車体強化
アイナとルーグから灰狼の討伐と薬草採取を依頼された俺とハクはキャンピングカーで向かうことにした。
「灰狼を討伐しに行くのはいいが肝心の薬草はわかるのか?」
「それなら大丈夫さ。薬草の見本があるからね」
こちらを見上げるハクに俺は手の中にある一本の薬草を見せた。
これはアイナが森に出た際に採取した薬草の一本である。
「見本があっても群生地の中から見分けることができるのか?」
「俺には鑑定があるからね」
【キリク薬草】……摂取すると細胞の再生を促し、病気を治癒させることができる。煎じて飲むともっとも効果が高い。薬やポーションの原料となる。
鑑定を発動させると、俺の手にあるキリク薬草の情報が出てきた。
森に入って仮に見分けることが困難であってもひとつひとつ鑑定をかけていけば、容易に見分けることができる。
これなら薬草採取初心者の俺でも問題はない。
「固有スキル以外にも地味に便利なスキルを持っていたのだな」
「地味にって言うな」
俺だってちょっと気にしているんだからな。
ハクの言葉にぐさりと胸を刺されつつも俺は運転席に乗り込み、ハクは助手席に乗り込んだ。
「よし、出発するぞ」
エンジンを駆動させアクセルを踏み込むと俺のキャンピングカーはゆっくりと走り出した。ルルセナ村にはたくさんの人がいるので時速三十キロ程度のゆっくりとした速度で走らせる。自動車なんてものは存在しないし、馬車も滅多に通ることのない世界らしいから普通に子供とか飛び出してきそうで怖いからな。
「おわー! すっげえ! 本当に鋼鉄の馬車が走ってる!」
「馬も牛も牽いてねえぞ! かっけえ!」
しかし、俺のそんな心配は杞憂で村の子供たちは遠巻きに俺のキャンピングカーを見て、キラキラとし
た瞳を向けてきていた。
「やっぱり、どこの世界でも男の子はキャンピングカーが好きなんだな」
くすりと笑いながら村の中を抜けて街道へと出た。
村人の気配がすっかりと無くなると俺はスピードを上げて走らせることにした。
「薬草の群生地はわかるのか?」
「俺たちとアイナが出会った街道近くの森にあるそうだ」
というわけで、アイナと出会った地点までキャンピングカーを走らせる。
時速七~八十キロ前後で走らせると、十分ほどで遭遇地点までたどり着いた。
「……鬱蒼とした森だがキャンピングカーは通れるのか?」
「今からそれを確かめる」
停車させると、カーナビを操作して森の中の地図を確認。
「これは森の中の地図か?」
「ああ、そうだよ。キャンピングカーが付近の詳細な情報を記してくれるんだ」
ハクが熱心にカーナビを見つめる中、俺は操作して森の詳細な道幅を確かめる。
「道らしい道はなくて幅も狭いけど、ルートを選べば進めそうだ」
行き当たりばったりで進むと大変なことになりそうなのでキャンピングカーが通れそうなルートだけをマーキングをしていく。
「……この順路で行けば進めるんだけど、進みたくない」
「何故だ?」
「進んだら枝葉で車体に傷が入る」
目の前には木々が乱立しており、枝葉が剥き出しになって伸びていた。
あんなところをキャンピングカーで進めば、間違いなく車体に傷が入る。嫌だ。
「そんなことか……」
「そんなことってなんだ! まだ購入して間もない大事な乗り物なんだぞ!? ハクだって自分の毛皮が汚れたら嫌だろう?」
「う、うむ。まあ、そうではあるが薬草の採取を引き受けるといったのはトールだろう?」
「ぐぬぬ、それはそうだけど……」
愛車が傷つくのが嫌なのでやっぱり依頼はキャンセルでなんて今さら言えるわけがない。
とはいえ、傷つくとわかっていて愛車を走らせるのは大きな抵抗がある。
「こんな時こそ【車体追加機能】だ」
「そんな都合のいい機能があるのか?」
CPだ。CPを払えばすべて解決する。
きっとこのキャンピングカーはそんな風に出来ているに違いない。
端末を操作して車体追加機能の項目を漁っていると、一つの機能が目についた。
【車体強化】……車体に魔力を纏わせ、車体全体の硬度を大幅に引き上げる。魔力を纏わせている間はCPを消費する。
「あった! これだ!」
やっぱり、この世はCPだ。CPはすべてを解決する。
「あるのか……本当に追加するのか?」
「別にあって損はないだろ?」
停車していないと結界を張ることはできないし、走行中に魔物に襲われる可能性もある。
走行中の安全性を確保するためにも車体強化の機能は必須だ。
「あ、でもCPが足りない」
車体強化の機能を獲得するには50000CPが必要なのだが、今保有しているCPは30000しかなかった。
これでは機能を追加することができない。
ぐぬぬ、この美しい車体に傷がつくことを受け入れるしかないのか……。
「先ほど倒した灰狼のリーダーの魔石は変換したのか?」
ガックリとしていると、ハクがため息を吐くように言った。
「そういえば、まだだった!」
あの時はアイナを助けることやルルセナ村まで送り届けることが優先だったのですっかりと忘れていた。
ダッシュボードに入れっぱなしだった魔石を取り出し、端末に押し付けるとCPへと変換された。
群れのリーダーだけあってレベルが高めだったのか、たった一つで25000CPも増えた。
「これでいける! ……ハク、追加していいか?」
「その代わり、夕食は肉だぞ?」
「わかったよ。任せてくれ」
ハクからの了承も貰えたので俺は【車体強化】の追加機能を獲得。
「車体強化!」
ハンドルを握りながら叫ぶと、車体全体を透明な膜に覆われた。
「よし、これでどうだ?」
道とも言えない場所の中をキャンピングカーで突き進む。
鬱蒼とした枝葉がキャンピングカーの車体をガリガリゴリと引っ掻くような音がする。
運転席の窓から顔を出して、枝が車体を引っ掻いた場所を見てみる。
「うおおお! すげえ! 車体に傷がついてない!」
明らかに傷がつくような引っ掻き方をしたが俺の車体には、傷一つついていなかった。
メタリック粒子が散りばめられたシルバーのボディは日光を浴びて、星屑のような煌めきを放っていた。変わらない美しさがそこにある。
「これなら遠慮なく突き進める」
車体が傷つかないのであれば、ビビることはない。
俺はカーナビの示すルート通りにキャンピングカーを進ませるのだった。
【作者からのお願い】
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。
また、↓に☆がありますのでこれをタップいただけると評価ポイントが入ります。
本作を評価していただけるととても励みになりますので、嬉しいです。




