大量のCPを獲得
木々の間からぬっと姿を現したのはゴブリンではなく狼であった。
それもただの狼ではない。見上げるような高さをした巨大な狼だ。
美しい白銀の毛並みをしており、月明かりによって美しい銀の輝きを放っていた。
体躯は筋肉質でありながらしなやかであり、力強さと優美さを兼ね備えている。
瞳は透き通るようなエメラルド色をしており、まるでこちらの心を見透かすような不思議な瞳力があった。
……ど、どう見てもただの狼ではない。
【白狼】
LV456
HP:????
MP:????
攻撃:????
防御:????
速さ:????
賢さ:????
幸運:????
【称号】????
【スキル】????
【固有スキル】????
「レベル456ッ!?」
鑑定を発動させると、名前とレベルしかわからなかった。
この世界のいる魔物の平均レベルなどはまったくわからないが、こんな数値が一般的であるはずがない。
どうしてこんな化け物が森の中にいるんだ。意味がわからない。
「お前、美味しそうなものを食べているな?」
呆然と見上げていると、白狼が口を開いてそのような言葉を言ってきた。
視線を辿ると、白狼は俺の食べている黒毛和牛のサーロインステーキへと熱い眼差しを送っていた。
「魔物なのに話せるのか?」
「当たり前だ。我くらいの高位の魔物であれば、人間族の言葉を操ることなど造作もない」
白狼とやらがどれだけ高位な魔物なのかは知らないが、ひとまずいきなり襲ってはこないようで一安心だ。
「そんことより、その香ばしい肉に興味がある。よこせ」
「あっ、それ以上近づくと結界が――」
「ぬっ!? なんだこれは!?」
俺が注意するよりも前に動き出した白狼は、俺のキャンピングカーが展開している結界に阻まれて額を打ち付けていた。
「俺のキャンピングカーが展開している結界だよ」
「きゃんぴんぐかー? あのわけのわからぬ白い馬車は魔道具なのか? にしても邪魔な結界だな」
目の前にある半透明な結界を睨みつけると、白狼は巨大な尻尾を勢いよく叩きつけた。
結界全体が悲鳴を上げるように軋んだ音を上げた。
【警告! 結界の耐久値が減少しています!】
それと同時に俺の視界に表示されるウィンドウ。
ゴブリン相手ではビクともしなかった結界が、白狼による一回の攻撃で耐久値が著しく低下しているらしい。
そりゃそうだ。相手はかなり高位の魔物でレベル456だ。レベル3のゴブリンとも比べるまでもない。
「なんだと!? 全力ではないとはいえ、白狼である俺の攻撃を拒むとは……ッ!」
結界がまだ残っていることに白狼は酷く驚いているようだ。自身の攻撃力に自信があったらしい。
「むむむ、生意気な結界だな。次の一撃で確実に壊してみせるッ!」
……この結界って壊れたらどうなるんだ? すぐに張り直すことはできるのか?
【結界を破壊された場合、再度張り直すには180分のクールタイムと10000CPが必要です】
疑問に思っているとウィンドウに追加メッセージが表示された。
すぐに張り直すことができないってことは結界無しで車中泊をしないといけない上に、10000CPも追加で払わないといけないじゃないか。今の俺にそんな余裕はない。
俺が慌てている間に、白狼は体勢を低くし、不気味なオーラを纏わせている。
結界の中にいるというのに空気がビリビリと震えていた。
明らかに大技のようなものを放とうとしている。
本気でもないただの尻尾攻撃だけで結界が悲鳴を上げたのだ。
大技なんてものを食らったらさすがの結界も壊れてしまうに違いない。
「【狼牙天烈――】」
「ま、待ってくれ! 結界の中に入れるから、その物騒な攻撃をやめてくれないか?」
「むむ……」
大声を上げると、攻撃モーションに入ろうとしていた白狼がピタリと止まった。
大技を途中で止めるのは気持ちが悪いのか、思いっきり放ってしまいたそうな顔をしている。
「そんな攻撃を放ったら結界だけじゃなく、サーロインステーキも吹き飛んでしまいますよ」
「……仕方がない。ステーキを台無しにするわけにはいかんな」
不完全燃焼といった表情を浮かべて大技を完全に中止する白狼。
「結界の中に入れるけど、俺を襲わないでくれよ?」
「…………」
「なんで無言なんだ!?」
「わかった。わかった。襲ったりしないから早く中に入れろ」
思わず突っ込むと、白狼が面倒くさそうに頷いた。
どうやら返事をするのが面倒くさかっただけらしい。
あんなに重要な問いかけの返事を面倒くさがるなんて質が悪い。
正直、出会ったばかりの魔物を結界内に入れることには怖さしかないが、どうせあのまま拒んだとしても無理矢理に破って入ってくることができたんだ。
だったらいちかばちかの賭けに出て、交渉する方がマシだ。
俺は覚悟を決めて、結界内に白狼を招き入れる許可をする。
「これで入れるはずだ」
すると、白狼があっさりと結界の中に入ってきた。
近くで見ると、本当にデカいな。
俺のキャンピングカーよりも遥かにデカい。全長十メートル以上はある。
「サーロインステーキをよこせ」
「ど、どうぞ」
食べかけになってしまうが、サーロインステーキは目の前にあるものしかない。
皿を差し出すと、白狼は一口ですべてのサーロインステーキを平らげた。
すると、白狼は翡翠色の目を大きく見開き、月に向かって大きな遠吠えを上げた。
あまりの声量に俺は思わず耳を塞いだ。
「う、美味い! なんだこの肉は……ッ!?」
感動に身を震わせながら白狼が尋ねてくる。
「えっと、黒毛和牛といって俺の世界にある食用の肉です」
「黒毛和牛……なんという柔らかさと脂身の美味さだ」
どうやら白狼は黒毛和牛をいたく気に入ったらしい。
「もっと食べたい。よこせ」
「え! 黒毛和牛はこれしかない!」
「嘘をつけ」
「嘘じゃない!」
「我の【看破】スキルが嘘だと告げている。まだどこかにあるのであろう?」
それはCPを消費すれば、黒毛和牛を用意できることを指しているのだろう。
「ぐっ!」
獰猛な鋭い瞳がこちらを射抜く。
出会ってしまった時点で生殺与奪の権は相手に握られているんだ。
こうなったらあいつを満足させるために黒毛和牛のサーロインステーキを用意してやるしかない。
「わ、わかった。用意してやるから待ってくれ。調理するのに時間がかかるんだ」
「早めに頼むぞ」
俺はキャンピングカーに入ると、端末を操作してCPを9000ほど消費して黒毛和牛のサーロインのブロック五キロを購入。
さすがに最高級の品質のものをキロ単位で購入は無理なので品質を押さえたワケあり品にした。
焚き火台の上にフライパンを二つ設置すると、包丁でブロック肉を切り分ける。
フライパンに牛脂を溶かしたらサーロインステーキを二枚ずつ投入。
塩、ブラックペッパーを振りかけると、そのまま加熱していく。
目の前では白狼が唸り声を漏らしながら「まだかまだか」とプレッシャーをかけてくるので素早く提供できるように焼き加減はレアにする。
「はい。どうぞ」
「美味い! だが、まったく足りない! もっとだ!」
白狼の大きな口がサーロインをかっさらう。
俺は言われるがままにフライパンでサーロインを焼き続ける。
提供したそばからステーキは白狼の口に収まっていき、俺は慌てて次のサーロインを焼いていく。
それを何度も何度も繰り返すと、先にサーロインの方が尽きてしまった。
「もっとないのか? これしきでは量が足りぬ」
「もうない!」
「……それは本当か? 我の【看破】スキルがまだ微かな違和感があると告げているぞ?」
白狼がこれ以上の隠し事は許さないとばかりに牙を剥き出してしてくる。
「さっきの肉を用意するにはCPが必要なんだ! だけど、さっきの分でCPが尽きたから買うことができない!」
「キャンピングポイント? そのポイントやらはどうやれば増えるのだ?」
「……すぐに補充する方法は魔石を集めることだな」
走行距離でもCPは増えるようだが、その数値は微量だ。
とてもじゃないが今すぐに黒毛和牛を買う分を溜めることはできない。
「魔石だな!? それならば簡単だ! 我が魔物を倒して魔石をかき集めてくる! お前はここで待っていろ!」
白狼はそう言い残すと、目にも留まらぬスピードで駆け出した。
……どうやらCPを集めるために魔物を狩りにいったらしい。
しばらくすると、白狼が大きな獲物を咥えて戻ってきた。
「おい、魔物を狩ってきたぞ!」
白狼は結界内に戻ってくると、咥えていた獲物を地面へと落とした。
なんだ? この茶色い体表に髭を生やした翼竜は?
「レベル56のワイバーン!?」
鑑定してみると、ワイバーンという魔物だった。
ステータスもかなり高く、召喚された三人組の勇者に匹敵する強さであった。
「他にも魔物は狩ってきたが、この森には弱い魔物しかいないな。ロクな品質の魔石がない」
白狼が尻尾を振るうと、じゃらじゃらと紫色の結晶が落ちてくる。
一番マシだったワイバーンだけをそのまま持ち帰り、それ以外は現地で解体して魔石だけを抜き取ってきたようだ。
俺が呆然としている間に白狼は一瞬にしてワイバーンの肉体を解体し、胸部にある魔石を抜き出される。
「この程度の魔石でも黒毛和牛を買うことはできるか?」
白狼が尻尾の上に器用に魔石を乗せて差し出してくる。
レベル56のワイバーンだけあって、その魔石は大きくひと際強い輝きを放っているように思えた。この魔石ならかなりのCPを獲得できそうな気がする。
俺はキャンピングカー戻ると、受け取った魔石を端末に押し付けた。
【ワイバーンの魔石をCPへと変換いたしますか? YESまたはNO】
YESを選択すると、ワイバーンの魔石が端末へと吸い込まれる。
右上のCP項目を確認すると、36しかなかったCPが100036ほどに増えていた。
「うおおお! すげえ! めちゃくちゃCPが増えた!」
「どのくらい増えたんだ?」
「ワイバーンの魔石一個でさっきの十倍の量の黒毛和牛が食える!」
「本当か! 早速、準備をしろ!」
「わかった。わかった。すぐに作るからちょっと待ってくれ」
さすがにこれだけのCPを補充してくれたからには、こちらも腕を振るわないわけにはいかないな。
俺はショップで黒毛和牛のサーロインをキロ単位で購入し、白狼を満足させるためにステーキを量産し続けるのであった。
【作者からのお願い】
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。
また、↓に☆がありますのでこれをタップいただけると評価ポイントが入ります。
本作を評価していただけるととても励みになりますので、嬉しいです。
 




