第9話:懐かしい人ほど逃げたい。だいたいバレるのは一瞬。
広場での凄惨な事件は俺の心に深い傷を作った。
どうやら恐怖すると、特定部位の筋肉が緩んで、中身が垂れてしまう。
思い返せば、ガストンとこの体になって出会ってから一発かましていたなぁ。
衛兵とシェリに手を引かれて、領主館に戻った時には、ミレイアが眼鏡をくいっとあげて、シェリの説明も聞かず、湯船に沈められた。
俺?
抗議なんてしようがないだろう。
漏らしてるんだぜ?
むしろ、言葉少なげに説明をしようとしたシェリに……俺の垂れたものを受け入れて一緒にいてくれたシェリに感謝はすれど、そこまでする必要はないだろうに……。
使用人に体を洗われながら、俺は声を大にして泣いていた。
「シェリ、泡の匂い、すき。フェリ、いい匂い」
俺が心も体もびしょびしょになっているときに、シェリが声をかけてくれる。
シェリは平和だな。
なんで俺だけ大惨事になんだよ……。
「お二人とも。お風呂が終わったらすぐにお部屋に戻って、お仕度をしてください」
真っ白の抜け殻になった俺と、使用人と一緒になって俺を拭くシェリに、ミレイアは疲れ切った表情で言ってきた。
「ムサシ様は、シェリ様が管理する護衛ですから、領主の娘として、しっかりと対応してくださいね」
「うむ。任せて」
え?
ムサシって公認だったの!?
シェリに目を向けると、親指を立てて意思表示をしてくる。
その指、折っていい?
「さあさあ、時間はありませんので、お仕度と同時に、お部屋の模様替えも行わないといけませんから」
「え、模様替え?」
「……うむ?」
子ども用バスローブに包まれて、ミレイアの先導に従って、俺とシェリは手をつなぎながらついていった。
子供部屋の前には、十人ほどの使用人が忙しなく出入りしており、出てくるものはぬいぐるみやら玩具などを手に、廊下の奥へと消えていく。
俺たちの到着に、使用人たちは一斉に手を止めたかと思うと、女の使用人が三名ほど近づいてきて「お嬢様たちはこちらへ」と手を引かれ、中に通される。
「お嬢様のお仕度です。男性の方々は調度品を廊下に並べて外で待機してください」
ミレイアの号令。
一糸乱れぬ統率に、幼女の目が回る。
なんか腰にへんなものをつけられたり、髪になんかつけられて形を固定されたりと、もう何をやっているのかわからん!
シェリはなぜか興味津々で全部をしっかり観察してやがるが……なんで俺がこんな恰好をしないといけねぇんだ!
気がつけば、緑の宝石に金の装飾がされたネックレスやら、薄く紅を塗られたりと……。
これからパーティーでも始まるのか??
え?
ムサシが帰ってくるだけでここまでしなきゃいけないの!?
「これで一通りの見栄えは整いましたね」
納得したようにミレイアがつぶやくと、廊下から男性の使用人たちがわらわらと入ってきて、テーブルやイス、壁には風景画などを飾り付けていき、いつのまにか用意されていた紅茶を二口飲むころには仕事が終わっていた。
壁紙は柔らかいクリーム色に、カーテンは深い緑に変わっていて、さっきまで安っぽい木の枠だった窓が、急に「貴族の部屋」みてぇな顔をし始めていた。
ガストン、俺、やっぱお前怖いわ。
ミレイア……お疲れさん。
シェリは紅茶の匂いを楽しんでいる様子だが、それを目にしたミレイアは胸を撫でおろしていた。
「よろしいですか」
「うむ」
あ、そうね。シェリが主人だもんね。
「今回、非公式ではあるものの、領主の娘としての顔合わせの意味もございます。そのため、身支度はしっかりとさせていただきました」
「うむ……理解」
「お二人は姿を表さない領主であるお父様の代わりなのです。そのため、威厳を損なわぬようお願いいたしますね」
「無論、心得ている」
おお……さすが魔王。
その鷹揚な頷き方、すっげぇ権力者っぽい。
というか、そうか。
ガストンはあくまでも代官だから、実質的には勇者不在の場合、娘となってる俺らがトップじゃん!
やりたい放題!
「ですが……まだ幼いお二方に代わり、統治はガストン様に行っていただいてますので、成人されるまでは、こういった機会以外では、肩の力を抜いていただいて大丈夫ですからね」
ああ……ミレイアさんの笑顔……癒される。
頼りがいのあるお姉さんって感じがそそるぜ……。
じゃなかった。
つまり、実質的にはなにも権力ねぇだろそれ!!
いや、自由にできる時間があるってことは、呪いを解いたら遊んで暮らせる……はずだ。
たぶん。
ほんと、いい部下を持ったなぁ、俺。
腕を組んで笑みを浮かべる俺に、紅茶を飲んでぼーっとするシェリ。
一仕事を終えてひと息ついたところに、三人の元へ使用人から連絡が入った。
「お二人とも……来客です。では、こちらへ連れてきて」
ムサシが戻ってくるのは死ぬほど嫌だが、来る奴らにはちゃんと顔を覚えて帰ってもらって、街では優しくしてもらわねぇとな。
カップに残った半分ほどの紅茶を飲み干すぐらいに、扉から声がした。
「ルミナスヴェイル、衛兵隊長、ナタリアだ。失礼する」
ルミナスヴェイル?
この街の名前ってそんなんだったのか。
今になって街の名前を知った気がする……。
そうか、ドタバタしすぎて街の名前になんて気が向いてなかった……なんて名乗った???
「うむ……入れ」
シェリが鷹揚に返すが、待ってくれ!
あの怖い姉ちゃんじゃねぇか!
そういえば警備隊の隊長みたいなこと言ってた気がするけど!!
扉が開かれ、そこにいたのは甲冑を脱いで、紺と青で染められた日本の警察風の制服が特徴的な、赤茶のショートヘア。
元々、主要部位のみを守る甲冑姿だったが、すべてを外し、胸当てがなくなったことから殊更、主張が激しくなった胸が特徴的な筋肉質な女性。
ナタリアは、部屋に一歩足を踏み入れると同時に、後ろから伸びた手によって肩を掴まれ制止する。
「隊長、失礼するではなくて失礼します、のほうがいいんじゃないんですかね?」
しゃべり方にやや癖のある、柔らかい印象の声質。
「子どもと言っても、実質的な領主様でっせ」
そう言って、ナタリアの隣に並んだ男は、眠そうで気怠そうな目が特徴的な、淡い金髪の男だった。
ナタリアよりちょっと背の低い男だが、制服をだらしなく着崩していたりと、ナタリアに進言する前に、身なりを先に整えたらどうだ?と言いたくなる。
腕章などはねぇから、立場的には一般衛兵か?
そんな男がいた。
「そうか……失礼しました。もう一度やらせてはいただけないか?」
「やらせてはいただけませんか?いただけますか?あたりでしょうに」
「ぐぬぬ……やはり難しいな」
「さいで」
なんのコントを見せられてるの?
それとも夫婦漫才?
乳こねくり合うなら外でやれ!
ミレイアの咳払い一つで、ナタリアと昼行燈っぽい雰囲気なのに、なぜか上官と思われるナタリアに注意する様から、関係性がぐちゃぐちゃだ。
とりあえず、身なりはちゃんとしないが、そういった部分に目鼻が利く男ってことか。
というか、なんで子供部屋……いやまぁ、姉妹の私室って感じなんだろうけども、大広間に領主の椅子があっただろう。
そっちでやったほうがよくない?
「非公式な場なので、そこまで厳格にしなくても良いでしょう。崩して問題ありません」
ミレイアが助け船を出すことで、ナタリアは胸を撫でおろした。
「ところで……」
と、ミレイアはナタリアの隣の男をじっと見つめる。
「そちらの方は……私は面識がないと思うのですが」
「ああ、すまない。こいつをこちらへ連れてくる機会はほとんどなかったものでな」
「いやぁ、どうも。シンといいます。以後、よろしくお願いします」
被ってもいない帽子を胸に当てているかのように一礼をするシンという男。
飄々としているが、ミレイアの琴線に触れたらしく、笑みが浮かんでいた。
「御冗談がお好きなようですね。人当たりの良さは好感が持てますが、身なりはきちんとしてくださいね」
「申し訳ありません……ナタリア隊長に急ぎでこちらへお伺いと聞いたのですが、如何せん非番だったもので……無理に言ってついてこさせていただいたのに、みっともない姿を……」
俺からすりゃうさんくせぇのに、ナタリアからうっすらと感じるポンコツ隊長具合から、こいつを引っ張ってきた可能性が無くはねぇんだよな。
「非番なのは間違いないが、引っ張ってきたのは私だろ」
ナタリア、お前部下から刺されない?
ナタリアを最低な上司認定したところで、シンが背後に一声かけたことで、紫色の長髪が特徴的な変態が姿を現した。
「ムサシ……」
シェリの言葉がつまっている。
「ボス……拙者、不覚……」
いろいろとツッコミてぇな。
まず、シェリのことボス呼びとか今初めて聞いたわ。
不覚もなにも、てめぇがその性癖を克服してなかったのが問題だろうが!
「……やはりフェリ殿……御身の傍に使えてこそ、至上の喜び!!!」
あの、やっぱり返品しません?
今ならまだクーリングオフ間に合わねぇ?
そんな制度ないか、そうか。
「ムサシ……それ以上言うと、接近禁止令だす」
「ぐっ……それもまた一興」
おーい、ドン引きしてないで皆さん。
俺は悪くないし、シェリも一応悪気はないはずだから。
「本当に代官様はこの男を雇い入れて……?」
ナタリアの心配も尤もである。
「一応、ガストン様が手腕を認められたので……」
「さすがに私も教育に悪いと思うぞ」
ミレイアとナタリアのやりとりに「僕は面白いと思いますけどねぇ」と言って、シンが割って入った。
だが、その目はムサシではなく、俺を見て……?
「このお嬢様方、勇者の娘さんって話なのですよね?」
「シェリちゃ……様は御髪や目など似つかぬ点が多いですが、フェリ様は領主様の血が濃く出ておいでなので間違いないかと」
ふーん、と。
目を細めてこちらを品定めするシンという男。
俺の中のセンサーが危険をビンビンに感じ取っている。
やばい――幼女人格!出番だぞ!
――『キンッ』という音とともに、体がふわっと浮かび上がったかのような感覚に呑まれる。
よし、上手く行った!
「えっとぉ、パパは、パパだよぉ?」
――目つきがちょっと怖いお兄さん。
私がパパの子どもじゃないって言うの。
でも、パパはパパだよ?
私とお姉ちゃんのパパは二人いるの。
本当のパパと、優しいパパの二人。
とっても優しいパパがいるのに、なんでそんな風にわたしを見るの?
「ん?あぁ、ごめんねぇ。変なこと言っちゃったねぇ」
お兄さんが一歩だけ、こっちに足を踏み込んできた。
その時、わたしの心臓がどくんと跳ねた。
優しい声のままなのに、目だけがぜんぜん笑ってなくて、怖い。
『……でも、あいつの目は、昔のあのときのままだ。忘れてねぇな』
やだ……こわい。
むり……。
――『キンッ』という音と共に、ズシンと体に重さが戻る。
えっ、いらない時には出てくるのに、肝心な時で逃げんなよ幼女!
頼む!一人にしないで!
俺もこいつ嫌だ!
『やだ!』
拗ねたガキが言うこと聞いた試しねぇよなぁ!!
昔の俺もそうだった!!!
気がつけば、目じりに涙が溜まって、今にも溢れそうだ。
そんな俺を見てか見ずか――シンは片膝をついて目線を合わせ、目じりを指で拭った。
ミレイアの視線が一瞬だけシンの指先を追う。
すぐ笑顔に戻ったけど……その一瞬が、やけに気になった。
「君……オルフェリアン?」
は……はい?
「……フェリ?」
悪い、シェリ……今それどころじゃ……。
脳内に、勇者とバレたときの地獄が浮かび上がってくる。
『貴様……娘と偽って、俺のことを弄んだのか!勇者よ!!!』
激高し、絞め殺してきそうなガストン。
『勇者様……そんなご趣味が……』
ドン引きしつつ、なんか受け入れて、冷ややかな視線を送ってきそうなミレイア。
『勇者殿……いざ尋常に!!!』
あ、こいつは元の姿に戻らければ今とかわらねぇか。
『勇者……懲りずによくも私の前に姿を出せたものだ……』
絶体ワンパンされる。死ぬ。
『昔の事、忘れちゃいませんよねぇ?』
シン、絶対にあの時のことを根に持ってる!!
下手したら、領主館ごと持っていかれる可能性もある。
頭を働かせろ!
「シン……フェリ、困ってる」
「ごめんねごめんね。怖がらせちゃったかぁ。人見知りだったかな?」
俺を窮地から救ってくれたのは、シェリだった。
いつのまにか、椅子から降りて、俺とシンの間に立ちふさがっていた。
シェリが来てくれたことで、頭を搔きながら眉を垂らしてシンは元居た立ち位置へ下がった。
「しぇ……シェリ」
あまりにも迅速な対応に、思わず涙が零れちまった。
「うむ」
さっき折っていい?って思ってごめん。
今はバチクソに頼もしい。
「……尊い!!」
いま、ミレイアの声が聞こえた気がしたが、一旦放置しよう。
ナタリアは一瞬、ミレイアにジト目を向けたが咳ばらいを一つして、俺たちに一礼した。
「お嬢様方、失礼しました。この男、これでもガストン様が御認めになった人物です。私としても業腹だが……シンが加わってから子どもたちからの信が上がってな。どんな手品を使ったのだか……外では子どもたちからの信用も厚いのですよ」
「まあどっかの隊長様はいつも子どもを泣かしちゃってますからねぇ。今日は僕もですが」
「この減らず口さえどうにかしてくれるなら、副隊長に指名してもいいのだがな」
「僕は勘弁ですよ。今のままが自由でいいんです」
「……まぁ、お二人のお話はほどほどに……シェリ様、フェリ様。以降、何かがあった際は二人のどちらかを指名していただければ、衛兵たちも迅速に対応してくださいますので、覚えておいてくださいませ」
ミレイアが綺麗に場を締めてくれた。
あぁ、ようやく終わる。
「ああ、そうそう。隊長含めて知らないと思うんで、一応伝えておきますけど、勇者とバディを組んでいたシンです。これから会うことも増えるでしょうし、改めてよろしくお願いします――ねぇ、フェ・リ・ちゃん」
ば、馬鹿野郎!!!!
今その発言はいらねぇだろ!
しかし、この感じからして、ガストンだけは知っていた可能性が高くなりやがった!
ガストンが認めたというより、あいつが拾ってきただろ!
シンは元盗賊だぞ!
「な……シン……勇者の元バディであったのか。どうりで足運びが一般衛兵にしては抜きんでているわけだ」
今、その関心とかいらない。
ミレイアさんは眼鏡を直して「ほぅ」じゃないから。
感心しなくていいから。
シェリは無表情でわかんねぇし、ムサシは元々何を考えてんのかわからねぇ!
くそっ……地獄だ。
そう思っていた時、話を毎回ややこしくしている侍が手を挙げた。
「一つ、いいだろうか」
ナタリアはきつい睨みを利かせ、ミレイアは喉を鳴らし、シンとシェリはぼーっと目を向ける。
いや、誰か止めろよ!
「衛兵……貴様ら……あれで捕縛していたつもりか?」
なななな何を言い出すのこのクソ侍!?!?!?
「話を聞いていれば、真面目な会話をしていたのはミレイア殿とシェリ殿の二人だけ。武士を愚弄するつもりか?」
明らかに空気が重くなった。
いや、お前が一番不真面目だろ。
今もちょっと興奮してるだろ!顔が赤い!
「ナタリア殿の一撃、拙者の隙を突く見事な一撃であった」
「ほう、それでなんだムサシとやら。私が真面目でなかったとはどういうことだ?」
「僕も気になるなぁ、お兄さん」
シンに関しては完全に冷やかして遊んでるよな絶対!
「貴殿らは阿呆か言いたいのだ。まるで児戯のようであったぞ」
「あぁん?」
ひっ……ナタリアのあの感じ……俺の顔面をぐちゃぐちゃにしたときと同じ!!!
「なんだあの取り調べは!!!ただ縄で縛り付けて言葉だけなど、戯れが過ぎるぞ!!!」
悪化してたぁ!!!!
それ以上のプレイ要求してる!!!!
「味気がなさすぎる。刺激不足だ!シン殿も、勇者と組んでいたのであれば、もっと激しくできたはず!なぜやらん!」
「うわぁー飛び火しましたねぇ」
シンはあっけらかんと受け流している。
シン、そのメンタルちょっと分けてくれない?
刺激なんていらねぇんだよ。
お前が求めてるのは花街にでも行って解消してこい!
探せばあるはずだから!今すぐ行ってこい!
「……ならば尋問室に移すべきであったなぁ」
「やれるならやってみろ!今すぐに!どういったことをやるのか詳しく説明せよ!!!」
オプション気になってる客みてぇだよお前!
もう縄とって店に行ってこい!
つうか、お前なら縄で縛られても関係なさそうなんだが……そういう?
「……ガストン様の陳情なければ貴様など即刻斬首だ!!!」
まぁ、普通はそうよね。
見せしめに一刀両断がこの世界の普通っちゃ普通よね。
街の住人同士じゃなくて、権力者とのいざこざですものね。
きっとこいつ、喜ぶんだろうなぁ。
「いや、命を落とすレベルはNGで」
「え、えぬ?」
あ、そこダメなのね。
なんか線引きあるのね。
ていうか、NGとか使っても伝わんねぇから。
ナタリアさん困惑してシンに「NGとはなんだ?」とか聞いちゃってるし。
ナタリアさん、ほんとすまねぇ……。
もう本当にカオス。
離脱してぇ……あ、そうか。
トイレに行く振りして、この部屋を出ちまえばいいんだ。
今回の主役はシェリだ。
俺はあくまで添え物。
「お、お花摘み……」
小さく手を挙げて、ミレイアに確認をする。
ミレイアなら大丈夫だ。
ここでお嬢様の尊厳を守るために、話に関係の無い俺を快く送り出してくれるはずだ!
「困りましたね……では、使用人を呼びましょう」
さっすがミレイア!
「いや、大丈夫ですよ。僕が途中まで連れていきますよ。仲直りも兼ねてね」
は?
レディのトイレについてくるとか正気か?
変態じゃないのか?
「幼いとはいえ、女性と二人きりというのは……」
そうだそうだ!ミレイアの言う通りだ!
「さっきのことも謝りたいんですよ。使用人の方と合流するまででいいんで時間をいただけませんか」
「……そういうことでしたら」
ミレイアさんだめ!
こいつ、絶対違う!
使用人が来るまでに片をつけるつもりだから!
ミレイアに扉を開けられ、ベルを一鳴らしされると「くれぐれも、間違いは起こさないように」と、きつくシンに言葉を残して扉を閉めた。
幼女に手を出す輩はいないって思っただろうけどさ!
ミレイアさん、心綺麗すぎじゃない!?
よくガストンのところで働けてるな!!!
俺は助けを求めるため、扉を強く叩こうとして、後ろから両手を掴まれた。
「いやぁ、オルフェリアン懐かしいなぁ。瓜二つだねぇ君」
「ひぃっ」
「黄金の髪に宝石みたいに輝く目。ほんとうにオルフェリアン、懐かしいなぁ」
バ、バレてる。
「胸は?」
「……程よく」
「尻は?」
「適度にしまり……!」
「感度は?」
「上々!!!!」
「やっぱり本物だ」
「しまったぁぁぁぁあ!!!!」
シンが両手を離した瞬間、俺は四つん這いになって床を叩いた。
「昔と趣味かわってねぇな勇者」
「なんて俺ってバレたんだ!?」
もう知らねぇ……こいつには金さえ払えば、広めないでくれるはずだ。
こいつはそういうやつ。
今は今後バレないために聞くべきだ……くそっ。
「んー、見た目と声とで違和感バリバリだが、やっぱり勇者だな」
「そうだよ」
「ぷふっ……いや悪い。勇者が行方不明になってんだよ。衛兵の間でな」
その言葉で、郊外に置いてきた俺の装備を思い出した。
「本人なら理由くらいはわかってるだろうな。そんな中、勇者の娘が急に街に来たってなったら疑うわ。お前、またどっかで仕入れた魔道具誤作動させたんだろ?」
身に覚えしかない!
そのために、誤作動防止でグローブを二セット用意していたんだよな。
一個失くしたうえに、着け忘れてこの様だ。
「図星か」
「うん」
「やめろよ……見た目と声の所為で、マジで子ども虐めてるみてぇ」
「うるさい」
「にしても、カマかけただけで即ひっかかるとかほんと馬鹿だな」
え?
カマかけ?
「カマかけただけかよ!!!!」
「当たり前だろ!お前がどっかで女作る可能性のほうが高いわ!」
「いやいやいや。じゃあ本当に子どもだったらどうしたんだよ!」
「ハッ!思い返してみろよ。僕が何て言ったのか」
「え?」
『君……オルフェリアン?』
『いやぁ、オルフェリアン懐かしいなぁ。瓜二つだねぇ君』
『黄金の髪に宝石みたいに輝く目。ほんとうにオルフェリアン、懐かしいなぁ』
『胸は?』
『尻は?』
『感度は?』
「いや、最初にオルフェリアンって聞いて」
「胸は?で答えが返ってこなければ全部ごまかしたよ。本当にパパにそっくりだねぇとか言って」
「このクソ狸ヤロウ!!!!!」
「君が正直すぎるんだよ。おっと、夕食の準備で遅れてくれてた使用人が来ちゃうな」
クソッ!もっと聞きてぇことあるのに!
こいつ……昔から何考えてるかわからねぇんだよ……!
「大丈夫だよ。別に言いふらさないから」
あぁ、こいつ、こういう時はだいたい……。
昔と変わらず、目だけは笑っていなかった。
「お金、ちょっとずつでも返してくれれば」
金と交換……なんだよな……。
涙をほろりと落としたところで、シンが扉を開けた。
中もようやく落ち着いたようで、「ムサシをお連れしましたので、後はお任せします」と、怒ったようなナタリアの声が聞こえてきた。
トイレ行かないほうがよかったわ……。
――ほんと、この街は、俺の天敵しかいねぇ。
※第10話は11/23
22時に公開予定です。




