救急車で病院へ
「……? どうかした?」
「いや。なんでもない」
遠くでサイレンの音が聞こえてきた。
「あらそう。到着したみたいね」
「わかった。鞄は……」
「さっきの子たちが持って来てくれたわよ。親御さんにも連絡したから。病院に向かうように言っておいたわ。かなり心配していたみたいよ。愛されているじゃない」
先公はあたしをつつくノリで笑っている。
「そうだな……あたしが思っているよりも、愛されてるかもな」
ベッドから片足ずつ出して、革靴を履く。上履きはもう直されているみたいだな。
「大抵は自分の思いすぎであることが多いから、悩むよりも訊いた方がいいわ。思い違いというものはいつでもあるからね。思い違いから始まる不信感も怖いものよ」
先公の意味深な呟きを適当に聞き流して、あたしは保健室を出た。
思い違いから始まるのは恋じゃないのか。不信感が始まるってなんだよ。
あたしが校舎を出て、付添いに担任のブリッコがやって来る。校舎の外で救急車が待ち構えていた。担架を運んで救急隊員がこちらまで来る。
しかし元気そうなあたしの姿を見て、救急隊員は不服そうな顔になった。嘘で通報して出動させたと思ったのかは知らないが、ボランティアじゃないもんな。
あたしも嘘吐きは大嫌いだからな。
担架で運ばれることなく、救急車のところまで行って自力で担架の上に寝転がる。
救急隊員は救急車の後ろの何かを閉めた。サイレンの音を鳴らして救急車は発進した。
荷物積んだりするあそこの上下開閉式のドアってなんていうんだっけ。バックドアか?
ゆらゆらと揺れるし、低い枕は寝にくいし、頭に血が上りそうだ。
あたしの顔を覗いて救急隊員は声をかけてきた。
「……喋れますか?」
「ああ」
「どこか痛いところはありませんか?」
「顔面がヒリヒリするくらいだ」
「自分の名前、わかりますか?」
「黒江飛香だ」




