リストラ・・・それは突然に。
「あぁ・・・今日も疲れたなぁ。」
睦月 耀は仕事を終え、田んぼしか見えない帰路の途中で小さな溜息を漏らした。
この青年、睦月 耀は身長175cm体重65kg、好きな物はリンゴで嫌いな物は特に無し、趣味特技も特に無く、いたって平凡な、平凡すぎるサラリーマンである。
睦月は高卒で仕事に就き、今や二年目社員となる。
仕事場の環境には慣れたものの仕事は思う様に進まず、体力的にも精神的にも苦しい状態で日々を過していた。
(毎日終電。明日も終電だろうなぁ・・・。)
夜空一面を優しく彩る星を見ながら、少しでも自分の明日も輝いて欲しいと空を眺める。
そんな時だった。
ズドォーン!!!
大きな爆音と共に、一瞬光に包まれた睦月。
「う、うぁぁぁーー!!!!」
直後、睦月の体には凄まじい衝撃が走る。
体に電撃が走るとはまさにこういう時に使うのだろう、痛みと痺れが同時に来て頭がボーっとしてくる。
・・・あぁ、なんだか全てがどうでもよくなってきた・・・。
・・・・・
「・・う、うぅ。」
―――いけない、いけない、危うく意識を持っていかれるところだった。
こんな所で死ぬのは嫌だし、死ななかったにしてもこんな所で倒れてしまったらたぶん朝まで起きられず、明日は確実に遅刻だろう。
そんなのは絶対嫌だ、先輩や上司に何を言われるかわかったものじゃない。・・・にしても、
「い、今のはいったい・・・?」
少しふらつきながら周りを見渡すが何もない―――いや、田んぼと山としか見えない。
もしやと思って空を見上げるが、夜空が見えるだけで雲など欠片も見えなかった。
(雷・・・?いや、雲もないのに雷に撃たれるのはおかしい・・・よな?)
睦月は、唐突に訪れた衝撃が一体何処からやってきたのか疑問を抱いたが、その答えはいくら考えたところで見つかりそうになかった。
(・・・体が重たい。今の衝撃が何だったのかよくわからないけど、明日も仕事だ。早く帰って寝よう。)
今にも倒れてしまいそうな足取りでゆっくりと自分の住むアパートを目指す睦月。
その後なんとかアパートにたどり着くと、すぐに深い眠りへとついた。
――――今日襲った衝撃が自分の人生を大きく変えていた事も知らずに。
次の日。
睦月は普通に出勤し、デスクワークをしながら昨日の事を考えていた。
カタカタカタ・・・(昨日の衝撃はやっぱり疲れがきたのかなー・・・?それとも・・・)
答えが出ないまま、昨日仕上げれなかった自分の仕事を黙々とこなす。
そんな時、後ろから声がした。
「えーーー、睦月君・・・ちょっと私の部屋まで来なさい。」
「・・・は、ハイ。」
上司だ。急に呼び出してどうしたのだろう?
疑問を抱きながら上司の部屋にノックして入る。
上司の部屋は、なぜか空気が重く張詰めている気がした。
「実はだね・・・。」
上司が自分に椅子に座ったまま睦月を見る。
なぜか哀れみの目を向けられている気がする。
「言い難い事なんだが・・・今日の昼をもって君は・・・クビ、だそうだ。」
まさかのリストラ宣告だった。
「・・・え?・・・ぇえ!!?」
「上からの御達しでね、私にもなぜ君がクビなのか訳がわからないのだよ。」
訳がわからないのはこっちだ。なんだ?僕の上司は新手の冗談を言うようになったのか?と、睦月は苦笑いをした。
「はは・・・冗談・・・ですよね?」
「すまない・・・冗談ではないのだよ。」
「そ、そんな・・・」
余りにいきなりな事態に戸惑う睦月。
体に流れる血がサーっと引いていくのがわかり、手からはネトッとした嫌な汗が染み出てくる。
信じたくない真実を突き付けられているのに、反論の言葉すら出てこない。
「本当に申し訳ない。・・・なんだ、その、あまりにも急な事でいろいろ大変になると思うが、頑張れよ。・・以上だ。」
こうして、何も反論ができないまま上司の部屋を出た睦月。
自分の机に戻り、未だ状況が飲み込めないままボーっと片付けを始めた。
周りの人達はそれぞれ自分の仕事に集中していたので誰からも何も聞かれることなく午前中が終わり、
睦月は、
――――――解雇となった。
(・・・明日からどうしよう)
これからと思われていたサラリーマン生活が一瞬にして終わりを迎えたのだ。
今からどうしていいかなど検討できる訳もなく只、途方に暮れるしかなかった。
睦月は燦々と照らす太陽の下、スーツ姿でトボトボと自宅であるアパートへと向かった。
帰り道、昨日衝撃を受けた場所辺りに差し掛かると、睦月は突然ポン、ポンと肩を叩かれた。
何かと思って振り返るとそこには、
―――――見覚えの無い女性がいた。
身長170cm位で黒いレディーススーツを着ている女性が、見ていると今にも吸い込まれてしまいそうな真っ黒い髪をなびかせながら立っている。
彼女は僕と目が合うとニコリと笑った。
「君が睦月 耀君ね?」
「・・・えぇ。そうですが何か?」
「私は、緋野 灼夜。呼び方は・・・そうね、みんなには灼夜さんと呼ばれてるから、灼夜さんでいいわ。」
「はぁ・・・。」
人差し指を頬に当て少し悩んだ仕草をしたりしながら、急に自己紹介をしてきた彼女。
なぜこの綺麗な女性は、僕の名前を知っていて、僕に自己紹介をしているのだろう?と睦月が考えていると、彼女は驚くべき事を聞いてきた。
「で・・・本題ね。君は今日会社をクビになった、違う?」
「!!?」
もう一度言うがこの女性、緋野灼夜と名乗る女性に面識はない。
なのになぜ、彼女は僕の事を知っていて今日あったばかりの事実を知っているのだろう?会社の人間か?
いや、会社にこんな人がいた記憶は・・・
と睦月が考えていると、彼女は小さく笑った。
「睦月君、不景気真っ只中のこんな時代に放り出されてこれからどうするつもり?再就職するにしても就職難で簡単に就職もできないでしょう?」
どうするもこうするも突然リストラ宣告をされたので、考えなど有る訳がない。
「いえ・・・まだなにも・・・。」
「でしょうね、けど、そんなあなたに良い話があるわ。睦月君・・・うちの会社で働いてみない?」
「!?・・・え?本当ですか!?」
「嘘なんてつかないわ、本当よ。じゃぁとりあえず、私に連いて来て。会社説明や手続きしたいから、会社まで案内するわ。」
「・・・はい!わかり・・・(ん?ちょっと待てよ?)」
ここで睦月は気がついた。あまりにタイミングが良すぎる。
本人ですら今日知った事実をなぜ彼女は知っているのだろう?しかも、他社の人間でありながら。
都合の良すぎる再就職の話を持ち出してくる彼女は、いったい何が目的でどこで情報を手に入れたのだろう?
そう考えると、彼女にすんなり連いて行く事は危険じゃないのか?連いて行って本当に大丈夫なのだろうか?と思えてくる・・・。
等と睦月が考えていると、緋野 灼夜は面倒くさそうに頭を掻いた。
「・・・そう、君も面倒な子ね。しょがない・・・計画とは違うけど私流にやるとしましょうか、ねっ!!!」
――――ゴッ!!!
鈍い音が響く。
睦月の顔には、先程まで正面にいた灼夜の膝がクリーンヒットしており、睦月は崩れ落ちる様に
―――静かに倒れた。
・・・それはまさに一瞬の出来事だった。
話を終えるか終えないかのタイミングで攻撃。
避ける暇など有るわけがない。
睦月はモロに灼夜の跳び膝蹴りを顔面に食らい、訳も分からず気絶した・・・。
だが、睦月もただやられていた訳ではなかった。
強打を喰らった刹那、確かに見ていた。
灼夜の足の間から覗く赤色をした水玉模様を。
(あ、見えた・・・)
その直後、睦月は意識を無くした・・・。