黒江が名前で呼ばれない理由(ワケ)
「また学校でな」
あたしはヒワの手をぱっと離して、お開きの合図をした。
「ええ……? そんなあ。折角お話できましたのに」
「もう少し話そう」
「朝華も言っていることですし、ね? 黒江様のお話を聞きたいです」
ヒワはあたしの膝に手を乗せて同意を求めてきた。さりげないボディタッチであたしの意識をコントロールする気なのか。美少女って怖いな。簡単に籠絡させられそうだ。
「ならあたしのことを飛香と呼んでもいいぞ」
「黒江様の方がカッコイイです。黒江、白江、赤江、黄江、青江……」
実際にない苗字も混ざっていたぞ。
「黒江の何が不満?」
「仲のいい奴は名前で呼ぶだろ? なんであたしだけ名前で呼ばないんだ?」
「距離を感じているのですか?」
「そうだな……そうとも言う」
「ならば仕方のないことです。日和たちにとって黒江様は雲の上の存在。気高く美しい女性ですから。クラスの人たちもきっとそう思っているのでしょう」
「……いいように言っているみたいだが、結局名前で呼びたくないだけだよな?」
「では正直に言いましょう。名前に魅力がありません」
きっぱりとヒワは言い放った。無遠慮すぎはしないか?
「それはあたしを馬鹿にしているってことか?」
「いいえ。日和たちはこう思うのです。黒江様の名前が黒江様自身の魅力に負けていると。名前負けという言葉と反対の意味です。名前勝ちです」
新たな単語を作り出した。言っているこいつは大真面目だが、あたしはついていけない。
どうしてこう、頭のいい奴は突拍子もないことを考えるのだろうか。
「黒江様には飛香という可愛い名前よりも、黒江という苗字の方が合っているのです。その凛々しい黒髪も黒目も、黒江様にはぴったりですから」
おまけに天然たらしだ。この美少女は人を誑かす天才なのではないか。愛らしさもあいまってどんな奴でも落とせそうな気がする。あたしの城も落ちかけている。今にも崩れ落ちて、ヒワ城の傘下に入るかもしれない。
「そう。黒江には黒江が合っている」




