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魂送のサラリーマン  作者: 桜咲ジュン
境世学園で。
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境世学園。

人だかりの中エレベーターに乗り込んだ睦月達だったが、朝のエレベーターは人でぎゅうぎゅう詰めだった。だが、階を重ねていくにつれて少しずつ減っていき、やっと少人数になったと思ったところで特連部の有る7階に着いた。

静かに動いていたエレベーターがチーン!という音を立てて止まり、ドアが開く。

「(やっと着いた・・・)」

朝の人混みに揉まれたので睦月は疲れた顔をした。

「こらこら、もう疲れたの?だらしないわねー。まだ始まってもいないわよ。毎日来るんだから早く馴れて頂戴ね。」

「はーい。頑張ります・・・。」


灼夜がエレベーターを出て正面・事務室の扉を開けようとすると、左の方から音がした。

ガチャッ。

「・・・・」

「・・・はーい、分かり次第報告しますねぇー。」

どうやら左手、奥にある部屋(部長室)から誰か出てきたらしい。

左手を向くと、一人の女性がドアの前に立っていた。ドアを閉めている所だったのでこちらには気が付いていない様だ。

その女性は灼夜と同じくらいの背丈(170くらい)で、セミロングな髪は灼夜さんよりも少し茶色がかった黒色をしており、茶色にズボンに白色の胸元が見えてるゆるいシャツ、その上に黒いコート型の黒衣を羽織っている。

ドアノブに手をかけていた灼夜がその女性に話しかける。

「お、メグじゃん。今日はどーしたの?」

女性はこちらに気が付き、こちらに歩いてくる。アダ名で呼んでいるところを見ると、どうやら親しい仲のようだ。

「あ、しゃく、ちょっとした野暮用だよぉ。にしても久しぶりだねぇ。前お願いした『能力霊体化』は試してくれてるぅー?」

ゆっくりとした口調。その口調だけで、女性がぽわぽわとした独自の空気を持っている事が伺える。

ちなみに睦月は2人の話の内容を理解できなかった。

が、話の内容よりも異常に揺れる女性の胸元に気をとられていた。


睦月が目線の置場に困っていると、そんな事を気にもせず灼夜は女性の方に近づき、話を続ける。

「うーん、あれねぇ・・・。使ってはいるのだけど、たまに隠れきれずに見えてる時もあるみたい。やっぱ能力使う時は、今まで通り鏡を使ってた方が楽かな、見つかる心配もしなくて良いし。」

「そっかぁ。やっぱ能力を見えなくするのは難しいねぇ。・・・うん、わかったぁ!また作り直しておくから、今まで通り鏡の中で戦闘をたのむよぉ。」


この時、睦月は話など聞いておらず、ひたすらに目線を奪われる胸元から目を背けようとしていた。

「(うわーすごい胸ー・・・近づいてる時から胸がすごく揺れてる気がしてたけど、これは・・・目のやり場に困る・・・。)」

灼夜の胸が普通くらいだとしたら特盛級であろうその胸。背けようとする気持ちも空しく、結局睦月の視線は胸元に奪われていた。

「ところでさぁ、しゃくー。君の隣で私の胸と君の胸を見比べてるこの子はー・・・誰ぇ?」

そう言われて睦月が気がついた時には、黒衣の女性が睦月の方をジト目で見ていた。


「なっちょっ睦月君っ!何、見比べてんのよっ!」

「いや、見てませんっ!僕は胸を見比べてなんかいまガッ!!」ドガッ!!!

灼夜は顔を真っ赤にして胸を押さえると、間髪いれず蹴りを繰り出し睦月の顎を強打し、一回転して着地した。

「わぁー、サマーソルトキックが綺麗に決まったねぇー。」

横では黒衣の女性が無邪気に技に見とれて、手を合わせて喜ぶ。

「痛っ~~~。」

睦月は顎を抑えてしゃがみ込み、痛みで唸った。


「メグのは異常に発達しすぎてるんだから比べるんじゃないの!私だってこれでもCカップはあるんだから。」

腕で胸を隠し、顔を真っ赤にさせたまま灼夜はとんでもない事を言う。へぇー・・・Cなんだ。

「発達しすぎねぇ・・・。開発じゃー、とか言ってあたしの胸を揉みまくったのはどこの誰だかねぇ?」

「うっさいっ!!あの頃はここまで差が出るとは思ってなかったの!!」

笑いながら横を向く黒衣の女性に対し、灼夜は赤い顔を更に赤くして怒る。

「あ・・・あのー、でその方は誰なんですか?」

「え、あ、あー・・・そういえば紹介がまだだったわね。彼女は私の幼なじみで、メグ・・・じゃなかった、統野トウノ メグミ。いつもこんな感じでふわふわしてるから、抜けてそうなイメージになりがちだけどTHCの科学者をやってるのよ。この前渡したバッチとかは彼女が作ったの。で、メグ、この子が昨日からうちの部に入った睦月ムツキ 耀カケル君よ。」

「へぇー、この子が例の・・・。耀君だっけぇ、宜しくねぇ。」

「(例の?)・・・よろしくお願いします。」

睦月が戸惑いながら挨拶をしていると、後ろでエレベーターの到着音が鳴った。


チーン!

遅れて聞いた事のある声が睦月の後ろから聞こえてきた。

「あ、灼夜さん、おはよーございます、耀もおはよ・・・あ、恵さんも、おはようございます。」

睦月が後ろを向くと、そこには夢斗が立っていた。

「おはよぉー夢斗君。じゃぁしゃく、私はそろそろ戻るねぇ。」

「ん、そうね、じゃまた今度ゆっくり話でもしましょ。」

そう言って灼夜に手を振り、エレベーターに乗り込む統野。

「じゃあねぇ夢斗君、耀君。」

「どうも。」「えぇ、また今度新しい発明品とか教えてくださいねー。」

「はいは~い。」

統野 恵が後ろを向いたまま手をひらひらさせたところでドアが閉まった。

灼夜と夢斗と睦月はそれを見届けると、順に事務室に入っていった。


「さて、じゃ、私はこれから色々やらなきゃいけないから・・・夢斗、あんた今日は講義に行くんでしょ?睦月君も一緒に連れてって色々教えてあげて。」

灼夜は荷物を置くと小さく背伸びしながらそう告げた。

「はーい分かりましたー。じゃ耀、荷物置いたら早速移動すんぞ。」

「はい、夢斗さん。・・・ちなみにどこに行くんですか?」

「あー、隣に建ってる学園に行くんだよ。この会社の給料システムは在世に存在するシステムとは少し違って、在世に行って営業(死んだ人の魂を地獄に送る事)をして割増賃金を貰う事もできるんだが、能力向上して、それを会社に認めてもらう事で基本給を上げる事もできるシステムになってるんだ。だから異能者は営業ばかりでなく、講義に行って能力向上の訓練や勉強、試験を行うんだよ。あ、ちなみに普通の会社と同じように知識向上でも給料は上がるから、講義に来る人は全員異能者って訳じゃないけどな。」

「へぇー・・・そんなシステムになってたんですか。」

「わかったか?それじゃ、行くぞ。」

「ハイ。」

夢斗と睦月はカバンをそれぞれの机の上に置き、事務室を出た。そして、エレベーターに乗り1階の渡り廊下で繋がっている学園へと向った。


エレベーター内は乗る時と比べ人が少なかった。

「そういえば、昨日の夜は良く眠れたか?」

エレベーターの奥の壁にもたれ掛かって夢斗が言う。

「コスプレの記憶が悪夢の様に襲ってきましたが・・・何とか眠れましたよ。」

「昨日のコスプレな・・・アレはマジで最低だったな。逃げ回ってたら最後は能力使って飛んでくるし・・・あの趣味はどうにかしてほしいと思うぜ。」

夢斗さんの顔が瞬間暗くなる。・・・相当に嫌だったんだろうな。

そんな話をしているとエレベーターは1階に到着した。睦月は道が分からないので夢斗に付いて歩いていく。

「そういえば、昨日来たばっかだけどこの世界については分からない事は無くなったか?」

「いえ、まだ分からない事だらけですね。けど、昨日『THCのススメ~境界の悪魔ガイドブック~』って本を貰って読んだので、この世界や会社については少し知識を得る事ができましたよ。分厚い本だったんで全部は読みきれてませんが。」

「ふーん・・・勉強熱心だな。」

そういえばこの話は灼夜さんにもしたな。灼夜さんは『THCのススメ~境界の悪魔ガイドブック~』って物が存在してる事に驚いてたっけ。


「いえ、そんな事ないですよ。そういえばTHCってTake Hells companyの略称だったんですね。直訳して『地獄を取る会社』って事でとればいいんですかね?」

「いや、意味としては『地獄に送る会社』らしい。うちの社長が、今は会社名は英語が主流だ!って言い出して、『地獄に送る会社』を勝手に英訳して『THC』って言葉に決めたらしい。Take Hell's Companyを直訳すると『地獄を取る会社』にもなるけど、一応『地獄に送る会社』に取れなくもないって事で、半ば社長のゴリ押しでこの会社名に決まったんだとさ。」

「へぇー。そうなんですかー・・・。」

「因みに前までの会社名は『境世地獄会社』だったらしい。」「そのまんまじゃないですか!?」

「ははっ、そうだな。」

そんな会話続けているといつの間にか渡り廊下を歩き終え、学園内に入っていた。


「この学校は『境世学園』って言ってな。幼稚園から大学まで全てを取り揃えている大学校で、10年前に戦争が終わった記念・・・というか、仲直りの証みたいな意味を込められて作られた学校なんだぜ。」

学校の廊下を歩きながら両手を大げさに伸ばして夢斗が言う。

「戦争?どんな戦争があったんですか?」

「お、それについてはまだ知らなかったか。この世界に存在する大企業『苦患地獄くげんじごく会社』と『極楽天国ごくらくてんごく会社』の戦争さ。ちなみに名前は、苦患地獄会社がTHCに変わった様に、極楽天国会社もParadise's sender Company、略称PSCに変わっているぞ。この2つの大企業はこの世界の中枢とも言える企業だから、戦争時は物凄い数の人達が辛い思いや被害にあったんだぜ。」

「へぇー、知らなかった。」

夢斗と睦月はそんな会話をしながら階段を上った。


目指す教室は校舎の五階にあった。教室というよりも講義室といった方が正しいかもしれない。

真ん中に教壇及び黒板があり横に長い机が5列、そこには椅子がそれぞれいくつも配置されている。

教室内の人は計20人くらいだろうか?白いスーツの人と黒いスーツの人の二種類の人がいて、教室のあちこちでグループを作って固まっていたり一人で本を読んだりしている。

ドアを開けて、中に歩いていく夢斗。睦月は入り口でキョリョロとしていた。

「お、夢斗じゃん。あれ?後ろにいるのは・・・誰だ?」

夢斗に喋りかけたのはドアを開けた正面、講義室後ろの壁の中央あたりにもたれていた青い髪の黒スーツの男。身長は180cm程で睦月よりも大きく、髪型は前髪を残して後ろにもっていき小さく結んである。(少し怖い・・・。)

「こいつは昨日から俺の部下になった新入りですよ。よろしく頼みますね知春チハルさん。」

「あー、彼が噂の特連部の新入部員?へぇー、なるほどねぇー・・・。」

不思議な顔をしながら睦月の方をじっと見た後、知春と呼ばれる男は睦月の前に歩いてきた。

噂とはなんの事だろう?と疑問を抱く睦月はガラが悪そうな男を前に、威圧感もあってか少し縮こまるのだった。

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