ライターと優等生
「そんな目で見てんなよ、ブス」
バシッ。大きな音とともに頰に鋭い痛みが走った。レイナが私を睨みつけていた。
両脇を先生たちに抑えられて、レイナは連れていかれた。放火事件の犯人として――。
中学校はひどく荒れていた。一学年の人数も多く、来年には新しい学校ができて分散することになっていた。校内には、派手な髪色に濃い化粧をした女の子たちが数人いた。
「天野さんって、意外とおっぱい大きいんだね」廊下で、突然両胸をわしづかみにされた。笑っている。驚いて後ずさると、「やめときなよ。そんな優等生、ほっときなって」
明るい金髪にパーマのかかった髪の女の子が言った。それがレイナだった。
昼休み、いつものように購買に並んでいた。私の両親はどちらも教師で、朝早く、夜も遅い。うちの中学では、お弁当を持ってこられない子のために昼休みにパンの販売がある。
自分の番になって、最後の一つだったココアメロンパンを手にとった。私はこれが好きで、でも人気があって売り切れのことも多かった。すると「えー、それあたしも食べたかったのに」後ろで声がした。レイナだ。パンを手にしたまま戸惑っていると、「うそだよ。食べなよ」と肩をゆすって笑った。「おいしいよね、それ」
パンと牛乳を持って、一人で屋上へ上がった。教室でお弁当を広げているみんなのところには居づらかった。ベンチに腰掛けると、あとを追うようにレイナが横に座った。「やっぱり、それ食べたい。半分ちょうだい」お互いのパンを半分ずつにして食べた。
それからは、屋上でよく一緒にパンを食べた。ある日、レイナは牛乳だけ持って屋上に来た。「パンは?」聞くと、母親が先週末から帰ってないという。家じゅうのお金を集めても牛乳代にしかならなかった。私はパンを半分レイナに渡した。「悪いね」レイナははにかんだ笑顔を見せた。あまり話はしなかったが、何となくお互いを大切に思っていた。
放課後、担任の杉田先生に呼ばれた。またか。うんざりした。「成績落ちてるね。どうしたの?」黙っていた。「最近、悪い子たちと付き合ってない?」彼女はねちねちと責めてくる。こんなことは何度かあった。ストレスのはけ口なのか。「ご両親からも、きちんと話してもらわなきゃね」親のことまで持ち出してきた。もう、我慢できなかった。
私の制服のポケットには、使い捨てライターがあった。道で拾って、そのままお守りのように持っていた。プリントの束を持ち、火をつけると先生の自転車のカゴに入れた。
「あんた、バカじゃないの。何してんだよ」レイナが慌てて私の手からライターを奪った。
何ごとかと集まってきた先生たちの前で、レイナは突然、私の頰をひっぱたいた。
先生に連れていかれながら、レイナは立ちすくむ私に、ほんの一瞬、笑顔を見せた。






