第2話:失敗を反省できるのは、まだ自分が残ってるうちだけだ。だいたい、残ってない。
フェリだ。
また“キン……”の気配がする。
悪夢ってわかるか?
この気持ち、誰か一人くらいは共感してくれんだろ……?
俺はボンッキュッボン!の女が好きだ。
エロい女が好きだ。
『キン……』する姉ちゃんが好きだ。
『キン……』が好きだ。
『キン……』が好きだ。
『ゴォォォン!』
が……いい加減にしろってんだ!こっちは風呂で死んだんだよ!
なんでむさ苦しいおっさん共の『キンッ!』見本市に参加しなきゃならねぇんだよ!
そりゃ立ち上がるモノはねぇけど?
いきり立つ感情も、たぶんどっかに置いてきちまったけどさ?
というか呪いに食われた……。
それでもよぉ……守りたい世界があるだろうが……。
なんでおっさんに介抱されながら、すっ裸で天井を見る羽目になってんだよ俺。
「じっとしてて偉いでちゅねぇ~」
やめろ。
角ばった顔の筋肉ダルマが優しい声出すとか、一番むさ苦しいんだよ。
髪に触るな。
妙に慣れた手つきで梳かすな!
「……」
おいシェリ。お前ここ、一応男湯の脱衣所な?
お前も女(幼女)ならわきまえろよ。
てか、そこにいるなら最初から一緒の苦しめや!
……まぁ、タオルをそっと置いてくれたのはありがてぇが……。
だからって――
憐れむような目で俺を見るなああああ!!!
……はぁ。なんでこんなことになっちまったんだろうな。
いや、原因はわかってる。
全部、あの日の”アレ”のせいだ。
あれは――俺がまだ”勇者オルフェリアン”だった頃。
男の中の男、筋肉の中の筋肉、女と酒と博打で遊び明かしていた、黄金時代の話だ。
……まぁ、今思えばクズの極みなんだが。
――ここからは、ちょいと昔話になる。
毎晩のように酒を浴びていた。
戦いの勝利も、戦いの敗北も、酒で流し込んでバカ笑いし遊びまわる毎日。
最高だった。
毎朝のようにどっかの美女のベッドで目覚め、昼間は街中の美女をからかって遊びまわる。
俺が歩きゃ女が振り向き、俺が手を上げりゃどっかの偉い肩書もったおっさんも、魔物だって土下座し、一声かけりゃ国が動く。
……そう、あの頃の俺は輝いてた。
いろんな意味で、な。
で、その黄金期にトドメを刺したのが――魔王ルシェリス。
今はシェリって呼ばれてる銀髪のクソ幼女の元の姿。
その名を聞きゃあ誰だってブルってチビっちまう悪逆非道の大魔王。
だがよ、そいつは俺よか小さい奴だったんだ。
俺っていう特大の器に比べりゃ、酒飲みのカップよりも小さかったなぁ。
思い出すだけで笑えてくるぜ。
本来ならラスボスとして、勇者が命を懸けて戦うべき最大の敵さ。
荘厳……って言やいいのか?
たいそうな広い部屋に、デカいイスに座って俺を待っていやがった。
てめぇの頭よりでっけえ角を二本、こめかみから生やした男。
肩まで伸びた黒髪と、底なしみてぇな紫の目が、いかにも「ラスボスです」ってツラしていやがった。
全身を真っ黒に染めやがって……ぶっちゃけイカすぜ。
俺なんかは勇者だからな。
全身がピッカピカの銀一色。
まぁ、黄金の金髪と宝石みてぇな青い目で「キャーキャー」言わせてる俺のほうが上だけどな。
威圧感をバリバリに出して、俺を目で殺そうとしてきやがった。
そこら辺にいるガキや城を守ってた衛兵なんかはそれでコロッと逝っちまうんだろうな。
だが、そんなもん俺に聞くはずがねぇ。
睨まれたって痛くも痒くもねぇし、そもそも俺はもっと怖え女を何人も相手にしてきてんだ。
「おい、ビビってんのか?なんか喋れよ」
そう言ってやった瞬間だ。
ヤツの視線が、氷みてぇに細くなった。
「……勇者よ。貴様は、死にたいのか」
やっと口を開いた魔王の第一声がこれだよ。
なんだよその“ラスボス台詞集の1ページ目”みてぇなのは。
しかも声の響きが妙にカッコつけててムカつくんだわ。
「いや、死ににきたんじゃねぇよ。お前がチビって逃げられねえみてぇだから来てやったんだよ」
「……理解できん。千年の闇を統べし我を前に、なぜ貴様は笑っていられる」
ほら来たぞ。
長ぇ。絶対長ぇやつだ。
「三行にまとめろよ。 あと“千年の闇”とか言ってるけど、お前……友達いなかったろ?」
魔王の眉がピクッと跳ねた。
あの最強魔王が、だ。
「……貴様、我を愚弄しているのか」
「いや? 愚弄っていうか……お前の話、マジで長文すぎて眠くなるんだって。 ぼっち特有のやつ」
その瞬間だった。
空気が変わった。
魔王の紫の瞳が“ブチッ”て音を立てたように揺れた。
「……フフ、ハハハハッ!……我の負けだ勇者よ」
「あ? 今なんつった?」
「負けだと言っている。貴様の、馬鹿さ加減にだ」
……余裕ぶってんじゃねぇよ。
だが、”条件は整った”ようだぜ。
俺が使える唯一の魔法のな。
「いま、負けたっつったか?」
「あぁ、負けたさ」
余裕の表情が消えるのを、想像するだけで笑えてくる。
「認めるんだな?俺の勝ちだって」
「貴様のその頭に勝てるものがどこにいる?ずいぶんと心地よいのだろうな。勝者の視点というものは」
いけすかねぇ言い方をしてきやがるが……まだ笑うな……ククッ。
「負けを認めたヤツには……やっぱコレが一番だよなぁ」
あぁ、ダメだ……絶頂に近い……やべぇだろこの高揚感!!!!
「皮肉で言ったことだ。真に受けるなど、勇者とは本当に……?」
どうやら気が付いたらしいな。
この空間の歪みに。
「なんだ、その魔力の揺らぎは――」
突然、世界が音を失った。
空間が歪み、魔王の玉座の広間が真っ黒に染まった。
俺と魔王の二人だけが宙に立つ。
「――まさか……禁忌魔法……!なぜおまえのような者が!!」
「隷属魔法《敗北者に接続》――発動!! これでもう、お前は俺の”負け犬”だ!!」
「き、貴様……!!禁忌だと知っているだろう!?使えば、お前の魂も……!」
魔王の声に、確かに“恐怖”が混じった。
「俺はなぁ……”俺より強いヤツ”が大嫌いなんだよ」
あぁ、本当に吐き気がするぜ。そんな存在が俺の前を歩くとなっちゃあ。
「だからよぉ、決めてたんだ。負けを認めた瞬間――死んでも隷属させるってな!!!」
……きもちいい!!
「狂っている……!!」
「ああ?魔王を奴隷にできるなら、釣り合いどころかお釣りがくるわ!!生涯一度きりの魔法?使うなら今だろォがぁぁぁ!!」
邪悪って表現が一番似合う光だった。
それが爆発した瞬間、奴隷が胸を押さえて苦しそうにうめき声をあげていたぜ。
「あ……が……ッ……!!」
「これで、お前は俺のもんだ。逃がさねぇよ、”魔王ちゃん”」
あの時の俺は気づいてなかった。
この一言が、地獄の始まりだったってことを。
いや、だが問題はこの後の出来事だなぁ。
全部が崩れたのは、旅の帰り道。
魔王の力量を確かめてやろうと連れて行った遺跡の中で見つけたアレだ。
薄暗い古代遺跡。
なんでも、他の転生者たちが作った墳墓とかっていう場所らしいぜ。
一応、俺も転生者だけどな!
そんなこと、今はどうだっていいだろう?
まぁ、薄暗くてジメジメしてて、歩きづれぇし、野生の魔獣だって住み着いていやがる。
宝がなけちゃぶち壊して帰る気満々だったんだが、お目当てのモンを見つけちまったからなぁ。
いま考えりゃ、どう見ても触っちゃダメな紫色の禍々しい宝玉だ。
しかも、えらく厳重に封じてあってよ。
それにしても、魔王ルシェリスには助かったぜ。
あいつとタイマンしなくてよかったぜ。
指先ひとつでガーディアン・ゴーレムが木っ端みじん!俺の怪力でもできねぇことを指一本だぜ?
良い買い物をしちまったわ!
でも、あんとき魔王ルシェリスが言ったんだよな。
「おい、勇者オルフェリアン。それに触るな」
「ははっ、魔王ルシェリス様がビビってんじゃねぇよ。見ろよこの輝き!高く売れるぜ」
「我は忠告したからな」
ビビった魔王はそこで転移しやがった。
つうか、転移できるなら最初から俺を王都まで帰せって話だ。
まぁ、俺も奴隷の言うことにだってちゃんと耳を傾けたさ。
別にビビったわけじゃねぇ。
封魔の手袋っていう魔道具を持っていたからな。
それで回収して持ち帰ったってわけ。
問題はそのあとさ。
かったるい森を抜けて、さきに俺の領地でパーッとやってから王都に行こうと思ったときよ、ちょっとだけ宝玉を見てみようと思ったわけよ。
そんで、俺も疲れちまってたからよ。
――そう、忘れてた。
封魔の手袋をするのを。
今までのことが、走馬灯のように駆け抜けていたんだ。
袋から取り出し、触った瞬間には――ドンッ!!!
ピシャアアアアアッ!!と、稲光みたいなすげぇ光。
――次の瞬間、体が縮んでいやがった。
俺の大胸筋が旅立っちまったのはすぐにわかったさ。
それよりも、な。
俺の大事な”アンディ”が、どこかにいっちまったのが一番ショックだったよ……。
なぁ、アンディ。お前は元気か?
(※アンディ=俺のかわいい相棒だ。察しろ)
お前がいなくて俺は、何もかもを失っちまった気分だぜ。
ちらかる白銀の鎧に俺の姿が映った。
髪はふわふわ、肌はつやつや。
宝石みてぇな青い目だけはそのままなのが、逆に腹立つ。
身長は半分もねぇし、パワーはゼロ。
せめて胸っと期待したが、あまりの絶壁。
せめていい感じの葡萄くらいはついていてくれよ……。
つうわけで、幼女オルフェリアン爆誕。
魔王?
こいつも巻き添え食らって幼女化してたぜ。
街まで歩けねぇから呼んでやったら魔王もちいせぇ。
笑うしかねぇよな。
「……お前、だから言っただろ」
「きゃははは!おれの前からにげた罰があたってやんの!」
このときのルシェリスは、落ち着いてんのか呆れてんのか判別不能だった。
「まぁ、冗談はほどほどにして、ほれ魔王。これ、治せ」
両手を広げて、受け入れ準備完了。
地上最強の魔王様だ。
本当にこういう時ってめっちゃ便利ー!
それにしても笑えるぜ。
角なんて無くなってやがるからなぁ!
あれ後付けの角って事だろ!?
わかるわかる。悪の親玉っつったらデッケェシンボルがねぇとシまらねぇもんな!
あー……笑える。
「早くしろよ」
「仕方ない。やってみよう」
手を自分の”無い胸”に当ててやってやがるが、素っ裸の幼女二人でなにしてんだコレ?
突然、目の前が真っ白に染まった。
きたきた!これで元通りだ!
……。
…………。
地面に転がる俺の鎧に衣服。
こんなにデカかったんだなぁ。
生地はやわらけぇし、肌は生まれたてみてぇにスベスベ……俺ってまるで天使のような玉肌……?
「すまん」
背ぇは低いくせに、見た目からすりゃ低めの声を出すガキがいた。
「無駄なようだ」
無駄……?
ちっちゃくて、転がってる剣も握れそうにねぇ貧弱なガキの手が二つある。
その気になりゃ、そこに転がる靴に両方ともおさまっちまうくらいのほっそい足。
「あははは……」
ぎゃああああああああ!!!!
おれの!
おれの!
俺の体が!!!!
幼女になってやがる!!!!!
この鎧だってさっきまで俺の大胸筋にジャストフィットしてッーー
「おい、勇者。死ぬ気か?」
み、みてねぇで……た……すけ……あぶねぇ!
自分の鎧に殺されかけた!!
え?ていうか。
「おれのこえぇぇぇ!?」
「今更か。愉快だな」
「今更か。じゃねぇえええ!!どうなってんだよ!おかしいだろ!」
「どうしたも……こうしたもない。幼女化だ」
「どうしたもこうしたもあるだろうが!なに冷静でいやがる!」
「いや、なに。自由だ、と思って……な」
「澄ました顔してんじゃねぇ!一大事だぞ!」
そうだ!一大事だ!
とりあえず……下を見る。
……。
見る。
…………。
見る。
………………。
畜生!!!!
畜生!!!!
地面ってこんなに硬かったか!?こんなに冷たかったか!?
「アンディィィィイイイ!!!!」
「騒々しい。土埃を立てるな」
やめろ!現実を突きつけるんじゃねぇ!
勇者だぞ!勇者だったんだぞ!?
大地を殴れば、大地が裂け、剣を振れば海を割った実績を持つこの俺様が!!!!
こんなパワー”ゼロ”のおこちゃまになったなんて現実!!!!
いや?
これはやっぱり夢だろう。
そうそう。
そもそも、俺が見てる幻覚にちがいない。
だってほら、なんで目の前にあらわれた幼女が、魔王のはずがあるか?
月明かりみてぇな銀髪を腰まで垂らした、どう見てもただの女の子だ。
えーっと、たしかー、げんかくからの覚ましかたは……
あたまを強くうちつける。
「おい、早まるな」
「うるさい!幻覚はどっかいけ!魂の回路から命令する――出でよ!魔王ルシェリス!!」
黒い煙が辺りを覆った。
ちと張り切りすぎて尻もちをついちまった。
だが、これであのちんちくりんの幼女の前に、本物の魔王が――
「ああああ誰だてめーーー!!」
煙の中にいたのは、さっきと同じ幼女。
今度こそ確信を持って言える!こいつこそが魔王!魂がそう言っている!!
だが……そんなわけ……ッ!!!
「何度で見ても同じだ。小さき勇者よ」
「お前も縮んでるだろうが!!」
「あぁ、そのとおりだ」
淡々としてるこいつに腹が立つ!!
くそっ!でも、こいつマジで……なんで俺よりも頭ひとつ分でけぇんだよ……。
力で勝てる気がしねぇ……。
「その、なんだ。ここはどこなのだ」
「ッ!そうだ、ここは俺の領地のすぐ近く!ちょっと歩けば街があるんだ」
「ならまずはそこを目指すのがよかろう。この体だと、野犬にも負ける」
え?マジで?
あ、うん。
そうかも。
あれ?おっかしいぞ?ちからがでない。
ひざこぞうが笑ってるぞぉ?
「立ち上がれないのか?ふん、子どもだな」
「やめろ、そのことばは俺たち二人に効くぞ」
返事もなしに手を差し出しやがって……。
なんだかんだコイツがわりぃ奴じゃねぇのは遺跡でわかってる。
ありがたく借りさせていただきますよっと――
「すまん」
んー。遊んでいるのかな?
魔王テメェこのヤロウ。
なんで俺の上にのしかかってんだ?
「ふむ。躓いたようだ」
ゴスッと俺の腹に重てェ一撃が決まる。
オークに一発許してやった時の衝撃だった。
あれは効いたぜ……。
「今、いらねぇんだよ。そういう冗談」
「まるで石ころが壁だ」
「うるせぇな!さっさとどけよ!腹の中のもん全部おまえにかけるぞ!」
くそったれっ……。
今笑いやがったなぁ?
いいぜ、そっちがその気ならやってやろうじゃねぇか。
てめぇがちょっとどいてくれたからよぉ。
テメェに対してベスポジだぜ?
「……落ち着け。歩幅が足りない。見誤ると――」
あぁ……ダメだこりゃ。
なんかもう……シにたい。
森を歩いていたとき、ルシェリスが話しかけてきやがった。
「うむ。幸いにも人里が近いと言ったな。幸運だった」
「はい」
「我も貴様と同様、力、魔力がほとんどないと言っていい。転移魔法は不可能。膂力も見た目ほどしかない」
「うん」
「衣服は……なぜか貴様が持っていた女物の寝間着でなんとかなったが」
外套代わりの、布一枚ずつ。
「ひっぐ……」
「我の武具は城に置き去り。貴様の武具、道具もおいてくるしかなかったな」
「おれの……ゆうしゃのあかし……息子……」
「いや、貴様の息子は……」
アンディィィィイイイ!!!!
なぜ!神は、俺を見捨てたのか!!!!転生特典くらい返してくれよぉおおお!!!
「……なくな、うるさい」
「泣いてねぇ! はなびずがででるだげだ!!」
「泣いているのと変わらん」
ああ言えばこう言う……お前は俺の母ちゃんか?
話してたらいくらか進んだみてぇだが、ここって密林だったか?
「ふむ。仕方ないな」
ひょいっと体が浮いた。
あ?こいつ、俺を持ち上げた?
「おろせーー!」
「……逸れる」
「逸れねぇ!」
「また転ぶぞ」
「くっそ……侮辱だ!」
「貴様、平然と無かったかのように振る舞っておったが、両手じゃ足りぬ数だったぞ」
ぐぬぬぬ……言い返せん!!
「それで、どっちだ」
「あ?」
「街はどっちだ」
「どっちてそりゃぁ……」
どっちだ?
やべぇ、見える景色が全然ちげぇ。ここ、俺が知ってる森じゃねぇもん。
密林だもの!
「こ、こっちだ!」
「……そっちはけもの道だ」
「知ってるわぁ!!!!」
ようやく街が見えてきた。
だが大丈夫かこの恰好。
泥だらけで娼婦用に買ってた腰布を外套代わりに……あっちょっと興奮……しねぇ……。
傍から見たらヤベェ臭いしかしねぇ幼女二人だ。
「そろそろ魔力が溜まってきたな」
こいつ、魔力しっかりあるじゃねぇか……。
俺たちの体を包んでいた外套が、ふにゃふにゃと波打って形を変えた。
って、子ども服?
え、なにこいつ。微妙にひらひらしたのついてて凝ってやがる。
「って、なんでこの服フリルが多いんだよ!」
「……余った布の処理だ」
「嫌がらせか?!」
ったく!ふざけんなよな?もう目と鼻の先に街があるってぇのに、なんでこんなところでもたつかなきゃならねぇんだ!
あ?
デカい影?
「君は……」
馬に跨った四角い顔のブ男。
ピチピチの文官服が明らかに似合わない、筋肉質な男。
短髪で俺に似た髪色の筋肉ダルマが俺たちの後ろにいた。
こいつは、ガストン。
俺がぶちのめして、領地を「天国に変えろ!」と命令した雑魚。
だけどよぉ、いまはバケモンにしかみえねぇって。
百パーセント、お前にかてねぇもん。
「君の顔……どこかで……」
筋肉の壁が迫ってきた。
あまりの迫力に、足から力が抜けちまった。
「ッ!君は……まさか勇者――」
あ、おわった。こいつ、おれにうらみあるって――
「の、娘か!!!!」
!?
「この髪色……瞳!そっくりだ……隣の君は……母親似かな?」
ほ、ほ~ら魔王様。
あなたにおはなしいってるぞ?
「……説明は、任せた」
小声でボソッと振ってくんじゃねぇ!!!!
ふざけるな!こっちはもう漏れちまってんだよ!いろいろと出ちまってんだよ!
これ以上の痴態をさらせるか!!
「……仕方ない」
溜息ついても相手してくれるんでしょ?魔王ったら――あとで覚えておけよ?
ぶちころがすぞ。
「オルフェリアン……パパの子供」
このクソやろおおお!!!
ぜってぇころす!
「ふむ。そうか……子供に罪はない。領主館まで連れて行こう」
でもナイスぅ!!!!
なんか勝手に和んでるしよぉ!この筋肉ダルマ!
ばーかばーか!作るわけあるか!
こちとら後腐れねぇようにちゃんと対策してるっつうの!
「いったい何人……いや、君たちの前でする話じゃないな」
え?
そのあたり詳しく聞きたいんだが。
おい、抱きかかえるな。
「これは……よっぽど恐ろしい目にあったんだね」
いまあってるんだが?
「安心しなさい。もう大丈夫だ。
勇者の娘として……私が守ろう」
「やめろぉぉぉぉ!!!その勘違いが一番つらいんだよ!!!」
――これが、あの“お風呂地獄”へ直行する最初の一歩だった。
ここから俺の逃亡劇が始まる。
逃げても逃げても、なぜか地獄が追いかけてくる、な。
一人称にするとどうしても文字数が増えてしまいました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




