CP
外で昼食を食べ終えると、俺はそのままキャンピングカーのリビングに移動する。
L字のソファーへとだらしなく身体を預けた。
車内が広いので車の中でも家のように寛げる。
やっぱり、キャンピングカーは最高だ。
ちなみに昼食で使用した食器類は一切洗っていない。
食べてからすぐに洗わないと面倒くさくなるとわかっているのに、やる気にならないのは俺がどうしようもなく面倒くさがりだからなんだろう。
今はこの幸せな満足感だけに浸っていたかった。
ソファーでボーッとしているとテーブルの上に大きな端末が置いてあるのが見えた。
「そういえば、こっちに持ってきた端末ってどうなっているんだ?」
昨日は色々なことがあり過ぎたので確かめていなかった。
ポケットに入っているスマホを確かめてみると、電源こそ入ったものの完全に電波が遮断されていた。
「……さすがにネットは使えないか」
異世界なのでインターネットが存在しないのだろう。
こっちの世界でもネットが使えれば、よかったんだけどなぁ。
「一応、こっちも確認するか」
テーブルの上にある大きな端末を引き寄せて指で触れてみる。
すると、画面が明るくなり、キャンピングカーに搭載されている装備などが表記された。
「あれ? なんだこれ?」
俺の想像していたホーム画面とまったく違う。
キャンピングカーの中でまったりと漫画やアニメ、映画を楽しむための娯楽端末だったのだが、それらの機能が一切なくなっており、代わりに不思議な画面が展開されるようになっていた。
さらに詳細を見ると、画面に様々なグラフと数字が浮かび上がり、ガソリンと電気、水の残量だけでなく、太陽光発電の現状から室内の温度、湿度、気圧に至るまでが可視化されていた。
どうやらこの端末はキャンピングカー全体のシステムを管理するためのもののようだ。
さらに端末を操作していると、『ショップ』『車両追加機能』などの項目が出てきた。
気になってショップとやらに触れてみると、見覚えのあるネット通販サイトが表示された。
試しに表示されているおにぎりに触れてみると、10CPを使って購入する旨のメッセージが流れた。
CPとやらがどのようなポイントなのかわからないが、購入ボタンを押してみると目の前におにぎりが出現した。
「本当に買うことができた!」
包装を解いて食べてみると、日本のスーパーやコンビニで何度も味わったことのあるものだった。
ショップを見てみると、水や食料といったものだけでなく、生活用品やアウトドアに必要な道具類も購入できるようだった。
「うおお! このバタフライチェアが欲しい!」
俺の目についたのはアメリカの歴史ある家具メーカーが販売している最新式の野外チェアであった。
試しに購入ボタンを押してみる。
『この商品を購入するにはCPが足りません。CPをチャージしてください』
すると、そんなメッセージが表示された。
「……CPって、なんだ?」
画面の右上には59900CPという項目があったので、そこをタッチするとCPの詳細が出てきた。
CP……魔石を端末に捧げることによってCPへと変換することができる。また走行距離によってCPが付与される。CPがあればショップで様々な商品を購入が可能。さらに車体の機能を追加、拡張することができる。
「つまり、CPっていうのがあれば、色々なものを買うことができるのか!?」
キャンピングカーを動かし続ける上で問題である燃料問題。
走らせ続けるには軽油が必要なのだが、この中世ヨーロッパな世界にはあるとは考えられなかったのでいずれ迎える燃料問題に頭を悩ませていた。
このキャンピングカーの屋根にはソーラーパネルが設置されており、軽油が無くても丸一日の太陽光発電で何分かは走行できるようにカスタマイズをしている。
しかし、晴天時に一日中発電したとしても五kWh~八kWhが限界だ。
キャンピングカーの走行には多くのエネルギーが必要であり、一日に百キロ走行するには最低でも十五kWh~二十kWhが必要となる。ソーラーパネルだけの発電では到底賄うことはできない。精々が一日に三分から五分ほど走行させるのが精々だろう。
それでも走らせ続けられるだけマシだ。自由に動けないキャンピングカーほど不便なものはない。
いずれ迎えてしまう走行の限界にどうしようかと頭を悩ませていたのだが、CPとやらを手に入れれば、軽油も購入することができるんじゃないだろうか。
試しにショップを操作してみると、キャンピングカーに必要な軽油もCPを消費して購入することができるようだった。
「すげえ! 軽油も買える!」
CPさえあれば軽油を購入して、永遠にキャンピングカーを走らせ続けることができる。
「軽油の価格は一リットルあたりで百五十五CPか……価格は日本の平均価格と似たようなものだな」
よく見ると、時価と表記されているので日付けが変わると多少前後するようだ。
……異世界でも燃料事情はシビアなんだな。
俺が現在所持しているCPは59990だから燃料に全力課金をすると、三百八十七リットルほどの軽油を買うことができるのか。
このキャンピングカーの一リットルあたりの走行距離は六キロから九キロなので最低で見積もっても二千三百二十二キロほどの走行ができる。
日本でたとえるなら北海道の端から九州の端くらいだろうか。
これだけ走行することができれば、しばらくの間は燃料については悩む必要が無さそうではあるので安心した。
「……ただ、問題はどうやって魔石とやらを入手するかだな」
国王や王女、酒場の従業員によると、この世界には魔物とかいう生き物が跋扈しており、人々を襲うようだ。
その魔物の体内には魔石というものがある。それには魔物の魔力がこもっており、武具や魔道具といった様々なものに加工できるらしい。
魔石を手に入れるには魔物を倒す必要がある。
しかし、俺のレベルは1だ。
この世界の平均的なステータスは知らないが、レベル1なので数値はかなり低いだろう。
勇者たちと国王から離れたいがためにすぐに国を出たが、判断を誤ったかもしれない。
もう少し城下町で情報を仕入れ、自衛できるくらいにレベルを上げて、安全性を確保してから国を出るべきだった気がする。
今の状態で魔物と出会ったら俺は……。
――ガンッ、ガンッ。
「な、なんだ!?」
悪い方向に思考を巡らせていると、不意にキャンピングカーに何かで叩かれたような音がした。
驚いて窓に張り付くと、外には緑色の肌をした小柄な体躯をした生き物がいた。
「……もしかして、ゴブリンか?」
尖った耳に鷲鼻をしており、口はやたらと大きく不揃いな歯といった醜悪な顔立ちだ。
体は妙に痩せているのに小腹だけが出ている。腰にはボロ布を巻いており、右手には棍棒が握られている。
「って、棍棒で俺のキャンピングカーを叩いたのか!?」
先程の車体を叩く音とゴブリンが右手に持つ棍棒から推測すると、さっきの音は俺のキャンピングカーを叩いた音に違いない。
ふざけんなよ。まだ購入して一か月も経過していないんだぞ。使用した一回目に車体を傷つけられるなんてテンションがだだ下がりだ。
今すぐに車体を確認したいところであるが、外にはゴブリンがうろついているので迂闊に外に出ることはできない。
「ほ、本当にゴブリンなのか?」
ファンタジー漫画やゲームで定番の魔物ともいえるゴブリンの見た目にそっくりだが、本当はこの世界独自の異種族や別の生き物と言う可能性も捨てきれない。
あの生き物の正体を確かめてみるべく、俺は鑑定スキルを発動してみる。
【ゴブリン】
LV3
HP:36
MP:12
攻撃:26
防御:24
速さ:16
賢さ:9
幸運:8
すると、俺の視界にステータスが表示された。
「……ゴブリンだ」
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