商人ギルド
城門を抜けると、美しい中世の街並みが広がっていた。
門から真っ直ぐに大きな通りが伸びており、地面には整然と石畳が敷き詰められている。
大通りの幅はかなり広い。馬車が間隔を開けて横に四台並んでいても窮屈に感じないくらいだ。
これだけ地面が綺麗で道が広いとキャンピングカーでも走りやすいだろうなと思うが、さすがに自動車なんて見たことのない人々の前で車両を召喚すると、混乱を招くだろうからやめておく。
両脇には煉瓦造りの建物がずらりと並んでいる。
どれも立派な造りでルルセナ村とは建築技術もまるで違う。一階や二階には商店、レストラン、酒場などが入っており、あちこちから活気ある声が響いていた。
道を行き交う人の数も多く種族も様々だ。割合としては人間族が多いが、ドワーフ族、小人族、エルフ族、獣人族などの他種族を多く見かける。
文明では劣っている部分があったのでちょっと舐めていた。想像以上にすごいな。
これが異世界の街なのか……。
「俺たちは依頼報告のために冒険者ギルドに向かうけど、トールはどうするんだい?」
大きな噴水のある中央広場に差し掛かったところでフランツが振り返った。
「俺は商人ギルドに向かおうと思う」
俺が持っているお金はそれほど多くないからな。基本的にはギルドを通して売買をするが、いずれはショップで購入したアウトドアグッズなんかを売りさばきたいと思っている。
なににせよ旅をするために身分証は必要だし、今度そういった商売のために商人ギルドで登録はしておきたい。そこでも従魔登録はできるみたいだし。
「わかった。ならここでお別れだな」
「トール、本当にありがとうね」
「お陰で命拾いしたよ」
「落ち着いたら酒を奢らせてくれ。ワシらは『金の矛亭』という宿に滞在している」
「ああ、落ち着いたら必ず声をかけるよ」
フランツ、エスリナ、リック、ドルムンドと握手を交わすと、俺は彼らと一度別れることになった。
この世界で初めて遭遇した冒険者たちであったが、とても気のいい人たちだったな。
もし、仮にすぐに街を出ることになったとしてもフランツたちには必ず声をかけよう。
「さて、俺たちは商人ギルドに向かうか」
ハクに語りかけるように言うが、彼からの返事はない。
ホワイトウルフは言葉を操ることができないので違和感を抱かれないためだ。
周囲には大勢の市民がいるが、誰もハクの正体に気付いている素振りはない。
そんな中、ハクの目の前に小さな子供が飛び出してくる。
子供はとても鋭い場合がある。
大きさが違い、魔力が無くても白狼だと気付いたというのか?
「あ! ホワイトウルフだ!」
冷たい汗が背中を伝う中、子供がハクを指さしながら無邪気な声を上げた。
「こーら、指さしちゃダメですよ。すみません、うちの子が」
「いえいえ」
傍にいた母親はぺこりと頭を下げると、子供を連れて去っていった。
「誰もハクのことを白狼だと気付いていないぞ。見事な擬態だな!」
「……ぬぬぬ! あの小僧、今から追いかけて噛み砕いてやろうか!」
「こらこら、喋るなって」
今まで黙っていたハクが怒りを露わにして喋り出したので、俺は慌てて口を閉じさせる。
すると、ハクも少し冷静になったのか牙を剥き出しにして唸るのをやめてくれた。
ハクをこの件でからかうのはやめておこう。本当に怒りを爆発させてしまいそうだ。
中央広場から西へと伸びる大通りを進んでいく。
商人ギルドの場所については、フランツたちから教えてもらった。
西へと伸びる大通りを真っ直ぐに歩いていくと、程なくして緑色の屋根をした三階建ての建物が見えた。
「これが商人ギルドか……」
建物は威厳を感じさせる重厚な造りで彫刻や装飾に富んでいる。高い三角屋根は特徴的な緑の瓦で覆われており、中央にはギルドの紋章が大きく掲げられている。
そこには目に布を巻いた女神が右手に天秤を掲げており、左手には剣を手にしていた。
きっと商業繁栄を象徴する女神なのだろう。
正面玄関は二階建て分の高さがあり、大きな木製の二枚扉は鉄細工で補強されていた。
脇には槍を手にした警備が立っており、白を基調とした制服に身を包んでおり、来訪者を鋭い眼光で見守っていた。
俺は警備の人に挨拶をしながら商人ギルドに入る。
まず目に入るのは、高い天井と白大理石で造られており広々としたロビーだった。
中央には受付カウンターが設置されており、その奥には職員たちの事務所に繋がっているようだ。
カウンターの周囲には素材の売買を行う行商人や職員の姿があり、併設された酒場では職員と商人が契約書を交わしたり、熱心に交渉を繰り広げる様子が見えていた。
異様な雰囲気のするロビーを歩いていると、周囲の視線が次々と集まるのを感じる。
注目されているのは俺ではない、ハクだ。
どうやら従魔を連れて入ってくる者は珍しいようだ。
職員や商人たちから値踏みをするような視線が次々と刺さるが、ハクはなんのその。まったく気にしていない。
従魔が無害であることがわかると、周囲の人々は各々の仕事へと戻っていく。
ハクの表情を見ると、微妙そうだ。
俺たちの目的からすると気付かれないのは喜ばしいのだが、自分が白狼だと思われずに侮られるのは気に食わない。そんな複雑な心境なのだろうな。
霧散する視線に安堵しながら俺は中央にある受付カウンターへとやってきた。
受付には外の警備の人と同じく白を基調とした制服を纏う女性たちがいる。
受付嬢という人だろう。どの女性もタイプは別れるものの、とても美人だ。
先にエスリナと会っていなければ、衝撃で硬直していたかもしれないな。
「こんにちは。商人ギルドへ、ようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「商売をしたいので商人ギルドへの登録をお願いします」
「かしこまりました。その前に当ギルドがどのような組織がご存知でしょうか?」
「知り合いから聞いてはいますが、念のために説明をお願いします」
「わかりました。では、ご説明をさせていただきます」
商人ギルドは商業活動を行う商人や職人たちが加入する組織であり、ニルエットだけでなく世界中のあちこちにあり、国境を越えて活動している。
商人ギルドには役割がある。
交易の管理……商品の売買や交易ルートの確保を行う。各地のギルド同士で交易ネットワークを構築し、流通を円滑にする。市場価格の調整を行い、物価の安定を図る。
商人の保護……商人同士の争いや不当な取り引きの調停。加入した商人にはカードが与えられ、信頼の証となる。
税金の支払い……商人は年間の売り上げに応じた税金を支払う義務があり、商人ギルドが徴収して国への支払いを行う。
他には商品の品質保証、情報収集と共有、雇用の提供などと商人がギルドに加入するメリットはたくさんあるようだ。
「さらに商人ギルドにはランクがあり、そのランクに応じて商会を起こすことも可能です。トール様の場合は登録したばかりなのでFランク商人ということになり、行商や屋台などでの販売が可能です」
逆に言えば、店舗を所有するような販売形態や商会を起こすことは認められないのだろう。
店舗を所有するにはしっかりと商売をしてお金を増やし、ランクを上げて、商人ギルドからの信頼を掴み取る必要があるようだ。
ふと思いついたのだがキャンピングカーでの販売ってどうなのだろう? 店舗では無い、車両販売となるのでFランクでも可能なのだろうか?
まあ、商売といっても街で大々的なものはともかく、個人でのやり取りの範疇であれば、罪に問われることはないので、今の俺がそこまで気にすることはないだろう。
でも、いずれはキャンピングカーを利用しての料理の販売とか面白そうだな。
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