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最弱幼女? いいやホントは最強勇者!―幸福の街? 開けたら闇鍋だったが!?―  作者: 雨野せい


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第5話:愛情は受け取る側の気分しだい。迷惑も、だいたい同じだ。

 久々の緊張に、俺の鼻が鋭さを増した。


 さっきの広場から、風が香りを運んできやがった。


 ――ああ、これか。


 さっき広場の向こう、路地の奥にいた“ぞわっ”とする正体不明の何か。


 ……でもまあ、気のせいってことにしとくか。


 そういうことにしねぇと、落ち着いて街も歩けねぇ。


 今はまだ、気づいたことにしたくねぇ。



「シェリ、いこ」


「?……うん」



 シェリは気がつかねぇのか?


 いや、こいつならまだ無理もねぇ。


 魔王城と呼ばれたあの場所から出ていなかった。


 街の喧騒、人の賑わい、人間賛歌ってものを知らねぇんだろう。


 それに――この、香ばしい果物たちの匂いの中に、微妙に混じる嫌な気配。


 そんな繊細な察知は、たぶんまだできない。



「おじさん!リンゴ、ひとつ!」


「はいよ。銅貨3枚だ」



 ……ちょうどいい。


 こういう日常の匂いに紛れてりゃ、さっきの恐怖も忘れられる。


 ふっ――シェリがお小遣いをもらってたことは知ってるぜ。


 いや、小首傾げるなよ。


 その首からさげてる小奇麗な袋、なんでワンピースの下にしまって……いや、防犯意識的には正しいか。


 仕方がねぇから、引っ張り出して払ってやると、胸に手を突っ込まれても無表情でされるがまま。


 ……ほんと、こいつはこういうとこ動じねぇよな。


 あ、けっこう美味い。



「あ、買った。そっか」



 ようやく理解したらしいこいつの口に、俺は齧ったリンゴを突っ込んでやる。



「うむ。美味」



 目を少し垂らしたシェリ。


 こうしてみれば、年相応にも見えなくはない。


 ……まぁ、色々あったんだろ。


 ま、今はこの辺りにある店のモンをいろいろとつまみ食いしてみっかな。


 このリンゴは俺のだ。


 物欲しそうな顔をするなら、シェリも自分で買ってみな。


 ガストン、子どもに銀貨一枚は持たせすぎだろう。


 ありがたく使ってやるぜ!


 さてさて、次はあの蜜柑みたいなヤツでも見に行くか。



「フェリ、あそこ」



 シェリも腹ペコか?


 やっぱり目に付いた美味そうなモンを見かけたら欲しくなるよな。



「フェリ、衛兵、行った」



 シェリ……いまは考えたくねぇ……。


 お目付け役がどっか行ったならこっちのもんだろ。


 んー、でも俺の口は酸味より甘味のほうを求めてんだよなぁ。



「フェリ!」



 シェリが俺の手を強く引っ張った。


 なんだよ。


 今いいところ――振り返った俺の目に、嫌な雰囲気のソレがいた。


 流浪人。そんな言葉が脳裏をよぎる。


 ボロっちい旅装束なのに、妙に姿勢だけはまっすぐな細長い影が、イケメン衛兵と向かい合っていた。



「勇者はいるか?」



 え?今、勇者っつったか?



「誰だお前。今俺はかわいい女の子たちの護衛をしてるんだよ」



 イケメンの声からして、呆れた様子が伝わってくる。



「勇者はいるかと聞いている」


「話の通じないやつだな。そもそもこの街じゃ――」



 全身がヤバいと、俺の五感が激しく警告する。


 息をのんだ瞬間――


 次の刹那、空気だけが裂けたみたいな音がした。


 パシィッ


 気づいたときには、衛兵は膝から崩れ落ちていた。


 俺の手にあったりんごも、落ちた。



「恐ろしく速い手刀……」


「えっ、あ――え?なに?え???」



 シェリちゃんのセリフやばい!


 色んな意味で!


 え、てか俺全く見えてなかったんだけど!!


 ゆらりとヤツの目が光って揺れていた。


 腰まで伸びた、紫色の長髪。


 細身なのに、無駄のない筋肉だけが張り付いているみてぇな体つき。


 侍風の袴を履いた和服を身にまとった、いかにもどこかの国の剣客ってツラ。


 腰には大小二本の刀。


 なんか、ヤバい!



「その輝き……まごうことなき……勇者!!!」



 カッと目が開かれ、全身が息を忘れちまったみたいに固まった。


 袖に手を通し、ゆっくりと俺に近づいてくる。



「……誰?」



 今もなお、この男から出ている圧に動けない俺。


 対して、シェリはなんともないといった様子で、俺たちの間に立った。



「其方に用は……き、貴様……何者だ!?」


「シェリ。フェリの姉」


「む、むう……失礼ながら、そこの……お、女子?」



 目を見開いて、男が俺を見定める。


 殺気はどこへいったのか、緊張の糸が切れ、どっと汗が噴き出した。


 辺りをどよめきが支配する。



「い、いま勇者って言ったか?」


「それより、あいつ武器を持ってるぞ!」


「衛兵!衛兵を呼べ!」



 頼む!早く助けを呼んでくれ!


 俺の願いも虚しく、シェリとの間にいきなり現れた男は、片手で俺を持ち上げた。



「む……ぅ!?其方……勇者か!?」


「ちがう!フェリ!」



 片手で脇を鷲掴みしやがって……指が食い込んで痛ぇ……!



「フェリ、下ろして」



 シェリが男の足にしがみつき、抵抗してくれる。


 男の目には、俺だけが映っているようで、周りの騒ぎなんて一切気にした様子がなかった。



「いや……しかし……」



 そう呟いたこのクソヤロウは、俺を地面にゆっくり下ろしたあと、数歩下がって腰から刀を俺に投げた。


 反応できなかった俺の胸に、重いソレがあたって、情けない声が出ちまった。



「まあ良い。それを抜けばわかる」



 そういって、腰の獲物を抜き放つ男。


 再び、緊張が走る。


 呼吸は消え、風も無くなる。


 ただ、ゆっくりとシェリがそれを拾い上げた。



「勘違い。フェリ、勇者の子」


「なん……だと!?」



 周囲に張り詰めた空気が一気に霧散。


 もう、なん度目だ……息が……。



「どういうことだ……いや、そうか!そういうことであったか!!!!」



 雷に打たれたような衝撃が周囲に走った。


 え?今、雷本当に落ちなかったか!?



「そうか、勇者の子であったか!そうか、そうか!!!」



 すべてを悟ったような顔をして、男はゆっくりと近づいてくる。



「勇者殿。そういう設定なのだな。おかしいと思ったのだ。拙者が前にあった勇者と全く同じ魂が、このような姿でいることに疑問を抱いたが……これも修行なのであるな?」



 俺が勇者と完全に見抜いている?


 嘘だろ……。


 いや、こいつ色々と変だ!



「そう。だから、かかわら――」


「感服した!その道、拙者も共にしてよろしいであろうか!!」


「は!?」



 思わず声が漏れた。


 いやいや、話の流れがまったくわからん!


 シェリも眉を顰めて固まってるぞ!


 こいつ、思考がジェットコースターすぎる!!



「よい。事情はわかった。わざわざ勇者の子と偽り、己を一から鍛え始めるとは……今までの武を捨てるのがどれほど恐ろしいことか……その決断をする貴殿こそ真の侍――いや、勇者であったか。力任せであっても貴殿は――」



 なんかこいつのマイワールドをひそひそと、俺の身長に合わせて膝をつき、小声でしゃべってくれてんのは感謝するが……周囲の目が痛い。



「――であれば、拙者が貴殿の道を示し、共に――」


「うるさい。フェリにとって、害悪」



 シェリが圧を放ったらしく、侍の動きが止まった。


 いや、こいつの殺気より強いの出せる魔王様、マジパネェッす。



「あ、姉君こそ真の勇者では?いや、ボス……?」



 うーん……ボスと見抜くあたり、こいつなんかすげぇな。


 魂を見たみたいな発言も、こいつの能力か何かなのか……。



「姉君よ……その殺気を押さえてはくれぬか」


「……手を出す、禁止」


「心得た」



 やべぇ……こいつ、姉君とか言ってるけど、次は絶対俺に向かってくるやつだ。


 てかもうこっち向いてんじゃねぇか!!


 息を整えた男は、シェリが差し出した脇差を腰に収めると、正座してひと息ついた。


 いや、あの、傍から見たら、幼女二人に正座する侍ってどうなん?


 俺、早く帰りたくなってきたんだけど。



「フェリとシェリ。平和に暮らす。手出し、禁止」


「ふむ。不躾ながら、そのような姿であれば、無法者から身を守るのは……そうか!なるほど」



 いや、なにがなるほど?


 シェリさんも困ってますが?


 こっちに向かれても俺だってこの侍が何を考えてるのか、まったく、わからん!



「して、フェリ殿はどういったお気持ちでおられる」



 いや、「して」じゃねぇよ。


 俺、お前、わからない。


 え?待って、今どんな流れだっけ……えっと、たしか――



「ゆうしゃの……こ?」



 目の前で、ドカンと響く衝撃が走った。



「ふふふ……ふふふふふ……ハハハハハハハ!!!!!!」



 やばい。なんか地雷ふんだっぽい。



「そうか!そうであったか!心得た!拙者、決めたぞ!フェリ殿の護衛をいたそう!」


「なんでぇ!?」


「うむ」



 いや、「うむ」じゃねぇよ!なんでシェリは納得してんだよ!


 なにがどうしてそうなった!?


 お馬鹿な俺にもわかりやすく三行くらいで説明してくんない?!


 ……え?もしかして……。

 

 シェリがさっき「勇者の子」って言ったの、ムサシが都合よく噛み砕いて解釈しただけじゃねぇの!?


 ていうか、俺の口からも「勇者の子」とか言って、それを補完した形になっちまってんじゃねぇか!!!!



「フェリ殿、やはり貴殿は只者ではない。……共に行こうッ!」



 決心をしたように、なぜか俺の手を両手で包み、片膝立ちで涙を流す男がいた。


 どうやら名前はムサシというらしい。


 俺の名前を叫びながら、衛兵に連れていかれたあいつの名前を、領主館で聞いた。


 ガストンはなぜかめっちゃ泣いてた。


 俺が泣きたい。





 そして翌朝――

 

 俺はこの街で二度と味わいたくない種類の疲労を抱えたまま、窓を開けた。


 朝の鐘と共に、遠くから運ばれた潮風が俺の意識を覚醒させる。


 そういえば、海が近いんだよな。



「ん……フェリ、起きた」


「おはよー」


 魔王の威厳ゼロの銀髪の少女が、目を擦りながら近づいてくる。


 ふわっと肩までの髪が揺れて、寝間着の襟元が少しだけずれていた。


 寝間着がちょっとえっちな感じ(エロくはねぇ)に乱れてる様子……


 うん、幼女。


 はいはい、目の保養、目の保養。



「むぅ……かゆい……」



 首筋やらうなじやら、胸元のあたりが小さく腫れて見える。


 蚊に食われたのか?


 お前の血は美味かったんだろうな。


 たくさん刺されてくれてありがとな。


 俺は無傷だぜ。


 不機嫌そうに、机にある水差しへ向かったシェリを尻目に、再び潮風を味わおうと振り返る。


 ん?


 最初は気がつかなかったが、窓枠になんかヒラヒラした……羊皮紙か?


 文字が書かれたそれを掴んでみる。


 メモみたいな感じで、なにか書かれて――



『フェリ殿観察記録


 勇者の娘、フェリ殿の様子を記録しようと思う。


 看守の目を盗むのに時間がかかってしまったため、すでに眠りについてしまったようだ。


 月明りもあり、観察にはちょうど良い窓があったため、以降ここで観察をする。


 フェリ殿は姉君を抱き枕のようにして眠るようだ。


 日ごろから仲の良い姉妹ということだろう。


 だが、姉妹の生活というものを知らぬ拙者には、どこか違和感を覚えるため記すこととしよう。


 急に首筋などに接吻をして、徐々に布団へ潜り込んでいってしまった。


 児戯かもしれぬが、どこか官能めいているため、心眼で見るのはやめておく。


 布団の中へ消えるまで、幼子にしては妙に手慣れた様子で姉君にじゃれつくさまから、もしかするとそういった関係の可能性も……?


 いや、これは姉君であるシェリ殿からの頼みなのやも知れぬ。


 高貴なものにはそれなりの教育というものがあると聞いたことがあった。


 以降、この件に関しては記録を取らぬよう記載しておこう。


 ふむ。拙者もそういった児戯、遊戯の知識がないため、後日、夜の街にて学ぶべきか……』


 と、そこで手記(?)は止まっている……。



「わぁぁぁぁああああ!!!!」



 見境ねぇな俺ぇぇぇぇ!!!!



「フェリ?」



 頭を抱えた俺のそばに、いつのまにかシェリが……。


 あ、いつのまにそれを!


 ……あの、何も言わずに悲しそうな顔をするの、やめて?



「……フェリ、虫に刺された?」



「うわぁぁぁあ!いうなぁああ!!!!」



 ……もう……やだ……しにたい……。


 窓、しめよ……


 きょう、ずっとおうち……いる……。



 え……待って。


 身を乗り上げて、窓を閉めようとしたら、階下の窓の下に……。


 紫色の髪に、和服を着た侍が……正座してこっち向いてる。



「ずっと待っていた」


「帰れぇぇぇぇええええ!!!!」


※次話「第6話」は明日の20時40分に投稿予定です。

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