第一章 カレンデュラという名前
静寂に包まれた午後の部室で、一人の少女が窓辺に佇んでいた。
白銀の髪が陽光を受けて、まるで雪解け間近の氷河のように淡く光っている。その髪の隙間から覗く耳は、まさに桜の花びらのような薄さと透明感を持ち、微かに尖っているのが人間とは違う証拠だった。
「わたし、カレンデュラっていう名前なのよねん」
振り返った少女の瞳は、春先の若葉を思わせる淡いグリーン。まるで朝露に濡れた新芽のように、光の角度によって微妙に色を変える。
「でも、この名前がどこから来たのか、全然覚えてないのょ」
彼女の肌は半透明のように白く、血管の青みが薄っすらと透けて見える。まるで上質な磁器のような質感で、触れれば冷たいのか温かいのか、見る者の想像を掻き立てる不思議な美しさがあった。
セーラー服の襟と袖口には、蔦のような植物の刺繍が施されている。よく見ると、その刺繍は時間と共に微かに蠢いているようで、生きた植物のように見えることがある。
胸元の小さな芽のような装飾品は、彼女の呼吸に合わせて淡く光る。まるで心臓の鼓動に反応しているかのように。
「異界研究会っていう部活に入ってるのよねん。でも、なぜここにいるのかも、実はよく分からないのょ」
カレンデュラの声には、幼い子供のような無邪気さと、古い書物から聞こえてくるような古風さが不思議に混在していた。
部室の窓から見える校庭では、他の生徒たちが平凡な日常を過ごしている。だが、カレンデュラの瞳に映る世界は、どこか違って見えるのだった。
「わたしって、本当に生きてるのかしらねん?」
その問いかけは、午後の静寂を切り裂くように響いた。まるで存在そのものを疑う、深い哲学的な疑問のように。
彼女の影は、なぜか他の人間とは少し違っている。より濃く、より鮮明で、時として影だけが先に動き出すことがあるのだ。
「でも、疑問に思うということは、きっと何かがあるということよねん」
カレンデュラは微笑む。その笑顔は、まるで花が咲く瞬間のように美しく、同時に儚げだった。