勇者じゃありませんでした
三人の高校生と一人の冴えないサラリーマン……この中で異物は誰だと言われるかと間違いなく後者だろう。というか、既に国王やローブの集団から怪しむような視線を向けられている。本当にアイツも勇者なんだろうか?という疑いの心が透けてみえた。
「と、とにかく、鑑定水晶にかけてみましょう! それで結果がわかるはずです!」
妙な雰囲気に包まれたが王女のそんな一言によってローブの集団が動き出した。
ローブの男たちが透明な水晶の乗った台座を持ってくる。
王女によると、この水晶に手をかざせばステータスとやらが出現し、どのような能力を持っているかわかるらしい。
まるでゲームのような世界だ。
そんなわけで三人の高校生と冴えないリーマンは水晶によって鑑定にかけられる。
ここはどこなんだと、なんのために俺たちを召喚したんだ。
色々と尋ねたいことは山ほどあるが、国王や王女の周囲にはRPGに登場するような騎士たちが剣や槍を手にしてズラリと並んでおり、威圧感を振りまいている。
丸腰の俺たちは大人しく従うしかない。
三人の高校が順番に水晶に触れていく。
「おお! まさに勇者! ステータスが最初から千オーバーな上に固有スキルも一級品のものばかり! 属性魔法も光魔法をはじめとする上級属性を複数所持されています!」
どうやら三人の高校生はとても高いステータスを誇っており、固有スキルとやらも複数所持、さらには魔法の才能もあるらしい。
「では、最後にあなたもどうぞ」
笑みを浮かべた王女に勧められ、俺も鑑定水晶とやらに手をかざしてみた。
すると、俺の目の前にステータスが記載された半透明のウィンドウが出現する。
【キリシマ・トオル】
LV1
HP:80
MP:80
攻撃:45
防御:35
速さ:52
賢さ:45
幸運:120
【称号 巻き込まれし者】
【スキル】【鑑定】【異世界言語】
【固有スキル】【車両召喚】
……あれ? なんか俺だけ異様に数値が低くない?
先に鑑定した高校生たちはステータスが最初から五百を越えていると聞いたのに、その十分の一以下の数値しかないんだけど。
幸運だけは妙に高いようであるが、それ以外のステータス数値は凡人の域を出ないような感じだ。
「巻き込まれし者? ど、どうやらキリシマ様は勇者ではないようですね……」
俺のステータスを見た王女が、言いづらそうに口にした。
やっぱりそうだよね。この中で明らかに俺だけが勇者っぽくないからな。
となると、俺は勇者ではなく、ただの巻き込まれた一般人ということになるらしい。
なんとも言えない微妙な空気が漂う。
「固有スキル【車両召喚】? 見たことのないものですね? 一体、どういうものでしょう?」
俺たちからすれば、すぐに自動車といった乗り物が思い浮かぶが、それが無いということはこの世界には自動車は無いのだろう。
だとすると、まともな移動手段は馬車のようなものか?
とすると、現代の車両を召喚できるという俺の固有スキルは、かなり有用なんじゃないだろうか。
ひょっとしたら買ったばかりのキャンピングカーを召喚できちゃったりするのかもしれない。
俺がそんな希望を抱いていると、隣の高校生たちからクスクスとした笑い声が響いた。
「車両召喚とかマジでうけるんだけど」
「なあ、おっさん。車を出せるんだろ? 選ばれし勇者とやらじゃなくても俺たちの言う事を聞いてくれれば、足としてこき使ってやるぜ?」
「やめないか二人とも。目上の方だぞ……」
優しげな顔つきをしている青年は窘めてくれてはいるが、それは外面を気にしたただのポーズだ。内面はバカにしてきた二名の男女と同じで、勇者ではない俺のことを見下しているのが手に取るようにわかった。
こんなわけのわからない世界に飛ばされたっていうのに同郷の者がこんな奴らとはついていない。
鑑定水晶により、俺一人だけが勇者ではないとの判定を受けたが、とりあえずは俺も国王から勇者召喚をするに至った理由を聞くことになった。
この大陸には八つの国があり、人間族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族、魔人族と数多の種族の国家がある。
その中で魔人族の国、ベルギオスに誕生した新しい魔王は大陸に覇を唱え、隣接しているオセロニア王国に戦争を仕掛けてきているのだとか。
今は王国軍でなんとか食い止めているが消耗が激しく、すがる思いで王国に伝わる勇者召喚の儀によって特別な力を秘めている俺たちをこの異世界に召喚したようだ。
ちなみに元の世界への送還魔法を発動するには月の暦が関係しており、十年後じゃないと発動できないようで、それまで王国を救うために尽力してほしいとのこと。
……とても怪しい。
本当にこの国は魔王とやらに攻め込まれて危機を迎えているのか?
魔王に攻め込まれている割には国王や王妃、王女に焦った様子はまったく見られない。
国王のお腹はでっぷりと太っていてだらしないし、王妃はギラギラと光るような装飾品を纏っており、財政がひっ迫しているような様子も見えない。
国王の語り口調からして戦争をしている実感もかなり希薄で、とりあえず楽をして戦争に勝利したいから勇者召喚に頼ったというような雰囲気。
自国の一大事なのに異世界人を召喚し、その力を借りて解決しようとする性根が俺としては気に食わない。
とはいっても、相手は一国の王だ。
面と向かってそんなことを言っては何をされるかわからない。
勇者ではなく、明らかに戦う力の無い俺の価値はとても低く、不敬罪で首を刎ねられかねない。ここの文明レベルが中世ヨーロッパと同等なのであれば、見せしめとしてそれくらいはされかねない。
だとしたら、俺がここでやるべきことは……。
「……あの、私は勇者ではない上にステータスも平凡です。魔王と戦うことは到底できませんので一般人としてこの世界で生きていこうと思います。そのために当面の間だけ生活できる資金をいただけないでしょうか? そうすれば、後は一人で生きていけるようにしますので……」
「え、それは……」
「あい、わかった。キリシマ殿が当面の間、一人でも生きていけるだけの支度金を用意しよう」
「国王様の寛大なお心に感謝いたします」
王女は俺を放り出すことに気が引けていた様子だったが、国王は体のいい厄介払いができると思ったのか嬉々として騎士に指示を出した。
こうして俺は召喚された異世界の城から出ていくことになった。
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