薬草採取と灰狼討伐
ルートに沿ってキャンピングカーを走らせること十分。
俺は日当たりのいい開けた場所でキャンピングカーを停めることにした。
「この辺りなら薬草がありそうだな」
アイナによると、薬草は日当たりのいい場所に群生しているとのことだ。
周囲には様々な植物が生えているので、この中に薬草があるかもしれない。
「ここまでやってくるのに消費したCPは80程度か。思っていたよりもCPの消費は少ないな?」
「車体への負荷の度合によってCPの消費が違うのだろう」
ハクはジッと端末で消費するCPの値を見ていたらしく、木々を強く車体へ擦り付けてしまった時などは大きくCPが減ったのを目視したらしい。
「そうか。ならこういった場面で車体強化を使うのは大した負担にならなさそうだな」
車体への傷を防ぐ度に何千ものCPを消費しては堪らないからな。
この程度の消費であれば、鬱蒼とした森の中に入る時や林道に入る時も気楽に使ってしまっても良さそうだ。
「さて、薬草の採取を始めるか」
キャンピングカーを中心に結界を展開すると、俺とハクは降車した。
森の中の空気は清らかで深呼吸をする度に心身が浄化されるようだ。
人工的な音は一切せず、森の中は静寂に包まれている。
なんの用事もなければ、このまま周囲を散策してキャンプギアを設置したいところであるが、生憎と今回は仕事を頼まれているためにそんな呑気なことはしていられない。
アイナから見本として貰ったキリク薬草を片手に生い茂る雑草たちを確認する。
「うーん、似たような植物がたくさん生えているな」
明らかに形状が違うものや実がついているものは別物だとわかるのだが、意外と背丈や葉の形状が似ている雑草がたくさん生えている。
「ハク、匂いでこの薬草だけを嗅ぎ分けることはできないか?」
「獲物の匂いならばともかく、これだけ植物が生えている中から嗅ぎ分けるのは無理だ」
嗅覚の鋭いハクでもさすがにこれだけ雑草が入り混じった中から、薬草だけを的確に見つけることはできないらしい。
となると、当初の予定通りに俺の鑑定を頼りに探していくしかない。
「鑑定」
スキルを発動させると、俺の視界には雑多な植物についての情報が表示された。
無数に現れる関係のないウィンドウを霧散させる。
結界の範囲内で鑑定しては移動をし、鑑定をしては移動するという作業を繰り返す。
「地味な作業だな」
ハクは早々に薬草を見分けることを諦めたようで切り株の上でゴロンと寝転がっている。
少しは手伝えと言いたい気持ちもあるが、ハクの耳は周囲の情報を集めるようにピンと立っている。一応は灰狼の警戒をしてくれているので文句は言えない。
「お、あった!」
キャンピングカーの周囲を五分くらい鑑定しては移動をひたすら繰り返していると、キリク薬草を見つけることができた。どうやらここは群生地帯らしく、たくさんのキリク薬草が生えている。
薬草を傷つけないようにして土をかきわけて、根元から丁寧に摘み取って籠の中に入れる。
薬を作るために必要な本数は五本であるが、アイナの母親以外にもキリク薬草が無くて困っている人がいるかもしれないので多めに採取しておこう。
「ハク、薬草の採取は終わったぞ」
「あとは灰狼どもを駆逐するだけ――」
むくりとハクが体を起こしたところで三角の耳がピクピクと動いた。
「ハク?」
「どうやら向こうから出向いてきたようだ。懲りない奴らだ」
「ってことは、灰狼がやってきたのか!?」
「我が片付ける。トールは結界の中にいろ」
「言われなくても!」
薬草を採取していた今の場所は結界よりも少し外だったので俺は慌てて結界内に逃げ込んだ。
俺と入れ替わるようにしてハクは結界の外に出る。
程なくして周囲からはがさがさと茂みの揺れる音がし、木々の間を駆け抜ける影が見えた。
灰狼だ。
木々の間から次々と出現する。
「うわ、数が多い!」
アイナを襲った時は八匹程度であったが、俺たちを取り囲むようにして出現した灰狼の数は軽く二十匹以上はいた。
「いくら数を揃えようとも無駄だ」
そして、ハクの目の前にひと際大きな灰狼が立ち塞がる。
街道で倒した個体よりも一回り大きく、片目には縦筋に入った傷の跡があった。
灰狼たちは片目に傷が入った個体に付き従うように動いている。
「もう群れのリーダーができたのか」
「所詮は低級の魔物。リーダーといえど二番目だ。この我に敵うはずがない」
人間の言葉で喋っているハクであるが、灰狼のリーダーにとってはこの上ない侮辱の言葉をかけられていると理解したらしい。
猛然とした怒りの声を上げて、灰狼のリーダーが飛びかかってくる。
「力量の差もわからないとは愚かな」
ハクはその体を瞬時に巨大化させると、大樹のような尾で灰狼のリーダーを切り裂いた。両断された灰狼のリーダーだったものの残骸がボトリと地面に落ちる。
群れのリーダーが一撃で倒されたことや、白狼の姿となったことで灰狼はようやく力量の差を理解したらしい。ジリジリと灰狼たちが後退していく。
そして、遂にハクからの重圧に我慢できなくなったのか一匹の灰狼が背中を見せて逃げ出し、他の群れも続くようにして逃げ出す。
「今更逃げることなど許さん。今回は群れの駆除を依頼されているのだからな」
ハクは大きな一つの尾を分裂させると、逃走する灰狼たちを次々と串刺しにした。
中には回避しようとする個体もいたが尾はそれを追いかけるようにして裂き、木を盾にしようとした個体は木ごと頭部を貫かれた。
砂煙が晴れると、周囲には体に穴を穿たれた灰狼が横たわっていた。
「もう大丈夫だ。周囲に灰狼はいない」
「み、みたいだな」
視線を戻すと、ハクの姿はいつもの大型犬ほどのサイズに戻っていた。
灰狼の群れを刺し貫いた尻尾は綺麗な純白をしている。
「ハクの尻尾ってあんなに伸びるのか」
「伸ばせるように研鑽したんだ。自身の尾とはいえ、あれだけの数を操るのは難しいのだぞ?」
思わずそんなコメントをすると、ハクが自慢げに語ってくる。
俺は尾が無い普通の人間なのでよくわからないが、とにかくすごいのだろう。
とりあえずは褒めておく。
「魔石の回収をするぞ」
「そうだな。CPに変換しないと」
周囲に危険はないようなのでハクと一緒に灰狼を解体して魔石を回収する。
車体強化機能を追加したせいで残りは4880CPしかないからな。
このままではハクの夕食すらままならない。
「あ、でも魔石を変換しちゃったら灰狼を倒した証拠がなくなるな。遺体ごとアイテムボックスに収納した方がいいか?」
でも、ハクが手加減せずに倒したせいで灰狼の遺体はどれも損傷が激しい。二代目のリーダーなんて完全に真っ二つになっているよ。
アイテムボックスとはいえ、進んで収納したいものではないな。
「要は倒したとわかる部位があればよいのだろう? 冒険者のように牙でも抜いていけばいい」
「それもそうか」
にしても、冒険者なんて職業がこの世界にあるんだな。
漫画やゲーム、アニメの世界だと魔物の討伐や素材の採取を請け負う何でも屋的な存在として描かれているが、この世界でもそうなのだろうか。
そんなことを考えながら作業に勤しんでいると、計二十四匹分の灰狼の魔石と牙の採取が終わった。
「前よりかは解体がマシになったな」
「さすがにこれだけ数をこなせば多少はね」
前回、魔物の解体をした時は酷いものだった。嘔吐こそしなかったもののたった数匹ほどの解体で精魂尽き果てていた。
まだ決して手際がいいとは言えないが、今回は最後までやり切れたので大いなる進歩と言えるだろう。
「今のでかなりの数の灰狼を倒したと思うけど、これで全部かな?」
「この森にいる灰狼の総数は知らぬが、大きな群れを潰したことは確かなはずだ。これだけ痛い目に遭えば、人里には近寄らぬだろう」
「だよね」
仮に生き残りがいたとしてもハクの実力だけでなく、白狼の姿まで目にしたんだ。いくら灰狼が好戦的といえども安易にルルセナ村に近づくことがないだろう。
「とはいえ、万が一のことがあるかもしれないから軽くキャンピングカーで見回りをしてから戻ろう」
「それでいいだろう」
俺たちはキャンピングカーに乗り込むと、灰狼の残りの群れがいないか確認してからルルセナ村に戻るのであった。
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