朝のコーヒー
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ありがとうございます。
カーテンの隙間から差し込む明かりで俺は目を覚ました。
見慣れない光景に脳が驚くものの、ここはキャンピングカーのベッドであることを思い出した。
ヤバいな。このベッドは……。
ほぼホテルのベッドなので、家のように快適で長時間でも眠れそうだ。
もう一度、転がってしまえばすぐにでも二度寝ができてしまいそうだが、今日は早めに起きて自然の中でコーヒーを楽しむと決めている。ここは二度寝はせずに起きることにしよう。
強い意思を持ってベッドから起き上がる。
洗面台で顔を洗って寝癖を直すと、寝間着から私服へと着替えた。
バンクベッドに視線をやってみると、ハクはいなかった。
毛布を触ってみると、ぬくもりはなかったので少し前に起きて外にでも出かけたのだろう。
ドアを開けて外に出ると、ひんやりとした空気が頬を撫でた。
足元には昨夜降りた露が葉や草に残っており、木漏れ日を浴びてキラキラと輝いていた。
深呼吸をすると澄んだ空気が肺に取り込まれる。新鮮な空気の中には昨晩の焚き火の名残を思わせる煙の香りがわずかに残っていた。
「コーヒーを作るか……」
キャンピングカーの周りを少しだけ歩くと、外部収納庫からチェアとテーブルを取り出して組み立てる。さらにグランドシートを敷き、その上に焚き火台を設置。
枯れ葉とコンロイの実を少しだけ入れると、昨夜鎮火に使用した火消し壺の出番だ。
火消し壺の蓋を開けると、昨夜入れた薪がすっかりと消し炭になっていた。
ふるいにかけて大きい消し炭を抽出すると、トングで焚き火台の上に乗せていく。
ファイヤーライターズのマッチをコンロイと消し炭に近づけると、ゆっくりと炎が燃え広がっていった。
空気の通り道ができるように細い木や枝を組み、火吹き棒で息を吹きかけて炎を大きくする。十分ほどして火が安定すれば、その上に水を入れたやかんを設置。
やかんでお湯を作っている間に、マグカップの上にドリッパーを置く。
ペーパーフィルターをセットし、中挽きのコーヒー粉を一杯分入れて表面を平らに整える。
そうやってコーヒーの準備をしていると、やかんが蒸気を噴き出し始めたので引き上げる。
やかんを持ち上げ、お湯を少量だけ注いで三十秒だけ蒸らす。
こうすることで粉が膨らみ、香りがよく引き立つのだ。
蒸らしを終えると、残りのお湯を少しずつ円を描くように注ぐ。お湯を注ぐ速度を一定にし、コーヒーがドリッパーの外側に溜まらないようにする。
お湯がコーヒーの粉を静かに湿らせる度に濃厚で芳しい香りがふわりと立ち昇った。
二分ほどそのままにして抽出すると、コーヒーの出来上がりだ。
ドリッパーを外して軽く混ぜると、早速とコーヒーをいただく。
「ああ、美味しい」
口からマグカップを離すと、自然とため息のような声が漏れた。
苦みと酸味のバランスがちょうどいい。
温かなコーヒーが朝の冷えた身体を優しく目覚めさせてくれるかのようだ。
「外で飲むコーヒーってどうしてこんなにも美味しいんだろうな」
家でもドリッパーを使用して、朝にコーヒーを飲むことはあるが、ここまでの美味しさを感じたことはない。
キャンプをしている時は、日常生活から離れた特別な時間だ。その非日常感がコーヒーに付加価値を与えており、より美味しいと感じるのかもしれない。
「次はコーヒー豆を挽くところからやってみたいな」
今日は車中泊をして初めて迎えた朝ということもあり、ハードルの高い工程には挑戦しなかったが、自分で豆を挽いてからコーヒーを作るというのもキャンパーとしては憧れのシチュエーションだ。もう少し余裕が出たらそちらにも挑戦してみたい。
「戻ったぞ」
ショップ機能で販売されているコーヒーミルを眺めていると、大きな体の状態のハクが魔物を咥えて戻ってきた。
「うわあ! なんだこりゃ!?」
「魔物だ」
いや、それはわかる。翼が鋭いブレード状になっているこんな鳥がただの動物であるはずがない。というか、ハクが大きな状態になっているので気付かなかったが、近くで見るとかなり大きい。翼を広げただけで五メートル以上ある。この世界ではこんなのが空を飛んでいるのか。
鑑定してみると、レベル37のロアブレイドホークであることがわかった。
「狩ってきてくれたのか?」
「ああ、結界の外にも色々と魔物を積んである」
「結界の外?」
ハクが歩いた方向についていくと、結界から少し離れた場所に大量の魔物の死体が積み上がっていた。
「……これ、全部ハクがやったのか?」
「ちょっとした朝の運動にな」
いや、そんな早く起きたから散歩してきましたみたいなノリでこんなに大量の魔物を狩ってこられると困る。
いや、魔石はキャンピングカーを動かす動力になるから嬉しんだけどな。
「魔石とやらがあれば、美味しい肉が食べられるのであろう?」
「そ、そうだな」
ハクが白い尻尾をブンブンと左右に振りながら期待に満ちた視線を向けてくる。
昨夜の料理の口にして日本の料理に味をしめたようだ。
「とりあえず、魔石を取り出してくれるか?」
「わかった……が、小さい魔物はトールがやってくれ」
「俺が? 魔物の魔石とどうやってとるんだ?」
「大体は胸の中に埋め込まれている。ナイフで抉り出してやればいい」
ハクはそう素っ気なく言うと、大きな死体を引っ張り出す。
目にも留まらぬ早さで尻尾を動かすと、魔物が綺麗に解体されて魔石が取り出されていた。
「魔石かぁ」
生物の死体に刃を突き立てることに忌避感を覚えた。
しかし、俺がこの世界で生きていくにはこのキャンピングカーを動かす必要があって、魔物から採取できる魔石というものが動力源として必要だ。魔物の解体作業は嫌でも通らざるを得ない。
「よし、やるぞ!」
覚悟を決めた俺は軍手をはめてフルタングナイフを手にする。
積み上げられた魔物の中から見覚えのある魔物であるゴブリンを選び、その胸にナイフを突き立てるのであった。
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