第11話(2):だいたい宝物が勝手に増えただけだ。
……ふて寝したはずなのに、俺の安寧は数分ももたなかった。
「もう財政が限界です!!」
ミレイアの怒声で、夢の余韻ごと叩き起こされる。
頭ガンガンすんだが?風邪か?寝不足か?精神疲労か?全部か?
「ではどうしろと言うのだ?必要なものに財を投じ、経済を回すのは当然だろう」
荒げるミレイアに対し、落ち着いているようでしっかりと響く声で返すガストン。
幼女ボディの頭にはその低音がガンガン響く……。
シェリは窓の外を眺め、風景に溶け込むムサシを尻目に紅茶を飲んでいる。
スルースキルのレベル上がってるな……?
財政の話……出ていたが、この部屋だけでもいったい幾らかけてんだか想像もできねぇ。
飯食って寝られれば別にいいんじゃないのか?
尻も痛ぇし、今日も一日ベッドだなぁこりゃ。
枕で日差しをシャットアウトしようと思ったとき、ミレイアの荒げた声が扉を震わせた。
「また勇者の宝を使うんですか!?」
……は?
ちょっと幼女人格。
作戦会議だ。
今、聞き捨てならねぇセリフが聞こえた気がするんだが……俺の気のせいか?
『ねむいからあとで……』
俺が寝てるときに風呂とか入ってんの、お前が起きてるからじゃねぇのか!?
絶対に今の声も聞こえてただろ!
『んー……宝物』
そうだ!
俺の宝をどうのこうの言ってやがったよな!?
苦労して集めた俺のお宝をどうするって!?
こうしちゃいられねぇ!
扉を勢いよく開けたら『お着換えを!』とか使用人が慌ててやがるが、そんな場合じゃねぇ!
「フェリ……冒険?」
ティーカップ片手にシェリがついてきてやがるが……お前器用だな?
紅茶を零さずついてくるとかちょっとした芸の域だぞ?
廊下に出てから、目的の部屋に近づけば、徐々に声が大きくなっていっているのがわかる。
扉の前に立てば、ミレイアがガストンに対して説教をしているのがよくわかった。
あ、扉に手が届かないので、シェリさんちょっと開けてください。
扉を開けた先、ガストンの私室には書類の山に埋もれる筋肉ダルマと、髪を整え忘れたのかってくらい、あちこち跳ねた髪の毛が印象的な眼鏡美女が、床に崩れ落ちていた。
俺とシェリの姿を見るや、ゆらゆらと立ち上がって、急にスイッチが入ったかのように、ビシっと恭しい一礼を決めてくる。
なんか、ごめん。
……じゃねぇ!
だが……ここで問題がある。
勇者としてめちゃくちゃキレ散らかしたい。が、勇者バレは非常にまずい予感しかしない。
なにか手は――『キンッ』という音ともに、俺を温かい何かが包み込んだ。
胸の高鳴りを感じ、それが好奇心だとすぐにわかった。
「……パパの宝物……?」
でかした幼女人格!
そう勇者の宝物!ガストンが売っぱらってる疑惑がでてるぞ!
ミレイアを見上げるように近づいての上目遣い……破壊力抜群だろう。
って、ミレイア!顔を背けるな!
後ろめたさMAXだろソレ!
「その声……フェリちゃん!?」
書類の山から油でテカテカした額が顔をのぞかせる。
気のせいか、生え際が後退しているようにも見えるが、髪のテカり具合からすると、夜なべしたのか?
「ガストン……フェリ、宝、気になってる」
「う~ん……勇者の宝……」
項垂れたのか、山の陰になりを潜める。
俺が魔王討伐の時に、「国庫から金出せ」つった時の宰相のおっさんを思い出すぞ。
まだ禿げてなくてよかったな!
つうか、財政難ってなんでだよ!
パッと見でもインフラ?が整ってる感じだし、人だって多いだろ!
税を取れ!税を!
「おうち……お金ないの?」
幼女人格の一言に、書類の山が少し崩れた。
シェリは俺の裾をちょいちょいと指先で引っ張って耳打ちした。
「この街、できてどのくらい?」
「んーわかんない!」
幼女人格はあっけらかんと答える。
えっと、俺がここをもらってから四年くらいは経つのか?
そもそも、ここに来た時なんて、領主館だって随分ぼろぼろで機能してなかった気がすんだよな。
せっかくもらったから、付近の魔獣とかめっちゃ狩ったし。
つうか、ここを開拓しねぇと魔王のいる大陸への近道ができないとかって言われたしな。
……そう考えると、四年でこの規模って、異常なのか?
「ミレイアさん。ここってすごいの?」
幼女人格の好奇心はすぐに行動。
俺の思考は感じられるみたいだが、記憶は掘れないみてぇだな。
それはそれで……助かる。
両手を合わせて指をにぎにぎとしている幼女人格に、ミレイアが頬をほころばせる。
「すごいなんてものではありませんよ。ここまで発展している街は、歴史を見てもおそらくこの街くらいでしょう」
「へー!」
「勇者……すごい?」
シェリの一言に対して、一瞬困ったような顔をするミレイア。
おい、俺がすごいに決まってるだろ!
「たしかに、勇者様はすごかったですよ。その……付近にいた魔獣を絶滅させた挙句、動物たちもしばらく寄り付かなくなるほどに……」
だろう?
地面の下にいたモグラもどきを倒すときなんて大変だったんだからな。
地面を切っても出てこねぇからな。
溝を掘って川を作って窒息させてみたが、大成功だった。
おかげで作物も育てられるようになったんだったよな!
「もっと丘があったらしいのですが、勇者様は地面をひっくり返したり、通常では降りられないような巨大な穴を作ったり……」
あーやったな!
死体の処理が面倒だったし、温泉でも出ねぇかなって掘ったりもしたな。
「浜辺がないなら作ればいいと言って、崖を壊すわ、岩を海に投げ入れて防波堤なるものを作るわ……」
まぁ、あれは岩が邪魔だから投げてただけだが……。
でも遊び感覚で壁になるように投げてみたら日本の港でみるような形のができたんだよなぁ。
……こうして並べて聞かされると、ちょっとやり過ぎ感は否めねぇかも。
「勇者……規格外」
シェリが感心してるなぁ。
ようやく俺の偉大さに気がついたか。
「そのおかげで、街の発展に必要な採石場もできたのですが……その……ガストン様にすべて一任……お任せしたのですよ」
「勇者の尻ぬぐい」
「はい……」
え?
俺の尻ぬぐいってどういうこと?
領主自ら整地したんだぞ?
シェリもミレイアもひどくね?
「まぁ、やりがいはあったんだぞ。勇者があの金の亡者と言われる宰相様から資金を引き出したのは、積年の恨みが晴れるほどだったからな」
そういえば、そんなこと言ってたなガストン。
「二人のパパは、土台を作ってくれたからとってもすごかったんだよ」
「パパ……すごかったんだ!」
「……パパ、たしかにすごい」
ガストンの言葉に感心した様子の幼女人格とシェリ。
へへっ……そうだろ?
で、尻拭いってなんですかミレイアさん。
「この街……お金が無かったんですよ……」
「ミレイア嬢、正確には規模が大きすぎて足らなかった、だろう」
そうなの?
幼女と俺、シェリはミレイアの顔を見た。
「それで……その、私が最初に提案をしまして……」
「勇者が『宝物庫を作るぞ!』と作った、手のつかない金銀財宝だな……」
あ!?
ミレイアてめぇ!お前が言い出しっぺかよ!
ただまぁ、罪悪感はあったのか……って、なんでちょっと顔赤くしてんだ。
「あそこは極楽浄土ですからね……」
「……あぁ、あれは人を狂わせる」
「そんなにすごいの?」
「パパ……やり手」
ミレイアはなんか恍惚としてるし、ガストンはどんより。
幼女人格はよくわかってねぇな。
シェリの俺への評価がうなぎ登りか?
お前の主だ。もっと敬え。
まあ、旅先で目に入った物は全部こっちに放り込んだからな。
一体どれくらい溜まったのか、ここらで一度確かめてぇな。
……どれだけ手を出しやがったのかも。
「わたし、宝物みたい!」
よく言った幼女!
底抜けに明るい感じで言うのはこうかばつぐんだろう。
ミレイアとガストンが目を合わせて逡巡してるっぽいな……チッ。
「パパの宝物、子どものシェリとフェリのもの?」
シェリの一言にミレイアとガストン、保護者二人組が折れたように溜息を吐いた。
「シェリちゃん、フェリちゃん。勇者、パパには会ったらちょーっと借りたって言ってくれるかな?」
……まあ金貨くらいなら考えてやらんでもない。
この世に二つとない魔道具やら武具に手を出してたら確実にぶちのめす!
「……ちょとじゃありませんよ!このところのガストン様の無駄遣いは目に余ります!今朝だって発注していた調度品なんて何に使うんですか!」
「そ、それは二人に必要な、教養のためのだな……」
「ただでさえ新規事業を起こして領民たちの賃金繰りに奔走している状況ですのに……!」
……そのあたりはあんまりわかんねぇが……ミレイアよ、強く生きろ。
怒りなのかなんなのかわからないが、メガネを曇らせ、肩を震わせてるミレイアは長いため息をついた。
俺たちの前に来て目線を合わせると、指をひとつ立てる。
「見に行くのはいいですが、決して魔道具などには触ってはいけませんよ?」
その注意、子どもの前じゃ禁句だぜ。
「はーい!」
「うむ」
シェリはたぶんわかるとはおもうが、幼女人格はウキウキすぎて多分聞いてねぇ。
ガストンはミレイアに「その書類の山はガストン様にしか処理できないので、本日中にお願いします」と、きっつい言い方で突きつけられた。
ミレイアは使用人を呼び出し、俺たちを抱えさせると、部屋を後にした。
ミレイアに言いつけられたものの、一緒についてくるガストンは、俺たちを抱っこしたそうに空いた手を時々見ながら、目で俺らに訴えてくる。
「いやー」と言って、女使用人に顔をうずめる幼女人格。
そこ、変わってくれない?
そういえば、宝物庫ってどこだったんだ?
管理は任せていたが、場所知らねぇぞ。
廊下を進み、階段を下る。
踊り場から二股に別れる階段は、通るたびに金の匂いがするだよな。
ひとつでよくねぇか?って思う。
一階のエントランスまで来ると、階段下にある壁まで移動した。
もしかして、この下のスペースに隠し階段か?
そういうギミックなら大歓迎だ。
いくらでも金を使え。
「フェリ様、シェリ様。申し訳ありませんが、一度目を閉じてください。あなたたちも」
何やらドキドキするギミックがありそうだ。
幼女よ、目を閉じずにちゃんと見ておけ。
あ、閉じやがった!
こういう時は見ておくんだよ!
ガシャガシャと、歯車とはちょっと違った音。
ただ、それが目の前に階段を作り出していたのは、幼女の目を通して確認できた。
「すごーい!」
「でっしょ~フェリちゃん!おじさんとっても頑張ったんだ!」
「……ガストン様はもう私室に戻っていただいて大丈夫です」
「ミレイア嬢……それはあんまりであろう……」
「おじさんありがとー!」
「おじさん、すごい」
ミレイアの指示一つ、使用人に両脇を抱えられてガストンが泣きながら退場させられた。
まぁ、頑張れ。
骨は拾わねぇが、この街の発展はきっとお前のおかげだ!
誇れ!
そこまで段差は高くないため、ミレイアのあとに続く形で後に続く。
ミレイアが一段、階段を下りた瞬間、壁が青く灯される。
一歩踏み出す度に、すこし先にある壁につけられた燭台が、階段を照らし出していく。
同時に、階段を一段降りる度、気温が少し下がったような冷たさが体にまとわりつく。
――『キンッ』という音共に、体が凍えるような不安が体を包み込んだ。
『さむい……いや。フェリ見てきて……』
どうやら幼女にこの空気はきついらしい。
「フェリ、さむい?」
「さむい。シェリは?」
さすがに俺でも……というか、子どもの体に、寝間着姿の俺らにこの空間はきついだろう……。
シェリの唇もうっすらと青みを帯びているように見える。
「ミレイア、フェリ、さむいって」
「も、申し訳ございません。空調の魔道具を使用していませんでした!」
シェリの言葉に慌てたように、ミレイアは壁に手を触れてごにょごにょと小声で何かを唱えた。
すると、肌寒かったのが、すこし涼しいくらいに変化した。
「防犯と保存のために下げていたのを忘れていました……」
うん、さっきからお前の顔がうっすらと赤いもんな。
きっと俺の宝物庫の中身のすごさに興奮しちまってたんだろう?
俺も男ならワクワクが止まらなかったろうな。
今はどんだけ使われたかヒヤヒヤだがな。
にしても、やたらと長い階段。
体感では3階分くらいは降りてるんじゃないか?
二桁ほど踊り場みたいな場所で折り返しては下ってを繰り返すが、そんなに深い位置にあるのか……。
すこし呆れた様子でシェリが俺の裾を引っ張ってきた。
「フェリ、どれだけ貯めたの」
「んーわかんない」
「わからないくらい?」
「見つけたの貯めてただけだから」
「……フェリ……ドラゴン……?」
なぜそうなる!?
たしかに、ドラゴン討伐の時、殺すのを勘弁する代わりに宝をくれるっていった奴もいたけどな。
まぁ、鱗が欲しかったからヤッたけど。
シェリの視線が刺すような感じがして、居心地が悪いと思い始めた頃、ようやくデカイ扉の前にたどり着いた。
「こちらになります」
ミレイアが俺たちの背じゃ到底届きそうもない位置のくぼみに手を触れさせたと思ったら、重い扉が音もなく……消えた。
「すごーい!!!」
どんな仕組みだ!?
これを作った奴すごすぎるだろ!
シェリを見れば、腕を組んで頷いている様子……感心してるんだよな?
だが、中身を見たシェリは固まってこっちを見てくる。
「フェリ……本当のパパはドラゴンみたい」
本当のパパってなんだ!
ちょっと整理整頓が苦手なだけだ!
いや、というか。
パッと見でもかなりの奥行がある石造りの空間に、ところせましと鎮座する武具や魔道具。
ご丁寧にガラスケースにまで収められてるものもあれば、王都でみた宝物庫も顔負けの収蔵量……だな。
金属と革と古い紙の匂いが、むわっと鼻を突く。
足音だけが吸い込まれていくような静けさで、ここだけ世界から切り離されたみたいな違和感を覚えた。
手前がほとんどガラスケースに入っていて、壁に並べられてるのは俺が旅先で手に入れた武具に……本物の聖剣までちゃんと飾られている。
「フェリ……剣、あれだけがんばって隠したはず」
あぁ、俺の装備を置いていくとき、聖剣だけはまずいと言って、お前がなけなしの魔力使って地面に埋めたっけ?
どうでもいいから見てなかったけど。
「あっちが本物」
「え……」
あ、初めてシェリがショックを受けた顔を見た気がする。
その、なんだ。
悪い。
「あそこの武器などには触ってはいけません。聖剣がなければこの空間は危ないので」
「「え……」」
シェリとハモる。
そんな危険なものあったっけ?
「それ以外では危険なものは無かったと思うので……私はちょっと奥を先に見てきます」
鼻息がちょっと荒くなったミレイアが子ども二人を残して足早に消えていく。
……ミレイア、意外と危険なタイプか?
俺の宝を率先して売ってんのお前じゃねぇよな!?
「フェリ……アレ……なに?」
ミレイアのことなんてお構いなしに、シェリは目の入るものに指をさしていく。
「えっと、あれは……盗賊のアジトにあった」
たしか、ちょっと刺すと血が止まらなくなるナイフだったか?
なんか差し出してきたからくれんのかと思ったら、体が勝手に反応しちまって、渡してきた奴にぶっ刺さったんだっけか?
あぶねぇみたいだし、盗賊が持つには惜しいからもらってやったんだよな。
泣いて喜んでたっけか。
返せとか言ってくる部下みたいなやつもいたが、頭領っぽいのは泣いて喜んでたからな。
それに、なんか刃の辺りに血管みたいなのが脈打っててかっこいいんだよな。
……いや、明らかに引いてるなシェリ。
「人間……こわい」
いや、角つけて真っ黒だった魔王のお前のほうが怖かったぞ?
かっこよかったけど。
そのあとも、俺が冒険者から没収した家一個分くらいの収納がある亜空間収納バッグや、村人たちが泣いて感謝して俺に献上してきたそこらの武器じゃ切れない木の棒とか、不思議な物をたくさん説明した。
途中、幼女人格が『うそ……だよね?』なんて、信じられない気持ちが伝わってきたが、全部事実だ。
人助けで得た宝はいいぞ!
いつまでも見てられる!
「フェリ、悪魔?うむ……やっぱりドラゴン……」
だから、そのドラゴン説はどこから……。
武器からいい加減離れたかった俺は、シェリの手を引いて魔道具が並べられた棚にきた。
ガラスケースに入っているものとは別で、棚の隅に【分類不明】のタグみたいなのがついていた。
んー、魔道具ってロマンなんだから、全部飾ってても問題ないだろう。
位置的に、中央くらいの位置にあったからか、奥に見える金貨の山が目に入った。
壁に並び、階段みたいな形で段差で作られた場所。
絨毯みたいに床にもちりばめられていて……その置き方はさすがにどうなんだ?
……その床に、裸で寝転ぶ女の姿が見えた。
全裸の上から金貨を散らしてるせいで、上品なのか卑猥なのか脳が判断を放棄した。
なんだその「だいたい合ってる極楽浄土」スタイル。
……俺は目を逸らした。
今回は文字数がとんでもないことになったので、三分割でお届けします。
第11話(3)は明日の22時公開予定です。
だいたい宝物が悪い。




