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最弱幼女? いいやホントは最強勇者!―幸福の街? 開けたら闇鍋だったが!?―  作者: 雨野せい


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第10話:口で語るより尻で語りたがる奴はだいたいヤブ

 地獄のような連日を過ごした俺は、限界を迎えていた。


 朝の街は、どうにも騒がしい。


 いや、いつも騒がしいんだが……今日は違う。


 喧騒に隠れていたような音が、やけに気になってしょうがない。


 鍛冶屋が金属を叩く音が、俺の頭を殴っているように感じる。


 馬車の車輪のガラガラ音で目が回るし、遠くの市場の喧騒が、やけに耳に刺さる。


 ……なんだこれ。



「うぅ……だるぅ……」



 布団がやけに重い。


 身体は鉛みたいに沈むし、喉がひりひりする。


 口の中、なんか鉄みたいな味すんぞ。


 これ……風邪か?


 いや、俺だぞ?


 勇者だぞ?


 風邪なんかひいたことねぇよ。


 寝不足だろ?


 昨日の夜なんかも、妙にシェリは近かったし……クセみたいなもんで吸いついちまったしな。


 また「かゆい……」なんて言ってそう……いや、すまん。



『……ねむい……ふぇり、ねむい……』



 幼女人格がふにゃっと出てきて、俺を夢の世界に引っ張ってくる。


 でも、その前に――。


「フェリ……?」



 布団の端から、ちょこんとシェリの顔が覗いた。


 うるんだ瞳で、じっと俺を見ている。



「……フェリ、機嫌、わるい?」


「違ぇよ……」



 説明する気力がねぇ。


 するとシェリは、なぜか慌てて部屋の隅へ走り出した。


 子供部屋から子女の部屋へとジョブチェンジを果たした部屋だが、シェリの向かった場所は、この部屋に残った過去の遺物が納められた場所。


 嫌な予感しかしねぇぞ。



「フェリ、これ。遊ぶ?」



 おもちゃセットを持ってくる。


 積み木とかやらねぇよ。



「フェリ、あったかいお茶」



 熱々の湯気で顔が死ぬ。



「フェリ、これ、好き」



 枕を三段積みしてくる。


 これは、ちょっと楽だな。



「フェリ、キン――」


「やめろぉぉ!!」



 てかその音、お前も聞こえてんの!?


 どっから鳴ってたんだ、あの音!


 ……全部ズレてんだよお前……。


 あ、そのぬいぐるみは幼女人格が好きな奴……あ、身体が勝手に……。


 クマのぬいぐるみを抱きしめちまったが、俺の顔は不機嫌なままらしい。


 シェリの顔はどんどん不安そうになってきて、その目が潤んだ瞬間、胸が痛くなった。



「……シェリ、悪い。ちょい調子が悪いだけ」


「ちょうし……?」


「んー……風邪っぽい?」


「風邪……なに?」



 あ、そっからか。


 説明する気力がない。



「大丈夫……寝てれば……治る……はず」


 そう言ったつもりだったが、声がガラガラだった。


 マジで風邪っぽい。


 窓から差し込む日が揺れて、俺の目がチカチカする。


 窓の向こうにいるムサシが揺れている所為でもあるが、突っ込まない。


 目をシバシバさせて、シェリに視線をもどした時、シェリの表情が変わっていた。


 真剣モード。


 俺の手を一度握ったあと、目を一瞬細め、勢いよく扉の方へ走っていった。



「ガストン……フェリ、あつい……!」



 ……シェリ、デカイ声出せたのか……。



「――なんだと!?フェリィィィィ!!」



 扉越しにとどろく雄叫び。


 同時に、何かの破壊音。


 部屋全体が揺れる感覚に、ガストンが扉を破壊したんだろうと思った。



「貴方の声が一番悪影響ですよ!馬鹿代官!!!!」



 ミレイアの怒声が……キレてる。


 頼むから……静かにしてくれ。


 何やらミレイアが捲し立てるようにガストンに説教をはじめ……。


 そこから男子禁制の話が瞬く間に決まった。


 ガストンは廊下追放、ムサシは窓の外に座禅。


 窓の外は治外法権?


 あそこも広義では部屋の一部にならない?


 静かになったところで、ミレイアが言った。



「フェリ様、高名な先生をお呼びしました。……先生、どうぞ」



 いや、仕事早すぎ……。


 シェリが言ってからそんなに時間……あれ?もしかして、もう昼前くらい?


 窓から太陽が見えなくなっていた。



「お初にお目にかかります。ブエナ・スエラス・リリーベと申します」



 入ってきていたのは、白衣の女性。


 桃色の髪が特徴的な、肩で切りそろえられた女性。


 新緑のような淀みの無い瞳がとても印象的な美女。


 胸は平たいが、女性的なラインが白衣の隙間から見え隠れする。


 柔らかい微笑み。


 落ち着いた声。


 カーテシーって言うんだったっけか?


 白衣の端を掴んでの一礼があまりにも綺麗で見とれちまった。



「長いので……“ブスリ”とお呼びくださいね♡」



 ……。


 いやその略し方おかしいだろ!!


 自分で言う!?自分でブスリって言う!?


 白衣の天使から地獄の門番まで一気に格落ちしたぞ!



「フェリ様……隣に失礼しますね」


「うぅ……」



  こわい。


 自分でブスリと名乗る美人女医とか、死ぬほど怖い。



「あっ……そうね。じゃあ、お姉さんに、どこが悪いのか教えてもらってもいいかな?」



 いや、話し方の硬さの問題じゃねぇ!



「フェリちゃん?怖がらなくて大丈夫よ」



 怖すぎて顔が引きつる。


 口を中々開かないからか、まるで助け船を出すように、ミレイアとガストンが声をかけてくる。


 ガストンは廊下からだが。



「安心してください、フェリ様。彼女は他領では【歩く薬学書】や【病魔の祓魔師】、【座薬の女神】などの名で敬愛されている名医ですよ」


「そうだぞフェリちゃん!この先生にはお世話になったが、怖いことなんてないよ!クセになっちゃうから!」



 おい、ミレイアから怖い二つ名みたいなのがあったんだが?


 座薬の女神ってなんだ!


 ブスリの略称も相まって、完全に狙ってんだろ!


 ガストン、テメェはダメだ!いろいろとおしまいだ!



「二つ名……かっこいい」



 シェリ、感心しなくていい。


 つうか、簡単な風邪なんかと完全にぶち込まれるよな?


 多少大げさにでも言って、魔法でパッと治せねぇかな……。


 あ、この世界、外傷くらいにしか魔法って使われねぇんだった。


 もうちょっと痒い所に手を届かせてくれよ世界!



「フェリちゃん♡怖くありませんよ♡」



 笑顔が怖い!


 天使の顔した悪魔だ!畜生!


 何か、座薬を回避できる症状は何か……!!



「うーん、お話ができないくらいとなると……やっぱりコレですね♡

病に立ち向かう入り口は、一つとは限りません♡」



 パチンっと音を鳴らして、真っ白でちょっと透明な手袋をつけていた。


 生薬のツンとした匂いが漂っている。


 布団の肌ざわりが妙に冷たい。


 ベッドに上ってきたシェリが、俺の手を両手で包んできて、熱が蘇る。


 心臓が頭の中に移動したみたいに、ドクドクと耳の中で響いてきた。



「いやぁ……やめてぇ……」



 口からは幼女人格の拒絶の意志が、俺の心と同期して言葉を漏らす。


 下は両方ぶちまけそう。



「シェリ……たすけて……」


「お姉ちゃん……ついてる。フェリ、安心」



 安心のかけらもねぇよ!


 ……代わってもらえます?


 瞬間、布団がめくられた。


 俺の視界が真っ暗になる。


 ガストンの「目がぁ……」という呻き声と、ミレイアの「失礼します」という声。


 俺も幼女も、一心同体となって、必死の抵抗に試みる。


 体をねじって、足を暴れさせる。



「いやぁぁぁぁあ!!!たすけてシェリィィィ!!!」


「こわくない……こわくない……」


「初めてはこわいものね……大丈夫よ♡痛くしないから♡」



 ものすごい力で、足を押さえつけられた。


 ヤバイ、マジでこわい。


 お気に入りのカボチャパンツも一気に持っていかれた。



「まあ♡綺麗ですね♡」



 丸出しだ!!!


 殺せ!


 殺してくれ!!!



「……フェリちゃん、肛門は第二の口と言われているの。

だからね……あなたの身体が一番素直に助けてって言っている部分なのよ♡」



「怖いかもしれないね……でも、聞いてください。昔、あるところに貧しい村があったの」



 いやいやいや、今そんな昔々あるところに……みたいなおとぎ話を聞いてる余裕ないから!



「そこには……飲み込んでも吐き出してしまうくらい……

弱った患者さんがたくさんいたわ。その時、その村は焼き払われてしまったの」



 え?



「私がこの投薬治療を知っていれば、きっと救えたかもしれないわ」



 そんな過去が……?


 スッ……ブスリッ。



「はい♡終わり♡」



 終わったぁぁあああ!!!


 本当に終わったぁぁぁぁあああ!!!!



「フェリちゃんのお尻、とってもきれいでしたよ。皺も少なく、穢れを知らない……生まれたてのようで――」



 スッ……と、抜かれ、俺の喉が息を吹き返したように炸裂した。


「いやぁぁぁぁぁぁあぁあああああ!!!?」


「まぁ♡もうとっても元気♡」


「ころせぇぇぇ!!!」


「フェリ、元気になった」



 黙れェ!


 もう無理……お婿にいけない……。


 一生この体だとしたら、お嫁にもいけない……。


 いつの間にかパンツ履かされてるし……。


 布団を降ろされた俺は、自分の顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているのをようやく理解した。


 ミレイアは泣いて喜んでる。


 ガストンは目を抑えながら「よかったぁ……よかったぁ」とか言いながら、地面に血だまりを作ってるし……お前も座薬入れてもらえよ。


 早くしろよ。



「ブスリ先生!今日もありがとうございました!」



 ガストンよ。


 感謝しているところ悪いが、俺が実権を握った暁にはお前とこの医者追放するから。


 これ決定事項な?



「座薬……すごい」



 感心するな。


 お前が寝てるときに味合わせてやるよ!


 あぁ、もうだめだ……意識が……。


 ――悪夢を見ていた。


 白衣。


 スレンダーな美女。


 笑顔。


 手袋をつけ、パチンと鳴らす、地獄の始まり。


 ブスリ。


 そしてあの、絶望的な「スッ……ブスリッ」という感覚。



「ウッ……!」



 変な声が漏れて、俺は飛び起きた。


 汗でパジャマが張り付いて気持ち悪い。


 喉はひりつくし、頭はまだくらくらする。


 あのクソ医者め。


 ……ん?


 尻に、なんか当たる。



「は?」



 恐る恐る振り返る。


 そこには――


 人差し指を立てて、眉間にしわを寄せて座っているシェリがいた。


 涙目で。



「……治療……むずかしい」


「なにした?」


「……くさい」


「いやぁぁぁぁぁあああああ!!!?!?」



 悲鳴をあげた俺。


 目じりに涙を浮かべるシェリ。



「……フェリ、おしり、光ってた」


「光ってたからって突っ込む!?なんで!?」



 シェリはしょんぼりした顔で、当たり前のように言った。



「……だいじょうぶ、フェリのおしり。きれいだった……」


「もうやめてぇぇぇ!!!」



 さらに追い打ち。


 机の上に置手紙があった。


『フェリちゃんへ

 明日の朝、一度診せに来てくださいね♡

 (おしりの光は自然に消えるよ♡)

                 ブスリ』



「誰が行くか!!!!」


「フェリ、指、くさい」

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