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キャンピングカーを召喚


 城を出ると、見送りの騎士からぎっしりと硬貨らしきものが詰まった革袋を渡された。


 さすがにその場で確認するのは気が引けたので城から遠ざかったところで確認。


 革袋の中には銀色の硬貨が三十枚ほど入っていた。


 しかし、この世界の貨幣価値について何もわからない俺には、これがどれくらいの値段なのかわからない。


 貨幣の価値を確かめるためにも人里に向かう必要があるだろう。


 王城の外には城下町が広がっているので、ひとまずそちらに向かってみることにした。


 地面は石畳が敷き詰められており、整然と木製や煉瓦の建物が立ち並んでいる。


 通りには人間族が多く行き交っている。


 オセロニア王国は人間族が多く住まう国らしいので市民の多くは俺と同じ人間族が多いが、頭部から獣の耳を生やした獣人や尖った耳をしたエルフ族らしき種族も少ない割合ではあるが見受けられた。


 中世ヨーロッパのような街並みに、見たことのない異種族を目にすると、本当に日本とはまったく違う世界に召喚されてしまったんだと実感する。


「さて、まずは貨幣価値の確認だな」


 いきなり知らない人に話しかけて、貨幣の価値を教えてくれと尋ねても不審がられそうだな。こういう時は実際にお店に入って飲み食いをして、親切な店員さんや陽気なお客さんから話しを聞かせてもらう方がいい。


 ちょうど目の前には大きな看板のぶら下がっている酒場がある。


 ぐにゃぐにゃとした象形文字のようなものが書かれているが、【異世界言語】のスキルを所持しているからか普通に文字を読むことができて酒場だとわかった。


 西部劇のようなスイングドアを押して中に入ってみると、広々とした食堂にいくつものテーブルとイスが設置されており、奥にはL字のカウンターがあった。


 まだ昼間ということもあって店内はまばらであり、暇そうに突っ立っている従業員が何名かいた。


 これなら雑談混じりに貨幣価値を尋ねることができそうだ。


「注文は?」


 テーブルに着くなり、若い女性の従業員がぶっきら棒に言ってくる。


「ビールじゃなかった――果実水をお願いします」


 つい居酒屋にきた時のノリで注文しそうになったが、日の明るい内からビールというのもマズいだろう。


「銅貨三枚。料金は先払いだよ」


「では、こちらで」


 俺は革袋の中に入っている銀色の硬貨を一枚差し出した。


 すると、女性従業員は少し嫌がるような顔をする。


「お客さん、銅貨持ってないの? 銀貨だと両替えが面倒なんだけど……」


 どうやら果実水を頼むには、この銀色の硬貨は大きすぎるらしい。


「すみません。見てわかる通り、つい最近ここにやってきたばかりでして。お釣りの方は懐に入れていただいていいので、よかったらこの国について教えていただけますか?」


「え、いいの? やった! なんでも聞いて!」


 女性従業員は素早く果実水を持ってくると、上機嫌で俺の隣に座った。


 先程の愛想のない表情から一変してこの可愛さである。


 やはり、お金は偉大だなと思いながらも俺は女性従業員に貨幣価値について尋ねた。


 俺が国王から渡された銀の硬貨は銀貨というらしく、千マーニほどの価値があるらしい。


 他にも国に注通している硬貨はあり、賎貨が十円、銅貨が百円、銀貨が千円、金貨が一万円、大金貨が十万円、黒金貨が百万円の価値があり、十進法が採用されているようだった。


 ちなみに平民が一か月生活するのには、おおよそ金貨三枚が必要らしい。


 それなのに俺に渡されたのは銀貨三十枚なので、金貨三枚分。


 少なっ! 何もしなければ一か月しか生活できないじゃないか!


 一か月という期間もあれば独り立ちするには十分な期間があると思うかもしれないが、こちらは帰るべき家も無い身だ。一から生活を始めるので何かと入り用なので金貨二十枚くらいくれてもいいんじゃないか?


 文句を言ってやりたいが、とっくに城を出た今となっては言うこともできない。仮に城を出てすぐに文句を言おうにも、見送りの騎士は槍を持っていたしな。


 出ていくと言ったのはこちらであるが、勝手に召喚して巻き込んでおきながらこの扱い。


 やっぱり、あの国王はロクな奴じゃない。


「オセロニア王国といえば、隣接している魔国と戦争をしているって聞きましたけど、どうなんです?」


 国王のことを思い出したので、俺はついでに国の情勢について尋ねてみることにした。


 確かに魔族から戦争を仕掛けられてはいるが、毎年何回か小競り合いをしている程度で本格的な戦争は起こっていないらしい。どうやら新しい魔王は戦争について消極的らしく、あまり大きな戦をやるつもりはないというのが市民の見解のようだ。


 今はそれよりも獣人族の国であるビースタスとの関係の方が悪いらしく緊張状態らしい。近い内にそちらの方で先に戦争が起こるんじゃないかと噂のようだ。


 ……めっちゃ嘘ついているじゃないか、国王。


 魔国から全然攻め込まれていない上に争いは王国から仕掛ける小競り合い程度。道理で国王たちに緊張感がないわけだ。


 ビースタスとの関係の悪化についてはオセロニア王国の貴族たちが、愛玩目的で獣人を奴隷化し、国際問題に発展しているようだ。これに関しては自業自得。ビースタスの獣人族が怒るのも納得の話である。


 王族だけでなく貴族もロクでもない。


 この国に滞在していると、どんな理由をつけて関わってくるかわからない。


 早急にこの国を出てしまった方がいいだろう。


 女性従業員から情報を仕入れた俺は早くもこの国を立ち去ることを決めた。


 その後も情報を仕入れていると、気が付けば空が茜色に染まっていた。


 追加の飲み物や食事を振る舞っているとはいえ、さすがにこれ以上拘束するのは申し訳ない。それに俺も宿泊場所を決めないといけないからな。


「すみません、最後におすすめの宿を教えてもらっていいですか? できれば、馬車などを停められるような広いスペースのある宿がいいんですが……」


「それならこの通りを真っ直ぐに行ったところにある宿かな。あそこなら馬車だって置いておくことができるよ」


「ありがとうございます。助かりました」


 女性従業員に礼を告げると、俺は酒場を出た。


 教えてくれた通りに道をしばらく真っ直ぐに進むと、二階建ての建物があった。


 宿の裏には馬車を停車させるスペースや馬の厩舎があり、十分な敷地の広さがあった。


 ここなら俺の固有スキルを確認することができそうだ。


「いらっしゃい。うちは素泊まりで一泊銅貨八枚さ」


「では、一泊ほどお願いします」


 宿に入ると、カウンターにいる主人に銅貨を支払う。


「宿泊名簿に名前を書いてくれ」


 紙とペンを差し出されて、咄嗟に動きが止まってしまう。


「代筆が必要か?」


「いえ、自分で書けます」


 ペンを手に取ると、スラスラとこの世界の文字で自分の名前を書くことができた。


 どうやら【異世界言語】は文字を書くことにも補正が入るらしい。


 習ってもない言語を長年扱ってきたように書けるのが不思議だ。


 宿泊名簿に名前を書くと、主人から部屋番号の書かれた鍵を渡される。


 階段を上って二階へと上がり、鍵を開けて割り当てられた部屋に入る。


 シングルサイズのベッドにテーブル、イスといった最低限の家具が設置されている。


 質素な部屋ではあるが室内の清掃は行き届いているし、なによりもベッドが綺麗だ。


 紹介してくれた女性従業員に感謝である。


「よし、俺の固有スキルを確かめてみるか」


 ベッドに寝転んで英気を養ったところで俺は部屋を出た。


 宿を出ると、そのまま裏口へと回り、周囲に誰もいないことを確認。


 固有スキルの使い方はなんとなくわかる。


 自身が召喚したいと願う車両を思い浮かべて発声するだけでいい。


 俺が召喚したいのはもちろんハイエース・ワゴンGLをベースとした白いキャンピングカーだ。異世界に召喚されてしまったせいで引き離されてしまった愛車を取り戻す。


「車両召喚ッ!」


 自身の愛車を鮮明に思い浮かべながら固有スキルを発動すると、車両が出現した。


 ズシンッと重量級のものが落ちたような衝撃が地面に走り、強い風圧に思わず両腕で顔を覆ってしまう。風圧が止んで、おそるおそる両腕を下ろして瞼を空けると、そこには俺が望んでやまなかったキャンピングカーがあった。


「うおおおおおおお! よかった! 俺のキャンピングカーだ!」


 キャンピングカーを召喚できたことが嬉し過ぎて、俺は感激の声を上げた。


 一時は無慈悲に引き離されたが故に感動の再会による喜びもひとしおだ。


 俺は思わず車体にびったりと張り付くように抱き着いた。


 そのまま車体に頬擦りをし、すーはー、すーはーと大きく息を吸い込む。


「このヒンヤリとつるりとした車体に独特の匂いは間違いなく、俺が日本で購入した『TR550L・ボレロV-max』だ!」


 固有スキルを目にした時からもしかしたらと思っていたが、まさか本当に自分のキャンピングカーを召喚できるとは思わなかった。


 ジーンと喜びを噛み締めると、俺は改めてキャンピングカーを確認。


 扉を開けると、ホテルの一室を思わせる上質なインテリアが視界に飛び込んだ。


 オフホワイトを基調にした家具色となっており、車内は全体的にとても明るい感じだ。


 中央にはL字のラウンジソファーが設置されており、家のリビングのように寛ぐことができる。テーブルも大きく食器も余裕を持って並べることができるだろう。


 右サイドには常設の二口コンロがビルトインされたキッチン。天板は耐熱ガラス製となっており、未使用時はカウンターとして利用できる。


 シンク下には大容量の冷蔵庫が設置されており、キッチン上部には電子レンジが装備。


 リア後部側は常設のベッド。キャブコンでは珍しい縦型のレイアウトだ。大人二名が就寝できる長さであり、千八百五十×幅千二百ミリのゆったりサイズである。


 さらにリア側とベッドスペースのキッチン中央にはトイレとシャワールームを完備されている。


「レイアウトも使っていたまんまだッ!」


 内装をくまなく確かめてみたが、日本で使ったままということがわかった。


 クローゼットに収まっている衣類や天板上のラック収納に収まっている調味料、レトルト食品に至るまですべてがそのままだ。


 蛇口を捻れば水が流れ、電源ボタンを押せば電気もつく。


 すごいぞ。車両召喚。


「……あとはこのキャンピングカーをちゃんと動かすことができるのかどうかだな」


 運転席に乗り込んでキーを挿入すると、あっさりとエンジンがかかった。


 軽くペダルを踏んでみると、ゆっくりとキャンピングカーは前に進んだ。


 確認ができたところですぐにブレーキを踏んでエンジンを切った。


「本当に動いた!」


 運転席を降りると、俺は喜びの声を上げた。


「ということは、この異世界でも俺はキャンピングカーに乗ることができるんだな」


 勇者召喚とやらに巻き込まれ、ワケのわからない異世界に召喚されて途方に暮れていたが、キャンピングカーを自由に使えるのであれば問題はない。


 日本だろうと異世界だろうと俺がやることに変わりはない。


 キャンピングカーに乗って、あちこち気ままに旅をするだけだ。


「今すぐにキャンピングカーで国を出て行きたいところだけど、もう既に宿をとってしまったし昼間にビールを呑んでしまったからな」


 ビール一杯で酔ってしまうほどお酒に弱いわけではない。


 ここは法律の厳しい日本ではなく異世界だ。飲酒運転をしたところで取り締まられることはないし、誰も気にしないだろう。


 しかし、日本での倫理観がどうしても邪魔をしてしまう。


 罪悪感を抱いたまま異世界での第一歩を踏み出すのも気持ちが悪い。


「明日の朝一番で国を出よう」


 だらだらと城下町にいると、国王の気が代わって面倒なことに巻き込まれるかもしれない。


「あとはこのキャンピングカーをどうしよう?」


 街を歩いて見た限り、この中世ヨーロッパの世界では自動車なんてものはない。


 宿の裏とはいえ、ずっと外に置いていると悪目立ちしそうだ。


 どこかに仕舞うことはできないかと考えていると、それが可能だと本能で理解した。


「車両収納」


 思うままに言葉を口にすると、何もない空間に黒い渦が現れてキャンピングカーが収納された。


 どうやら俺の固有スキルは思うままに車両を呼び出したり、還したりすることができるようだ。


 これはとても便利だ。


「今日はさっさと寝るか」


 キャンピングカーの保管問題が解決した俺はさっさと宿へと戻り、明日に備えて早めに就寝をするのだった。



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一泊ほどってイラっと来る言い方。 あなたがホテルの従業員だとしたら、はっきりしろよってなりませんか?
キャンピングカーだけなんかな?舗装がない所だろうから走破性能とか考えるとランクルやらジムニー良さそうだけどね
冷蔵庫ありって食料腐らせることも大寒波による氷漬けにもあまり悩まされず保存できるのか、すごい恩恵だな。おまけに、駐車場にも悩まされない技能までついてるとは凄まじい。 電気やガソリンは今後どうするのかも…
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