなみに霊界とは死後に魂が行くべき世界の事で、呼び方は魂世や霊世とも言い、霊界と言う括りの中に地獄や天国が存在するとの事だった。

睦月はまだ昨日来たばかりという事もあり所々分からない事もあったが、なんとなくで理解した。


講義の合間に睦月は、夢斗と知春に講義やこの世界について色々教えてもらった。

黒スーツを着ているのがTHCの人間で、白スーツを着ているのがPSC。わかりやすく言えば黒スーツを着ているのが悪魔で、白スーツを着ているのが天使だ。天使と悪魔の違いというのは、入っている会社(厳密に言えば会社が魂を送り届ける場所)によって区別されている。

そして、天使と悪魔の会社がそれぞれの会社を高め合う為の授業を行っているのがこの講義の目的らしい。

講義を行うクラスは4クラスに別れており、1クラスの全体人数は約40人程。クラス分け事態に特に意味はなく、人数が多すぎると教室に入れなくなるから別れているだけだとか。

講義来るのか営業等の仕事に行くのかは本人次第となっている為、(部や、班によっては決められている所もあるらしいが会社としては自由化している。)何人が講義に来るのか来てみないと分からないらしい。全員集まる事がないのでクラス全員の顔を覚える事は不可能に近く、それゆえ睦月の様に新しい社員が入っても紹介等がされる事はなかった。


4時間目の講義が終わると、夢斗が勢い良く立ち上がり背伸びをした。

「おっしゃぁー終わった!飯にしようぜ!」

夢斗に合わせて知春さんも立ち上がり、それを見て慌てて睦月も立ち上がった。

「この学校には学食があってな、その飯が安くて旨いんだこれが。」

「へぇー。」

教室がざわめいている中、夢斗達は教室を出て廊下を歩く。廊下を歩いていると、すれ違う人達に珍しそうな目で見られている気がしたが、睦月以外誰も気にしていない様子だったので睦月も気にしない様にした。

階段を降りていき、行きとは違う渡り廊下を渡ると食堂があった。校舎1階の左側に別館として食堂は存在しているようだ。

「うわ、でかーーーーっ!!」

中に入ると睦月があまりの大きさに声を上げた。体育管並みの大きな食堂の内部は幾つもの食事の看板が掛けられていてそこに行列ができている。まるでどこぞのコ○ケの様に人が大勢だ。

「ここにいるのは高校生と大学生が殆んどだ。中学生は弁当及び購買の飯、小学生達にはクラスでまとまって飯を食べてるからここには滅多に来ない。」

目を輝かせて周りを見ている睦月に知春が言う。

なるほど、だから小さい子はいないのか。確かにこんな所に小学生とかがいたら踏み潰されそうだもんな。

睦月が小さく安堵すると、それを見て夢斗が言った。

「なんだ残念そうにして・・・お前ロリコンだったのか?」

「ち、違います!今のは小学生とかが来て、踏み潰されなくてよかった。と安堵したんですよ!僕はロリコンじゃないですよ!」

「分かったって冗談だよ、冗談。」


そうやって食堂の入り口付近で睦月がからかわれていると、近くにいた子達がこちら見ながら小さく何か言っているのが聞こえた。


おい、あれって・・・まさか本物?

きゃー、本物よ!

私サインもらおうかしら?


なんだろう?また何故か注目を浴びている気がする。

「気にすんな。とっとと飯にしようぜ。」

「は、はい。」

夢斗さんはラーメン定食、知春さんは牛丼セット、睦月は夢斗と同じくラーメン定食を頼み丁度空いていた窓際のテーブルに座った。食堂には多くの人がいたがテーブルも多く存在していたので、席に困るという感じはなさそうだった。


睦月達が食事をしていると急に大きな声がした。

「あーっ、知春みっけ。」

睦月がラーメンから視線を上げて前を見ると、銀髪で白スーツの女性が知春の横に立っている。背は低く、夢斗と同じ160cm位の女性、いや女性と言うよりも少女と言った方がよさそうな童顔をしている人だった。

「お、椿。どうした?」

知春が普通に女性に話し始める。銀髪の女性は知春、夢斗を順に見た後、睦月を見て言った。

「知春に夢斗と・・・この子誰?」

「おー、こいつは夢斗の下に入った後輩の睦月ヨウ君だ。」

「・・・カケルです。」

自信満々に自己紹介してくれたところ悪いが間違っている。睦月はすぐに訂正した。

「悪い悪い、お前の漢字はどっちでも読めるから間違えちまったわ、ハハハッ。」

知春は苦笑いしながら謝る。睦月もよく名前を間違えられる事があったので、特に怒る事もなかった。

「ヨウ君?」

しかし銀髪の女性は首を傾げながら、違う呼び方の方を呟く。しょうがなくまた訂正する睦月。

「カケルです。」

「ヨウ君ね。うん、決定!」

銀髪の女性はその呼び方が気に入ったらしい。頑なにカケルと言おうとしない。

「・・・もういいです。」

睦月は心が折れた様に小さく言うと、銀髪の女性は満足した様にくすっと笑った。そして知春の方を向き直りモジモジしだした。

「ねー知春?私お弁当作ってきたから一緒に食べたかったんだけど・・・もう要らなさそうだね。」

「お、そうなのか。んーー・・・。」

銀髪の女性は、左手に持っていた弁当を後ろに回してしょんぼりとした顔をした。

それを見て、目の前にある牛丼セットをじっと眺める知春。少し考えた後、いきなり牛丼をがっつき始めた。

ガツガツガツ・・・!


「えっ、ちょっ・・・何やってんの!?そんなに急がなくても・・・。」

銀髪の女性は突然の行動に戸惑い、困惑する。知春は女性の言葉に耳を傾けようともせずただひたすらに牛丼にがっついた。そして牛丼を食べ終わると、どんぶりを勢いよく机の上に置いた。

ドンッ!


「ヨシッ!じゃ、椿の弁当を食べに行くとするか!」

「・・・うんっ!」

知春はお盆を持って立ち上がり、女性と一緒に歩いて人ごみの中に消えた。

「夢斗さん、今のは?」

「知春さんのコレだ。」

そう言って小指をたてる夢斗。あぁー、と睦月も納得する。

知春さんが黒スーツで椿と呼ばれる銀髪の女性が白スーツだから、悪魔と天使が付き合っているのか。

・・・なんだか不思議なカップルだなぁ。


知春がいなくなった後、夢斗は何もなかった様に飯を食べ始めたのでとりあえず睦月も飯を平らげた。


睦月がラーメン定食を食べ終わり一息ついていると、夢斗がさっきの女性について補足を入れた。

「さっきの銀髪のちっこい人がクレナイ 椿ツバキ、PSCの営業課に所属している子で知春さんにぞっこんの子だ。年は俺や耀よりも下で確か・・・いくつだったかな?まぁいいや。で、確か知春さんとは」

「お、夢斗じゃないか?・・・と、そこにいるのは誰だ?」


夢斗が説明をしている最中に横を通りかかった男が、こちらに気づいて声を掛けてきた。男は紫色の髪で黒スーツ、ネクタイをしておらずワイシャツをワイルドに開けているのでヤンキーがスーツを着ているだけのような印象にとれる男である。紫色の髪の男が止まると、横にいた女性も止まった。どうやら男の連れの様だ。

「あ、鋼矢コウヤさん、それに夏希ナツキさんも。彼が昨日から特連部に入った睦月ムツキ 耀カケルですよ。」

「お、そうか。君が睦月 耀か。俺は特連部の江口こと井出イデ 鋼矢コウヤだ。」

「・・・江口ねぇ。そのネタ古くて伝わらないと思うわよ?私は水瀬ミズセ 夏希ナツキ。同じく部所だから、これから宜しくね。」

夢斗が睦月を紹介すると、2人共それぞれ自己紹介をする。

自己紹介から2人とも特連部の先輩だという事を知る。鋼矢のネタはどこぞの爆走族の話であろう事を知っていた睦月だったが、睦月よりも先に夏希がつっこんだので、あえて知らないフリをした。ちなみに鋼矢は夏希につっこまれて、そうか?と特に気にする様子もなくガハハと豪快に笑った。

「睦月 耀です。よろしくお願いします!」

睦月は椅子から立ち上がり深く礼をした。それを見て鋼矢が笑いながら言う。

「おう、よろしくな。困った事があったりしたら何でも聞いてくれ!全部夏希が答えるぞ!」

「鋼矢が、ではなく私が、ですか。まぁいいでしょう。あなたに聞いたところでまともな返事が返ってくるとは思えませんしね。」

夏希は何気に酷い事をサラッと言う。

しかも、直後に「なんだとぅ!?」と怒った鋼矢に対して「本当の事でしょう?」と冷たい視線と共に止めの一言を言い放ち、鋼矢に「え・・・まぁ・・・ハイ。」と改めさせた。


「で、二人は今から講義に出るんですか?」

鋼矢と夏希が2人の世界に入っていたので、夢斗が少し笑い(焦り)ながら冷たい視線を送り続ける夏希に言う。夏希は、夢斗・睦月に対して優しい顔で言った。

「えぇ、そうよ。じゃぁ私たちは2組だし、やる事もあるから先に教室に戻るわね・・・またね夢斗、耀クン。」「ガハハ、また後でな!」

夏希が立ち去ると、続けて鋼矢も笑いながら去っていった。

後で?どういう意味だ、クラス違うんだから今日会う事がもう無い筈なんだけどな。と、夢斗が首を傾げたが睦月にも分からなかったので、さぁ?と答えた。


食堂から教室に帰って睦月が夢斗と雑談をしていると、午後の講義開始ギリギリに知春と椿が教室に入ってきた。どうやら時間いっぱいまで2人の時間を楽しんでいたようだ。2人は睦月と無斗を見つけると、その隣に2人隣り合わせに座った。

その時無斗は「2人ともラブラブですね。」と冷かしを言い、「よせやい!」と知春に照れ隠しのグーパンチを顔面に食らった。睦月は横でそれをただ笑ってみていただけだったが、これから知春さんに冷やかしを言うのはやめておこう。と密かに思っていたのは言うまでもない。


キーンコーンカーンコーン・・キーンコーンカーンコーン・・・

チャイムが鳴るとガララッと正面のドアが開く。午前中のように講師の矢水 彩音が入ってきたのかと睦月は思ったが、そうではなかった。入ってきたのは意外な事に緋野 灼夜だった。灼夜の後に続いて彩音が入ってくる。

灼夜は、教壇に立つと力強く言う。

「早速ですが今日は皆さんにちょっと殺し合いをしてもらいます!」


急な発言にざわつく教室、慌てる彩音。どこかで聞いた事あるよな台詞に睦月も息を飲んだ。

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