愛情
「行くわよ!」
リルが勢いよく跳躍をしながらハンマーを振り下ろすと、チェスは最小限の動きで避ける。
今度はチェスが槍で薙ぎ払いを仕掛ける。
「槌飛」
リルは振り下ろしたハンマーを踏台にして飛び跳ね、槍の薙ぎ払いを避けると同時にハンマーの柄を掴み再度チェスに振り下ろす。
「その動きは読んどるよ」
しかし、チェスは少し下がってハンマーを避ける。
「乱槍」
チェスの槍はリルに向けて多くの突きを繰り出すと、リルはハンマーを盾に防いでいく。
「そっちこそ攻撃が甘いわよ!」
「槌押」
リルは槍をハンマーで防ぎながら強化された腕力を使って押し返す。
「くっ!」
押し返された事により隙ができたチェスだが強引に鋭い突きをリルに放とうとする。
「ダメよ!」
(チェスは昔から自分に隙が生まれた時に突きを放って相手と距離を取ろうとする癖がある。それを私はいつもいなしてカウンターを入れて勝ってたという事をこの体は覚えてしまっている!)
リルの心とは裏腹に体は横飛びをして放たれる槍の範囲から逃れる。
しかし、チェスから槍は放たれることはなかった。
「引っかかったな」
チェスは槍を突き出そうとする姿勢から動くことなく、じっと槍を構えている。
リルの驚いた顔を見ることができてチェスは満足そうである。
「一本槍」
空を飛んで何もできない状況のリルの左胸に槍が風を切って突き刺さる。
「あなたあの癖に気づいていたの?」
リルは勝負に負けてしまったが晴れやかな笑顔をチェスに向ける。
「気づいていたも何も最初からあんな癖は私には無かったよ」
チェスは誇らしげに短く生えそろっている髭に触れる。
「お前と真っ向から戦っても到底勝つことなどできないからな。だからあえて隙を作りそこを弱点だと思わせる事にしたんだ」
リルは目を見開き驚愕の表情を見せる。
「これは一度ネタバラシしてしまえば、もう通用しない荒技だから使う機会には慎重になる必要があった。
ただ結局これを使う前にお主は死んでしまったからな。無駄に終わってしまったと思っていたが、まさかこんな形で役にたつとは思わなかった」
チェスはゆっくりとリルを貫いている槍を抜くと、倒れ込むリルを支える。
「そう、あなたはこの一勝のために大変な苦労をしたわけね」
リルの声は徐々に弱々しくなっていく。
「あぁ、でも充分に価値はあった。お前をこうして私の手で弔ってやることができるのだから」
チェスの口調は明るいものだがその瞳からは一粒の涙が溢れた。
「ふふ、2回もあなたに私の死に際を見せてしまうことになってしまったわね」
「心配するな。こうしてお前とまた再会できた喜びに比べたら些細な苦しみだ」
「強がりな所は変わっていないわね」
「何も変わってないお主に言われたく無いな」
「そろそろ、、」
「あぁ、今度はゆっくり休むがいい」
「えぇ、そうさせてもらうわ。あなたはまだこっちに来ちゃダメよ」
「約束はできかねないな。お前は案外寂しがりだからな」
「ふふ、愛してるわチェス」
「リル、私も愛してるよ」
リルは満足そうな表情をすると瞳をそっと閉じる。
すると体が一瞬で塵となって消えてしまう。
チェスはリルを支えていた腕をそっと下ろすと、空を見上げる。
先ほどまで真っ暗な空であったが、太陽が少し顔を出して空はオレンジがかっておりどこか神秘的であった。
その空を見上げながらチェスは再び涙を一粒流していた。




