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最弱幼女? いいやホントは最強勇者!―幸福の街? 開けたら闇鍋だったが!?―  作者: 雨野せい


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8/13

第8話:視線は痛い。だいたい真実より先に飛んでくる。

【勇者殿観察記録 その参 掃除屋殿】

 本日、拙者は新たなる強者と遭遇した。

 夜の街角にて、火かき棒一本で暴れる狼(※酔客)を一瞬にて鎮める男である。

 追跡の末、その素性を探ってみたところ――どうやら本当に、ただの掃除屋殿であった。

 昼は街の掃除に、夜も街の掃除。


「道がきれいだと、心も少しだけ整うでしょう」と語るその背は、小柄ながらいささかも隙がない。

 この心、まさしく武。

 拙者もその精神を修行に落とし込まねばと思い、勝負を申し出たところ――


 掃除屋殿は、火かき棒を軽く持ち上げて、こう言い残したのである。

 『街を汚すのであれば、お掃除させていただきますよ』

 次の瞬間、掃除屋殿の姿は、夜霧のように消えていた。

 気配すら追うことかなわず、拙者、ただその足跡(掃き清められた道)を見送るばかりであった。


 掃除屋殿の目は穏やかであったが、あれは幾度となく“何か”を斬ってきた目である、と拙者の剣が告げていた。

 強者揃いと旅の噂で聞いていたが――

 間違いなくこの街は、すばらしい。

 以上。



 朝起きて、窓辺にかまって欲しそうに巻物を持つバカがいた。


 そいつがホクホク顔で、ぜひとも見てくれ、と言わんばかりにしていたから見てやった。


 あいつ、なんで朝から窓辺に立ってんだよ。


 その参ってことは、俺が『幼女』に体を奪われてた時も書いてたんだよな?


 見たくはねぇけど……。


 朝陽はムサシを照らしてキレイだったけど、俺の精神は曇天だ。


 この街、本当に嫌だわ。


 もう一度言うが、俺はこの街が嫌いだ。


 ――そんなポエムじみた観察記録を、朝っぱらから窓辺で掲げてるストーカーがいる街だ。



 朝起きて窓辺にストーカーが立ってる街を、好きになれる奴いんの?



 まぁ、なんかこんな朝が続きそうだと思っていた矢先、使用人に案内された俺たちは――ムサシは除く――朝食を摂る横で、髪がところどころ跳ねて疲れ切ったようすのミレイアから頭を下げられるに至る。


 今日も今日とて、綺麗な花が飾られるテーブルに、手入れの行き届いた清潔感のある食堂は、薄汚れた酒場で毎晩楽しんでいた俺には不釣り合いな感じがして居心地が悪い。


 すっかり板についた感じはするが、白いフリル付きのワンピースが、この館の中にある子ども服の中で、一番落ち着く恰好であると理解した。


 死にたい。


 シェリに関しては、青系統がお好きらしく、今日は水玉模様のワンピース。


 食堂に来る前、お揃いにしたかったらしく、こいつにしては珍しいと思うけど、むくれてやがった。


 食事の量は、ミレイアのおかげか、俺たちでも食べきれるくらいの量までしっかり減らされていて、正直コレが一番助かる!


 やっぱり仕事のできる女だな!



「申し上げ難いのですが……日中は、どうか……どうか……ガストン様にはお会いなさらぬようお願い致します」



 頭を下げたまま固まっていたミレイアがついに口を開いたか。


 なんでも、家族会議(?)のあと、子供部屋に突入しようとした回数は両手の数を超え、使用人総出で取り押さえていたという。


 もしかして、昨日の夜、簡単に外出できたのってそういう?


 だが、願ったり叶ったりってやつだ。


 今日は逃げる。いや逃げねぇ。いや逃げ……どうする俺!?



「お嬢様たちには、十分に楽しめるようガストン様から日銭を預かっておりますので……こちらを」



 装飾のされた手のひらサイズの革袋。


 銀貨一枚がそこに入っていた。


 シェリの方を確認してみると、同じように一枚。


 すげぇ!!ガキにこんなにくれるとか太っ腹じゃねぇか!


 あ、いや。


 ちょっと目を背けながら「財政が……」とかつぶやかないでくれるミレイアさん。


 あの、はい。


 さすがに子どもの体で使い切らないようにします。


 なんか、さすがに俺もあんたには同情するぜ……。


 あれ?もしかして、俺も昔、泣かせてたりしたのか?


 ……というわけで!


 外出許可をちゃーんと取れたんだ!


 銅貨一枚、約百円!



「楽しみだね!シェリ!」


「うむ。手、繋ぐ」



 なんだか気まずかった俺は、そそくさと、悪戯をした子ども(ガキ)みてぇに、食堂から出た。


 門番たちに軽く手を振り――体が勝手に手を振りやがった――果物と塩の匂いが混ざった風を感じながら、街へと続く、石坂を下り始めた。


 門番たちが見えなくなるくらいの頃、唐突にそいつが姿を現した。


 紫色の長髪、侍風の旅装束に身を包んだ男――ムサシ。


 今日は腰に刀はぶら下げていねぇみてぇだが……なんでこっちきた!?



「前髪サラサライケメンのがいい」



 本当にな……。って、なに口走ってんだ俺!


 だが実際、前髪サラサラのイケメンにストーカーされるなら百歩譲って許す。


 なんでよりにもよって、和風サイコ野郎なんだ……。



「ムサシ、武器は?」


「シェリ殿、不覚の極みではあるが、刀はこの街にて許されぬ様子。ガストン殿によって預かられておる」



 あ、没収されたのね。


 ガストン、ちょっと褒めてやるよ。


 和風サイコ野郎に武器もたせたままだと、完全に首輪のない猛獣(?)だもんな。


 いや、だったら館から出さないか、どっかに磔にしておいてほしい。



「シェリ、前のイケメンは?」


 これで通じるかは別だが、門で出会って、初めて外に出たときに護衛にいたヤツはどこに行ったんだ?


 シェリが答えるのではなく、なぜかムサシが口を開いた。



「休暇で逢引と言っておられた」



 なぜムサシが知っているかは考えないでおこう。


 シェリもつまらなさそうにスルーするんじゃねぇ!


 俺にとって死活問題なんだよ!


 このストーカーがいたら問題が起きる予感しかしねぇだろうが!


 でも、あのイケメン野郎……。


 俺が幼女化して……この呪いに苦しんで楽しめてねぇのに……。


 よし、あの宝玉と同じものが見つかったら、使ってやろう。


 イケメンにも俺の苦しみを味合わせてやる。



「フェリ、不機嫌?よしよし」



 頭撫でんな。


 今はデカい胸に埋もれてェ気分なんだよ。


 ああ、イケメンがしっぽりやってるって考えたらムラム……イライラしてきた。


 シェリが幼女じゃなくて、ナイスバディなお姉さんだったらなぁ……。


 ああ、こういう時だけ元男ってのを思い出すんだよな、俺。


 つい先日まで男だったはずなのに、幼女になってからの時間がすげぇ長いような気がする。


 幼女化、怖い。


 俺の中の男の視線は、シェリの慎ましい膨らみに。


 視線に気がついたシェリは、一拍置いて……。



「フェリ、赤ちゃん?」



 誰だそんなこと教えたヤツ!!出てこい!!



「フェリ殿は赤子であったか……」



 ムサシは神妙な顔でうなづいてるな変態!


 いや、この流れだと俺が変態!

 

 間違ってねぇけど!


 いや、間違いだ!




「ちがう!でも、どこで?」


「本読んだ」



 誰だそんな本読ませたの!


 いや、きっと教育的な本だろう、流石に。


 こいつのことだから、自発的に読んだとも思えねぇから黒幕がいるはずだ!


 気まずさから、俺は二人を引きはがそうと駆けだしてみる。


 ん……?


 あれ、マジでなんか体が軽くなってやがる。


 そもそも、幼女化してすぐだったらここまでの会話でもかなり息切れしてたはずなんだが……俺も成長したってことだな!



「フェリ、はしたない」



 そう思ったのは一瞬でした。


 すぐ横にシェリがいました。


 ついでにムサシは涼しい顔して、早歩きです。



「フェリ殿……ゴホン、下着が」



 なんだよこいつ。


 幼女の下着くらい別に構いやしねぇだろう。


 パンツなんて減るもんじゃねぇし。


 そもそも、スースーするの嫌だからズボンみたいなカボチャパンツだぞ?


 はっはーん。


 もしかして、こいつそっちの趣味があんのか?


 ちょっとからかってやるか。


 ほらよ。



「……拙者、児童に欲情するほどの特殊な性癖は持っておらぬ」



 呆れた顔されたんだが。


 いやいや、そもそも!



「ストーカーが倫理観かたるな!」



「ぬ……!?」



 そもそも、剣客っぽい恰好しながら幼女を追いかけ回すような奴が、ノーマルなわけねぇだろうが!



「この……ゴミクズ」



 指をさして、ゴミを見るような目で見てやった。


 膝から崩れ落ちて、少しはダメージを受けることを期待した。


 だが、なぜかちょっと顔を赤くして、ムサシは俺から目をそらした。



「楽しそう……置いてけぼり」



 いや、楽しくない。


 ムサシの顔、気持ち悪いことになってる。


 一旦、こいつは無視して市場に行こう。


 今のやりとりは忘れよう。


 ――よし、市場行くか。


 昨日はがらーんとしてた道も、今日は人でぎゅうぎゅうだ。


 同じ場所なのに、昼と夜でこうも変わるかってくらいの騒がしさ。


 露店のひさしから、焼いた肉の匂いと、香辛料の甘い香りが混ざって流れてきた。


 幼女の体が勝手に『お腹すいた』って言ってきやがる。


 いや、さっき食べたよな俺。


 つうか、俺は肉派なんだが?


 歩いていると、視界がやたら低ぃ。


 大人の腰とか太ももとか、そんなんばっか見える。


 あ、見えそう……ババアかよ……。


 じゃなかった。


 落ち着け俺。


 八百屋の兄ちゃんが元気よく声を張り上げてる。



「いらっしゃい!今朝とれたての――あれ、可愛い子たちだな。君は、妹ちゃんか?」



 違う、俺は妹じゃなくて勇者だ。


 シェリは真顔でスルーする。


 ムサシはその横で気配を消してる……つもりなんだろうが、特徴的な髪と服装だ。


 逆にめっちゃ目立つ。


 果物屋のカゴの中に、赤くて丸い実が山みてぇに積んである。


 ああ、ちょっと前に食べたリンゴだな。


 幼女人格が『たべたい』って手を伸ばしそうになるけど、必死に止める。


 こいつ、欲求に素直だな……。


 横では、干し肉を吊るした店がずらっと並んでる。


 肉汁がじわっと光ってて、新鮮さに俺の腹もなりそうだ。


 ハンターやら兵士たちのお供だな。


 でも、あんまり好きじゃねぇんだよなぁ、アレ。


 ああ……こうやって見回すと、この街の市場はちゃんと生きてるんだな、って思う。


 思うけど、それとムサシを消してくれって願いは別問題だ。


 混雑の中でも、あの紫頭だけは鮮やかに浮く。


 いや、お前その距離で見張られると普通に怖ぇよ。


 チラッとムサシに視線を向けたら……失敗だった。


 俺と視線が合うと、思い出したように体をブルッと震わせた。


 ダメだコイツ。


 体が重い。


 体力的にじゃねぇんだけど、もう帰りたくなってきた。


 ここで目にしたのは、別に特別な物は何もねぇ。


 治安やら、道の整備、綺麗さってのはあるが、目新しい物がねぇんだよな。


 シェリは立ち止まると俺の顔をじーっと見てるだけだし。


 ――少し、休憩にするか。


 朝飯から時間は経った。


 だが、昼までは時間がある。


 市場の隅っこで子どもが遊んでやがるが、そこに混ざる気はない。


 自分が悲しくなる……。


 たまには人間観察でもすっかなぁ。


 ちょうどいい場所にベンチがある。


 こういった備品(?)が街の至るところに設置されてるのも、この街のすげぇところだな。


 

 誰も腰を下ろしていない、長めのベンチに俺は腰を……腰を……。


 登った。


 シェリは両手でイスにちょっと乗り出して座れたみてぇだな。


 ちくしょう……羨ましくなんてねぇからな……。



「フェリ、ここ落ち着く」


「まあな」


「拙者は無用」


「座らせない。ずっと立ってろ」



 同じイスに座るなんて……と、思って失敗した!


 こいつを喜ばせただけだった!!


 取り扱い注意過ぎねぇかコイツ。



「シェリ、コイツ、今からでも山に捨ててこい」


「たしかに、ちょっと気持ち悪い」



 だろ?


 いや、だから喜ぶなムサシ。



「でも、いざという時、必要」



 いざも糞もあるか?


 昨日の夜だって、夜のお掃除屋さんが……。


 市場の真ん中で、見覚えのある服装の、ベレー帽みたいなものを被った中年が掃き掃除していた。


 俺に気がついたのか、一瞬動きを止めたかと思うと、口元に人差し指を持っていき「しーっ」みたいな口の動きをしていた。


 ニッコリと浮かべた笑みがやさしさよりも夜闇を感じさせてきて、背筋がゾっとする。



「ひっ……」


「あ。昨日のおじさん」


「ほう、やはり動きが洗練されておる」



 あの、なんでこうも感想が違うんだ?


 俺がおかしいの?


 頭を振って、忘れよう。



「ねぇ、一緒に遊ばない?」



 声をかけてきたのは、イスに座る俺よりも目線の高い少年(ガキ)だった。


 やたら綺麗な服を着た、育ちの良さそうな少年だ。


 栗色の毛に、頬にちょっとだけ残った傷跡から、やんちゃはしてんだなってわかる。


 後ろのほうに、笑いながらこっちを見てる六人くらいの子どもが見える。


 ああ、気を使って声をかけたのか。



「やだ」


「えー。でも、二人で何してるの?」


「人間観察」


「面白いの?」


「うむ、面白い」


 

 なぜかシェリが答える。


 お、面白かったのか?ただの暇つぶしだし、全然面白くねぇんだけど。



「ほら」



 とりあえずシェリに乗っかっておく。


 いや、なんでいい歳して子どもと……あ、今は俺も子どもだったわ。


 そこで、俺の中に名案が浮かんだ。



「じゃあ、お……わた……」



 ぐぅぅうう!子ども相手に俺なんて使ったらまずい!


 だから耐えろ俺!


 こんな時、俺も幼女モードならすらりと言えるはずなのに……!


 ――『キンッ』という音が俺の頭の中に響いた。


 幼女人格、テメェ……!また勝手にスイッチ入れやがって……!


 体から、重さが消えたような、浮遊感のようなものが俺を包む。



「わたしのぉ、決めた遊びならいいよぉ」



 あぁ……助かった。じゃねぇ!なにバチバチに笑顔決めてんだ!


 いや、頭の中はクリアだ。


 口だけが勝手にしゃべりやがる!



「私たちの護衛と、鬼ごっこしよ!」


「鬼ごっこ?」



 お?なんかムサシ排除の流れじゃねぇか?


 まさか、俺の気持ちを汲んで!?


『だって、私もムサシ嫌いだもん』


 へっ、わかってるじゃねぇか。


 口はお前、体は俺なら今の状況的に悪くねぇ。


『え?体も私だけど……頭の中だけだよ?』


 浸食されてるぅ!?


 嘘、マジだ。


 う、動かん!


 幼女、テメェ……!


『お姉ちゃんと遊べる!』


 あ、シェリと遊びたいのね。



「お姉ちゃんも遊ぼ?」


「……!うむ!」



 なんでそんなにうれしそうなんだよ!


 俺と話すときって基本“無”って感じじゃねぇかよ!



「拙者は護衛故……」


「ほら!お兄ちゃんも、みんなに言って!ムサシが鬼~!」



 黄色い声が広場から散りだした。


 まあこれで、ムサシを撒けると思えば――



「さすがに物足りぬな……児戯とは言え、本気を出しすぎたようだ」



 え?


 あの、いつのまに広場の真ん中に集められたの?


 九人の子供が、尻もちをついた状態で、ムサシを見上げていた。


 ……さっきまで市場にいたよね???



「ムサシ、手加減、覚える」



 シェリ、そういうことじゃねぇんだ。


 一瞬で子どもを攫ったようなヤツにいう言葉と違うと思う。


 ほら、何人かの子どもなんて泣きそうだし。


 俺らに声をかけた少年なんて、涙堪えながら親の仇みてぇにムサシを……。


 恍惚な表情するな!お前、なんでもいいんだな?!



「大人の癖に、ムキになるなよ!」



少年が一番に声をあげたあと、他の子どもも続いた。



「そうだそうだー!」


「ハゲ!」


「臭い!」


「護衛じゃなくて、ほんとはヒモだろ!」



 うーん、おしい!ストーカーが正解だな!


 何人かは泣き始めている。


 え?てか、俺も泣いてね?



「あっちいけ!へんたい!」



『お姉ちゃんと一緒に遊びたかったのに……!』


 シェリと一緒に楽しく走りたかったのね。


 でも、変態はほら、ムサシ喜んじゃうからやめとけ?


 ん?でも、なんか物足りなさそう……なのはそうか、こいつ、ゴミだったわ。



「うむ……ムサシ、空気読めない」



 シェリはもっと早く気がつこうな?


――『キンッ』という音と共に、体にドッと重さが戻った感覚がした。


 あ、幼女が引っ込んだ。


『ムサシ……嫌い……』


 そう言って、俺の中の深いところに消えていった……気がする。


 なに?


 常に俺の体を奪おうとしてる感じ?


 そんで、拗ねたら帰るの?


 めっちゃ迷惑なんだけど!?


 頭の中がゴチャゴチャしている間に、辺りが騒がしくなり始めていた。


 周囲の視線が俺たちを囲んでいた。


 なんか、目があった美人のお姉さんが目配せしたあげく、軽く頷いてきたんだけど?


 どういうことだ?



「こっちだ!衛兵、こっちに不審者がいる!」



 おい待て待て待て、話が加速しすぎだろ!


 いや、冷静に考えたら、泣いてる子どもらの前に立つ長髪の男って変だったな。


 次の瞬間、遠くで見覚えのある制服が人垣を分けてこっちに向かってくる。


 全員が同じ隊服に身を包み、自分たちこそこの街のシンボルと言わんばかりに、隊列を崩さず、人垣を分けていたんじゃねぇ、人間がこいつらが通れる道を作ったのか。


 先頭には初めてみる女の衛兵。


 赤茶のショートヘアが特徴的で、褐色気味の肌から色気を感じさせやがる。


 胸当てのサイズが合ってねぇのか、ただデケェのかわかんねぇが、近づかれるまで目つきの鋭さには気がつかなかった。


 気が強そうで、女っ気のない感じが、衛兵を率いる隊長の証みてぇな腕章が表してるみてぇだな。


 よくまぁ、女でそこまで昇ったな。



「私はこの街の衛兵をまとめている、ナタリアだ。子どもを泣かせている不審者がいると通報があった。対象は……お前だな?」



 いやいや、ついさっきですよ!?


 たまたま近くにいたにしては早すぎるだろ!



「拙者は変質者などではない!この二人の護衛だ!」



 その主張、俺は認めねぇけどな?



「貴様は先日も連行されていたな」



 ナタリアの鋭い視線がムサシを射抜く。


 その胸元の圧が強すぎて、こっちはこっちで視線の置き場に困る。



「拙者は変質者などではない!この二人の護衛だ!」


「顔を赤くするな!まっすぐ立て!」


「立っているではないか」



 いや、立ってるのは別のところだろどう見ても。



「前傾姿勢じゃないか!やましいことをしていたんだろう!」


「やましいことなど何もない!いやらしいことを言っているのはナタリア嬢であろう!」


「やらしくない!!胸を見て赤くなるな!!」



 衛兵が慌てて隊長を止めに入る。



「た、隊長……落ち着いてください……!」


「ええい……私を誑かして……抜剣!!!!」



 ナタリアの叫びと共に剣が閃く。


 同時に、衛兵全員が剣を抜いてムサシを取り囲んだ。



「児童誘拐未遂および、公序良俗……いや、公務執行妨害で逮捕する!」


「そのようなことは一切しておらぬ!武士を愚弄するつもりか!」


「貴様は私を侮辱しただろうが!!!」



 ほぼ私怨じゃねぇのそれ!?


 大丈夫この街の警備組織!


 いや、そんなことはどうでもいいが……この場合はやっちゃえナタリア!


 ムサシを牢屋にぶち込め!


 周囲もムサシに罵声を浴びせ……浴びせ?



「……くっ!……うっ!」



 なに苦しい表情してんだ。


 お前、顔赤くしてるし、前かがみだし、ちょっと達したろ。


 帰れ変態!



「拙者は武士だ!何も恥じるようなことはない!!」



 恥ずかしいよ……俺……あんなのにストーキングされてたの……恥ずかしいよ。



「どこからでもかかってくるがいい……」



 その瞬間――


 辺りの空気が一変した。


 一変しなくていいんだけど、さっきまでの雰囲気はどこへやら、ムサシの放った圧が場を支配した。


 十人を超える衛兵たちが一斉に襲い掛かる。


 無理じゃねぇかそれ。



 ムサシは武器なし、無手だぞ?


 普通なら詰む状況だが――いや、こいつは子どもを一瞬で広場にワープさせるバケモノだった。


 瞬きなどしてない。


 してないはずなのに、気づいた時には――ナタリアを除くすべての衛兵が地面に転がっていた。


 風圧が、ムサシを中心に円形に広がって消える。



「修行にはちょうど良い」


「どういう身体能力よ……魔法か!?」 



 見誤っていた。


 ムサシという剣客を、俺は見誤っていた。


 勇者であれば見切れたのかもしれねぇ。


 だが、音速を超えたであろうこの男に勝てるやつ、この街に一人でもいるのか!?



「フッ……無手にて勝利を得らるるは、剣の道の頂に近づけたし」


 なんかいいこと風に言ってるけど、絶対あれ『キンキン……』隠してるだけだからな?


 クソ侍……ドMストーカーなだけだろ……。


 目が合った。


 やべぇ、俺、今あいつが好きな目しちまってた気がする。


 ムサシはうっとりと目を伏せて口角を上げて、とても満足そうに見える。


 その一瞬の隙――



「そこだぁぁぁああああ!!!!」



 ナタリアの剣の柄が、ムサシの溝に突き刺さった。



「ぐぅ……不覚……だが、フェリ殿の目……大変美味であった……」



 性癖ドストライクで死んだ。


 お前はほんとに剣星目指してんのか?


 その前に色々克服すべきだろ。


 ムサシが崩れ落ち、起き上がった衛兵に縄で連行されていく。


 衛兵たちもタフだなぁ!


 ナタリアは踵を返し、俺たちに向き直った。



「うむぅ……さすがにムサシ、気持ち悪い」



 いまそこじゃない!


 シェリ、いまそこじゃねぇのよ!


 ナタリアが膝を折って顔を近づけてきた瞬間、胸元がドーンと突き刺さってきて視線が外せない。


 だが、どっかで見覚えが……。


 そうだ、王国で泥酔したときに、俺をボコボコにしてきたあの若い小娘だ。


 女性らしい体つきのクセに、男みたいな馬鹿力で、油断していたとはいえ俺を一撃で沈めたあの悪夢。


 バレたら殺される。


 ガチで。



「私情で悪いが、君たちは勇者の娘というのは本当なのか?」



 ほらーーーー!!!

 私刑タイム始まっちまった!!!!



「うん、ほんとう」



 シェリ!?!?!?


 ノータイムでなに言ってやがんだ!?



「フッ……そうか」



 肩に手を置かれた瞬間、背中を汗が伝う。



「父に似た面影を感じるが……」



 バレたら殺されるバレたら殺されるバレたら殺されるバレたら――


 うわ、肩つかむ手に力入ったぞ!?



「父は忘れ、健やかに過ごしな……あれ?」



 ……。


 風、気持ちいいな。


 帰ったら風呂か……。


 一人じゃ入れねぇし……。



「フェリ……限界だった?」


「ころせぇ……」


 濡れた下腹部なんてどうでもいい。


 抱きしめてくるシェリがあったけぇ……けど、今はいらねぇやさしさだ。


 濡れちまうから離せって……惨めだろ……俺……。


 空が青い。

 羽ばたきてぇ。


 帰りてぇ。


 気づけばシェリの裾までビショビショにぬれていた。


 その優しさがあったかいようで、胸に刺さった。


 シェリにはもうちょっと優しくしよう。


 ……この街、なんで俺にとって嫌な奴しかいねぇんだろ。


 いや、気のせいじゃねぇよなこれ。

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