アイテムボックス
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「ああ、疲れた~」
「たった数体しか解体をしていないというのに何を言っている……」
「仕方ないだろ。魔物の解体なんて初めてだったんだって」
幸いにも田舎で猟師をやっていた祖父のお陰で鹿や猪の解体を手伝ったことはあったので、吐いてしまったり、気分が悪くなったりすることはなかったが慣れないことをすると精神的にどっと疲れるものだ。
「とりあえず、魔石は全部CPに変換したけど、残っている魔物の死体はどうすればいいんだ?」
すべての魔物から魔石を獲得できたのはいいが、残っているそれ以外の肉体の使い道が気になる。
「ロアブレイドホークとレッドファンゴ、ブルホーンの肉は美味いから解体した。保存しておいてくれ」
「それがいいけど、さすがにこれだけ大きいと冷蔵庫で保存できないぞ」
両手で抱えるサイズの肉となると、さすがに俺のキャンピングカーとはいえ冷蔵庫の中には入らない。小さく切り分けたとしても保存できるのは一部だけだ。
「何かに包んでキャンピングカーの中に置いておけばいい」
「さすがに生でずっと保存するのはヤバいだろ」
「我は平気だ」
いや、俺は死ぬし、室内に生肉を置いたまま移動するのは嫌だ。
春っぽい季節をしているとはいえ、常温で放置していると悪臭を放ちそうだ。
「キャンピングカーとやらには、何か食材を保管しておけるような便利なものはないのか?」
「あ、車体追加機能の中にそういうのがあった気がする」
思い出した俺は端末に触れて、車体追加機能を確認する。
その中に【アイテムボックス】という追加機能があった。
【アイテムボックス】……キャンピングカー内に通常の物理的な制約を越え、大量の道具を収納できるボックスを設置します。ボックス内では時間の経過はせず、食材の保存なども可能。必要な時に必要なものをすぐに取り出すことができ、快適なキャンプ生活がおくれる。
「お、アイテムボックスがある。これは獲得すれば、大量の肉を保存することができそうだぞ?」
「アイテムボックスか! 稀少な固有スキルの内の一つだ! 獲得しておけ!」
「……獲得するには200000CPが必要っぽくて、残っているCPのほとんどが無くなるんだが……」
現在所有しているCPは230000CP。アイテムボックス機能を追加すると、30000CPしか残らないことになる。
「魔物ならまた我が狩ってくる。追加しろ」
「わかった。ハクがそう言うなら遠慮なく使うことにするよ」
稼ぎ頭であるハクがそう言ってくれたので、俺は遠慮なくアイテムボックスを追加購入した。しかし、車内に大型収納庫が現れることはない。
「ぬ? アイテムボックスはどこなのだ?」
「あれ? どこなんだろ?」
端末を確認して全体図を確認すると、外部収納庫にアイテムボックスが追加されたようだ。
外部収納庫を開けてみると、黒いボックスを発見した。
「あ、これか!」
やや無骨なデザインがミリタリー系みたいで男心をくすぐる。
こういうアウトドア用の収納ボックスが欲しいと思っていたのでとても嬉しい。
アイテムボックスを開けてみると、中身は真っ黒だった。
試しに腕を突っ込んでみると、実際の大きさ以上の深さがある様子だった。
「これなら入りそうだな」
俺はハクが解体したロアブレイドホークの肉を突っ込んでみる。
すると、肉は真っ黒な空間に吸い込まれて消えていった。
もう一度、取り出したいと思いながら手を突っ込むと、ロアブレイドホークの肉を空間から取り出すことができた。
まだまだ入りそうなのでドンドンと肉を持ってきてもらうと、解体した肉のすべてを収納することができた。
「魔物の死体も入れておくか?」
ハクが尋ねてくる。
もちろん、他の魔物には牙、爪、角、眼球、皮といった価値のある素材を有している。
人里でお金に変えられるのであれば、できれば回収しておきたい。
「そうしたいけど入るかな?」
周囲に転がっている魔物たちは明らかにアイテムボックスよりも大きい。
さすがに入らないんじゃないだろうか。
「問題ない」
そんな懸念をするが、ハクはまったく気にした素振りもみせずに倒した魔物の元へ。
そのまま咥えてアイテムボックスに近づけると、魔物の死体が吸い込まれるようにして収納された。
「ボックスよりも大きいものでも入るんだな……」
「アイテムボックスとはそういうものだ」
ハクはアイテムボックスに類似するスキルを目にしたことがあるのか、まったく動揺している様子はなかった。
不思議な現象ではあるが便利なのは間違いない。
これがあれば、今まで収納スペースを気にして購入を控えていたものも買い放題だ。
CPに余裕ができたら好きな大型キャンプギアを買おうと思った。
●
「トール、腹が減ったぞ」
アイテムボックスを追加して魔物の収納が終わると、ハクが妙に偉そうな態度で言った。
まあ、実際にハクは朝早くから魔物を狩ってくるという大仕事をこなしたんだ。それに報いてやるのも主としての務めだろう。
「わかった。すぐに用意するよ」
「なるべく早く頼む」
ハクは体を小さくすると、少しでもエネルギーを節約するかのように寝転んだ。
どうやらかなりお腹が空いているようだ。
手早く作れるキャンプ飯らしいものといえば……
「ホットサンドだな」
キャンプで朝食といえば、これしかないだろう。
焚き火用のホットサンドメーカーを設置すると、油を引かずにスライスベーコンを焼く。
ベーコンに焼き目をつけている間に食パンの表面にマヨネーズを塗り、チェダーチーズを乗せ、その上に炒めたベーコンとレタス、トマトを重ねる。
空いたフライパンに少しの油を垂らすと、卵を二つほど割って入れる。
フライパンの位置を調整して弱火に。水を入れたら蓋をして蒸し焼きにする。
数分経過し、蓋を取ってやると綺麗な目玉焼きができていた。
これを引き上げて、それぞれの食パンの上に乗せる。
あとはバターを引いて温めておいたホットサンドメーカーにそのまま挟んで加熱するだけだ。
片面を三分ほど焼くと、ホットサンドメーカーを裏返して二分ほど加熱する。
時折、留め具を外して中の様子を確認しながら調整をすると、パカッと出てきたのは表面が見事にこんがりと焼けたホットサンドだった。
「できた! ホットサンド!」
ホットサンドメーカーからまな板の上に移し、包丁で半分に切る。
表面からサクッとした音が鳴り、中からとろけた目玉焼きの黄身が出てきた。
「ハク! 朝飯ができたぞ!」
「ようやくか! まちかねたぞ!」
調理時間は十分もかかっていないはずなんだが、お腹を空かせていたハクにとっては長い時間だったようだ。
「香ばしい匂いだ。なんだこれは?」
「ホットサンドさ。焼いたパンの間に肉やら卵やら野菜やらを挟んでいる」
「人間共がよく口にしているというパンを使った料理か。食べるのは初めてだ」
食器に盛り付けたホットサンドをハクが豪快に口にする。
「美味い!」
バクバクとホットサンドを食べ進めるハク。
肉以外のものでも普通に食べることができてホッとした。
「お代わりだ」
「待ってくれ。今、追加で焼いているところだから」
「ぬう」
ハクがたった一枚のホットサンドで満足できるはずがないとわかっている俺は、完成してすぐに追加の用意をしていた。
留め具を外してホットサンドメーカーの様子を確認すると、そのまま裏返した。
裏面が焼けるまでの時間は大したことができないので、俺も完成したホットサンドを食べる。
「美味いなッ!」
一口を齧ると、外はサクッと中はふんわりとした食パンの食感がした。
中に挟んだチェダーチーズのクリーミーなコクが広がり、カリッとベーコンの塩気が絶妙に絡み合う。シャキシャキとしたレタスやトマトのフレッシュさが全体をスッキリとさせていた。
「ただサンドイッチを焼くだけで、どうしてこんなに美味くなるんだろうな」
「おい、ホットサンドはまだか?」
ホットサンドを食べていると、どこかじれったそうにハクが尋ねてくる。
「もう焼けるから待ってろって」
ちょうど裏面も焼けたころだろう。
留め具を外して確認してみると、追加のホットサンドがしっかりと焼けていた。
「そのままでいい! 次の分を用意しておけ」
まな板の上に移して包丁で半分に切ろうとするが、それよりも早くにハクがかっさらう。
その食欲がまだまだ収まらないであろうことを察した俺は、粛々と追加のホットサンドを焼き続けるのであった。
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