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最弱幼女? いいやホントは最強勇者!―幸福の街? 開けたら闇鍋だったが!?―  作者: 雨野せい


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1/13

第1話:風呂は心まで洗うとか言うが、入る前に心が折れるほうが先だ。

 勇者だった頃の俺は、毎朝こんな風に走りまわったりしなかった。


 好きな時に起きて、遊んで、寝る。


 逃げ回ったりなんて絶対にしねぇ。


 ――世界一安全って言われてるルミナスヴェイルで、だ。


 天使みてぇなツラしたやつが、裏じゃ悪魔と同じ顔で歩いてやがる街でな。




 今か?


 今は全力で逃げてる。


 恥ずかしいったらありゃしねぇ。



「待ちなさい!フェリ、今日はちゃんと湯に入ってもらうぞ!」



 クソッ、あの筋肉ダルマめ……!!


 金の短髪に、丸太みてぇな腕と胸板をピチピチの文官服に詰め込んだ、胸毛モサモサのおっさん――それがガストンだ。


 いい加減学習しろってんだ!


 文官のくせに、バリバリ武闘派だろうがテメェ!




 あぁ、名乗っとく。俺はフェリ。


 幼女のくせに、中身は元・最強勇者だ。


 ふわふわの金髪を肩口で跳ねさせた、白いワンピース姿のちびガキ――それが今の俺だ。


 足首までひらひら揺れるスカートが、走るたびに「守られる側です」って主張してきやがる。


 なんで走ってるのかだって?


 文脈を読め馬鹿野郎!


 筋肉ダルマの俺の下っ端が、このフェリ様をとっ捕まえて湯に突っ込もうっていうんだ。


 誰が好き好んで男と湯に浸かりたいと思う?


 腸が煮えくり返るってもんだ。


 ちびっこい体で走り回るの、そろそろ限界だ……。



 気が付けば潮風が濃くなってきやがったな。


 魚を運ぶおっさんに、旨そうな匂いがする屋台の並びときたもんだ。


 ガキんちょどもが広場でのんきに遊んでやがるぜ。


 平和だなぁ、この街。


 いや、俺があのダルマ野郎に命令した街とはかけ離れすぎてる!


 女!酒!女!博打!そんで女!

 

「この街を世界一の花街、毎晩キャバクラみたいにしろ!」と命じたっていうのに、あまりにもかけ離れすぎてんだろうが!!!




 なにが悲しくてこんな体にならなきゃなんねぇんだ……。


 至る所で派手な服を着た女が男たちを誘って、男たちはそいつらを買うために博打をし、浴びるように酒を飲む最高の日々!!!


 あの喧騒が恋しい……女の胸も尻も……どこに行っちまったんだ……。


 いや、胸と尻は触れっけど、今じゃ「ママが恋しいのね」なんて涙を流しやがって……冷めるわ!


 その景色がどこにもねぇ。


 なんだ?俺がいなくなったから真面目に戻ったっていうのか?


 この街、俺がいない方がいいんじゃねぇか……?


 ……いやいやいや!んなわけあるか!


 しみったれたおっさんの顔が物語ってんだろ!


 今にも消えそうなくらい燃え尽きてんのがいるじゃねぇか!


 ハハハハ!やっぱりこの街には俺様がいねぇと始まんねぇってことだ!



「あ!フェリちゃーん!おはよー!」


「ちゃんづけすんな!」



 同じくらいの背丈のガキどもが、泥だらけの頬で笑ってやがるのがまたムカつく。


 息苦しい……。


 ただでさえ走り辛ぇってのに、声かけてんじゃねぇぞ。


 クソッたれのガキどもめ……覚えてやがれ……。


 つうか、なんで誰も”勇者”ってわかんねぇんだよ。


 黄金のような金髪。宝石のような青い瞳っていやぁ俺くらいのもんだろうが!!!!


 たしかに、ふわふわでくりくりした髪型になっちまったけどよ。


 誰が勇者の娘だってんだよぉ!!!!



『コン……』


 





 気がつけば日も高くなってきやがった。


 くそっ……限界だ。


 ちょうどいいところにベンチがあるじゃねぇか。


 こういう豆なところはあのダルマ野郎を褒めてやってもいいな。


 汗が目に沁みやがる。




――ドンッ!



 なんだ?壁か?


 それにしてはやわらけぇ。


 ……壁じゃねぇ、筋肉の塊だった。



「ふぇぇ……」



 え?今の俺の声か!?


 なんちゅう情けねぇ声だしちまったんだ!


 くっ!



「フェ~リ~ちゃん。捕まえた」



 次の瞬間、俺の体がふわっと浮いた。


 あ?持ち上げたのか?この俺を?


 なんでこんな軽々持ち上げられてんだ俺は!


 大岩を持ち上げて、オークをこん棒みたいに振り回した俺だぞ!!!逆だろ!!!


 なんでこいつ、よりによってこのタイミングで湧いてきやがった!



「はなせ~!きんにくだるまぁ!」



 あれれ~?足がジタバタしてるぞぉ?


 腹立つほどにかわいい動きになってんねぇ?


 白のワンピースも相まって、かわいらしいです……ね?


 やめろぉおおおおお!



「まったく……追いかけっこは終わり――でちゅよぉ。おじたんとおゆに入りまちょうねぇ」



 糞が!呪いのアイテム!この筋肉ダルマも呪ってくれぇぇぇぇえええ!!!!!


 俺以上にみっともなくしろよぉお!はやくぅぅうう!!!!!



「わるい子にはお仕置きがひちゅようでちゅねぇ~」


「きゃあ~~!」



 やめろぉ!脇がくすぐってぇ!!!


 もう早く俺をころしてくれええええ!!!!





 さっきの市場に戻ってきた。


 抵抗する気もなくなっちまったよ。



「あ、フェリちゃん今日も捕まってる~!」



 指さすな。嚙み千切るぞ。



「代官様、がんばってください!」



 領主は俺だ。ダルマが今、担いでんだろうが。



「湯嫌いは治りませんねぇ」



 生暖かい目で見つめてくんじゃねぇ。このむさ苦しいおっさんと入りてぇのかババア!


 今すぐ代わってやるからこっちこい。



「かわいいわぁ……」



 かわいいって言うなァァ!!


 ふわっとしちまってるが、この黄金に染まった髪に、二つと存在しない宝石のような目をもったこの俺だぞ!


 しかも、腕も足もつまようじみてぇに細くて、どう見ても“守られる側の幼女”なところが余計ムカつく。


 俺は勇者だぞ!?



『コン……』



 鳴るな!

 

 鬱陶しい鐘風情が!!



「元気だねぇ」



『コン……』


 なんで俺がキレっと鳴るんだよぉ!?




 ――虚無だ。


 心を無にしろ。


 思い出せ、修行の日々を――。



「代官様、お仕事が――」



 唐突な助っ人登場!


 間違いねぇ、黒髪ロングでポニテっぽい感じの副官、ミレイアさん!


 こいつ、メガネかけてっからわかりづれぇが、よく見りゃ美人なんだよなぁ。


 細い腰に書類まみれの革ベルト巻いてて、いかにも「苦労人の事務方です」ってツラしてんのが逆にそそる。


 いや、というかガストン!この筋肉ダルマ!


 お前の補佐とかいう奴だろ?!さっさと仕事に戻りやがれ!


 なんで俺が“代官の予定”に組み込まれてんだよ!!


 そして俺を解放しろ!!



「後だ!今はフェリが優先だ!」



 なん……だと……?


 こいつ、ミレイアの言葉の隙間、俺の脳内言語を上回る速さで会話をぶった切りやがった。



「……」



 いや、無言で引き下がんじゃねぇよ。


 仕事優先しろよ!


 俺を理由にサボるんじゃねぇ!


 ミレイア、もっと食い下がれ!お前だって「仕事の方が重要です」って顔に書いてあんじゃねぇか!


 てか、絶対にガストン、てめぇもわかってんだろうが!!!


 離せ!



「はなせ~~!!!」



「……また逃げてたのね」


「あぁ、ナタリア嬢。君か」


 衛兵の正式装備一式に身を包んだ、甲冑がやたらと似合う筋肉女。


 褐色気味の肌に、短く刈った赤茶の髪、切れ長の目をしたこわい女で、笑ってなくても尋問室の匂いがするタイプだ。


 あっ、あの女はやべぇ……!



「代官様、ちょっと失礼」



 え?なに、やめて?おれうでっぷしつよい女、きらいなんだけど


 かるくつままないで?



「君……ちゃんと――」


「あとで詰問室に来てもらうからね。事情聴取」


「ふえぇ……」



 なんで風呂入るのに取り調べが必要なんだよ!


 こえぇから顔ちかづけんな!


 ほら!たすけろガストン!早く!い・ま・す・ぐ!!!!!!



「まったく、怖がっているだろう。怖かったでちゅねぇ~よしよ~し」



 あ、あぶねぇ。つい、ちびっちまったかと思ったぜ。


 うわっ、なんでガストンの方がいいって思っちまったんだ俺。


 この筋肉ダルマの方が持ち方優しいんだけど。キモッ!


 いや、ねぇよ?俺は勇者だぞ?


 こんな街の治安部隊女隊長如きに後れをとる男じゃねぇ!


 あ、今は女だったわ。幼女だったわ。だから多少のことは許してくれるよな?



「……ナタリア嬢」


「はっ」


「君は後で私の執務室まで来るように」


「なぜでしょうか」


「君には子供の取り扱いについて、しっかりと伝えねばならないようだ」



 あぁ、ガストン。今だけはお前が俺の代官になってくれてよかったって思うぜ。


 いや、街の件は許す気ねぇからな?そこだけは勘違いすんじゃねぇぞ。



『コン……』


 なんか忘れたころに主張してくるな……。

 なんか視線感じる気がすんだけど、鐘のくせに。気のせいか?



「では、そのあと、だな」



 え、なにこのひと。まじでこわい。


 おじさん、たすけてくれるんだよね?ね?にらみ合ってないで、とにかくここからはなれません?


 腰の剣に手をおいていらっしゃるけど、おれ、この場で斬られたりしないよね?


 ようじょなんですけど?いちおう?


 おじちゃんのてのなか……あったかい……。



「フェリちゃん大変ねぇ」



 黙れクソババア!こちとら命かかってんだよ!そう思うなら今すぐ俺を抱きしめて一刻も早くこの場を立ち去れよ!


 普段なら見向きもしねぇけど、今なら足の先だって舐めてやれっからなこのクソババア!!!


 早く入り組んだ路地まで進んでくんねぇかな……。


 いつまでにらみ合ってんだ、この二人。






 ん?なんだ……なんか急に空気かわったか?


 ……ぞわっとする。


 嫌な予感しかしねぇんだけど……。


 人込みの中から銀髪の女……。


 腰まで伸びた髪に、俺と色違いの藍色のワンピースを身にまとう、ちょっと不愛想な幼女が現れた。


 んだよ小娘……って、あの「何にも関心ありません」みたいなムカつく無表情なバカ女は……シェリだ。


 俺の魂と契約した元魔王。


 あいつならワンチャン助けてくれるんじゃねぇのか?


 同じ幼女だし!お、こっち来てる!ほら、こっちだ!こっち向けって!


 目一杯、体を動かしてアピールするしかない。


 筋肉ダルマの腕の中でジタバタ動くのは……いや、今は考えるな。



「シェリィィ!助けてぇぇ!!捕まったぁ!!!」



 頼む!頼むから味方してくれ!


 同じ呪いの仲間だろ!?


 形だけでもいいから味方してくれ!!


 …………。



 なに仏像みたいに固まってんだアイツ。


 あいつ、あの紫眼の奥を”揺らした”な?腐っても元・魔王ってか……。


 よしよしよし!この表情は助けてくれるやつの目だ!


 ”覚悟”を決めたときのやつの目にちげぇねぇ!!!


 頼むぞシェリ!!俺の清らかな(?)幼女ライフを守れ!!!




「……フェリ。今日は入浴日だろう」



 ……。


 …………。



 あ?


 ……聞き間違い……だよな?


 え?


 ……マジ? 


 裏切ったのか?この俺を?



「うらぎりものおおおおおおお」



 なんで俺の敵側なんだよぉぉぉおおお!!!


 同じ呪いを受けた仲だろう?!


 俺の気持ちを返せや!


 さっきまで唯一の味方みたいな顔してただろうがぁぁ!!


『チリン……』



「あら……シェリちゃんの加護かしら?」



 鳴るな!なんでここで応援してんだよ!


 お前俺の味方じゃねのかクソ鐘!!!



「ほ~らフェリちゃん。シェリお姉ちゃんもそういってるだろ」


「そう。おとなしく湯に入るべき」



 ここは地獄か!?


 …………はぁ。


 ん?なんでシェリ、ずっとこっち見てんだ?


――ゾワッ。と、背筋が寒い。


 ……なんだよその目。


 なんか俺の中身覗いてるような見方!なんだ?!


 え、怖い怖い!



「……無茶は、する、な」



 いや、するわけねぇだろ!


 俺はただ逃げてただけだぞ?


 誰が好き好んで筋肉ダルマと湯に浸かりたがるってんだ?わかんない?


 無茶させてんのはガストンだろうが!!!



「では、湯へ行きまちょうねぇ」


「いぎゃああああああ!!!」





 奴隷商に売られるっていうのはこういう気持ちなのかもしんねぇな……。


 悪かったぜ、転生者……。お前の気持ちが今わかった気がするぜ……。


 涙がしょっぺぇ。


 それでも、最後の抵抗とばかりに、俺は木の扉に指をかけてみた。


 だがな、無駄なんだ。

 

 ……なんたって幼女だからな。


 あ、これ……わかった。


 地獄の門だな。


 風呂場から出てきたおっさんとガストンがしゃべってやがる。


 筋肉ダルマが二体。


 魔王城の城門を思い出すぜ。



「フェリちゃん。湯加減はちょうどだって~よかったね~」



 猫なで声やめろ!キモ怖いんだよ!


 ……こんな地獄に入るくらいなら……でけぇ姉ちゃ――



『キン……キン……』




 …………。


 え?


 なんだ今の音?


 鐘?頭ん中に響きやがったぞ……?


 おい待て、まさか――。


 野郎だらけの地獄に野郎のい――



『キンキン……』



 うるせぇぇ!!脳内に割り込んでくんじゃねぇぞこのクソ鐘ぇぇ!!!



『ゴォォォォン!!!!』



 棚にあった籠が一斉に落っこちた。


 震えるほどの大音量が湯屋全体に響いている!?


 いや、ここ結構遠いぞ?! 鐘って街の中心にあんだろうが!



「なになになに?!」


「また勇者様が…………!?」


「不吉じゃ」


「は、はやく避難を……!」



 避難すんな!誰も死なねぇよバカどもが!



「フェリちゃん、みんな元気いっぱいでちゅねぇ~」



 この状況でブレねぇお前が一番こえぇわ!!!


 やめろ!そのタオルをおろせ!いや待て!わきわきさせんな気持ち悪い!!!



「さ、脱ぎまちょうねぇ~?」


「いやぁぁぁああ!!!」



 やめろおおお!!おれの純潔(?)があああ!!!せめて女湯にしろや!!!!!!



『ゴォォォォォォン!!!!!!』



 あああああああ!!!!なんでそこに反応すんだよ!!!!




 あぁ。視界が白く染まる。


 湯気――。


 熱――。


 そして……俺の足先に触れる、熱湯の感触。



「ひゃああああああああああああ」



 こうして俺は、地獄の湯へと沈められた。


『キンキン……』



※この場面は少し先の未来。

 次話から「どうしてこうなった?」の過去に戻る。

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