敬語を使った自己紹介、難しく考える黒江
「な。今日一日だけだと……?」
「どこも大体一日で覚えて帰ってもらうけど。研修がないところもあるし。本番の十分前くらいに説明されて、本番では臨機応変に対応しろといわれることもあるよ。一日あるだけで十分でしょ。バイトに何日もかけるわけない。全部覚えて帰ってね。研修もお金を払うから、仕事だと思って。気が緩まないように」
バイトは正式に仕事したうちに入らないが、金をもらうからにはきちんとした仕事だとプーは言う。その通りだ。違いない。あたしにも異論はない。
でもこのゲーセンのバイト、結構ハードだな……企画ってどんなんだよ。
「自己紹介」
「あ、ああ。あたしは黒江飛香」
「敬語、忘れてますよ」
「あた……ワタシは黒江飛香……デス。多少喧嘩っ早くて、迷惑いっぱいかけるかもしれないが、ですが、よろしく……お願いします。わからないこともいっぱいあると思うが、ちゃんと教えてくれると嬉し……いや、嬉しいデス」
たどたどしい口調で、どうにか少しだけ敬語を使った自己紹介ができた。みんなが疎らに拍手をする。あたしはちょっと照れくさくなった。
「あははは! へったくそな自己紹介だなあ……」
プーがゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。そこまで笑うか?
「な……おま」
「お前ではなく、アマネル・マープ様です。店長とお呼びしなさい、小娘」
「アマネプ様……」
「略すな」
「店長と呼びなさいと言っておりますのに……」
周囲の非難が轟々と降り注ぐ。あたし、仕事できない奴だったか……情けない。
プーが全員に指示を出して、クリクリとあたし以外のみんなが店内に戻っていった。最初にあたしの敬語指導が徹底的に行われた。辞儀の仕方、笑顔の自然な作り方、発声の仕方、対応の仕方……ありとあらゆる丁寧な所作についてクリクリから教わった。
クリクリは教えるのが上手くて、あたしはすぐに吸収していった。元々馬鹿だから吸収しようと思えば幾らでも吸収できる。有名国立大学合格もできちゃうかもしれないな?
「結構速いうちに理解できていますね」




