何も変わらない日常……だったはずなのに
ここは久留沢学園高校近辺にある最大級のゲームセンターだ。どんなゲーム機も揃っていると評判で、通常なら百円から五百円でプレイできるものだが、ここだけは大繁盛の影響か、十円から五十円でワンプレイできる。嘘みたいだろう。それでも黒字は変わらないそうだ。『お客様第一。損して得する』というのが、このゲーセンのポリシー。
にしても、今日も人がわんさかいるぞ。どのゲームにも行列ができている。が、誰も待つのにイライラしていない。今日日、こんなことは珍しい。
「おい、あかり! あっちぬいぐるみあるぞ! 取りに行こうぜ!」
「ほんと!? 一緒にやろー! どっちが先に取れるか、競争ね!」
近所のガキどもも小遣いをはたいて、ここでしばしば遊んでいる。
……あたしもあんな時期があったかな。同い年くらいの奴らと一緒につるんで、ゲーセンライフを送れたことが、あったかもしれない。もうそんなこと、忘れちまったが。
あたしはいつものように太鼓を叩き、クレーンでぬいぐるみやキャラクターのグッズを取って、ダンスをする。あたしにとって何も変わらない日常。なんの代わり映えもない、くだらない毎日。それがごく当たり前のことで、これからもずっと続いていくものだ。
溜息を吐くような、そんな寂しい日々が……。
「つまんないな、こんなの……」
あたしは景品を入れるビニール袋を握り締め、店員のいるカウンターで立ち尽くした。
ダチだって、あたしのことが嫌いになったから、あたしから離れていったのかもしれないじゃないか。誰も信じられないさ。あたしのことを誰も認めてくれない。不良だ、不良だって、指を差して笑う。あたしのことをなんにも知らないくせに。あたしが今まで送ってきた人生を、何も知らないくせして、何を言う権利があるんだ。あたしの今までを、どうして否定できる? お前らは、あたしの何を知っている?
みんな、汚い。
優等生にしか目を向けない。どうして、あたしという存在を、認めてくれないんだ。
ちょっとはぐれ者だからって、そんなに差別しなくてもいいじゃないか。あたしにだって、感情はある。あたしにだって、心があるんだ。血も涙もない生き物なんかじゃないんだよ。あたしは黒江飛香だ。覚えておけ。あたしという一個の人間を、胸に刻みつけろ。
「あの、お客様? どうなさいましたか? どこか具合でも?」
困った様子の店員があたしに訊ねてくる。いや、一人だけ私服を着ているから、店員ではないだろう。恐らく、ここの店長だ。黒髪に碧眼という、えらく変わった見た目だな。
「なんでもないさ。……ん? お前、どっかで見たことあるな」
「私は店長になって間もないので、お客様には初めてお会いしましたが」
「お前、プーに似てるな。目の辺りが。奴は睫毛が長くて女みたいな顔してたし」